沖縄県収用委員会 第10回審理記録

松島暁(土地所有者代理人)


 土地所有者代理人(松島暁):

 代理人の松島です。普天間基地に関して意見を申し述べます。

 普天間航空基地隊が管理し、第1海兵航空団が使用しています普天間飛行場、普天 間基地というふうにこれから呼びますが、1945年(昭和20年)米軍の占領とともに接収されました。1960年5月、空軍から海兵隊に移管され、海兵隊航空基地としての使 用が始まっております。1969年、11月から、第36海兵航空軍のホームベースとなっており、1992年には、ハワイから第262海兵中型ヘリコプター中隊が配備されておりま す。

 ところで、沖縄における基地問題を考える上で、海兵隊問題は避けて通ることのできない問題であるというふうに考えます。海兵隊問題を解決してはじめて沖縄の基地問題の解決が可能となると言っても、過言ではありません。それは、以下の事情によります。

 第1に、沖縄に駐留する第3海兵遠征軍、これは海外に駐留する唯一の海兵隊だということであります。アメリカの海兵隊というのは、後に詳しく述べますが、国を守ることを任務としていない、世界で唯一の軍事組織です。この海兵隊は太平洋海兵艦隊所属で、カリフォルニア州キャンプ・ヘンドルトンの第1海兵遠征軍、それから大西 洋海兵艦隊所属で、ノースカロライナ州キャンプ・ルジェンヌにある第2海兵遠征軍、そして沖縄の第3海兵遠征軍です。

 海外を拠点にそこに常駐する海兵隊は第3海兵師団しかありません。ヨーロッパ、 ラテンアメリカ、中東、どこを探しても沖縄以外にはないのであります。極めて異例のことであります。住民投票によって示された住民意思を無視してまでも、海兵隊基地を誘致しようというのですから、全世界的に見ても異常な主張というふうにしか言いようがありません。

 2番目の事情であります。沖縄における海兵隊の占める位置の大きさ、これは米軍 の施設の75%、兵員にして60%が海兵隊員であります。空軍の嘉手納飛行場、陸軍のトリイ通信所、海軍のホワイトビーチほか、いくつか小さな施設を除いて、すべてが海兵隊であります。在沖米軍42施設、2万4,000ヘクタールの75%、兵員にして2万9,000人の60%、1万6,000人の人員が海兵隊によって占められております。このことは、海兵隊が沖縄から撤退することによって、兵員の規模が4割に縮小し、施設において7割が返還となることを意味しております。

 第3に、海兵隊による被害の深刻さであります。普天間基地の被害については既に 述べられておりますが、ここでは一昨年9月の少女暴行事件を引き起こしたのが海兵 隊員であったことを指摘しておきます。このような観点から、若干、海兵隊について、以下、意見を述べさせていただきます。

 沖縄に配置されているのは第3海兵遠征軍ですが、その配下に第3海兵師団、第1海 兵航空団、第3役務支援群、第3海兵遠征軍司令部等があります。第3海兵師団という のは、歩兵である第4海兵連隊、砲兵である第12連隊、その他の直轄部隊によって構 成されます。

 湾岸戦争に際して、沖縄から第4海兵連隊、第9海兵連隊、第12海兵連隊等、8,000 人の海兵隊員が出動していますが、このうち第12海兵連隊第1大隊がイラク軍に対す る砲撃を実際に行っています。このことは、スターザンスドストライプスによって報じられているところであります。

 また、第1海兵航空団は、第12海兵航空軍、第36海兵航空軍、その他によって構成 されています。このうち第36海兵航空軍は、司令部を、後に意見陳述の予定されておりますキャンプ瑞慶覧に置いております。部隊の大部分はこの普天間に配備されているのであります。

 第36海兵航空軍には、重ヘリコプター部隊、これが1個中隊、それから中型のヘリ コプター部隊1個中隊、軽攻撃ヘリコプター部隊1個中隊が配備されています。

 重ヘリコプター中隊は、16トンの積載能力を持つ世界最大級の大ヘリコプター、CH-3Eを主力機とする航空隊であり、中型ヘリコプター中隊は強襲目的の海兵隊員や装 備を輸送するシーナイトCH-46を主力機としております。軽攻撃ヘリコプター中隊は、対地上攻撃を目的とするシーコブラAH-1、ヒュウイUH-1で構成されています。

