10月2日 関電交渉速報
◆基本的に性質の異なったものを比べて「安全」とする関電
 軟弱な地盤で減衰された柏崎刈羽原発の揺れと、
    岩盤のすぐ上にある美浜原発の揺れとを比べる関電
◆「柏崎刈羽原発の揺れが、美浜原発の限界地震動(S2)を超えたからといって
    何が問題なんですか」
◆美浜原発は「野坂断層:マグニチュード7.3」に耐えられるのか
 「評価は行っておらず、耐えられるかどうかは分からない」


 10月2日、午後6時過ぎから9時まで約3時間、関西電力と交渉を行った。グリーン・アクションと当会が提出していた、8月23日付質問書9月26日付質問書について、地震問題をテーマとしたものだった。関電からはいつもの広報3名、市民側は初めての参加者も含め24名が参加した。主要なポイントについて報告する。
 初めに2つの質問書に対する関電の回答を聞き、質疑に入った。この日は主に、関電が9月20日に公表した「概略影響検討結果」の内容について質問していた9月26日付質問書に沿ってやりとりを行った。
 今回の交渉では、「柏崎刈羽原発の揺れが関電の原発で起きても安全性は保たれる」という関電の宣伝が、いかに自らに都合のいい、そして実際にはなんの意味もない「比較の手法」であるかということが浮き彫りとなった。さらに、柏崎刈羽原発の揺れが関電の原発のS2を超えた現実に対しては、「だからといってどんな問題があるというのか」と居直ったことは、驚きであり、また関電の原発の耐震安全性が崩壊しているという危険な状況を強く感じさせるものだった。

◆ 基本的に性質の異なったものを比べる手法
−柏崎刈羽原発の基礎版上の床応答スペクトルは、軟弱な地盤で長周期に偏りかつ減衰されていることを認めながら、岩盤のすぐ上にある美浜原発の揺れと比べる関電−

 9月20日の「概略影響検討結果」では、柏崎刈羽原発で観測された基礎版上の揺れの観測値を関電の原発のS2地震動による基礎版上の揺れと比較している。地盤の性質が違う柏崎刈羽原発の基礎版上の床応答スペクトルを美浜原発などの床応答スペクトルとして適用できるかどうかという問題だ。
 関電はまず、美浜原発の解放基盤表面(岩盤)は花崗岩等の「硬岩」でできているが、柏崎刈羽原発の岩盤は砂が固まった「軟岩」であると、両者の岩盤の違いを説明した。次に、ホワイトボードに図を書きながら、柏崎刈羽原発の岩盤(地下約284メートル)と基礎版(建物の基礎)の間には距離があり、美浜原発の場合は、岩盤のすぐ上に基礎版があると説明した。実際、東電が発表した揺れは、岩盤付近で993ガルの強い揺れであったが、基礎版上では200メートル以上の軟弱な地盤によって揺れは減衰し680ガルとなっている[図1参照]。

 今回関電などが比較対照している基礎版上の床応答スペクトルは長周期側の揺れが強い。他方、美浜原発のS2地震動(限界地震動)の基礎版上の応答スペクトルは短周期側(0.1〜0.2)でピークになっている[図2参照]。しかし、当会が柏崎刈羽原発の設置変更許可申請書から作成したグラフでは、柏崎刈羽原発でも岩盤上では短周期側にピークがある。[図3参照]。このことは、同じ柏崎刈羽原発でも、岩盤上と軟弱な地盤の影響を受けた基礎版上では応答スペクトルの形が違うことを示している。原発の主要な機器の固有周期は短周期に集中している。それを、長周期の方が大きな揺れとなっている柏崎刈羽原発の基礎版上の床応答スペクトルと比べても何の意味もない。

図2:関電の9月20日付「参考資料」
http://www.kepco.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2007/09/20/0920_1j_02.pdf


