「地方分権一括法案」は、「周辺事態法」とリンクした
「普通に戦争ができる国家づくり」の一環である

メモ作成者  井上澄夫      
(つくろう平和!練馬ネットワーク、 
沖縄一坪反戦地主会関東ブロックの一員)

作成時 1999年6月19日  

 本稿は、法律の専門家ではない私(井上澄夫)が、現在、国会に提出され審議されている地方分権(推進)一括法案の問題点を理解しようとしてはじめた作業を反映したメモである。

 もともとは、一坪反戦地主の一人として、駐留軍(米軍)用地特別措置法の再改悪案への、強い、あえていえば死活的関心から、同法案を含む地方分権一括法案の全体とその意味を理解しようとする試みであったが、一括法案は475もの「改正」案から成り、作業は困難をきわめている。しかし同一括法案は、すでに衆議院を通過し、参議院での審議がはじまっていて、今月(6月)末には成立の見通しであるという切迫した事態を考えると、たとえ不十分で、力量不足によるあやまりが含まれるかもしれないメモであっても、仲間たちに検討、論議を呼びかけるための素材として公開すべきであろうと考えた。内容の重複や未整理の部分については、作業がなお進行中であることもあり、どうかご容赦願いたい。またこれは、あくまで私個人のメモであることを明らかにしておく。

 私が目的とするところは、「普通に戦争ができる国家づくり」が急速に進んでいることを見据え、中央省庁改革法案と地方分権一括法案は、戦争国家の行政面での骨格づくりであることを、法案の分析によって実証することであるが、中央省庁改革法案については、作業が緒についたばかりで、ここでは触れられない。したがって、記述はもっぱら地方分権一括法案を対象とする。

 地方分権一括法案の問題点を抽出するにあたって、同法案が戦争に向けた国家改造の基幹的な一環である以上、周辺事態法第9条(国による自治体・民間への戦争協力の強要)を補完し強化する法整備を多く含んでいるのではないかという疑いを、私は強く持った。憲法あるいは安保条約との関係において、新ガイドライン関連法は多くの矛盾を抱え、強引に成立させられた。それゆえ、前記第9条は、抽象的な規定にとどまり、その実現は政令の制定にゆだねられた。しかしそれゆえにこそ、自治体・民間の戦争協力拒否、抵抗の余地を残さないための工夫を、政府は別の法によって必死でやるにちがいないと、私は考えた。

 その作業はいくらか進展したと思うが、なおまったく不十分である。仲間たちの、さらなる検討・分析を期待したい。

 〔以下の記述においては「改悪」とすべき箇所が多いのだが、とりわけ法案の説明については、煩を避けるため、そのまま「改正」と記す。〕

《地方分権一括法案・略史》

93年 6月   国会の両院で「地方分権の推進に関する決議」成立
94年12月   地方分権大綱・閣議決定
95年 5月   地方分権推進法・成立
   7月   同法に基づき、地方分権推進委員会発足
        (委員長・諸井 虔〔太平洋セメント取締相談役〕 ) 96年 3月   中間報告
  12月   第一次勧告 97年 7月   第二次勧告
   9月   第三次勧告
  10月   第四次勧告
98年11月   第五次勧告
99年 3月29日 地方分権一括法案 国会上程
    (正式名称・地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案)
   6月11日  衆議院を通過。現在、参議院で審議中

基本的な視点

 政府のいう「地方分権」は、国と地方自治体との役割分担を決めるということであり、それは「行政改革」の重要な一部である。小渕首相は、それを「21世紀を迎えるに当たって新しい時代にふさわしい我が国の基本的な行政システムを構築しようとするもの」とのべている(99年5月13日、衆議院)。したがって、上からの行政再編の一環であって、もとより地方自治(団体自治・住民自治)の強化・発展を目的としたものではない。

問題を考える上で基本となりうる世界的な趨勢

上記2文書の提示する地方自治の諸原則(杉原泰雄・東海大教授による整理)

  1. 団体自治(地方公共団体に認められる権限は、原則として、排他的かつ無制約的でなければならない)
  2. 住民自治
  3. 市町村最優先の事務配分の原則(公的な事務は、市民にもっとも身近な地方公共団体に優先的に配分される)
  4. 権限に対応する自主財源の保障(財政力の弱い地方公共団体のために財政調整制度も保障する)
  5. 自主課税権の保障
  6. 共通の事務につき他の地方公共団体と連合組織を設ける権限の保障
  7. 全権限性の保障(「他の官庁の権限に明白に帰属する事項または地方自治体の権限から明白に除外されている事項以外のあらゆる問題」を処理する権限の保障)
  8. その自治を保障するために司法的救済を求める権利の保障   

