特別講演
カルト問題救済方法の新たなステージ
講師:村上密
私はここ5年間に500人以上の方々のカウンセリングをしてきました。2005年を契機にその数が急上昇しました。私は自宅で夜11時過ぎまで相談の電話を受付けます。夜の8時までに電話をかけてくる人は落ち着いています。ふつう身近な人にしか真夜中に電話しませんが、それが一番深刻な内容です。「今死のうと思っています」とか、「眠れません」と訴える電話です。それが五年前から急にふえました。これは宗教の危機だと思いました。宗教が私の心を蝕み、死に追いやり、経済的にも追い込んでいます。共同体が破壊されています。なんとかしなければと思っています。私は消防隊員のつもりでやっています。無休です。本当は私の家庭が崩壊してもおかしくありません。そうならないのは、家族の理解があるためです。子どもは声が私の声に似ているので電話には出ません。
ここにいる人たちはハインリッヒの法則においては1から20にいた人たちです。顕在化している層です。つらい思いをした人たちはもっといます。私たちの働きは啓発活動も含んでいます。ここでカルトの被害の実態を話します――人間は生来の気質を持っています。先生や親、友だちと交わり性格が築かれます。そして会社や地域の役割や役職に応じてふさわしい自分を演じます。それが役割・性格です。カルトの場合は、役割・性格・使命感を与えて、信者を伝道させます。性格を改造すると人格の崩壊が起きます。カルトは人の性格にまで手を伸ばします。人格が崩れます。精神的な混乱を起こします。
ある日、警察から電話がありました――夜中に宗教施設を抜け出して騒いでいた者がいるというのです。アレフの信者でした。警察から両親が呼ばれ、その信者も教会に連れて来られました。信者は何かをしゃべりつづけていました。何かを書いてくださいと私が言うと頭の中にある何かを書きます。会話はできますが、一方通行です。錯乱状態です。それも一過性の錯乱でした。親には、入ったら出してくれる病院を探すよう伝えました。その後、その信者は二ヶ月で退院しました。もしそのように対応していなかったら混乱が定着して回復しないときがあります。一人の統一教会の女性信者を家族が座敷牢に入れられました。信者は対話がなく、何かをしゃべり続けていました。長い間、そういう状態でした。そうなると、治る可能性はもうありません。それは人間関係がなくなり症状が固着したのです。これは氷山の一角です。今まで心の病を扱ってきました。今でも精神科医と協力しています。宗教の教えが原因であれば教えから入って治します。今ではアイデンティティの破壊が増えています。また、経済的な破壊もあります。ヤマギシは信者の財産を預かります。信者が抜け出るときにはそれを返しません。それによって生活の基盤が奪われます。またヤマギシでは夫婦は組織の中では実質的に離婚しています。子どもは虐待されます。オウムの場合、親が子を育てていません。強制的に引き離します。家庭が解体されています。情緒の破壊につながります。
松本サリン事件が起きても国は十分に対応しませんでした。地下鉄サリン事件まで手を加えませんでした。警察の怠慢だと思っています。統一教会は一兆円の被害がありました。ここにきて逮捕・摘発する例が増えています。統一教会の被害者が公的機関に訴える例が起きています。これまで宗教被害者は逃げても、泣き寝入りしていました。訴訟する知識もなく、自分の生活の中に逃げていました。被害者は予防のために立ち上がろうと、訴訟を起こし、警察に被害届を出しました。それで関係諸機関にもカルトが分かってきました。ヤマギシは国税庁に実態が伝えられ60億円の追徴課税がありました。
喪失は愛するものを失うことです。家族を亡くすとうつになり、無気力になることがあります。放置すると日常生活に支障が出てきます。間違った団体だと分かるとその喪失感は非常に大きいのです。ほかの人から「なぜ」そうなったかと三度聞かれると、人は腹が立ちます。「なぜ」と問い詰めていくと堪えきれずに感情的に爆発します。自己不信に陥ってしまい、不安定です。自責の念に駆られます。神さえも捨てようとします。