図3:美浜の会作成

 これらの事から、基礎版上の揺れで比較してもなんら関電の原発の安全性を示したことにはならないこと、それなのに「安全」だと宣伝していることには大きな問題があると市民側は主張した。これらに対して関電は、柏崎刈羽原発の床応答スペクトルが長周期側で大きくなっているのは、岩盤と基礎版上の間にある軟弱な地盤によって影響を受けていることは認めながら、「柏崎刈羽原発の建物の揺れの観測値があったのでそれと比べただけ」と何度も繰り返した。参加者からは、「岩盤と基礎版の位置関係が全く違うのに、違ったものを比べるのはおかしい」、「岩盤付近の値(993ガル)で比べるべき」と意見が続いた。実は東電は、この岩盤付近の観測データは、最大値993ガル以外はデータが上書きされて存在しないとしている。しかし関電は「岩盤付近の観測地は『公表』されてない」と意味深に発言し、「東電が公表している基礎版のデータで比べただけ」とした。自ら、岩盤と基礎版の位置関係が異なり、軟弱な地盤によって柏崎刈羽原発の基礎版上の揺れは長周期側に偏り、しかも減衰されていると認めながら、全く異なるものを比べて、関電の原発は安全としてしまっているのだ。
 質問書に対する回答で、今回の「概略影響検討結果」の「概略」の意味について関電は次のように答えた。「安全上重要な機能を有する主要な機器を対象に、原子炉建屋の揺れを代表する基礎版上の床面での揺れでの加速度を用い比較することや、比例計算で余裕の確認をする手法を用いたものであることから概略影響検討としている」。すなわち、「基礎版上の揺れで比較」することも、「概略」的に行ったものであることは認めている。しかし、それであたかも関電の原発が柏崎刈羽原発の揺れに耐えられるかのように宣伝しているのである。

◆「柏崎の揺れが、美浜原発のS2を超えたからといって何が問題なんですか」
 次に、関電のこの手法を一旦認めたとしても、耐震安全性は崩壊している点を追及した。関電はこれ以上の揺れは起きないとするS2地震動を設定している。しかし、柏崎刈羽原発の揺れはこれを上回っていた。例えば、美浜1号の場合、原子炉容器(支持構造物)では714ガルの揺れに耐えられるとなっているが、柏崎刈羽原発の揺れを当てはめれば805ガルとなっている[図2参照]。
 これに対して関電は、「柏崎刈羽原発の揺れが、美浜のS2を超えたからといって何ですか。どんな問題があるというのですか」と声を荒げた。これには参加者一同驚いた。今回の「概略影響検討」は、柏崎刈羽原発の揺れが各原発で起きた場合に安全かどうかを検証したはずだ。事実関電は、回答の中で「地域の皆さんの不安が高まっているため、現在バックチェックを行っているがこれには約2年ほどかかるため、今回別に評価を行った」と「概略影響検討」の目的を説明していた。関電は「柏崎刈羽の揺れは柏崎刈羽のこと、東電にとっては重要かも知れないが」と居直り、すぐに話を「機器の安全余裕」の問題にもっていき、「安全が証明された」かのように説明する。「今回の概略影響検討」では、まず、柏崎刈羽原発の揺れの方が美浜のS2より小さい場合には、評価はそれで終了している。次に、柏崎刈羽原発の揺れの方が大きい場合には、『安全余裕』で評価するという2段階を踏んでいる。関電の居直りに対して「何のために柏崎刈羽原発の揺れと比較するのか。比較の必要もなくなるではないか」と意見がとぶ。
 このことは、現実に柏崎刈羽原発の揺れが美浜原発のS2を超えてしまったという動かしようのない現実を前にして、それに対しては「何の関係もない」と居直り、とにかく「機器の安全余裕」論に逃げ込む以外に道がなくなったことを示している。関電がいかに窮地に陥っているかを示すものだ。関電が居直れば居直るほど、関電の原発の耐震安全性が根底から揺らいでいることをかえって見せつけるものとなった。口では「地元の人々の不安」と言いながら、やっていることは、柏崎刈羽原発の揺れが美浜原発のS2を超えたことを真摯に受け止めることもなく、ただ居直っているだけだ。

