わたしの雑記帳

2002/2/3 津久井の平野洋くんの裁判(2002/1/31)の判決
(3/3 平野さんより一部訂正をいただきました)


津久井の平野さんの裁判の判決が出ました。記者会見場に立ち会わせていただくことができましたので、当日のメモとそれまでの経緯の記録をもとに報告します。ただし、判決文などを見せて戴いたわけではないので、正確でない部分もあるかもしれません。また、弁護団側にしても、判決文を受け取ったばかりで、まだじっくり検討する時間もないままの記者発表ということで、今後、訂正されることがあるかもしれません。ご了承ください。


1994年7月15日、4月に津久井町立中野中学校に転校してきたばかりだった平野洋(よう)くん(中2・14)が自宅で首吊り自殺した。
1997年5月、両親は自殺はいじめが原因だったとして、津久井町、神奈川県、元同級生ら10人(男性7人、女性3人)を提訴。
2001年1月15日、提訴から3年半、洋くんの自殺から6年半後の一審判決では画期的な原告勝訴だった。しかし、元同級生9人と町、県はこれを不服として即日控訴。原告の平野さん側も、過失相殺が4割であることに対して付帯控訴した。
控訴審では一旦、裁判所から和解勧告が出たが、町・県・元同級生側が和解を拒否、判決となった。
2002年1月31日、一審判決から約1年、洋くんの自殺から7年半後の高裁で判決。

一 審 高 裁
損害賠償請求 自殺との因果関係認容 自殺との因果関係認容
町・県に 計3947万円
(請求:計8000万円
町・県に 2160万円
生徒9人に 計200万円
(請求:元同級生10人に各100万円
生徒9人に 120万円
過失相殺 4割減
(両親の自殺防止への不十分を理由)
過失相殺 7割減
(親の監督義務違反と、本人がいじめを打ち明けなかったこと、本人の行為に触発された面もあるとして原告側の責任を認めた。)
不法行為 学校に監督義務違反を認定

学校の調査報告義務を肯定
しかし、本件では義務懈怠無しとしている。
学校に安全配慮義務違反を認定
表面化しないといういじめの特性から認識したトラブルは見えたもの以上にあるとして、学校の行為責任を具体的に明示した。
学校に報告義務違反を認定
直前のマーガリン事件を重くとらえて、報告しなかったことの責任に言及した。
生徒に「共同不法行為」を認定
(一つひとつの行為は軽微でも、全体としては重大な不法行為。ただし、「いじめ」という言葉は使われていない)
「いじめ」すなわち不法行為と表現
「いじめ」であると正面から認めた
自殺予見可能性 予見可能性を肯定 世の中に周知されているとして学校の予見可能性を認める
生徒には、予見可能性を認めない


一審に比べて高裁では、損害賠償金額が大きく減額されている。(ただし、金額は資料により記載に違いあり) そのことを知って、判決は一審より後退したものではないかと最初に思った。
しかし、弁護団の説明で、内容的には原審(一審)より前進した部分が大きいという。
1.「共同不法行為」などというあいまいな表現ではなく、「いじめ」であるとはっきりと認めた点。
2.そして、高裁では初めて「自殺の予見可能性が認められた」ということ。しかも今までは、条件として直前に自殺を予感させるような言動がなければ認められなかったが、自殺を予見するような直前の様子があったかどうかではなく、いじめ事件報道やいじめ自殺事件の頻発により、いじめが不登校や自殺など重大な結果を招くことは社会的に周知されているとした。
3.学校の安全配慮義務違反の内容もより明確になっており、いじめは見えにくいという認識をもっていなかった学校側の対策の不十分さの責任を厳しく追及した。また、担任が具体的にどうすべきか、学校としてどうしなければいけないか、なども判決文に盛り込まれているという。
4.学校の報告義務違反についても、自殺直前のマーガリン事件を重くとらえて、責任について言及した。

今回の判決では、生徒個人の責任以上に、学校の責任をより強く言及している。
一方で、被害者である洋くんやその両親の責任を、一審の過失相殺4割から7割にと、より重く設定している。いじめられていることを打ち明けなかった洋くんの責任や洋くんの行為に触発された面もあると認定。また、子どもが死ぬほど追いつめられていることに気付かなかった両親の責任のほうが、学校や加害者たちより大きいと設定している。
昨年、2001/12/18の福岡地裁大沢秀猛くんの裁判で、「いじめを受けることについて秀猛君に落ち度はない」として両親の責任を否定し、過失相殺などによる賠償額の減額はしなかった判決が出たあとだけに残念だ。(もっとも福岡地裁は報告義務違反と自殺の予見可能性は否認)(訴訟事例参照

両親にとっては、自分たちの過失を重く認定されることは一番辛いことに違いないと思った。
しかし実際には、自分たちの非を責められたり、賠償金を大幅に減額されること以上に、「われわれはこの闘いを通じて、いじめが少なくなってくることを願ってきた。もう二度と亡くなる子が出ないように、子を亡くすことがないようにすることが一番の狙い」として、判決内容が自分たちの主張通りになっていることを高く評価していた。

お父さんは、「当たり前のことを当たり前に判断してもらえた」と言い、お母さんは、「亡くなる日の学校での事件を報告してくれていれば自殺を防げたかもしれないと、そのことが一番ひっかかっていた。そのことの責任を裁判所が認めてくれたことが一番うれしい」と話した。ただ、過失相殺が7割ということには首を傾げる部分があると言った。

14歳で亡くなった洋くんが、生きていれば22歳になる。昨年は成人式を迎えるはずだった。誕生日が来ると年齢を数えてしまうと母親の君江さんは言った。「(この判決をもって)先生たちが気を引き締めて教育にとりくんでくれたらいいなと思う」と最後に結んだ。

記者会見後、親としてわが子の死を食い止められなかった責任は一番に感じている。だからこそ、裁判を起こしたのだという話や、いじめられている子どもは訴えることができないのだという、いじめの特性や思春期の子どもの心理を裁判官は理解していないという話になった。いずれにしても、原告であるご両親もまだ判決文をじっくり読む時間がなく、これからいろいろ考えますということだった。

私自身、多少の不満はある(過失相殺のこと、洋くんの命の代価のわりに余りに少ない金額など)ものの、少なくとも最悪のシナリオ(被害者の言い分が全く通らないこと、一審の一部認容とはいえ画期的な判決がひっくり返ること)は避けられたという思いにほっとしている。
あくまで私個人の素人考えだが、裁判官は金額面と内容とで、両者の言い分をうまくバランスをとったのだろうかとも思う。平野さんにとっては賠償金額より何よりも判決内容が重要で町や県、個人の被告にとっては、きっと司法が自分たちの過去の行為に対してどういう認定をするかということよりも、自分たちが現実にいくら払わなければならないかが一番の問題ではないかと思う。


2002/3/3 平野さんから、私の誤解について、若干の訂正をいただきました。
主な箇所は、裁判所からの和解勧告の後、話し合いのテーブルにつく間もなく、被告側から和解拒否があったこと、賠償金が、町・県に2160万円の内生徒に120万円とあったのが、町・県とは別に120万円であったことなどの訂正をいただきました。(訂正済み)

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