沖縄県収用委員会 第11回審理記録

新垣勉(地主側代理人・弁護士)


 新垣勉(地主側代理人・弁護士):

 阿波根昌鴻さんほか数名の反戦地主の代理人の弁護士の新垣です。私は、引き続いて、加藤公認会計士に続きまして、損失補償金の問題について、限られた時間の範囲内で意見を申し上げます。

 この問題については、非常に重要な問題を含んでおりますので、後日提出をいたします意見書の中で詳しく論証したいと思います。

 今、加藤さんから阿波根昌鴻さんの具体的な例を挙げて、いかにこれまでの収用委員会の過去に行われてきた損失補償金の算定というのが、結果として重大な差別を生んでいるのかということをお分かりいただけただろうと思います。

 今、加藤さんも申し上げましたけれども、これは実は収用委員会の責任の問題に属することであります。そして、何よりも収用委員会がもっている権限をどのように行使をし、どのように判断をしたのかという点に関する問題でありますので、ぜひ収用委員会においては、この損失補償金をめぐる問題の所在について徹底した解明を行っていただきたいと思います。

 加藤さんからいくつか原因を申し上げましたけれども、大きく整理をいたしますと、三つの原因があります。

 一つは、皆さんが損失補償金を算定しようとしている対象土地が、一般の土地ではなくて軍用地という特殊な土地についての損失補償金の算定というところから発生する問題であります。ご承知のように、不動産鑑定という手法が我が国で発達をしておりますけれども、この不動産鑑定の手法というのは、市場原理の中で価格形成をされてきた土地の評価をどうするかということについての鑑定手法であります。沖縄のような特殊な軍用地について、一般の不動産鑑定手法を機械的にそのまま使ったときに、どのような結果が生まれるのかを示したのが、実は過去の収用委員会における損失補償金だったと理解をしております。したがって、一つの問題は、本件で問題になっている軍用地特性を、損失補償金の算定にあたって、従来の鑑定手法を踏まえながら、どのように考慮をし、取り組んでいくのかという点、この点が第1番目の問題であります。

 そして、2番目の問題は、契約地主と契約を拒否した地主との間で、同じ土地使用の対 価でありながら、両者の間に差違が生じていいのかという差別の問題であります。これはどのような思想信条を持っていようが、所有権という憲法で保障された財産権を強制的に取り上げるわけですから、契約地主と反戦地主との間に差別があってならないことは言うまでもないことだと思います。この第2番の理由、これも収用委員会が、契約地主との差違を念頭に置いて絶対に差別 を生まない、そういう問題意識で、損失補償金をいかに追求をしたかという問題であります。

 3点目が、収用期間の長さから来る不公平性の問題であります。私も第1回からずっと公開審理に携わってきましたけれども、最初の公開審理で、起業者側が申請したのが何と20年。収用委員会は、あれこれの理屈をつけて10年間の損失補償金の認定をしました。第2 回目の損失補償金の裁定裁決においては、地主側の言い分を一部認めて使用期間を5年に短縮をいたしました。しかし、それでも先ほど具体的に指摘をされた契約差別、反戦地主差別の問題は、解消されておりません。したがって、三つ目の問題は、使用期間に連動をする損失補償金の不公平性の問題を収用委員会がどのように判断をされるのかというのが、三つ目の問題の所在であります。この三つ目の問題の所在を十分に念頭に置いた上で、どのような点に着目をして収用委員会の皆さんにご議論をいただくのか、この点について、意見を申し上げておきたいと思います。

 まず、軍用地という問題をどのように見るのかという問題であります。軍用地については、大きく言いますと三つの特性を持っております。

 一つは、軍事目的というところからくる対象用地の広大さという点であります。沖縄の基地を見れば、この点は詳しく説明する必要がないと思います。あれだけ広大な土地を囲い込んで使っているというのが、我が国のどこにありますでしょう。2番目の問題は、その使用期間の長期性であります。戦後50年間、長期にわたって、強 制使用が継続されているという問題。3番目が、長期にかつ広大に囲い込まれた基地が、日米地位協定という特権によって、その管理、警護が独占的に米軍に与えられていて、我が国の法が実効性をもって基地の中に及ばないという点であります。

 軍用地が持っている、この三つの軍用地特性というのは、際立ったものであります。この際立った特性から、先ほど冒頭に指摘をしました一般の不動産鑑定手法を取り入れないという問題が生まれるわけであります。よく、私たちが身近で経験しますように、土地というのは投資の対象であり、取り引きの対象になります。それゆえに、対象土地の現状のままで、土地を評価することによって、その土地を適正に評価することができるという鑑定手法が生まれました。

