今回は、昨年末の「森づくり指導員養成講座」に参加していただいた縁から、“環境改善プログラムをデザインする”環境NPO「杜の会」の青木さんにご登場いただいた。取材時には腹掛けも凛々しく、トラディショナルな植木職人スタイルなのに、なぜか足には地下足袋ではなくゴム長。「今日は井戸さらいをやっていたもので…」
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「杜の会」は、もともと普通の造園会社でした。それとは別に、大学の先生や環境関係の方々と一緒に、環境改善技術の開発と普及啓発を行う「杜の研究会」というグループがありまして、その活動と園芸会社との二足の草鞋でやっていたのですが、3年前にそれを一本化してNPOにしたんです。環境改善技術は、これからの社会にとって必要なものですから、それを一造園会社の利益ではなく、社会に還元できたらいいんじゃないかという考えからのことです。と、親方が言っていました(笑)。
私はNPO化する半年前に入ったのですが、その前には別の造園会社にいました。造園業というのはどうしても“見た目重視”になってしまうのですが、「杜の会」は水と空気の流れを中心に庭を考え、また植物を生き物として扱っていることに惹かれて移ってきたんです。
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今日の現場は自動車部品の町工場で、古い井戸を復活させるために井戸さらいをしています。最初は中庭の剪定を頼まれていたのですが、機械や部品がいっぱいに置かれた埃っぽい庭だったので、まずは山積みにしてあったものを出して通気を良くし、また剪定した枝を粉砕して地面に敷き込みました。それで、だいぶ木の芽立ちも良くなったのですが、ある時「工場に古い井戸がある」とお客さんに聞きまして、「それならば井戸も復活しよう」と。
井戸を復活させて停滞していた地下水を使うようにすると、新しい地下水がそこに引っ張られて、地中の水や空気が動き出しますよね。庭にある大きな木は、根がかなり深いところまで張っていますから、そういうことも良い方向に影響してくるはずです。
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私はもともと建築を勉強していたこともあって、庭でも建物でも、何もないところからつくり出すことが面白いと思ってました。今では、そこにある問題を解決するきっかけをつくり、全てのもののバランスを取ることが仕事なんじゃないかと思っています。植物にとって一番良いのは、人の手が入らない状態かもしれませんが、私たち人間は、自然を傷めないためだけに生きることは無理です。そのバランスを突き詰めていく必要があるのではないでしょうか。
こういうことは、むしろ昔の職人さんの方が考えていましたし、人間と植物はもっと良い関係だったと思います。それがいつしか効率重視の社会になって、変わってしまいました。かつてのような良い関係を取り戻すのには、もう昔と同じことをやっていたのでは間に合わないんです。例えば、昔は地面はずっとつながっていたのに、今では大きな建物があれば基礎が深く打ってあるわけで、土壌の水や空気の流れが血管
を断ち切るように遮断されてしまっているのです。今は、そういう環境に応じた処置をしてあげないといけないんです。
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森も同じなのではないでしょうか。昔やっていたような林業のやり方では間に合わないから、鋸谷式間伐のような新しい森林管理の方法が必要になっているわけですよね。
現在は、自分ではそう思っていなくても自然とケンカしたり、いじめている人が多いように思います。“森とともに暮らす社会”“自然との共生”と言われても、私には「これだ」とは答えられません。けれど、もっと上手く付き合う方法はあるのではないでしょうか。大地における水と空気の動き、そのメカニズムを追うことから、自然との付き合い方が見えてくるように思います。
(編集部)
SAKIKO AOKI
東京都生まれ。7人いる「杜の会」作業スタッフの一員。全国各地での環境改善事業に飛び回っている。取材日には親方は沖縄へ出張中。「チェーンソー講習は楽しかったです。それにしても、こんなにいっぱい森林ボランティアの人たちがいるのかとビックリ。意外でしたね」
杜の会ホームページ http://homepage2.nifty.com/morinokai/
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