昨年度、文京区立柳町小学校は開校100周年を迎えた。森づくりフォーラムは昨年6月、その記念行事の一環として行われた木のプレートづくりやモニュメントづくりをお手伝いさせていただき、また同年8月にはPTAと協力して、子供達の「さがみの森」ツアーを行っている。そんなご縁から、今回は柳町小学校校長の寺田先生にお話しを伺った。●
柳町小学校は文京区で唯一、土の校庭をもった小学校である。片隅にはちょっとした林があり、植物種は100種類を超えるという。春にはタケノコが生え、タケノコ掘りは子供達の大好きなイベントとなっている。他県にある区の施設での移動教室や林間学校等に加えて、柳町小学校では独自に、近所の小石川後楽園での田植えや稲刈り体験も行っている。
「都心の小学校としては、自然体験に恵まれていると言えるかもしれません。他の学校の先生方は、我が校に来られるたびに『いいなぁ』と羨ましがっていますからね」
そんな柳町小学校でも、子供達が森や自然とふれあうチャンスは絶対的に少ない。寺田先生の40年近いキャリアの中で今も昔も変わらないのは、子供達の自然への飢餓感だという。
「自然と触れ合って帰ってくる子供達は、なにか元気になっているなと感じます。それに自然の中で遊ぶ楽しみを覚えたら、また自然の中で遊びたくなるんでしょう。だから、その後は必ず、学校でも以前に増して林の中に入り込んで遊ぶようになりますよ」
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「森には、人間本来の姿を取り戻せるような力があると思います。例えば、最近の子供達は、誰かの家に遊びに行ったとしても、ひとりはゲームをやっていて、ひとりは漫画を読んでいてというように、みんなやっていることが違っていたりします。お互いに全然関わっていないんです。ところが森に行きますと、例えばテント張りでも、何も言わなくても自然とみんなで協力するようになりますからね」
本来の人間性を取り戻すことが出来る森。そんな森とともに暮らす社会をつくり出すためにも、やはり小さい頃からの森との触れあいが必要だという。
「田んぼ体験では、自分達で田植えをし、草取りをし、稲刈りをして、餅つきをするんです。子供達は、そのお餅をどんどん食べます。それは珍しいこともあるし、自分でつくったということもあるでしょう。でもそれだけではなく、子供達はその後の給食も残さないようになるんですよ。そんなふうに、体験が子供を変えるんです。頭で分かっていても、体験がなければ何もしません。でも、小さいときから経験していたら、頭で考える前に行動出来るのではないでしょうか。ですから、難しいでしょうけど、どこの小学校にも子供達が中に入って遊べる、ちょっとした森があればいいなと思います。本当は、せめて小学生までは田舎で育った方がいいと思うんですけどね」
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柳町小学校では、総合的な学習の時間を「トライアングル(三角形)の時間」とし、人との触れあい、地域との触れあい、自然との触れあいという3つの触れあいに主眼を置いている。このような視点は、どこの小学校でもそんなに違いはないだろう。地域のNPOとの協働も視野に入っているはずだ。
「我が校ではご縁があって森づくりフォーラムとお付き合いをさせていただいていますが、地域でそういう活動をしているNPOを知らない学校の方は多いのではないでしょうか。子供達に森づくり体験をさせたいという教員も、結構います。そういう意味では、NPOの皆さんにもっとPRしていただければ、一緒に森づくりをやりたいという学校はたくさんあると思いますよ」