news-button.gif (992 バイト) 27  武器の禁輸を! ――生きとし生けるものが共に生きる武器のない世紀へ――  (『市民の意見30の会・東京ニュース』 No.64 2001.2..1..) 

 以下は、「ご案内」欄 No.26 でお知らせした2000年12月15日の「市民の意見30の会・東京」主催講演会での発言の要旨(一部省略)です。

武器の禁輸を! ――生きとし生けるものが共に生きる武器のない世紀へ――

(市民の意見30の会・東京主催の集会での講演)

吉 川 勇 一

 

新しい世紀を目前に開催した本日の集会のタイトル「生きとし生けるものが共に生きる武器のない世紀へ」について、私たちの思いをまずお話ししたいと思います。

お配りした資料の中に『日本を変えよう、市民の意見30』と書かれた紙があります。これは「市民の意見30の会」が1989年1月16日の朝日新聞に掲載した意見広告です。日本を何とかして変えるために市民としてどのようなことを考えたら良いか、何を変えたらよいかをまとめてみようじゃないか、ということでみんなで提案を出し合い、30にまとめたものです。しかし10年以上前に出したこの『市民の意見30』の提案を現状に合うように作り変えなければいけないな、と私たちは考えています。「市民の意見30関西」ではすでにその検討を始めていますし、私たちの今日の集会もその一環と考えています。

この意見広告を発表した時は湾岸戦争前でした。しかしその後の湾岸戦争を経て、日本社会党は解体し、日本社会党から出た首相が自衛隊を容認し、そしてPKOの名の下に自衛隊が海外に派遣され、あたかも血を流すことが国際貢献であるかのような論調があっという間に広がりました。この『市民の意見30』には国際貢献という言葉は入っていません。私たちの立場からする国際貢献とはどうあるべきか、ということも新しい『市民の意見30』には是非入れたいと思っています。新しい世紀――正直に言って私は21世紀まで生きられると思っていなかったのですが、あと2週間あまりですからどうやら死なずに滑り込めそうですが(会場笑い)――この新しい世紀を迎えるにあたって、どうしたらいいのかと考える中でこのタイトルが決まったというわけです。

反戦・良心の自由・弱者援助の三つの柱

新しい『市民の意見30』を考えてゆく上で、私は大きく三つのテーマを提起したいと思います。一つは何と言っても私たちの運動の中心である反戦平和というテーマです。第二は良心の自由です。自分の信念、良心というものは、誰が何と言おうと譲り渡せない。上司の命令であれ、国家の命令であれ、法律の定めるところであれ、自らの良心に従って恥じるものはしない、ということだと思います。三番目は生命の尊重といいますか、生きる権利の話です。具体的に言えば、例えば小田実さんたちが数年前から始めている大規模災害の被災者に公的援助を行なう法的制度確立の問題、それから健康保険に対する老人負担の増額、あるいはさっき辛さんが日本人以外には救いようのないとおっしゃった介護保険法の問題、その他日本の社会がいかに弱者を生かさないようにしているか、というようなことを『市民の意見30』の中でまず取り上げていきたいと私は思っています。

良心的兵役拒否国家、日本と日米平和友好条約

最初は反戦平和の問題です。21世紀に入る来年、憲法が大きな問題になるであろうことは誰にも予想されるところです。来年の五月三日の憲法記念日にさまざまな反戦平和勢力が集まった大きな規模の憲法集会が予定されています。重要なことは、9条を守れとお題目のように唱えることではなく、憲法前文と九条に書かれている理念をどのように実現し、実質化していくかということだと思います。

平和憲法の実質化に関する具体案に、小田実さんが以前から提唱されている「日本を良心的兵役拒否国家に」という提言があります。アメリカをはじめ、ドイツ、イギリス、フランス、その他多くの国ぐにに良心的兵役拒否の制度があります。これは宗教上もしくは政治的信念等の理由によって兵役を拒否する人に対しては、それに代わる作業を課すことによって憲法上の兵役義務を免除するという制度で、長い闘いによって獲得されたものです。代わりの作業というのはかなりの苦役で、兵役よりも長い期間従事する必要がありますし、適用されるには極めて厳しい条件があるのですが、しかしコソボ爆撃の時のドイツでは3割近くの青年がこれを申請したそうです。この良心的兵役拒否の考え方を敷衍して、小田さんは国際社会の中で日本が国家としてそういう役割を果たすべきだと提案しています。具体的にはぜひ小田さんの論文(たとえば本誌『市民の意見30の会・東京ニュース』前号参照)を読んで頂きたいのですが、私はこの重要な提案をもっと多くの方が正面から受け止めて広く議論をすべきではないか、それが憲法を実質化していくことにつながるだろう、と考えています。

反戦平和についての第二の柱は、日米間に安保条約に代わって平和友好条約を結べという提案です。これは数年前から「市民の意見30の会」が提唱している運動で、私たちは1997年12月7日の『ニューヨーク・タイムズ』紙に「軍事条約ではなく平和友好条約を」という意見広告を載せました。勿論そう簡単に実現できるものではありませんが、憲法を実質化し安保条約をなくす具体的提案の一つとしてこの運動を更に推進していきたいと思っています。