人間は人と神と自分で成り立ちます。そのひとつでも欠けると心が不安定になります。ここでカルトの喪失体験した人の変化を示します。身体的苦痛・財政的負担・敵対的反応があります。カウンセリングの場では人によって変化の仕方は変わります。全体的に診ないと誤ります。一点だけ診ると見誤ります。相談が来たらその人の五年先、十年先を思い浮かべて診ます。来年には治るとか、良い人間関係を築いているとかです。そうすれば今のつらさに耐えられます。相談者がおだやかに対応できるのは先が見えるからです。怒りの矛先がないと、(クライアントの)怒りは(クライアント)自身に向けられます。自傷行為です。怒りを受け止める人を探します。カウンセラならばその怒りを受け止められます。受け止められない怒りを受けているならばカウンセリングが必要です。
回復の支援は聖書の教えです。ルカ10:25-37(よき隣人)にあります。ここには聖書のすべてを言い表すことばがあります。「こころを尽くし」と「自分を愛するように隣人を愛しなさい」です。これが聖書の中心テーマです。神への愛、自分への愛、人への愛です。サマリア人は接近し、対処し、支援します。ここによき隣人のプロセスが書かれています。カルトの被害者は私に接近します。悪いイメージを与える人もいれば、いいイメージを与える人もいます。接近するためにはインターネットを使用しています。私もそうします。そして向こうから電話がきます。それから具体的な対処をし、調査をし、継続的な支援を考えます。私は常に百人以上の相談を抱えています。電話で相手の人が分かります。毎日が休みのない、相談される毎日です。カルトの被害者を13年間支援しています。
危機カウンセリングは図に示します。難問が発生して悩み苦しみます。ストレスがかかります。回避しようとしても解決策はありません。万策尽き、危機状況になります。地震の時には三日以内に救出しなければなりません。危機的状況に陥ったとき、私自身が考えるタイミングは三ヶ月です。支援策は変化します。段階によって対応が変わります。状況を把握しなければなりません。カルトならカルトの用語を理解し、精神世界を理解しないといけません。支援できるのは経験者やそのそばにいた人です。私はどんなカルトでも扱います。カルトには共通項があります。あとはブラスアルファを調べて対応できます。そのカルトの事例が少ないなら、経験者がいいのです。支援は被害者、回復した人、家族がいい。いい隣人になります。ポイントは私が隣人になることです。阪神大震災の経験を話しますと、私は三ヶ月間現地に行きました。一週間あまり寝なくても食べなくても持ちこたえられました。それを続けていれば倒れていたでしょう。(相手が)一人ではなく、大きな出来事があったとき、また相談が集中したとき、そういう状況になります。恐れ、不安を抱いている人に適切な対処の仕方、新しい取り組みの方法を具体的に教えます。今一歩前進できる具体的な対応策を考えてあげると、希望を持ち始めます。この危機介入は初期であればあるほど効き目が大きいのです。宗教カウンセリングは宗教の分かる人でないと難しいのです。心理療法士だけにはたよれません。私は病院から依頼されたことがあります。
宗教カウンセリングでは聖書を機械的に当てはめると傷が深くなります。傷ついた人を再び傷つけてしまいます。聖書の言葉を使って虐待されている場合がありますから、聖書をすぐ使うのではなく、平たい言葉で対応しなければなりません。聖書全体を理解して対応する必要があります。
被害者の会の事例は資料をご覧ください。2005年、聖神中央事件では私は被害者の団体の代表者になりました。代表者になっていろいろな諸機関と話ができました。被害者の数が少ないとき、被害者の会の結成には至らなかったので「代理人」の考えが浮かびました。代理人の働きは絶大です。ただし、「代理人」は無給です。ボランティアでアドバイスします。専らにすると弁護士業務に抵触します。宗教家として、その被害に全体的にアドバイスします。その人たちの持っていない情報を持っていますのでそれで助けていきます。「代理人」で道が開けました。慎重さが要りますし、わきまえる情報が必要です。訴訟を起こす人には訴訟の支援をしています。費用も無利息で貸しています。経済的被害を受けると訴訟もできません。弁護士と相談するにもお金が要ります。社会復帰の支援もしています。
私が今日、ここに来たのも、支援のネットワークのひとつです。私と結びついて私のネットワークも人脈も共有できます。お互いに協力し合って支援ネットワークを形成できます。一人では闘えません。一人でも多く、協力者が必要です。皆さんもいずれもうすこしこの問題を扱えるようになったら助けてくれる人が必要になります。この先、関わりがどう発展するか視野に収め、学び、情報を集め、人との協力を築いていかなければなりません。