◆「安全余裕ゼロ」は、小数点以下第3位を切り上げ・切り捨てした結果
 次に関電は、上記のように「機器の安全余裕」に逃げ込む。柏崎刈羽原発の揺れの大きさでも、機器の安全余裕から問題がないかどうかを検討しているのだが、高浜1号の原子炉容器(支持構造物)では安全余裕がゼロとなっている。αとβがそれぞれ1.27と同じ値で、安全余裕はゼロとなっている。「安全余裕ゼロでも安全なのか」と追及すると、「これは小数点以下3桁目を、αでは切り上げ、βでは切り捨てており、その結果同じ値になった。小数点以下3桁目までを比べればα<βとなり、余裕はある」などと、これまた驚く回答だった。「それではその数値を示してほしい」と問うと、「今は持ち合わせていない」との回答である。「一方は切り上げ、他方は切り捨て」で両者を比べるというのも奇妙な話だが、関電のいう「機器の安全余裕」がギリギリであることには間違いない。このやり取りからはからずも、α=βではまずいと思っていることが明らかになった。 
 また、「安全余裕に老朽化は考慮しているのか」と問うと、評価に使った数値は設計時のもの=新品同様の状態で評価したものだが、「高経年化対策」や「必要肉厚での評価もやっている。肉厚には当初から余裕がとられている」と答えた。しかし「必要肉厚での評価については、結果は公表していない」とのことだった。結局、30才以上の老朽原発を新品同様と評価して、「安全余裕がある」としているだけだ。

◆美浜原発が「野坂断層:マグニチュード7.3」に耐えられるのかの「評価は行っておらず、耐えられるかどうかは分からない」
 最後に、「野坂断層:マグニチュード7.3に美浜原発は耐えられるのか」という問題についてやりとりした。前回8月10日の交渉では、国の地震調査研究推進本部(推本)が推定している「野坂断層:マグニチュード7.3」については、「推本は断層と断層の間が5q以内のものをつなげているだけ」「防災計画に使っているもの」と、あたかも推本の評価は原発の耐震性とは無関係であるかのような発言を平気で行っていた。しかし今回は、これではまずいという話になったのか、若干姿勢を変え、推本の評価を「一つの知見」とし、「バックチェックの中で検討する」旨の回答だった。しかし、現時点においては、「美浜原発が『「野坂断層:M7.3』に耐えられるかの評価は行っておらず」、従って「耐えられるかどうかは分からない」と回答した。電力会社が活断層を値切っていることが社会的に批判されている中でも、相変わらずの姿勢だった。
 他にも、使用済み核燃料プールの耐震性について「震度7クラスを想定」して必要な対策をとると発表していることについて、「震度7クラス」とは何ガルを想定しているのかと問うていたが、「具体的なガル数は言えない」とか、各原発の震度計の設置場所を図で示すよう質問していたが、「防護上、図示はできない」と答えていた。しかし、福井県の安全専門委員会(8月1日)に関電が出した資料では、美浜3号機を例にして地震計の設置場所を「図示」している[図4参照]。「防護上」とはどういう意味なのだろうか。また、高浜2号と大飯2号には、観測用の地震計はなく、いつ設置するのかも「未定」とのことだった。

図4:第38回 福井県安全専門委員会に提出された資料より
資料No.3-1 [日本原子力発電(株)、関西電力(株)、(独)日本原子力研究開発機構)
新潟県中越沖地震を踏まえた対応状況について [15/19頁]
http://www.atom.pref.fukui.jp/senmon/dai38kai/no3-1.pdf

 初めて交渉に参加した人からは、関電が文書で回答せずに、「回答文」を読み上げることについて、「その読み上げている回答文をコピーして配布してください。聞いているだけより、その方が理解しやすいので」と至極当然の意見が述べられた。これに対して関電は「文書で回答すると、都合のいいところだけ切り貼りされて、文書回答が一人歩きする」などと訳の分からない理由を述べ、返って不信を大きくさせていた。また、「広報の人ではなく、技術の分かる人が出てきて説明してほしい」との要望には、むっとした表情で「私たちも技術系なんですがね」と答えていた。

(07/10/04UP)