今年の2月、東広島市で開催された“第7回森林と市民を結ぶ全国の集い”の全体の集いに参加した方には、パネリストの惠さんが発した“ミズガキ”という聞き慣れない言葉に首をかしげた人も多いだろう。ミズガキとは、“元気で水辺で遊んでいた生物の一種、つまり人間の子供(ガキ)”のこと。その地域の環境を知る、最も分かりやすい指標生物である。荒川流域ネットワークでは、“絶滅危惧種”であるミズガキの復活を提唱している。
「最初は“清流よよみがえれ”というキャンペーンをやったのですが、じゃあ誰がよみがえらすのかという話になって、2番目にやったのが“あなたの家も水源地”。そして3番目のキャンペーンが“絶滅危惧種ミズガキ復活”です。ミズガキがいれば、その背景には、ガキ大将がいて、遊び方や危ない場所を教えてくれる大人がいるというコミュニティが見えます。流域は、ローカルコミュニティが連綿とつながって出来るもの。都市が元気であるためには、その流域にあるコミュニティの正常さが必要なのではないかと考えたわけです」
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惠さんは、人々のミズガキセンスを取り戻したいと考えている。では、そのミズガキセンスとはどのようなものなのか。
「ミズガキセンスとは、例えば開発会社に就職したとして、その中でいくら儲かるし技術的に可能なことであっても、これだけはやってはいけないということが、バランスの中で普通に分かる感性であると言いたいですね。少なくとも持っていて欲しいセンスは、自然の恐ろしさが分かること。自然は造作物ではないということに気がつかないで事故に遭う自然初心者が多いですから」
ミズガキセンスを持つためには、ミズガキが生息する環境が必要だ。その生息環境には、森も含まれる。
「その森も学校的、スポーツクラブ的な森ではなく、普通にある日常の背景としての森が理想です。そのような森を理解していくために、4番目のキャンペーンでは“木遣い文化”ということを言っています。いま使っている木はどの山から来ているかとか、除間伐材を使おうとか、そういうことを含めて愛おしく木を使う文化が必要です。値段が高いので、いまの経済のメカニズムではどうにもならないと言われますが、経済のメカニズムはある意味、それによって恩恵を受ける人を増やせれば成り立ちます。そのためにも、森林の経営や維持管理を含めた流域経営というセンスが必要になってくるかなと。地域通貨の活用など、森を活かせる方向で森とつきあえる手段を考えることが、結局“森とともに暮らす社会”にもつながっていくのではないでしょうか」
惠さんは、来年3月滋賀で開催される第3回世界水フォーラムで“ミズガキと流域経営”という分科会を受け持つことになっている。
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「行政は、法律にないサービスを原則として行えません。NPOは、法律にはないけれど誰が考えても必要なサービスを先駆的・自発的に行っているわけです。儲からなくても、提供者自身が楽しいと思っているからやる。それがNPOの役割です。NPO法人は法律が認めた人格を持った責任と信用のある組織ですから、その主張や活動が、議員や当局を動かすことにもなります。そういうNPOとの付き合い方や利用のしかたを、行政も少しは分かってきたみたいですね。もちろん、双利共生が原則です」 お互いに責任を担いあえる成熟した市民社会に進化させていくためには、NPOのリーダーシップが必要であるという。
「NPOのリーダーはだいたい、飽きずに同じことを、誰に向かっても話せる人です。そういう人の主張や活動は、やがて人々に“ついていこうかな”という気にさせることが出来ます。これは異動のある行政には不得意分野です。継続して関わり続けている市民がリーダーシップをとって地域のディレクターとなり、森林と暮らす流域コミュニティをつくっていくのです」
(編集部)
SAYURI
MEGUMI
1997年より現職。(NPO)荒川流域ネットワーク代表。(社)日本ナショナルトラスト協会理事。人と環境との共生に向けて、地域文化に関わりの深いNPO活動を推進。
主な著書(共著)に「森林教育のすすめかた」「自治体・地域の環境戦略」「アメリカのNPO」「日本水文化」等。
森の列島に暮らす・目次
森の列島に暮らす・02年12月
森の列島に暮らす・02年10月
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