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狂牛病Q&A
天笠 啓祐さん
(ジャーナリスト/市民バイオテクノロジー情報室)
狂牛病にみる“官”の嘘と無策
食の安全と畜産のあり方を見直そう
日本国内でもついに狂牛病が発生した。9月10日、農林水産省は、千葉県白井市で飼われていた乳牛(5歳の雌)が「狂牛病に感染している疑いがある」と発表した。イギリス獣医研究所の鑑定の結果、22日に狂牛病であることが確かめられた。当初、農水省は、このウシを焼却処分したと発表したが、実は肉骨粉にされていたのだ。また事前にEUから感染の可能性について警告が発せられていたにもかかわらず、必要な対応をとらなかったことなど、農水省の嘘と無策が消費者の不安を拡大し、その結果、酪農家、小売業にも深刻な影響を及ぼしている。狂牛病とはどんな病気か、どんな対策が必要なのか、ジャーナリストの天笠啓祐さんに聞いた。[構成/清水直子]
狂牛病とは? その原因は? |
――そもそも狂牛病とはどんな病気なのでしょうか。
狂牛病というのは通称で、正式には牛海綿状脳症(BSE)といいます。ウシの脳に小さな穴が無数にあいて海綿=スポンジ状になり神経に障害が起きる病気です。一番怖いのは致死率が100%、必ず死ぬということです。
――原因は。
神経細胞にあるプリオンタンパク質が、正常なものから異常なものに変わることによって起きます。プリオンは運動や睡眠にかかわる生命維持に必要なタンパク質で、何が原因で正常なプリオンが、異常なプリオンになるのかはまだよく分かっていません。プリオンは、脳に集中していますが、末梢神経を含めて神経細胞があるところには、量は少ないながら存在します。
――狂牛病が一番最初に確認されたのは。
85年にイギリスで狂牛病らしき牛が発見されましたが、最初に確認されたのはその翌年の86年、同じくイギリスでした。
人にも感染するの? ウシ以外の動物には? |
――プリオンが異常化するのは牛だけですか。
プリオンの異常化が原因のプリオン病は昔からあって、人間では100万人に1人くらいの割合で発症するクツフェルト・ヤコブ病、ヒツジではスクレイピーが有名です。
――狂牛病の始まりは。
もともとヒツジの病気だったスクレイピーのヒツジの肉骨粉をウシの飼料に混ぜたことだと言われています。狂牛病に感染したウシの肉骨粉をウシの飼料に混ぜたため、劇的に感染が広がりました。
――人間も感染しますか。
動物実験でも種の壁を越える水平感染は確認されていますし、96年にイギリスで狂牛病のウシの肉を食べた人に水平感染したとみられる、致死性痴ほう症の新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の患者が見つかりました。なお、肉骨粉を扱っている人が呼吸器系から感染した可能性も指摘されています。ほかにヤギ、ミンク、ネコ、ピューマなども発症していますが、イヌのように感染しない動物もいます。
――狂牛病に感染した人の人数は増えていますか。
発病者はイギリスに集中していて、狂牛病から感染した新変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病は、95年3人、96年10人、97年10人、98年18人、99年15人、2000年28人、2001年は2月までで16人と、増加しています。
85年に最初に狂牛病のウシが発見されて、ほぼ15年で人への感染が広がっていることから、日本で本格的に発病する人が増えるのは、2010年から2015年頃になると考えられます。
ウシのどの部分を 食べたら危険? |
――厚生労働省は、脳、脊髄、目、回腸遠位部を食べなければ大丈夫、肉は安全だと言っていますが。。
筋肉は比較的安全ですが、末端神経がいきわたっている肉が安全とは言いきれません。牛乳は、牛肉に比べればはるかに安全とは言えます。
――ウシの各部位の危険度という図は、どの程度信憑性があるのでしょうか。
安全度を4つにカテゴリー分けした図は、ヒツジの実験結果のものなのです。ウシを使った感染実験で確認されたものではありません。血液は「カテゴリーW」(検出可能な感染性なし)ですが、人間同士の場合、厚生労働省はヨーロッパの狂牛病の発病地域で生活した人の献血を禁止していて、ヒトからヒトへは血液感染する可能性があるということを示しています。