 ※「人民の自己統治を理念とする人民主権と人権への大きな配慮がみられる」と杉原教授は評価している。

 上に明らかなように、地方分権がその名に値するには、権限の移転のみならず、それを保障する税財源の委譲がなされねばならず、ひいてはそれらが地方自治(団体自治・住民自治)を強化・発展させることにつながらねばならない。

 今回の「地方分権推進」にあたっては、地方自治の強化・発展は、まったく考慮されず、「3割自治」(中央集権的な行財政制度によって、地方自治の自主性、自立性が著しく阻害されている状態。租税総額における国税と地方税の割合が、前者60%台、後者30%台で、自治体の歳入総額における地方税の比率も30%台であること)の現状も、まったく変えられない。それは、「行政改革」としての今回の「地方分権」が、もっぱら巨額の財政赤字を抱える国の都合によってなされることを、如実に示している。さらに、自治体を国の言いなりにさせるための強力な手段である各種補助金も、そのまま残存する。

地方分権一括法案を貫く原理

 ◎地方自治法改正

 第1条第2項 国は、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。

 すなわち、今回の「地方分権推進」を貫く原理は、国と自治体との間でそれぞれがなす役割を明確にするということであるが、振り分けの基準は、国は、国際社会における国家としての存立にかかわる事務など、ありていにいえば、軍事、治安、外交を担い、自治体は、住民に身近な行政、つまり福祉を担うということである。

 換言すれば、「軍事・(治安)・外交は国の専権事項」という、国の身勝手な論理の法制化であり、手も金もかかる福祉は、自治体の財政がどう窮迫していようと、そっち(自治体)でやれ、ということである。あとでみるように、福祉を担えない自治体は、近隣の市町村と合併せよという方針も公然と掲げられている。

 ◆注意すべきこと

 現行の第2条〔地方公共団体の法人格、事務、自治行政の基本〕第3項(自治体がなす事務の例示)の1は、「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」となっているが、これは削除され、改訂案では第1条第2項が「住民の福祉の増進を図ることを基本として」とされている。すなわち、「地方公共の秩序の維持」(治安)は、自治体のなすべき事務ではなくなり、「住民の安全、健康」(安全保障=軍事)もはずされている。地方分権一括法案の条文を検討すると、それら治安・軍事にかかわることは国がなすべきと考えていることがわかる。さらに現行の「住民及び滞在者」から「滞在者」がはずされたことは、大きな意味を有するのではあるまいか。論理的には、住民票をもたない人々すべてが排除されることになるからである。(筆者が6月17日、自治省に照会したところ、「滞在者」の意味について行政実例〔公的見解〕はないが、この言葉に在日外国人が含まれると自治体側が解釈するなら、自治省としてはそれを妨げるものではない、ということだった。とすると、例示項目の削除であっても、それが現実に重要な意味を持つ危険性を排除できないだろう。)

 なお上記の第2条第3項(自治体がなす事務の例示)は、1だけでなく、19までに掲げられたすべての例示が削除され、第2条第2項において「地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるもの」という表現で一括されている。

改正の目玉(?) 機関委任事務の廃止 

 これは、561の機関委任事務を、法定受託事務、自治事務、国の直接執行事務、廃止に割り振ること、すなわち再配分することである。

 これについて、分権委はこういう。「機関委任事務は、国の機関としての自治体の長に委任する事務であり、これは国・地方の上下関係特有のシステムである。これを法律・政令に基づく委託―受託関係に改めることは、国と地方自治体を対等・平等の関係にすることである」。

 さらに分権委と政府は、今回の「地方分権推進」を「明治維新、戦後改革に次ぐ第三の改革」と位置づけているが、はたしてそのようなものか、あるいは、そんなキレイゴトか? 

