森づくり活動に参加する動機や目的は十人十色、森林環境を守りたい、というグローバルなものから、ストレスの解消という超個人的なものまであって、まさに多様です。グループ数も増え、それぞれが個性的でこれまた面白い。マスコミも盛んに森づくり活動を取り上げ、行政も森林ボランティアを高く評価し、国の森林政策にも盛り込まれるに至れば、この市民参加の森づくり運動は社会の承認を得たといってもいいでしょう。ここまで盛り上がれば日本の森林の将来は開けたも同然、No problem!と、言いたいところなのですが、どっこい、そうは問屋が卸しそうもないのです。
突然ですがクイズです。
Q1 人の手入れを必要とする日本の人工林の面積は?
Q2 その内、個人所有林の面積は?
Q3 仮に個人所有者が管理を放棄して、森林ボランティアが管理を任されると したら一人あたりの受け持ち面積は?
Q4 1ヘクタールの間伐作業にかかる労力は何人(プロで)?
Q5 同じくボランティアグループの場合は何人?
Q6 林業労働災害の年間死亡事故件数は?
Q7 国・公有林の管理費用は誰が払っているの?
Q8 プロの林業労働者の平均年齢は?
Q9 40年生の平均的なスギ人工林1ヘクタール(約1500本)を切って市場に出すといくらくらい儲かるの?
Q10 間伐しないと人工林はどうなるの?
(編集部注:解答は最下段に)
さあ、あなたは何問正解しましたか?
10問正解…立派な林業オタクです。自覚しましょう。
5問以上正解…さすが森づくり活動家、立派なものです。
3問以上正解…このあたりが平均値でしょうか…
全滅…はっきり言って、森づくり活動には不向きです。他のジャンルで頑張ってください。
このクイズで何を感じましたか?そうです。
日本の森林を巡る状況は改善するどころか民間林業が担ってきた個人所有人工林においては悪化の一途をたどっているのです。そして行政が、管理労働力のAlternative(代替えの手段)として位置付ける森林ボランティアの皆さんはかくも劣悪な労働環境の中で無償でわが身を危険にさらすことになるのです。でも、ご安心ください。森林ボランティアはあくまで自主的な活動ですから、いやならやめればよいのです。
命を危険にさらすボランティア活動なんてまっぴらごめんです。でも、そうなると、所有者とボランティアの皆さんに見放された人工林は一体誰が面倒を見るのでしょうか?
再び突然ですがここでアンケートです。
設問 「私有林の管理は誰がすべきと思いますか?」
@私有財産なのだから当然所有者がすべきだ。
A林業が成り立たない以上公有化して行政が管理すべきだ。
Bボランティアを増員、強化してみんなでやれば怖くない。
Cもともと自分のための活動なので、関心がない。
フムフム、@とAの答えが多いようですね。おっと、Cと答えかけたあなた、とても正直な方ですね。でも、いずれはあなた自身の身に降りかかることなのですよ。もっともそうなったときには手遅れでしょうけど…。Bと答えたあなた、その心意気はあっぱれと言いたいところですが、あなたの才能はむしろ「大音響街頭宣伝カー」方面で生かされると思いますよ。
@については、至極当たり前。常識論です。ところが、現実はその反対、日本中の森林所有者の大半はすでに管理を放棄しています。かろうじて意地で続けてきた林業家達もいよいよ体力が消耗し、気力を失いかけております。このままでは10年後に従来の林業を続けている所有者はいなくなるでしょう。そんな無責任な!と言われるかもしれませんが、残念ながら、今の法律では所有者に管理義務はないのです。森林は私有財産としてのみ認知され、それをどう扱おうが自由なのです。管理をしてもしなくても税金は一緒ですし、自分の山を見たことがなくても一切お咎めはありません。農業のように、生産活動の継続を担保にした相続税の優遇措置も、条件不利地へのデカップリング(直接所得補償)制度もありません。間伐等に対する補助金制度にしても、負担軽減策であり、生産意欲を刺激するにはいたりません。林業は関われば関わるほど経済的に損をする商売になってしまったのです。したがって、現在の木材価格と森林政策のままで所有者が自ら管理を継続する可能性はありません。
それなら、Aで行きましょう。所有者が管理しないのなら権利の一部を安く買い上げてしまいましょう。それで森林はみんなのものになるのですから。でも、ちょっと待ってください。この森の手入れは誰がするのですか?みんなの森はみんなで手入れをするのでしょう?傾斜角40度の森の間伐をするんですか?さっきのクイズでプロの技術者がいなくなることは自明の理ですからこれはこまったことになりますね。それに、行政の方の顔色が悪いですよ、なになに?国有林を維持するだけで手一杯なのに、私有林を買い取る金なんて逆立ちしても出てこない…?。あらあら、これはますます困ったことになりますね。
冗談はともかく、日本の人工林を巡る現実は今まさにこの状況にあるのです。誰もこの先の展望を描けないのです。森林ボランティア活動に、社会的な意味を見出すとすればこの部分に目をそむけてはならないはずです。しかし現実は自分達の仲間づくりや組織の運営に視野が狭まっていませんか?自分達の活動に酔っていませんか?社会的認知を受けたからこそ、その役割を認識してください。現実の森や林業の実情を見てください。自分達の主張をしてください。残された時間は多くありません。英知をあつめ、行動し、新たな森林管理システムを創造する流れを作ることがいま、すべてに優先する課題なのです。
[クイズ回答]
Q1 人の手入れを必要とする日本の人工林の面積は?
約1000万ヘクタール(H10林業白書)
Q2 その内、個人所有林の面積は?
約670万ヘクタール(H10林業白書)
Q3 仮に個人所有者が管理を放棄して、森林ボランティアが管理を任されるとしたら一人あたりの受け持ち面積は?
670万ヘクタール/森林ボランティア活動人数
Q4 1ヘクタールの間伐作業にかかる労力は何人(プロで)?
15人程度(原島推定)
Q5 同じくボランティアグループの場合は何人?
90人程度(原島推定)
Q6 林業労働災害の年間死亡事故件数は?
平成10年で69人、平成9年で56人。詳しくは労働省発表の資料で
Q7 国・公有林の管理費用は誰が払っているの?
もちろん国民(税金)
Q8 プロの林業労働者の平均年齢は?
全国平均で57.7年。51歳以上の占有率76%
Q9 40年生の平均的なスギ人工林1ヘクタール(約1500本)を切って市場に出すといくらくらい儲かるの?
条件によって異なるが、伐採・搬出費用と売価が同じと見てよい。つまり手元には残らない。
Q10 間伐しないと人工林はどうなるの?
これも条件により差があるが、日照不足による表土流出を始め、森林の有する公益的機能全般の著しい低下、および、木材資源としての室の悪化、蓄積の減少。
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