――母子感染はしますか。
生まれた子ヒツジは後産の胎盤を食べることでスクレイピーが垂直感染、つまり母子感染します。通常、母子感染のルートは乳と血液の二種類があります。マウスを使った実験では、プリオン病が、初乳で子マウスに感染しました。
根拠はまだ不確かですが、人間も母乳を通して母子感染する可能性は否定できません。初乳のリスクが高いのは、初乳に多く含まれている免疫グロブリンが、プリオンタンパク質とかかわりがあるからだと言われています。
どうして分からない ことだらけなの? |
――感染ルートなど分からないことが多いですね。
食べ物のなかに含まれているタンパク質が、体のなかのタンパク質を異常化させるなど通常では考えらません。タンパク質はアミノ酸のつながりですから、胃や腸でアミノ酸に分解されます。
しかし、異常なプリオンは胃液や腸液で分解されず、タンパク質のまま吸収されてしまいます。また、ウイルスやバクテリアと違って、プリオンが異常化しても抗体反応が起きず、感染ルートを見分けるのが難しいのです。
――対処の仕方も分かっていないのですか。
異常プリオンは、酵素でも化学薬品でも、300度の熱でも分解されません。今のところ、3気圧という圧力をかけた上でなら、133度で不活化するといわれています。
――土壌汚染もあり得るのでしょうか。
プリオンを異常化させる原因が植物や土のなかの微生物にどういう影響を与えるかは分かりません。感染が疑われる肉骨粉は畑や牧草地などに撒いてはいけません。
日本のウシが狂牛病に 感染したのはなぜ? |
――感染ルートの特定はできたのですか。
ブタやニワトリに与える肉骨粉をウシの飼料に混ぜていたという説が有力ですが、原因究明は滞っています。北海道で一緒に生まれ育てられたウシはみな焼却処分されました。本当に原因究明をする気があるなら、隔離して研究の対象にすべきなのです。焼却してしまうのは、証拠隠滅に等しいこと。農水省が、原因究明のなかで垂直感染の可能性を最初から否定してるのは問題です。
――事前にくい止めることはできなかったのですか。
今年の6月にEUが「日本もイギリスから肉骨粉を輸入していたから、これから狂牛病が発生するかもしれない」と警告を発していたにもかかわらず、農水省は、「日本で狂牛病なんてあり得ない」と言っていたのです。8月6日に狂牛病に似た症状のウシが発見されて、1ヵ月後の9月10日に「狂牛病の疑いがある」と発表したときにさえ、農水省生産局畜産部の永村武美部長は、「全国調査をする予定はない」と言っていました。
――農水省は、10月18日以降は、出荷前に全頭検査をするからと、10月18日に安全宣言をだしました。
狂牛病は、ドミノ現象のようにわずかな変化から始まって、急激に異常プリオンが増えて発症します。潜伏期間の30ヵ月の間は全頭検査でも見落としがある可能性が高いのです。「安全宣言」は、「安全だと思いたい宣言」ということです。政府、農水省、厚生労働省がやるべきことはいい加減な安全宣言を出すことではなく、100%情報を公開することです。
――検査の精度は。
農水省が行っているエライザ(ERISA)法というのは、検査の精度が粗いため、よく疑陽性という結果が出てしまいます。エライザ法の検査方法は、ウシの脳にプリオンの分解酵素をかけると、正常なプリオンは簡単に分解され、異常なプリオンは分解されずに残るので、残ったものの抗体反応を見るのですが、ウシの抗体はできないのでウシのプリオンをマウスに注射してできたマウスの抗体を使うのです。
――お肉屋さんに「アメリカ産の牛肉だから安全です」という張り紙がありました。
狂牛病のリスク以前に、アメリカ産の牛肉は、とても食べられたものではないと、私は思います。飼料に合成ホルモン剤(成長ホルモン、女性ホルモン)を加えているし、日本で認められていない抗生物質や寄生虫駆除剤もたくさん使っていますから。日本で牛肉を食べて狂牛病に感染する確率は、いってみれば3億円の宝くじに当選するようなもの。アメリカ産の牛肉を食べてガンになる確率の方がはるかに高いでしょう。
これからのこと ――今後、私たちは |
――日本ではこれからどうすればいいでしょうか。
今の食べ物は、リスクだらけです。食品添加物、残留農薬、放射線照射食品、遺伝子組み換え食品、抗生物質を与えられた家畜の肉……さらに狂牛病。これ以上リスクを増やさないために、食品安全行政を根本的に変えなければなりません。私たちは、動物性飼料や遺伝子組み換え飼料に依存しない有機畜産を広げる運動を進めようとしています。