 機関委任事務の廃止を、分権委は「行政システムの変更のシンボル」と位置づけたのだが、ここで再配分の内容を検討すると、

◆ 法定受託事務

国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(改正地方自治法第2条第9項)

 含意ないし真意=自治体に委託するが、本来国がやるべきことなのだから、自治体がサボったり、抵抗したり、国が思うとおりにやらないなら国のほうでやる、という事務

*国政選挙、旅券の交付、国の指定統計、国道の管理、土地収用委員会にかかわる事務など

◆ 自治事務

法定受託事務以外のもので、タテマエとしては、自治体の裁量に委ねられるが、実際には国があれこれ介入する事務

*都市計画の決定、土地改良区の設立認可、飲食店営業の許可、病院・薬局の開設許可など

(批判の例 法定受託事務以外というのは、乱暴な振り分け。なにを自治事務にするかは、サービスを受ける住民と自治体自身が決めることのはず)

◆ 国の直接執行事務 国が自治体から取り上げる事務

*駐留軍(米軍)用地特措法における土地調書等への署名押印の代行等の事務、
駐留軍等労務者の労務管理実施事務、国立公園の管理など

◆ 事務自体の廃止 *国民年金の印紙検認事務など

◎振り分けの結果を量的に概括すると、事務の廃止はほとんどなく、軍事にかかわる重要な部分を国の直轄にし、その他を「自治事務」と「法定受託事務」に振り分けている。自治体に裁量権がある(ことになっている)「自治事務」は、当初8割を占めると、見込まれていたにもかかわらず、実際には6割以下になった。これは、関係官庁の官僚たちが、従来の「機関委任事務」と大差ない、あるいは同じという批判がある「法定受託事務」を増やすことにこだわった結果である。

 なお、「機関委任事務」と「法定受託事務」の差異については、このあとにメモする「国による締め付けの強化」を検討するなら、「法定受託事務」は、あるいは「機関委任事務」より国の権限(介入)を強めた事務という見解も生じうる。

 ■今回の一括法案は、「自治体の行政能力を向上させるため」として「自主的な市町村合併の推進」を掲げているが(内閣内政審議室の「概要」、99・3)、これは、自治体つぶしにほかならない。すでに指摘したように、仕事は押しつけるが税財源は委譲しないというのだから、自治体の住民サービス向上は見込めない。それなら市町村を合併して行政能力をアップさせよ、というわけである。

■ 国による締め付けの強化

 国は、「包括的指揮監督権」(地方自治法150、151条)の廃止を、ことさら強調しているが、実は、どうなのか。

●自治事務 国は、都道府県・市町村に対し、助言・勧告ができ、資料の提出を要求でき、違反の是正・改善措置を指示できる。

●法定受託事務 国は、都道府県・市町村に対し、助言・勧告をすることができ、資料の提出を要求することができ、さらに違反の是正・改善措置を勧告できる。違反是正の勧告に従わないときは、代執行できる。

◆「国の関与」に関するもめごとに備えて、「国地方係争処理委員会」を総理府に置く。委員は総理大臣が任命する。委員会は審査し「国の関与」が不当でないときは、その旨自治体に通知し、不当であるときは、国に勧告する。

 職権により調停することもできる。自治体は、同委員会での審査を経ずして、高等裁判所に訴訟を提起できない。

 ここまで国の介入を制度化するなら、推進されようとしている「地方分権」は、実は「新たな中央集権」にほかならないのではないか。自治体の自主性(主体性)や自立性を尊重する姿勢は、みじんもない。まして、自治を支える主体である住民への配慮はどこにもなく、国にとって住民は、治安・管理の対象にすぎない。

〔米軍用地特措法・再改悪〕

 地方分権推進委の姿勢―大田前知事、沖縄県民へのむきだしの敵対意識

 「委員会としては、特に慎重に扱ってきた。結論としては、知事や市町村長が、国の機関としての立場と地方公共団体の代表者としての立場との板ばさみになって苦悩することは不自然であるから、土地等の使用・収用に関する知事・市町村への機関委任事務は国の直接執行事務とし、収用委員会が行う収用裁決等の事務は法定受託事務として処理し、これに公共用地の取得に関する特別措置法並みの緊急裁決、内閣総理大臣の代執行を付加することで最終の決着を見た。この三次勧告に対しては、強い反発が沖縄等から寄せられたが、仮にこれらの事務を法定受託事務にしたとしても、法律に基づいて地方公共団体にゆだねられた権限を国への抵抗手段として用いるという考え方は筋道に反するものというべきである。」(委員会のメンバー、横浜国立大学名誉教授・成田頼明〔よりあき〕)

