2008年6月12日
サミット人権監視弁護士ネットワーク
本年7月7日から9日にかけて、「北海道洞爺湖サミット」が開催されます。それに向けてさまざまな市民団体やNGOが人権、平和、開発、環境などの課題をかかげて取り組みをすすめています。
サミットやそれに関連するさまざまな企画に参加するため、海外から多数の市民運動家やNGO活動家が来日を予定しています。しかしながら、最近、海外からの入国に際して、サミット開催を理由にしつつ、ビザ発給手続などを特に厳しくし、場合によっては入国ができなくなる事例が報告されています。
特に、過去の犯罪歴があることなどを理由にして、出入国管理法5条1項4号の条項をもとに、入国の条件として、過去の犯罪歴が政治犯罪であったことの証明を求めるなどの実務が進められていると聞いております。過去の逮捕などの理由が政治犯罪であったことの証明は、お分かりかとは思いますが大変に難しく、通常のビザ発給手続きの中でそれを満たすことはほぼ不可能な場合が少なくありません。また、そうした経歴がある人びとの多くは、信頼すべき活動家であることも多く、この条項を形式的、厳格に適用することは、かえって日本社会の信頼性を失わせることにもなりかねません。
実際、最近5月28日から30日まで横浜市で開催されたアフリカ開発会議(TICAD)にかかわる集会、イベントに参加を予定していた、元アフリカ民族会議の活動家トレバー・ンワグネさんの入国が事実上拒否されました。トレバーさんには逮捕歴はあるものの、無罪を判決されており、したがって日本の国内法の入国拒否の用件には一切あてはまりません。にもかかわらず外務省当局は、入国期日直前になって、トレバーさんに対し無犯罪証明書を南アフリカ警察から取得することを要求し、それを受けトレバーさんが警察署において「過去に処罰されたことがない」旨の宣誓供述書を取得し提出したにもかかわらず、「調査中」などとの理由をつけビザ発給を遅らせ、結果として予定していた飛行機に間に合わず、来日がかなわないという状態を結果を生んでしまいました。
これ以外にも、3月には韓国から来訪した市民団体のメンバーの入国が一旦拒否されたほか、さらに同月、小樽港に入港しようとしたドイツ人NGO活動家の入国が拒否されています。また、イタリアの哲学者で著名な政治思想家であるアントニオ・ネグリさんの入国についても、彼の過去の履歴に関し、トレバーさんと同様の書類が要求されたため結局来日がかなわず、日本政府の無理解が世界に驚きをもって迎えられたのは記憶に新しいところです。現在、多くの在外公館におけるビザ申請が、外務省領事局外国人課での協議にかけられていると聞いております。
このようにサミット開催を口実に、市民活動家やNGO活動家を無根拠に「テロリズム」と結びつけ、入国を不当に妨害する行為を常態化させることは、国際社会に対する責任ある態度とは言えません。市民活動の表現の自由、言論の自由、集会の自由を最大限に守るということは、国際法上の国家の責務です。警備や取締を講じる際にも、こうした権利を最大限に守ることが当然に求められております。
今後、正当な市民活動、NGOとしての活動で来日を予定している人びとに対して、入管法5条1項4号を形式的に適用し、入国を実質的に妨害するようなことのないよう、当局には最大限の配慮を講じていただきますよう、強く申し入れます。