器の国際取引禁止の提唱を

本日、重点をおきたい反戦平和の第三の柱は武器禁輸の提唱です。チャルマーズ・ジョンソンという米国の日本アジア研究者は、自著『アメリカ帝国の報復』(集英社)で武器の輸出問題について具体的な数字をあげ、世界の憲兵を自認するアメリカがいかに偽善的であるか、そして「人道的介入」なるものが如何に非人道的であるかを明らかにしています。インドネシア国軍などによる東チモール住民の虐殺は記憶に新しいところですが、アメリカは30年にわたってインドネシア・スハルト政権に対し武器援助だけでなく軍隊、警察の訓練、経済援助等を一貫して続けてきたではないですか。あるいはあの湾岸戦争で現代のヒットラーとまで非難されたイラクのフセインに対して十数年にわたって武器を援助し続けたのはアメリカではないですか。イギリスのブレア政権は政権についてからの一年間だけでインドネシアに92件もの武器援助の認可を与えています(本誌『市民の意見30の会・東京ニュース』 56号参照)。インド、パキスタンが一触即発の非常に危険な対峙関係にあることはご存知の通りですが、そのインド、パキスタンの両国に武器援助をしているのがイギリスとアメリカではないですか。こういうことをしながら、何が世界の憲兵ですか、何が人道的介入ですか、もう偽善はここに極まると思います。このような事実は、アメリカが絶対に弁明できない一番弱いところであるとチャルマーズ・ジョンソンは指摘しています。

日本のできる国際貢献の一つ

日本は今、一応武器を輸出しないことになっています。今年の夏、朝日新聞が一面トップで報じた通り、日米間には核密約が存在し非核3原則が全くの幻であったということは明らかにされています。表向き政府の言うことが信用で着ないのは、この一時で明らかです。ベトナム戦争の時のナパーム弾の大部分が日本で生産されていたという事実を持ち出すまでもなく、直接的か間接的かはあるにせよ、日本が武器を輸出していないとは言えないことも事実です。でも表向きは、一応日本は武器を輸出しないことになっている。その日本が、自分ちは武器輸出をしなくても暮らしていけている、アメリカは対立している両方の国に武器を売るなんて破廉恥なことをなぜ止めなのかだ、国連はそれを禁止せよ、ということを声を大にして国際社会に提案することは、日本政府が出来る大きな国際貢献の一つではないでしょうか。私たちはアメリカやイギリスやドイツ、ロシアに向かって、武器の輸出を直ちに中止せよと、これは非人道的な死の商行為だ、と強く訴えるべきではないでしょうか。敷設された地雷を掘り起こすという市民運動が国際的に大きく評価され、ノーベル賞も貰いました。しかし市民運動に埋めた地雷を掘り起こさせておいて、片一方でもっとひどい武器輸出を放置するなんて、こんな国際的な矛盾と偽善はないですよね。それを止めさせる方が根本的ではないですか。これを重要な日本の国際貢献の一つとして、日本政府にも要求すべきですし、同時に国際社会にもダイレクトに要求すべきだと思います。みなさんの賛同と協力が得られれば、二一世紀の私たちの運動の中心的な一つとしてさまざまなグループと共同してこれを展開していきたいものです。事務局内には慎重論もありますが、武器輸出に反対する意見広告運動を来年やったらどうかと、と私は個人的に思っています。

日の丸・君が代矯正への不服従

第二のテーマの良心の自由について、具体的に私たちが今関係しているのは、「日の丸・君が代」の強制に反対する運動です。「日の丸・君が代」の強制に反対の意思を個人として表明する、という言ってみれば一種の個人宣言運動です。この「君が代・日の丸」の強制に反対する意思表示の方法は、その人それぞれがおかれた立場によっていろんなやり方があると思います。例えば本日の会場入口でも売っているリボンやバッジを着けたり、全員が立っても自分は一人座っている、などいろんな形の意思表示方法があると思います。この運動のためのマニュアルも今用意されています。是非それをご参照ください。

銀行・企業ではなく弱者への公的支援を

第三のテーマは弱者への援護の問題です。日本では金融の安定化という口実で銀行などに公的資金が投入されました。最近の例を一つだけ挙げますと、日本長期信用銀行一行だけに与えられた資金投入額が今年の2月で6兆9500億円という金額です。そしてその時のベストシナリオ、すなわち不良債権が最大限回収されたとしてもなお3兆4600億円は戻らない、という計算なんです。阪神淡路大震災で被害を受けたのが10万戸以上と言われますが、1軒に1000万円づつ配ったとしても1兆円にしかならないんです。阪神淡路大震災の後、小田さんたちの市民立法の運動に押されて非常に不十分な内容ながら被災者生活再建支援法が国会で成立しました。この法律は、全壊および取り壊しを余儀なくされた半壊の家屋に限り、しかも年収500万以下の人だけにしか適用されないんですが、貰える額が一世帯100万円なんです。結局、阪神淡路大震災で適用されたのはたったの476所帯ですよ。これが国家が決めた支援法なんですね。こんなことで、人々の生活が安定できるわけないです。今年度に金融安定化のために政府が用意した公的資金額は70兆円です。もしこれだけの金があったらどれだけのことが出来るのか。政府は日本は資本主義国であり私有財産制度の国であるから、個人の財産は保障しないと言いながら、大銀行や大企業のためには70兆円という膨大な税金を投入を用意するんです。この不正を私たちは許しておくわけにはいかないと思います。(このあと、吉川さんは、ご自分のお連れあいが昨年、障害者になられてからの具体的経験を挙げながら、自治体などの対応や介護保険の不十分な実態などを紹介したが、省略)

最後にバッジの話だけします。辛さんも鎌田さんもつけておられましたし、私も今つけている市民の意見30の会の『殺すな』バッジです。辛さんも鎌田さんもこの会のメンバーでいらっしゃいます。『殺すな』はベトナム戦争以来のスローガンですが、新世紀でもこの非暴力、非武装の精神をずっと貫いていきたいと考えています。ありがとうございました。

『市民の意見30の会・東京ニュース』 No.64 2001年2月1日号