 しかし、軍用地においては全くこの手法が通用しません。例えば、阿波根昌鴻さんの伊江島の例を取りますと、伊江島のあの飛行場跡の中には部落がありました。あの強制収用がなければ、銃剣とブルドーザーによる、あの血も涙もないような取り上げがなければ、あそこは部落として、土地の地価が形成をされ、おそらく50年もたった今日では、伊江島の最もにぎやかな中心街になっていたと思います。

 ところが、基地があるがゆえに、そのような社会学的な土地の評価の形成というのが、阻害をされてまいりました。それが現在のあの基地の土地の現況なのであります。ですから、今、土地収用委員会の皆さんが、基地に立ち入りをして、土地の現況を見、その現況に即して、土地の評価をしようとするとき、それは現時点での評価ではありますけれども、適正な評価の対象とは言えない。もし、適正に評価をしようというのであれば、土地の取り上げがなかったとしたならば、

この土地は、今どのような価格の土地として、形成をされていたのか、その点の視点を取り込まない限り、現況のままの価格に据え置かれるだろうと思います。そういう意味では、不動産鑑定手法という手法に依拠しながらも、この軍用地特性を損失補償金の中にぜひ取り込む知恵と論理を組み立てていただきたい。私たちは、その主張を意見書の中で展開をしております。ぜひ真剣な討議をお願いしたい点であります。

 2番目に軍用地料。収用委員会の皆さんは、どのように現行の軍用地料が算定をされ、 その数字が生まれてくるのかご承知でしょうか。私が知るところでは、今日まで国民の目の前に、軍用地料はこのようにして決めるんだと、そういう説明を聞いたことがありません。これは軍用地料が含む様々な矛盾を覆い隠すために行われている国の秘密性に、その根拠があると思います。ただ、幸いなことに過去一度だけ裁判の場の中で、国から具体的な軍用地料算定の方式が主張され、明らかになったことがあります。それは屋良革新県政のもとで、土地収用委員会が、地主側が国の算定している賃料、損失補償金というのは安いということで、損失補償金の増額の裁決申請をして、革新県政の土地収用委員会のもとで、地主の意見を大幅に取り入れた裁決が行われたことがありました。1976年のことであります。ところが、国は土地収用委員会が判断をした損失補償金というのは、高過ぎるということで、地主を相手に損失補償裁決金の減額請求という、一連の裁判を次々に提起をいたしました。その裁判の中で初めて、現行の軍用地料がどのように判断をされ、数字がつくり上げられていくのかという構造を私たちは、かいま見ることができました。時間が押し迫りましたので、そのときに表明をされたいくつかの基本方針があります。

 一つ例を紹介をいたしますと、米軍の強制使用時の土地の現況は、地目により判断をし、この地目判断を評価時の最有効利用の用途で修正をして、軍用地料を算定をする。そして賃料の評価は、原則として施設別に行い、同一の施設の中に複数の市町村にまたがるときには、さらに市町村別に行う。そして賃料の評価は、1筆ごとに評価をせずに、地目地形等が類似しているいくつかの地域に分類をして、それに基づいて軍用地料を算定をする等々の六つの基本方針を定めて、それに基づいて軍用地料を算定していると主張しておりました。

 当時は、まだ土地の位置境界が、明確化されていない時点でしたから、現在では、位置境界が明確になっている土地がかなりありますので、従来のこの基本方針が、現時点でどのように修正をされ、どの点が維持をされているのか、知りたいところですけれども、国の秘密主義の目の前で、この点の解明が行われておりません。したがって、私たちは収用委員会の皆さんに、起業者に対して、軍用地料が算定をされる根拠と、その算定方式をきちっと起業者側に釈明をして、そして地主側にも、その根拠と算定方式を明らかにした上で、私どもの意見を聞いていただきたいと思います。

 そうでなければ、正しい損失補償金の算定は、行えないと思います。私どもは、いくつかの算定についての基本的な考え方をもっておりますけれども、時間が、私の持っている手持ち時間が切れましたので、その後の具体的な問題点については、意見書の中で、意見を開陳をしますので、ぜひ損失補償金の問題についても、十分に論点がかみ合うようなご審議をお願いして、私のほうの意見を終わります。

 当山会長:

 ご苦労さまでした。続きまして、松永和宏さん。


  出典:第11回公開審理(テープ起こしとテキスト化は仲田、協力:違憲共闘会議)


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