沖縄県収用委員会 第11回審理記録
有銘政夫(土地所有者)
有銘政夫(土地所有者):
私は、嘉手納基地内に土地を有する有銘政夫です。
1997年2月21日の第1回公開審理の冒頭に、前兼城会長が述べられた「公正、中立な立場で実質審理を行います」という約束を評価し、過去10回にわたる公開審理で積極的に意見陳述を行ってまいりました。戦後50年余にわたる米軍基地にかかわる思いのすべてを、限られた時間の中で語り尽くすことは不可能なことは十分承知の上ですが、基本的な事項については、県収用委員の先生方の心に伝えられたと信じています。
第5回公開口頭審理において、伊江島の平安山良有さんは「戦争で生き残った私たち村民は慶良間に連行され、慶良間で約1年、慶良間では食べ物もなく大変苦労しました。慶良間から1年後に今帰仁でまた1年、私たちが島へ帰ったのは1947年の3月です。伊江島村は、米軍のブルドーザーで敷き詰められた土地を一坪一坪ツルハシで耕し、イモを植え、
ようやく生活ができるようになったときに、私たちの土地が米軍のブルドーザーと銃剣でもって取り上げられております」と証言されました。
この証言に象徴されるように、沖縄の米軍基地の成り立ちは、住民が難民キャンプに収容されている間に米軍によって勝手に囲い込まれたものであり、さらに一たん返還したはずの地域でようやく生活のめどがたち始めたころ、再び米軍の銃剣とブルドーザーによって強奪され、苦しい生活が強要されたものであり、その実態が各施設ごとに地主の具体的な証言によって明確になったと考えます。
しかしながら、こともあろうに日本政府と防衛施設局は、沖縄の軍用地主は、その大部分が契約に応じ、契約を拒否している者はごく一部の者たちだと言いくるめ、一坪反戦地主に対しては座布団地主とか、ハンカチ地主と罵り、あたかも契約地主はすべてが基地賛成者であり、未契約地主はごく一部のどうしようもない異端者だという世論づくりを画策したのでしょうが、それこそ沖縄の米軍基地の形成過程を無視し、日米安保条約を盾に在日米軍基地の実に75%を沖縄に一方的に押しつけている実態であり、その内実が今回の公開審理における実質審理を通して内外に明らかにされた意義は大きかったと考えます。
一方、今回の強制使用にかかわる政府の暴挙は断じて容認できません。大田知事の代理署名拒否に対しては、政府は直ちに高裁に提訴、高裁における審理も実に不当な内容で、県側の申請した23名の証人は一人も採用されず、使用手続きに瑕疵はないとして、知事側の敗訴の不当判決、1996年3月31日使用期限が切れた、不法占拠になった楚辺通信所(象のオリ)にある知花さんの土地については、「直ちに違法とは言えない」とうそぶき、また、1997年5月14日の強制使用期限切れと、収用委員会で実質審理が行われ、期限内の裁決が間に合わないことを見越し、4月17日に米軍特措法を改悪、衆院で90%、参院で80% の賛成多数という強権的な暴挙がまかり通ったのです。日米安保のためには、憲法を無視し、沖縄だけを犠牲にしてはばからない政治のあり方を許してよいものでしょうか。果たして日本は、独立国なのだろうか、民主主義の国だろうかという思いをしたのは私一人ではなかったはずです。
確かに改悪特措法は、地権者の一切の権利を無視し、収用委員会の権能をも形骸化しかねない悪法です。しかし、この法律があるからといって地権者の権利をすべて取り上げることは可能でしょうか。私有財産権を奪うことは不可能です。現在じわりじわり追いつめられ身動きがとれなくなっているのは政府のほうです。
私は、ここで収用委員の先生方に強調しておきたいと思います。過去3回にわたる米軍 特措法による強制使用、1982年、1987年、1992年、収用手続きにおいて、当時の西銘知事が地権者及び当該首長の反対を無視して、代理署名を強行したこと、同じく3回の公開審理において、当時の収用委員会が、実質審理を行わないばかりか、地権者の権利を無視し国の言い分に沿った安保優先、国益優先の立場に立って強行裁決を行った結果が、現在の矛盾を温存している結果になっていることを重要視しなければならないと考えています。
その点、今回の公開審理においては、貴収用委員会の積極的な態度により実質審理が保証された結果、戦後50年余に及ぶ米軍用地の実態や、その形成過程や反戦地主の思いが具体的な事例を通して収用委員の先生方に伝えられたと確信いたしております。
しかしながら、法のもとに保証されているはずの現地立ち合いによる実態調査が、米軍によって基地内立ち入りが拒否されたため、実現できなかったことは絶対に許し難いことであり、今後とも追求をしていく決意です。同時に、基地内立ち入り実現に努力をしなかった国と防衛施設局も同罪です。国や防衛施設局の言う安保優先、国益優先の一方的な主張に偏ることなく、また、安保優先の立場で強制使用の立論をしておきながら安保の本質、または海兵隊の本質、憲法の精神にかかわる求釈明についてはことごとくなじまないとはぐらかし、実に不まじめな起業者側の態度は許されるものではありません。
11回の公開審理における経過を見れば明らかなように、国や防衛施設局の強制使用手続きは地権者に対する一方的な弾圧であり、何ら合理的要件を満たすものではないと信じます。収用委員の皆さん、公正、公平な立場に立った判断により、問題になっている全土地に対し強制使用が却下されるよう強く要望して私の陳述を終わります。
当山会長:
ご苦労様でした。では次に新崎盛暉さん。