 国(小渕首相)の開き直り

 「駐留軍用地特措法改正については、地方分権推進委員会の勧告を受けて、国と地方公共団体との役割分担を明確にするという観点から、同法の事務について国が最終的に執行責任を担保し得る仕組みを講じようとするものであり、地方分権に背くとの指摘は当たらず、周辺事態への対応に関連して行うものではない。」
(1999年5月13日、衆議院)

一括法案に含まれる危ない「改正」

(主として戦時体制づくりを疑う視点から気づいた点のみ)

●自衛隊法・改正(タイトルの変更)

 「1、都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官の募集に関する事務の一部を行う。2、(防衛庁)長官は、警察庁及び都道府県警察に対し、自衛官の募集に関する事務の一部について協力を求めることができる。3、(経費の国庫負担、略)」という第97条のタイトルを、「募集事務の一部委任」から「都道府県等が処理する事務」に変える。自衛官募集について、自治体に全面的に責任を負わせることを狙う、あざとい手法ではないだろうか。政令を変えれば、「事務の一部」の内容は変わりうるのではないか。

●精神保健及び精神障害者福祉に関する法律・改正

 第19条第9項の3、新規付加条項=厚生大臣は、指定病院に入院中の者の処遇を確保する緊急の必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、その権限に属する事務を行うことを指示することができる。

 具体的に何を意味するか。有事に際し障害者を拘束することではないのか。

●火薬取締法・改正 第5条 火薬販売の許可

 販売所ごとに、通商産業省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。

 「通商産業省令で定めるところにより」を挿入。省令による規制強化ではないか。火薬庫の設置・移転、火薬類の譲渡・廃棄も同様。火薬類の運搬については、総理府令の網がかかる。

●鉄道事業法・改正 第22条

 鉄道事業者は、鉄道施設に関する測量、実地調査又は工事のため必要があるときは、運輸大臣の許可を受け、他人の土地に立ち入り、又はその土地を一時材料置場として使用することができる。

 改正前条文では、運輸大臣の部分が都道府県知事。有事に備えた、政府への権限の取り上げではないのか。

●電気通信事業法・改正 第73条

 第一種電気通信事業者は、第一種電気通信事業の用に供する線路及び空中線並びにこれらの付属施設を設置するため他人の土地等を利用することが必要かつ適当であるときは、郵政大臣の認可を受けて、その土地の所有者に対し、その土地等を使用する権利の設定に関する協議を求めることができる。

 改正前条文では、郵政大臣は「その土地等の所在地を管轄する都道府県知事」。政府による権限の取り上げではないのか。

〔周辺事態法との関係〕

 周辺事態法第9条は、国が自治体・民間に戦争協力を「求め、依頼する」ことを規定している。自治体がそれらの「要請・依頼」に応えない場合、国は補助金カットなどをちらつかせて自治体を脅し、国の意思に従わせるにちがいない。

 地方分権一括法案は、閣僚の権限を極度に強化し、国会審議を必要としない関連省庁ごとの政令による規制の網を自治体にかぶせる。この中央集権と政令政治(支配)の強化は、自治体の自主性・自立性を奪うことが狙いである。

 地方分権一括法案は、周辺事態法と一体であり、いわば自治体の抵抗への予防的規制の法制化である。それは、たとえば、次のような改正案に明らかに見てとれる。

●建築基準法改正 第17条第1項

 国の利害に重大な関係がある建築物に関し必要があると認めるときは、当該都道府県知事又は市町村の長に対して、期限を定めて、都道府県又は市町村の建築主事に対し必要な措置を命ずべきことを指示することができる。(第1項に「国の利害に重大な関係がある建築物に関し必要があると認めるとき」を挿入。第17条のタイトルの変更=「特定行政庁等に対する監督」を「特定行政庁等に対する指示等」とする)

 第2、第3項は改訂し、第12項まで設ける。建設大臣の自治体への指示、都道府県知事が指示を実行しないときの代行、建築主事が自治体の長の命令に従わない場合の建設大臣の代行など。

●消防法改正 第16条第8項の2(新規付加条項)

 自治大臣は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、都道府県知事又は市町村長に対し、都道府県知事又は市町村長が行うこととされる事務のうち政令で定めるものの処理について指示することができる。

