NHK,BS−11チャネル『週刊ブックレビュー』で『いい人は……』をとりあげる(1999.4.21.掲載)
NHKの衛星第2放送の4月16日の「週刊ブックレビュー」で、『いい人はガンになる』がとりあげられました。この日、出演したのは、井出孫六(作家)、小田島雄志(英文学者)、大石芳野(フォト・ジャーナリスト)の三氏、司会が如月小春さんでした。(右はテレビの画面)
この本をとりあげ、推薦したのは、井出孫六さん。小田島さんは、松尾孝司著『絵筆とリラと――織田廣喜聞書』(西日本新聞社)を、大石さんは、日野啓三著『自選エッセイ集――魂の光景』(光文社)を推薦した。
放送の中で語られた私の本への批評の部分の概略は以下の通り。
ナレーション: 吉川勇一著『いい人はガンになる』。著者の吉川勇一さんは昭和6年生まれの68歳。ベトナム戦争に対してさまざまな反対運動を繰り広げた、いわゆる「べ平連」の事務局長役を およそ8年にわたってつとめた市民運動家です。ガンの告知を受けたその吉川さんが、その闘病生活をつづったご覧の一冊は、「闘病を通して見えてくるガンとの爽快な付き合い」と、帯の言葉にあるように、およそ悲壮感のないユーモア溢れるものです。著者は、「同病の人や、これからそういう境遇を迎えねばならない人にたいして、こんな暮らし方をしている人間もなかにはいることを知っていただきたい」と、記しています。
如月:もう、私どもでも、周囲に、ガンの人がみんないるという、ホントに日本人の多くが身近に感じている恐ろしい病気なんですが、それを、こーんな面白いタイトルをつけてしまうという、本当にびっくりしました。
井出:著者はほぼ私と同世代で、昔からぞんじあげているんですがね、最初に彼は、一冊にまとめるなんて、とても考えなかったと思うんですね。まず『話の特集』っていう雑誌に「ハゲもガンになるの記」っていうのを書いたんですね。
如月:これもすごいタイトルですね(笑い)。
井出:これが巻頭にあるんですが、それがまあ、わりと周囲に話題を呼んで……。ところが、まあ、内容は深刻なんですよね。……膀胱ガンを最初にやって、それから胃ガンになって、そのあと、手術の後遺症みたいなもんで、腸閉塞ですよね。彼のお腹は、縦、横、さまざまな切り痕があるというようなね、非常な重症なわけですよね。しかし、非常な意思の力でガンを克服してゆくみたいなプロセスもあるわけですが、僕、これを読んでて、ところどころ笑ったりしながらも、……
如月:そうなんですよね。
井出:……気がついてみると非常に深刻なことを言っておられるんでね。ですから、気軽に読めるんですけれども、同時に非常に重いものをもっている内容思うんですね。今、如月さんがおっしゃったように、周囲に、たとえば近親なんかでも ガンで倒れるようなケースがあって、僕もいつめぐりあうかもしれないような病気だと思うんですけれども。僕は信仰があんまりない人間なんですが、吉川さんもまあ、そういう意味で普通の市井の人間が、ガンにかかったときに、いったいどういう風に立ち向かったらいいかというようなことを、書いていらっしゃってるんで。吉川さんは市民運動家であると同時に、予備校の講師なんですね。非常に心やさしい方で、心くばりのある方でね。だから、ガンの「傾向と対策」のような(笑い)ものを、おのずから書いておられるんです。まあ、文は人なり、と言いますけれど、全体が筆者の人柄のようなものがとてもよく出ていて……
如月:そうですねえ。
井出:……ぜひ読んでいただきたいなあ、と思っているんです。
如月:そうとうな手術前後の深刻な状態、副作用の深刻な状態のときでも、時事問題をはじめとして、本を次々読まれるし……、まあ、そのパワーといいますかしら、たとえガンであろうと、手術をしようと、今は生きてるんだと、生きてるときは、知りたいことは知りたいんだ、やりたいことはやりたいんだ、という、その姿勢が、なんと言っても……
井出:頭が下がりますよね。
如月:……すごいと思いました。……後ほどまた、みなさんとお話を進めたいと思います。ありがとうございました。
―――中略―――
如月:……さて、そういった意味では、次の『いい人はガンになる』の吉川さんも、ある意味で同じ時代を、別の場所で闘いながら生きておられた方が、大きな病気になられて、どういう態度をとられたかという、語り口は軽くても、なんと言うか、ある種、自分の人生に向かい合うという本ですよね。
小田島:日野さんはね、さっき僕は「灼熱的」っていう言い方をしましたが、やっぱり、戦争特派員として、そこで、非常に、激烈なものがあったのに、そこを通して、やはり自分をずうっと、じっと見つめる、という感じですよね。そして吉川勇一さんは、どうなんだろ、ガンになった自分を、どこか別の自分で見てるんですよね。そこから来るユーモアっていうのがある。たとえば、ま、突如疑問が出てくるんだけども、焼き鳥なんかで、とりの胃袋なんか、腸なんか、人間の胃液は溶かしちゃう、消化しちゃうと。だけど、自分の胃袋や腸はなぜ、消化しないんだ?なんてね(笑い)、こういう発想というか、好奇心ですよね。そういう好奇心で自分のガンという病気を見ていらっしゃる。そこからくるユーモアなんですよね。だから、ホントにこれは、真剣な問題fだし、それこそ生死にかかわる問題なんだけれど、読んでて、……ま、どう言えばいいのかな、日野さんを「灼熱」と称するのなら、これは、あったかいユーモアっていうようなものを感じますね。
大石:べ平連の運動をなさって、そして今も市民運動をなさってて、自分の部屋を市民運動家に貸しててアップアップなさってるなんてゆうことがチラっと出てきますが、それが、ガン、ガン、ってすごい方のようなイメージがあるんですけれども、読みながら、もうクック、クック、一人で笑ってしまう……、とてもユーモアたっぷりの方なんですけれども、本当はそうじゃないと思うんですね。心の中は、相当、なんて言うか、悩んだり、苦しんだり、いろんなことがあって、ただ、表現するときには、そうでもしなければやってられないというか、そういう、こう、じっとしたときの自分の暗さと、表に出すときの陽気さと、それを実によく使い分けているというか、そんなことを感じましたね。
小田島:「ハゲはガンにならない」というのは、僕も今でも信じているんですがね、それが「いい人はガンになる」なんて言われると、僕はどうなるんだ、なんてね(一同、笑い)。
井出:彼は、おそらく自分の業績を残そうとかいうようなことは、頭にない人なんですよね。根っからの運動家っていうのかな。そういう意味では戦後の市民運動っていうものをつくり出した一人なんですよね。……
小田島、大石:ウン、ウン。
井出:……そういう点で、終始一貫した人生を歩んでるっていう感じがしたんですよね。そういう中で、ガンという、彼にとっては青天の霹靂のようなね、自分でしか向き合えないような世界と言うものがあった、さて、そうしたら、自分はどうしたらいいかというようなことで、これを書き始めたという感じがするんですね。ですから、全体として、彼は、最後まで、市民運動家としてね、ガン市民運動みたいなものとして、徹底しようという(笑い)……。
如月:ガンを運動するっていう感じがありますね、 確かに(笑い)。……なるほど、今日はいくら話しても話し足りないような本ばかりだったんですけれども、いずれも深いところを見つめながら語られ、書かれた本ばっかりでした。読むことができて本当によかったです。ありがとうございました。