――なぜ動物性飼料を与えてきたのでしょうか。
肉牛は、脂ののりをよくして成長を早める、生産効率を上げるためです。
乳牛の場合は乳脂肪率を高くするため。牧草だけ食べているウシの乳は乳脂肪質が非常に不安定なうえ、乳脂肪率の上限が3・2%くらいですが、農水省は、3・5%以上の安定した乳脂肪率を求めました。植物性油脂を与えても乳脂肪質は上がらないため、動物性飼料を使わざるを得なくなったのです。
75年の肉骨粉の輸入量は7万7993トンでしたが、95年には3倍の23万1963トンになっています。肉骨粉の輸入量は危険が指摘された86年以降も増えました。95年がピークで、以降は減少していますが2000年現在、ヨーロッパでもイタリアやデンマークからはまだ輸入をしています。
――消費者に問われることは。
消費者も霜降り肉や乳脂肪率の高い牛乳を要求するのはやめた方がいいでしょう。
また、EUで動物性飼料を禁止したときに、アルゼンチンから大豆の輸入が非常に増えました。そのアルゼンチンの大豆の9割がモンサントの遺伝子組み替え大豆だったため、有機畜産を進める運動が、動物性飼料と同時に遺伝子組み替え飼料も排除することにつながりました。
根本的に畜産のあり方を見直し、大豆畑トラスト運動のように有機農業を支える産直運動などのネットワークを基盤にして、参加型の仕組みを作りながら、20年、30年かけて有機畜産を日本に定着させる必要があります。
カブールが陥落し、タリバンが敗走している。あれほど喧噪を極めたこの国のマスコミのアフガン報道も、それを境に、めっきりトーンを落とした。米一辺倒の御用報道から解放されるのはありがたいが、これでもって一件落着というのであれば、ジャーナリズムは僭称ではないか。
カブールが陥落したとき、NHKはカブール市民を称する1人の男に「今日から、テレビを見ることができる。音楽も聴ける。自由だ、自由が戻ってきた」と、叫ばせた。
でっちあげとは言わないが「自由と、それを否定する悪との無限の正義の戦争」という不遜にして傲慢なブッシュに忠実なNHKならではのプロパガンダである。
何も解決していない。79年以来、アフガン人を襲っている災忌は、何ひとつ解決していないのである。テレビと音楽の自由よりも、戦争と餓死から解放されることを多くのアフガン人は願っているだろう。報道すべきことは、そのために我々は何をなすべきか、ではないか。我々とは、まずもって米国人であり、日本人であり、その他、世界の富める国上位20%に属する国々の人びとである。
28年前の1973年、同じ9月11日はチリの自由を求める人びとにとって、今回米国人が遭遇した以上の災忌に見舞われた日である。選挙で誕生したアジェンデ政権がCIAと軍部のクーデタで暴力的に覆され、数万人の市民が虐殺された。いまだに行方不明は数千人もいる。
クーデタで亡命したチリの作家ドルフマンはこう言っている(『世界』12月号)。
地球上の不遇な人々の国にはびこる悪の数々は向こう岸の出来事であり、米国はそんな境遇には陥らないと考える例外主義は終焉した。そして「あまりにも希望しか知らない米国人が人類の他の構成員に向けて同じ共感を抱ける能力を持ち合わせているかどうか、苦しみと甦りの過程に鍛えられ育ってくる新しい米国人が傷みきった人類の立て直しという困難な道のりに加わる覚悟でいるかどうか、結論を下すにはまだ早い」と。
試されているのは日本人もである。
小寺山康雄
ACTの名物コーナー「ECOひいき」に登場してくださるみなさんを募集しています。「ECO」なお店、会社、グッズ、運動、などを是非、ACTで紹介させてください。自薦・他薦は問いません。紹介文は、本紙だけでなく、ACTのウェブサイドにも掲載させていただきます。
@お店・グループ名 Aお店の紹介や商品説明、活動案内(500字以内) B連絡先(お店などの場合、「行き方」も) C執筆者氏名 D掲載紙送付先・原稿に関する問い合わせ先 ―を明記し、EメールかFAX、もしくは郵便でACT編集部[act@jca.apc.org]までお送りください。地図・写真などを添付していただければ、それも一緒に掲載いたします。(編集部)
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