1月某日、三鷹の森づくりフォーラム事務所で里山関係の資料をあさっている女性がひとり。千葉市内の谷津田周辺の里山林植生調査と地域住民の意識調査を行い、“どういう活動をすれば農村集落の豊かな森林を保全できるか”といったテーマの卒論を制作中の小川さんである。「『里山は人が育て、人を育んだ自然』とありましたけど、いまの私は里山に苦しめられてます」と笑う、生態学専攻の大学4年生だ。
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「小学生の頃、“学研の科学”という雑誌をとっていました。ちょうどそのころにブラジルの地球サミットがあって、自然保護や環境問題について、いつも特集していたんです。私のメディアはそれが唯一でしたから、子供心に、自分の仕事は環境問題を解決することだと思ったんです」 生まれも育ちも東京都の中野。自然に接する機会がなく、だからこそ自然への憧れも大きかった。いまの子供達が体験学習などで自然に接する機会が多いことが本当に羨ましいという。大学で生態学を専攻することになったのは、環境問題の一番根底にあるのは生物だと思ったからだ。 「いまでは、経済学や社会学を勉強しても良かったかな、と思ったりしますけどね」
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小川さんは、国際青年環境NGO“A
SEED JAPAN”の2001年度代表でもある。ここの森林チームというグループで、森林問題の冊子“木持ちの問題”を出版し、また奥多摩森林ツアーを企画した。この3月末にもセミナーを企画しているという。 「いわゆる森づくり活動を行うツアーは多いですよね。それに参加して楽しかったというのは素敵なことですけれど、それだけで森林問題は解決するのかなという疑問があって。もっといろんな状態の森をみて、森林問題の現状を学んでもらえるようなツアーをしたいと思ったんです。参加者には好評で、私が考えていたような感想も聞けたのですが、その後、自分で活動をつくり出す人がいればいいと思ったのに誰もいなかったというのが実際で。その点はちょっと空回りでした」 社会学的に森林のことを勉強しながら企画を立てていくというのが、A SEED JAPANでの小川さんの活動であった。さらに生物学的な裏付けをしていきたいということが、卒論のテーマにつながっていく。
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現在、市民活動の主力として期待されているのは、定年をすぎた中高年の方達と学生だと言われているが…。 「学生は基本的に経済活動に関与が少ないから、自分の利害から離れたところで議論が出来るという強みがありますし、社会人よりは圧倒的に時間がありますからね。ただ、知識レベルや仕事の遂行能力は、やはり甘さがあります。応急処置的に学生に期待するというのは分かりますが、やはり学生だけでなく、学生も社会人も一緒に、ということになって欲しいですね」 小川さんは、これまで行ってきた活動をボランティアだとは思っていない。環境問題に携わる手段が仕事以外にもあったからやってきたことだという。 「社会人になると活動をやめてしまう人もいます。会社に入ると本当に何をするべきか模索する余裕がなくなるようで、それが一番悲しいですね」
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“森とともに暮らす社会”というのは、基本的には森のシステムを理解して、生活のなかで上手に利用する社会だと思うが、いま現状では、それは生活のなかにはなく、プラスアルファの楽しみの部分でしかないという。 「そのコンセプトを、いかに押しつけずに当たり前にしていくかが問題ですね。私は、いかに生活のなかに森を採り入れていくかに興味があって、これまで森と関わってきました。これからも、人々の実生活のなかに森がある、という形を目指していきたいと思っています」 小川さんは、この4月より(財)日本生態系協会に勤務する予定である。
(編集部)
東京都生まれ。泳ぐことが漉きで、「いままで自然と触れ合 って一番嬉しかったノハ。イルカといっしょに泳いだこと」。 都会育ちの彼女もようやく里山林になれてきて、クモの 巣に顔から突っ込んでいくこともなくなってきたそうだ。
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