  周辺事態法第9条に基づき国が自治体に協力を「求める」項目には、「建物、設備などの安全を確保するための許認可」が含まれている。上記の改正において言われる事務は、危険物貯蔵所の設置許可などを意味し、改正のねらいは、「公共の安全の維持のため、緊急の必要があるときは」、自治大臣が自治体の長に対し、危険物貯蔵所の許認可手続きを迅速に行うよう強要(指示)することができるようにすることである。危険物は石油など燃料に限られないと解すべきであろうが、武器・弾薬の貯蔵であるなら、米軍はそれを秘匿するよう自治体に「命令」するだろう。

●水道法改正 第40条第2項(新規付加条項)

 厚生大臣は、前項に規定する都道府県知事の権限に属する事務について、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときは、都道府県知事に対し同項の事務を行うことを指示することができる。

 周辺事態法第9条に基づき国が自治体に「依頼する」項目には、「地方公共団体による給水」が含まれている。上記の改正において言う「前項に規定する都道府県知事の権限」とは、〔水道用水の緊急応援〕にかかわるものである。第40条第1項は「災害その他非常の場合」に、特定の水道事業者または水道用水供給事業者に対し、他の水道事業者または水道用水供給事業者に水を供給することを命ずることができるとしているが、新規に設けられた改正のねらいは、「国民の生命及び健康に重大な影響を与える」と厚生大臣が判断した場合、都道府県知事に給水を指示(命令)することができるというものである。これは、寄港した軍艦(米艦船に限られず、自衛隊の「護衛艦」も含まれるであろう)に、有無を言わさず給水させることである。

●公有水面埋立法 第52条(新規付加条文)

 本法ニ定ムルモノノ外本法ノ施行ニ関シ必要ナル事項ハ政令ヲ以テ之ヲ定ム

 軍港など軍事基地を新設する際、この曖昧な規定は、大きな力を発揮することになるのではないか。沖縄での海上ヘリ基地問題、これからありうる全国での自衛隊基地の新設問題等との関連で考えねばならない条文ではないだろうか。防衛施設庁は、「自衛隊は軍隊ではないから、土地収用法による新規の土地収用は可能である」と言いはじめている。有事(戦時)に向けた(あるいはその際の)土地接収については、米軍だけでなく、自衛隊の動きも警戒すべきではないだろうか。

*一括法案の問題点は、いうまでもなく、上記のものにとどまらない。国会では、地方事務官制度の廃止、国地方係争処理委員会のありかた、市町村合併の推進の方針、税財源の地方への委譲がないこと、地方議員定数削減などが問題にされているが、このメモでは触れる余裕がない。周辺事態法との関連の分析も不十分である。

地方分権一括法案の狙うもの

 すでに「軍事・外交は国の専権事項」なる合唱がなされているが、地方自治法の改悪は、そういう主張の法制化である。治安対策を含む国家安全保障と外交について、一般「国民」と自治体の関与をいっさい許さず、〈政治・外交の手段としての戦争〉を意のままに行なえる国家に転換するための行政再編、上からの国家改造である。

 だからこそ、米軍用地特措法の再改悪にみられるように、有事立法の一部が先取りされているのである。475本の改正案の個別的な点検・精査が緊急の課題である。とりわけ、仕事が増えリストラによる失業が迫る自治体労働者との共同討議が、緊急に要請されている。

 政府は、中央省庁改革関連法案と地方分権一括法案を、今国会の会期内に成立させようとしているが、二つのその動きは連動している。いずれも肥大した国家行政機構のリストラ化をめざしているのである。既得権益にしがみつく官僚の抵抗によって、当初の目標を達成しえない面があるのは事実であるが、目標自体に変更はないと私は思う。日本の国家財政はすでに破綻していて、リストラ化は不可避だからである。

 この国家のリストラ化=贅肉落としは、明らかに周辺事態法と連動している。またすでに用意されているだろう諸有事立法ともセットになっていると見るべきだろう。〈強力で効率的な小さな政府〉こそ「普通に戦争のできる国家」を実現できるからである。このメモではまったく触れえなかったが、中央省庁改革関連法案が内閣機能の強化を目玉としていることは、有事に即応できる政府中枢の再編として問題にされねばならない。そしてそれらの動き総体は、経済大国になったことによる政治・軍事大国志向が日本支配層を突き動かしていることの露呈である。換言すれば、政府がいまめざしているものは、巨大な経済力に見合う国際的な政治力と軍事力の確保である。

以上   


米軍用地特措法 改悪・再改悪 関連資料

沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック