7 自治体の発行する『広報』のわかりにくさ  (2001/10/10記入)
  
     
いい人は介護する(?)――障害者として、介護者としての雑感  (その7)

 昨年(2000年)の10月から介護保険料の徴収が始まりました。それで、保谷市(当時、今は合併して西東京市)の市報は「介護保険特集」を発行、配布してきました。これを読んでいると、「サービスの利用上限額について」という項があり、「介護保険の在宅サービスを利用する場合、要介護度毎に支給限度額が設定されています」という記述があり、そのあとに以下のような表が載っていました。

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区分    対象サービス       支給限度額(単位)

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訪問    訪問介護・訪問入浴介護  要支援    6,150/月
通所    訪問看護・訪問リハビリ・ 要介護1  16,560/月
      通所介護……       要介護2  19,480/月
      福祉用具貸与       要介護3  26,750/月
                   要介護4  30,600/月
     以下 略

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 私の連れ合いは「要介護1」です。さて、この表を見て、彼女の1月の支給限度額はいくらになると思われますか? 私は月に¥16,560だと思い、驚きました。最初に介護保険申請をしたとき、市からもらったパンフレット『申請者のための介護保険だより』には、「要介護 1」だと「平均利用月額17.0万円」とあったはずです。エッ、1割になっちゃうの! と思うのは無理ないでしょう。

  さっそく、市に電話しました。でてきた女性は、「それは単位なんです」との説明。「単位って何です?」「単位っていうのは、各自治体によって、ヘルパーへの報酬額が微妙に違っており、そのため、上限を金額で表すと違ってきてしまうため、単位で表しているんです」「ですから、その単位って何ですか?」「それはですね、説明がとても難しいいんですが……。ちょっとお待ちください。折り返しこちらから電話しますので」

 という次第で、一度では説明が聞けませんでした。しばらくして別の男性の職員から電話があり、いろいろ説明を聞きましたが、要するに、この単位による支給上限のことは、素人にはよくわからず、プランを立てるケア・マネージャーに任せておけば、この程度の支援なら、まだ限度額範囲内だとか、それをいくら超えたとか、教えてもらえるから、こっちは考えなくてもいい、ということらしいのです。そして、限度は、要するに、月17万円近くで、私のほうはその割を負担すればいい、ということには変わりはないとのことでした。

 とすれば、一般市民に配る市報に、「こっちは考えなくてもいいような」ただ混乱させるだけのような表を載せる意味はないんじゃないでしょうか。

 このことを、浦和(現在は合併して「さいたま市」)で介護保険問題などに取り組んで、NPO運動に力を注いでいる知人に書き送りました。彼からはすぐに返事が来ました。それを一部転載します。

 う〜ん。実際に介護保険を使うとなると、本や資料で読んでいるのとは違って、実にいろいろたいへんだということが、よくわかります。 

 ちなみに、まず「単位」の件ですが、これは「介護報酬」の計算のもとになる単位ということで、「介護報酬」は、ひとつの「介護サービス」について、「何点」という「単位」が定められています。(医療保険の医療費も同様に点数で表され 1点10円で、こちらは「診療報酬点数」といいます)

 「介護報酬」も原則として1点を10円に換算して計算されますが、全国一律にすると物価や人件費が高い都市部の事業者がたいへんになるので、都市部(「乙地」といいます)についてはサービスによって10円を10.12円とか10.18円などに換算することにしています。

 保谷市はおそらく「乙地」になっているので「要介護1」の「支給限度額(単位)」の「16,560(点)」に10円を少し超える額を掛けて「介護報酬」が計算され、それが「支給限度額(円)」となり、その 1割が自己負担となるということです。

 では、この「単位」を市民むけの広報に表示する必要があるかというと、まったくありません。最初から保谷市の介護報酬額を「円」で表せばいいことです(保谷市内で単価(10円とか、10.12円とか)が違うということはありません)。むしろ混乱をまねくことになります。

  では、なぜ市は広報でこういう表示をしてしまうのでしょうか。

 「バカだから」といえばそのとおりなのですが、まず厚生省のさまざまな通知は、基本的に保険者や事業者に向けたものです(そもそも一般市民向けに厚生省が通知を出すということが想定されていませんから)。

 市町村は、それを市民向けに、いわば「翻訳」(これを「編集」というのです!)したうえで、広報するべきなのですが、何も考えない役人(ときには出版社)は、厚生省からきた通知に載っている表を、そのまま広報に使ったりしてしまうのです。

 こうした例は、いやというほどあります(前に勤めていた出版社の私の仕事は、まさに厚生省やいろんな審議会の資料を翻訳することでした)。

 保谷市のこの例も、そのひとつで、吉川さんが怒るのはもっともであり、まったく正しい怒りです。……(後略)

 さて、『広報』のこのわかりにくさは一向に改まっていません。つい最近の例を次の節でもう一つあげることにします。