 普天間には、このほかに第11海兵遠征部隊に所属する262海兵中隊ヘリコプター中隊が配備されています。

 ここで、若干、海兵隊の歴史について述べます。海兵隊は1775年の創立以来、独立戦争、それから2度の世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして湾岸戦争を通じ、 アメリカの国家意思を示威する役割を果たしてまいりました。陸軍60万、海軍5O万、空軍45万に対して、海兵隊員は17万人であります。総体的に規模の小さな軍事組織であり、またその存在については創立以来、たえず疑問視されていたにもかかわらず、陸・海・空統合の機能を有する強襲遠征部隊して今日まで生きながらえてきております。

 1853年、ペリー提督率いる東インド艦隊が浦賀に上陸する前、沖縄を薪炭補給基地として獲得するのですが、これには200名の海兵隊員を伴ってきています。この海兵 隊員の軍事組織を背景として、沖縄を薪炭補給基地として獲得したのであります。

 また、1945年2月、サイパン島と東京のちょうど中間に位置した硫黄島の戦闘にお いて、日本軍最大の陣地、すりばち山に星条旗を立てたのは5名の海兵隊員でありま した。その姿は、従軍カメラマン、ジョー・ローゼンタールによって全米に報道され、全米は興奮にわき立ちました。5名の海兵隊員はたちまち英雄となったのであります。ローゼンタールはこの写真によって、後にピューリっツアー賞を受賞しております。ちなみに、1年ほど前までのインターネット上の海兵隊のホームページの画面には、 このローゼンタールの受賞写真を背景に、海兵隊の制服に身を包み、銃剣を持って整列していた海兵隊員の姿が写し出されておりました。あまりにも好戦的で時代錯誤的だとされたのか、最近はどうも使われておりません。

 1950年9月15日、朝鮮戦争の流れを変えたと言われるインチョン(仁川)上陸作戦 には、第1海兵師団26万人が投入され、上陸後24時間で仁川を制圧しております。

 1990年夏の湾岸戦争に際して、海兵隊員が参加したことは周知の事実であります。出撃命令が出された4日後の8月14日には、第7海兵遠征師団1万6,800人がサウジアラ ビアの地を踏んでおります。この作戦、砂漠の盾作戦、砂漠の嵐作戦には、海兵隊の5%の作戦部隊が参加しております。これ以外にも1993年10月のグレナダ侵攻、1989年5月のノリエガ排斥を意図したパナマの派遣など大統領指令に基づく海外出動が行 われております。

 海兵隊の特質は、国防軍の枠をはみ出した世界で唯一の外征部隊、外征軍だという点であります。アメリカ本土の防衛を任務とせず、海外の武力戦闘を前提に組繊づくりがなされているのです。海兵隊の出撃は議会の承認を必要とせず、大統領の命令だけで可能なアメリカの外交政策を推進する最も攻撃的な軍事力ということが言えると思われます。

 海兵隊の攻撃的、暴力的、残虐な性格は、その隊員教育によっても示されております。その実態については、先ほど紹介されたアレン・ネルソンという方が、最近出た岩波のブックレツトの「沖縄に基地はいらない」という中で、次のように語っているので、若干紹介いたします。

 海兵隊に入ると、私たちは海兵隊の輝ける歴史を学ぶのです。訓練に際しても、私たちは、陸軍や海軍とは全く違う戦闘的、攻撃的な男の集まりであるということを叩き込まれます。キャンプに着いたら、まず頭を剃り、今まで着ていた服をひとまとめにして、家に送り返し、日常生活との断絶を図る。兵舎の夜、電気が消えている中で、寝ている新人兵、そこへ教官たちが乗り込んできて、ベッドの列の間を歩きながら怒鳴ります。「お前らは、誰だ」、「海兵隊員です」、「声が小さい。お前らは何者だ」、「海兵隊員です」、「お前らの任務は」、「殺すことです」、「スペルを言ってみろ」、「K・I・L・L」、「海兵隊員」、「ウォー」。もう寝るどころの話ではない。これも重要な訓練だからもし教官が気にいらなければ、全員ベッドから出され、50回の腕立て伏せ、そして最初からやり直し。

 また別のところでは、このようにネルソン氏は述べています。人を殺す32種類の方法を教わりました。ピアノ線を使って首を絞め殺すやり方。後ろから忍び寄って、相手が声をあげる前にのどを切るやり方。武器を所持していないとき、棒で相手ののどを突き刺して殺すやり方。相手の目玉に指を突っ込んで殺すやり方などです。このような訓練を受けた。あるいは日々受けている海兵隊員が、この沖縄に駐留しているということを忘れてはならないというふうに思います。

