緊急使用申立て不許可




                     沖 収 委 第 35 号
                     平成8年5月11日

〒904ー03
読谷村字波平174番地
   知 花 昌 一 殿

                               沖縄県収用委員会
                                   会長 兼 城 賢 二

          緊急使用許可申立てについて(通知)

 平成8年3月29日付け施那第1396号(AFS)で那覇防衛
施設局長から申立てのあった日本国とアメリカ合衆国との間の相互
協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国に
おける合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等
に関する特別措置法第14条第1項において適用する土地収用法第
123条の規定による土地の使用について、当収用委員会は許可し
ないことを決定したので通知します。


      会長コメント  本日の収用委員会では、先般、当収用 委員会が那覇防衛施設局長に対して「補 正命令」を致しました楚辺通信所に係る 裁決申請書及び明渡裁決申立書の添付書 類である土地調書及び物件調書の欠陥が 補正されましたので「受理の決定」を致 しました。  また、同施設に係る「緊急使用申立」 については、土地収用法第123条の要 件に照らして審査した結果、許可の要件 に該当しないので許可しないことを決定 しました。         平成8年5月11日          沖縄県収用委員会          会長 兼城賢二


理  由

1 緊急使用の要件

 土地収用法(以下「法」という)第123条の規定する緊急使用の許可には、以下の4要件に該当する必要がある。
 なお、法第123条は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法第14条及び同法施行令第4条により読み替えられているので、以下は読み替えた字句の通りの要件を記載する。

(1)申し立てようとする土地等について、すでに裁決申請が行われていること。
(2)土地等の使用が緊急に必要であること(以下「使用の緊急性・必要性」という)。
(3)明渡裁決が遅延することによって土地等の使用が遅延すること(以下「裁決遅延による使用の遅延」という)。
(4)土地等の使用が遅延し、その結果、日本国の安全並びに極東における国際の平和及び安全の維持に著しく支障を及ぼす虞があること(以下「著しい支障の虞」という)。

2 要件の検討

 (1)の要件は平成8年3月29日付けで、申し立てようとする土地について裁決申請、明渡裁決申立てがなされており、充足されているので、(2)以下を検討する。

 (2)の「使用の緊急性・必要性」の要件について
 この使用の緊急性・必要性は、現実の使用の緊急性・必要性でなければならない。ところが、那覇防衛施設局長は、使用権原の緊急取得を主張している。そして、現実に使用ができなくなる(返還せざるを得なくなる)ことを前提にした使用の緊急性・必要性の主張をしていない。
 過去における唯一の類似事件たる、いわゆる東宝劇場事件では、東京調達局長(国)は、その緊急使用申立において、駐留軍用地の使用期間満了により裁決申請中の土地等を所有者に「返還しなければならない」が、そうなると駐留軍の使用が一時中断され、いわゆる安全保障条約第1条の目的達成に著しく支障を及ぼす虞がある旨の主張をしている。それは法の要件に添う主張をしたものである。
 ところが、那覇防衛施設局長は、使用期間満了後も緊急使用申立てのあった土地(以下「本件土地」という)を駐留軍が占有使用しているものの、使用権原が得られていない法的不安定な状態にあるので正当な権原を得たいと主張し、審尋においては、現在の占有使用状態は直ちに違法ではない旨釈明している。
 これらを鑑みると、現実の使用の緊急性・必要性を主張しているものとは言えない。
 したがって、本件における那覇防衛施設局長の申立ては、その主張自体失当といわねばならない。

(3)「裁決遅延による使用の遅延」の要件について
 要件としては、明渡裁決の遅延の原因は問わないものの、その遅延とは収用委員会に申立てされた後の遅延を意味するものであって、その前提として申立人側のなすべき諸手続の遅延を意味するものではない。
 特に継続的に土地を使用するための裁決申請については、申立人は申請前の手続きに遅延なきよう万全を期すべきであり、それは可能である。
 本件において、那覇防衛施設局長は、土地調書、物件調書の作成にかかる土地所有者の立会いに関し、沖縄県知事による署名、押印の拒否があり、訴訟に至ったため、申請手続きが遅れたことを遅延の理由としている。しかしながら、これらは申立人側のなすべき手続き上の内部的事情であって、それをもって明渡裁決の遅延とすべきものではないので、果たしてこの要件を満たしているのか疑問がある。
 申立人側手続段階の自招遅延による救済まで法第123条が予定しているとは解しえないからである。
 他方で、明渡裁決の遅延とは、その裁決を待っていては使用に遅延をきたすという程度の要件でしかないとの解釈を取れば、裁決申請時たる平成8年3月29日時点では、使用期間の満了する同月末日までに明渡裁決のなされることは公告縦覧、裁決手続開始決定、公開審理等の必要性から客観的に不可能であり、その裁決を待っていては使用に遅延をきたすという趣旨の範囲で要件を充たすことになる。
 仮にこの立場によったとしても、更に「使用の遅延」がなければならない。「使用の遅延」とは、使用の遅延が現実に発生していることを要する。
 しかしながら、駐留軍は平成8年4月1日以降も本件土地を従前通り現実に占有使用しており、いずれにしろこの要件を欠くものである。
 那覇防衛施設局長は、「使用の遅延」を「使用権原の得られない不安定な状態」で足りると主張しているようにみえる。
 しかしながら、使用権原を得ることは目的であって要件ではない。要件としては現実の使用の遅延と解するべきである。

(4)「著しい支障の虞」の要件について
 本要件では、単なる「支障」とせず、あえて「著しい支障」と規定している。何が「著しい支障」に当たるかは、当該物件の使用遅延の影響を個別具体的に判断しなくては分からない。那覇防衛施設局長は少なくともそれを疎明する必要がある。
 ところで、本件においては、本件土地が楚辺通信所の全体のわずか、0.04%でしかないうえ、平成8年3月以前から金属フェンスで囲ってあった枢要部分と思われる中心施設内ではなく、その外部に位置するものであり、その不使用による影響が、いか程のものであるかについて疎明の必要がある。ところが、那覇防衛施設局長は、軍事施設の具体的機能、運用にかかわることを理由に十分な疎明をしていない。
 那覇防衛施設局長は、本件土地が楚辺通信所の全体と有機的一体となって機能していると主張するので、当収用委員会は現地を調査した。ところが、単に外観を見せただけで、施設の建物内部を見せないだけでなく、施設の具体的役割、機能、設備のメカニズム、そして本件土地不使用による影響の程度については十分な説明がなされなかった。
 そればかりか本件土地不使用の場合、不都合があるというメッシュグランドマットの存在の確知すらできなかった。即ち、当収用委員会は、真の意味での支障の程度を、知ることができなかったのである。
 結局、那覇防衛施設局長は著しい支障の存在について疎明ができていないと言わねばならない。

3 結論

 緊急使用の要件を厳密に吟味した判例、学説が少ないなかで、現地調査、審尋及び疎明書を踏まえ容認できる限りの立場を想定して要件の該当性を検討した。
 その結果、以上のように、本件申立ては法第123条の要件に該当しないので、許可しないこととする。


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