22 決めるのは私たちだ――保谷市の住民投票と衆議院選挙 (『市民の意見30の会・東京ニュース』 No.59 2000.4.1..)
吉 川 勇 一
一月末、徳島市で、吉野川の「可動堰」設置の可否をめぐる住民投票が実施され、投票率は五五パーセント、反対票が九割を超えた。その直前、中山建設大臣が「住民投票は民主主義の誤作動」という、今では有名になった発言を記者会見で行なったこともあって、市民の直接請求による住民投票という方式にも注目が集まるようにもなった。
しかし、つい最近、徳島市議会は、この結果をまったく無視し、「可動堰」の設置に反対する決議案を多数決で葬り去った。「投票率が五〇パーセント未満で不成立の際には開票しない」という、それこそ国政選挙や自治体首長選挙にでもまず適用すべき厳しい条件を、この住民投票に課すことを画策、提案したのは、公明党であったが、その公明党は、今回の決議の際には、そういう厳しい条件をクリアして表明された市民の意志を無視して、決議反対の票を投じた。(この事実確認の必要あり、吉川) 国政と自治体政治の誤作動のほうは、依然として続いているのだ。
以前、少しふれたことがあるが、私が居住している東京都保谷市では、今、隣接する田無市との合併の動きが急速に進んでいる。民意を問うことなく、どんどんと既成事実化してゆくこの動きをとめるために、両市の市民有志は昨年秋から、合併の是非を住民投票で決めさせる条例の制定を求める直接請求の運動を始めた。(私も、この運動の呼びかけ人代表の一人だったのだが、今年に入って、家族に重病人が出て、ほとんど動けなくなってしまったのだが。)
この直接請求の署名活動(一ヶ月間)は、保谷市では二月末に終了、受任者数(地方自治法に基く署名を集める人)は六七二人、選挙管理委員会に提出された署名簿は二一二八冊、署名総数は九一七九人と、ほぼ初期の目標に近い成果を得て終了、現在、署名簿の縦覧期間に入っている。予定では、四月はじめに市長にこの署名をを添えて「合併についての可否を住民投票に付するための条例」制定を請求し、市長は、この請求を受けて、二〇日以内に臨時議会を招集する義務を負うことになる。今の見通しでは、議会がこれを可決する見通しは、他の地方でのこれまでの直接請求運動と同じように、非常に暗い。今後は、議会内の各派への働きかけが必要となる。
だが、この署名運動は、大きな影響を発揮しつつある。両市の議員でつくられている「合併協議会」は、この直接請求運動がはじまった後、両市の一八歳以上の市民を対象として合併についての「アンケート」を実施することを決めた。協議会は、この「アンケート」が住民投票と違って単に賛否を問うだけでなく、反対の場合は意見をも記入させるなど、市民の意思をもっとはっきりとつかめるすぐれた企画だ、などと自賛しているが、しかしそれは@合併反対が多数でも、合併はすすめる、A新市名の選択や、新市に期待する施策を問うなど、合併賛成が前提になっているもので、法的な規制力もまったくない。それにしても、こういう企画を考え、しかも資格を一八歳以上と、一般の選挙権の限度よりも引き下げることも含めるなどと、これまで、全国でも前例がなかったことを言い出したのは、直接請求運動を意識し、それをつぶすとともに、合併推進派も民意を尊重しているのだ、というポーズを示すための苦肉の案であることは明らかだ。
徐々に広がりつつある直接の民意表現の運動は、議員たちも次第に無視しえなくなっていることは事実である。政治への不信感は強く、選挙での投票率も非常に低い。だが、民衆の意思を表現する手段であれば、あらゆるものを積極的に利用し、たえずそれを明らかにして、為政者に突きつけてゆくこと、「決めるのは私たち、市民なのだ」ということを、為政者にわからせてゆくには、それは重要な手段なのだと、私は痛感している。