沖縄県収用委員会 第11回審理記録
松永和宏(土地所有者代理人・弁護士)
松永和宏(土地所有者代理人・弁護士):
嘉手名飛行場内の、東野理原350番の土地の所有者である城間勝等代理人の松永です。
東野理原350番の土地というのは、防衛施設局が、共有者の一人である石原正一(ショ ウイチ:以下、石原ショウイチ)さん、この石原ショウイチさんを昭和61年に亡くなられた石原正一(マサカズ:以下、石原マサカズ)さんという、漢字だけを見ると全く同じ人と取り違えて、真実の共有者である石原ショウイチさんを共有者として扱わずに、石原マサカズさんのご遺族、東野理原の土地と何の関係のない石原恭子さんら4名を共有者とし て裁決申請をした土地のことです。つまり、登記簿上、石原ショウイチさんを殺してしまった、登記簿殺人事件の土地です。私は、この土地に対する裁決申請について、共有者すべてに対する関係で裁決申請が却下されねばならないということについて意見を述べます。
収用委員会は、昨年5月9日、真実の共有者である石原ショウイチさんを共有者として取り扱わない裁決申請は違法な申請であり、石原ショウイチさん及び関係人の利益を侵害するものと判断して、石原マサカズさんのご遺族らにかかる部分の裁決申請を却下しました。誠に賢明な判断でありました。
ただ、裁決申請が違法であるならば、すべての共有者に対する関係で、裁決は却下されねばなりません。防衛施設局は、土地収用法2条に基づいて、土地の強制使用の裁決申請 をしています。土地というのは、一個の有体物であります。一個の物に対する申請ですから、一個であることは当然であります。したがって、東野理原の土地、これに係る裁決申請が違法であると収用委員会が判断をされた以上、その土地に対する申請は却下されねばなりません。土地という物(ブツ)は、一個しかないのでありますから、一部の共有者との関係では、その土地を防衛施設局が使用することを認めるが、他の共有者との関係では、使用を認めないということは論理上あり得ないわけです。一個の土地の裁決申請を却下するのであれば、それは共有者全員に対する関係での却下を意味するものと考えねばなりません。
さて、もし仮に石原ショウイチさん以外の共有者に係る部分について、権利取得明渡裁決がなされるのであれば、石原ショウイチさんは何らの手続きも経ることなしに、その権利を実質的に殺されてしまうことになります。このことについて、少し説明します。
実体法上、土地の共有者の一人が他の共有者に対して、土地の明け渡しを求めることはできません。これは異論のないところであります。なぜなら、すべての共有者はその土地を使用する権利をそれぞれもっているわけですから、共有者の一部だけが他の共有者を排除して、その土地を排他的に使用することは認められないわけであります。たとえ1000分の999の持ち分をもっていたとしても、他の1000分の1の持ち分を有する共有者に対して明け渡しを求めることは、実体法上認められません。そして、土地の共有者の一部に対する関係でのみ、権利取得明渡裁決がなされれば、つまり契約を何もしていない共有者を一部残して明渡裁決がなされるのであれば、この法理論と全く矛盾することになります。権利取得、そして明渡裁決は、起業者に当該土地の占有を得さしめるもので、土地収用法101条、102条によって裁決申請書に記載のないものに対する関係でも、起業者に対する明け渡し義務を発生させることになります。裁決の名宛人以外に対しても法的効果が発生するというのは、裁決が土地という物(ブツ)に対するものだからです。したがって、共有者の一部について、その契約のない一部の共有者について、裁決の名宛人になっていないにもかかわらず、他の共有者に対する関係でのみ裁決がなされるならば、実体法上明け渡しを強いられるはずのない共有者が、一部持ち分についてのみ権利を取得した起業者に土地を明け渡さなければならないということになってしまうわけです。
こんなことが認められるのであれば、例えば1,000人の共有者がいる土地について、その共有者全員が契約を拒否していたとしても、そのうち一人の共有者だけを相手にして、土地所有者として扱って裁決申請をして、権利取得や明渡裁決を得るならば、他の999人 に対して何の手続きも経ないで土地の明け渡しを求めることができるということになってしまいます。こんなばかげたことが許されることがないというのは、説明をするまでもないことです。裁決申請の際に土地所有者として扱われなかった共有者は、何の手続き的補償も受けることなく明渡義務を負わされ、所有権の制限を受けることになってしまうわけです。所有権の内容が変動してしまうことになるわけです。これは憲法31条の適正手続き、29条の財産権の保障をも侵害するものと言わねばなりません。
収用委員会は、石原マサカズさんらのご遺族に係る部分については、石原ショウイチ及び関係人の利益を損ねると、そういうことを理由にして、防衛施設局の違法な裁決申請を却下しました。しかし、他の共有者に対する関係でも裁決申請を却下しなければ、結局、石原ショウイチさんの権利は実質的に殺されてしまうわけです。登記簿上殺されただけではなく、使用権限までも実質的に抹殺されてしまうわけです。ですから、東野理原の土地について、すべての共有者との関係で違法な裁決申請は却下されなければなりません。
また、つけ加えておきますと、防衛施設局に対する同情などというものは全く不要なのです。防衛施設局のこの共有者の取り違えというのは、収用委員会が指摘されておりますように、あまりにもずさんなものでありました。およそ信じがたい重大な過失でありました。重大な過失によって、誤った違法な裁決申請をしたのですから、防衛施設局は申請を一たん取り下げて、改めて申請をやり直すべきでした。間違ったことをしたら、取り下げてやり直すというのが、これは世の中の常識というものであります。そうすれば、ほかの土地と同様に扱われたわけです。平成8年11月ごろには施設局は誤りに気づいていたはずであります。このときにやり直していれば、他の土地と同時に裁決を得られた可能性もあったわけです。ところが、防衛施設局は傲慢にも、誤った違法な申請をやり直すこともせず、収用委員会に対して、権利取得・明渡裁決をしろと求めているわけです。国だから、安保に関わる問題だから、盾突くものは許されないと、こういう不遜極まりない態度を維持し続けているわけであります。こんな甘えが、不正義が許されていいわけはありません。虚偽の記載をした違法な裁決申請を一たん取り下げて、改めて真実の共有者を記載して裁決申請をし直すという、そういう当然すべきことを防衛施設局が怠り続けている以上、その不利益を被るべきは防衛施設局です。何の落ち度もない石原ショウイチさんが、この不利益を受けるべきいわれは何一つありません。
収用委員会が勇断をふるい、すべての共有者に対する関係において、東野理原350番の土地について、裁決申請を却下することを要望して、私の意見陳述を終わります。
当山会長:
大変ご苦労様でございました。
ちょうど切りのいいところですので、15分ほど休憩しまして、再開します。3時5分前から再開したいと思います。では、休憩に入ります。