錐もみ式発火法で最短6秒で火を起こし、肥後守ナイフ一丁で数百種類の民族楽器や古代楽器をつくり出す。一見体育会系だが、無公害染織技術の特許も持つ「理系の原始人」。今回は、今年から故郷の福島県平田村で民俗文化に根ざした森林環境教育プログラムを開発・指導する関根さんにお話しを伺った。●
原始技術史というのは、人間の生活文化の起源をや歴史を調べる研究分野です。例えば火を起こし、使う文化が、どういう生活から生まれ発達してきたのかを、実践しながら学ぶのです。実際に火起こしや石器づくりをやってみると、いわゆる原始人のイメージは変わります。ちっとも原始的じゃない。石器をつくるには、石の性質や力の伝わり方についての深い知恵と、十数手先までのシミュレーションが必要です。現代人には、ちょっと出来ません。
古代人は、本当に自分たちの暮らしを少しでも良くしよう、豊かにしよう、自然の素材で様々な道具をつくっていました。「昔に戻れ」と言うのではありませんが、過剰な道具に使われてしまっている現在にこそ、適正技術として失われた知恵を掘り起こし、伝えていく意味があると思っています。 ●
石器時代と言いますが、ほとんどの石器は木を加工するための道具ですから、石器時代と実は木の文化の時代なのです。石の文化だと誤解されているヨーロッパは、木を伐りすぎたためにそうなっただけで、もともとは木の文化、森の文化でした。森を破壊しすぎたことへの反省が早い時期に起こり、良いものを大事に使い、伝え続ける文化や、環境保全の意識が醸成されています。しかし、日本は湿度が高く植物が育ちやすい環境への甘えか、「まだ大丈夫」とたかをくくっているところがありますね。自然と人間が共生する循環型社会を実現するためにも、日本は大量生産・大量消費のアメリカ型文化ではなく、日本を含めたアジア農山村の民族文化やヨーロッパ文化の良い部分に目を向けるべきでしょう。
● 残念ながら現代の日本は、本当に良いものが残りにくい国です。漆器はちゃんとつくれば頑丈なもので、毎日味噌汁を飲んで普通に洗って10年間も使えます。ところが、下地がプラスティックでもオガクズでも、表面に一塗りだけ漆の混ざった塗装がしてあれば、どんな粗悪品でも「漆器」の表示が許されてしまいます。すぐに剥げるような大量の粗悪品のせいで扱いが難しいと誤解され、本当に良い漆器まで敬遠されて売れない。海外では「ジャパン」と呼ばれ世界に誇る数千年の森の文化が、こんな状態で失われつつあるのです。
故郷の福島県平田村からの要請で、森林環境教育の計画書をつくり、昨年から指導者養成講座を続けてきました。これは、東北地方の民俗的な森の文化や食文化を掘り起こしながら、地域の自然環境や生活文化を再6生・保全していこうというものです。森づくりから自然素材を活かした商品開発まで、都市住民も巻き込んで、楽しく学び、伝えるシステムをつくろうと。
mso-fareast-language:JA;mso-bidi-language:AR-SA"> 今、田舎は都会以上にものすごく疲れています。都会と違って現金収入は少ない。勤めやアルバイトで農作業は土日だけ。山林の手入れなんかする余裕がないから、山は荒れ放題です。だから、“森とともに暮らす社会”の実現のためには、まず、田舎の人が本当の意味で豊かに暮らせる社会をつくり出す必要があるのではないかと思います。 ●
(編集部)
HIDEKI SEKINE
1960年福島県生まれ。和光大学、桑沢デザイン研究所講師。国際火遊び学会顧問。各地の美術館や博物館、大学等で多彩なワークショップを展開。著書に「縄文生活図鑑」「竹でつくる楽器」「焚き火大全(編著)」など。
森の列島に暮らす・目次
森の列島に暮らす・03年2月
森の列島に暮らす・02年12月
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