 次に、海兵隊の駐留は許されないという点について述べます。

 米軍が沖縄に駐留する根拠は、日米安全保障条約であり地位協定にあります。安保条約それ自体が憲法に反し、そもそもその存在が許されないことは言うまでもありません。この点については、次回の公開審理において、総論的な意見が述べられる予定でありますので、ここでは、海兵隊の駐留が安保条約にすら反した違憲、違法な存在である点にっいての指摘を行います。

 第一に、安保条約第6条は、「アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本 国において、施設及び区域を使用することを許される」を定めております。

 すなわち、安保条約上、陸・海・空の3軍に対してのみ施設区域の使用を許してい るのであります。この点に関し、第2回公開審理において、「沖縄における基地の大 半を占める海兵隊というのは、一体この安保や地位協定で言う陸軍・空軍・海軍いずれに属するのか、属しないのではないか、ここを明確にしていただきたい」との求釈明に対し、那覇防衛施設庁の坂本さんは、次のように言っております。「海兵隊は、陸・海・空、いずれの軍隊かとの事項について回答いたします。海兵隊は、陸・海・空軍に並ぶ軍隊の一部だと承知しております」と。このように回答しております。

 明確に陸・海・空軍と並ぶ4軍制であることを国が認めているのであります。アメ リカにおいて、4軍制がとられたのは、1952年であります。安保条約、この4軍制採用以降の条約である以上、この条約上の趣旨は、海兵隊を除外するというものにほかなりません。安保条約は、海兵隊のための施設区域提供を認めてはいないのであります。

 第2点目は、海兵隊の性格に関わる問題であります。海兵隊は、国防軍でないこと はすでに述べております。

 もともと安保条約は、我が国の安全保障を大義名分に締結された条約であり、日本防衛をその目的としているというふうに言えるだろうと思います。ところが、海兵隊は、攻撃をその本来的性格としております。防衛を主たる任務とはしていないのであります。

 1982年4月のアメリカ上院歳出委員会におけるワインバーガー国防長官は、沖縄の 海兵隊は日本の防衛に充てられていない、アメリカ第7艦隊の即戦海兵隊をなし、第7艦隊の通常作戦区域である西太平洋、インド洋のいかなる場所にも配備されるものであると、このように日本防衛の目的を明確に否定しております。

 この点で、海兵隊は、日本防衛とは全く無縁な軍隊であり、だからこそ安保条約の文言から除外されたものと考えるべきだというふうに考えます。さらに現実の海兵隊の活動であります。これは安保条約の6条の定める極東の範囲を大きく逸脱し、かつ ては、ベトナム、近時では湾岸戦争に出動しております。この点でも安保条約達反の軍隊というふうに言えるだろうと思います。このような違憲、違法な海兵隊のための土地強制使用には、何らの正当性も存在しないことを指摘したいというふうに思います。

 最後に、沖縄駐留の海兵隊は、撤退すべきだとの見解が、アメリカの中、海兵隊の中からも生まれていることを指摘しておかなければなりません。カーンズ海兵隊大尉は、「マリンコアガゼット」の中で、「海兵隊を沖縄に引きとどめるのは、太平洋戦勝利のセンチメンタリズムでしかなく、冷戦が終わった今、戦略的価値は低下した。沖縄に兵力を分散するよりも、本国の部隊を補強すべきである」という主張をしております。

 また、チャールズ・クルーラック海兵隊総司令官は、指令部人事部長だった92年に同じマリンコアガゼットの中で、在沖海兵隊の縮小を主張しております。

 また、96年にもビフアイスニューズ紙が、在沖海兵隊機能の移転を検討している、クルーラック司令官が移転を検討しているということを報道しております。

 これらのことは、アメリカ側の事情としても、海兵隊基地を必要としておらず、国の裁決申請には、理由のないことを間接的に示すものだというふうに考えます。収用委員会に対して、改めて却下の裁決を求めるものであります。以上です。

当山会長:

 はい、大変ご苦労様でした。ちょうど切りのいいところですので、ここで休憩を入れたいと思います。3時5分より再開したいと思います。


  出典:第10回公開審理の議事録から(テキスト化は仲田


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