11. やっと商品化された音声付の調理器具 (付記 農水省の役人の応対ぶり) (2001/11/09記入)
いい人は介護する(?)――障害者として、介護者としての雑感
(その11)
この欄の「その9」で、点字つきの電磁調理器のあまりのアホらしさの話を書きました。しかし、ようやく、そこで私が希望した音声付の電磁調理器が商品化されました。その紹介と、その実物を見に行ったときのエピソード、農林水産省の「消費者の部屋」についての感想を記します。
この製品について知ったのは、NHKの夜のテレビで、農林水産省内の「消費者の部屋」で開催中の「みんながすこやか 食生活の週 食事を楽しく、障害者・高齢者も元気に自立 農林水産省『消費者の部屋』特別展示」という、えらく長い名前の展示会の紹介が流されたからだった。これを見ていた、というよりは、聞いていたと言うほうが正確かもしれないが、連れ合いが私を呼んで、今、音声案内付の電磁調理器の話をしてる、と伝えたからだった。急いで画面を見たが、ほとんど終わりに近く、ようやくそこで販売されている『食をすこやか 暮らしのグッズ』という本の出版元である財団法人「すこやか食生活協会」の電話番号を書きとめることだけが出来た。
翌日、さっそくそこへ電話をして、展示会のことを尋ねた。11月の5日から9日まで、農水省の「消費者の部屋」で開催されており、そこには、音声で調理時間を知らせる電磁調理器や炊飯器など、視覚障害者用の調理器具の現物も いろいろ展示されているということを知った。それで、7日に農水省まで出かけることにした。
展示されていた調理器具は、それほど多くはなかったが、私が希望していたものはあった。三洋電機製の電磁調理器で、IC-BF1という型番(右の写真)。音声機能付の電磁調理器は世界初だという。鍋を載せるプレートの回りには縁がついていて、鍋類が簡単に横にずり落ちないような工夫もされている。何よりも、加熱時間が液晶でも出るが、同時に時間と分を設定すると、それを音声で案内する ようになっているのだ。「保温」や「切」などのボタンを押しても、それを声が伝える。もちろん、それぞれのボタンには点字がついている。これなら、全盲の人でも、強度の弱視者でも、何分加熱するかを 自分で設定できる。定価は4万3500円とかなり高価だが、会場にいた案内の人の説明では、身障者に必要な器具購入の際の補助金が自治体から得られるはずだという。まだ市役所に聞いていないが、早速確かめてみるつもりだ。 それにしても、「その9」でのべたナショナル製の電磁調理器が2万円しなかったことと比べると、音声装置をつけるだけで値段が倍以上にもなるというのは、いかに需要が少ないとはいえ、高すぎると思った。
このほかにも、タイマーや炊き上がりを音声で案内する電気炊飯器も展示されていた。これも全盲の人や強度の弱視の人には使いやすい道具だと思った。ただし、展示されていたのは三菱電機製のもので、これは買うわけにはいかない。(何故? それをお伝えしようと思うと話は長くなるし、今の問題とは少し違う面のことなので、ここでは触れません。関心のある方は、ここをクリックしてご覧になってください。) しかし、三洋電機や東芝も同様な製品を作っているようなので、早速そのカタログを取り寄せてみることにしよう。それにしても、すべて、5万円以上の価格なのは、やはり高すぎると思った。
あと、いろいろ安全装置を工夫したり、手の不自由な人が容易に点火できるようにされたガスレンジや、様々に工夫された調理用の小物道具、あるいは蓋を開けやすく工夫された食品入りの瓶や缶、内容が区別できるように形や色を変えた調味料の瓶、缶なども会場には展示されていた。(こうしたグッズについては、すこやか食生活協会が発行している『食をすこやか 暮らしのグッズ――広がるユニバーサルデザイン』という本にいろいろ紹介されている。¥1,000 + 税。同協会は http://www1.normanet.ne.jp/~ww103725/ )
いずれにせよ、私が希望していたものにほぼ近い電磁調理器の存在を知ったこと、その実物に触れることが出来たことだけでも、この展示会には行ってよかったと思った。
さて、次はこの展示会に行った際のエピソードの紹介。
私は、農林水産省に「消費者の部屋」などというものがあることをまったく知らなかった。農水省のホームページによると、この「部屋」は、
「農林水産省が消費者の皆様とコミュニケーションを深めるために農林水産本省の本館1階に設けられ、農林水産行政一般、食料、食生活についての消費者相談、特別展示を行っています。相談室では、皆様からの食に関するご相談をはじめ、グループ学習にご利用いただいたり、食料、食生活についての理解を深めていただくために、図書、パンフレット、統計資料等を用意しております。特別展示では1〜2週間ごとに米肉魚などをはじめとする身近な食料品から環境問題など幅広いテーマを取り上げた展示をご覧いただけます。消費者の部屋はどなたでもご利用できますので、どうぞお気軽に来室いただき、ご意見をお寄せ下さい。」
とある。( http://www.maff.go.jp/soshiki/syokuhin/heya/HEYA.html )
確かに、ここではさまざまな展示会が開かれているようだ。今回の展示会は、同省の総合食料局消費生活課が担当し、さきにのべた財団法人「すこやか食生活協会」がもっぱら展示品を提供していた。
ところで、私自身、たびたびの手術のあと、息が切れて駅の階段がひどく苦手となり、最近では外出はほとんど車を使っている。そこで、この展示会にも車で行きたいと思い、農水省の「消費者の部屋」に電話をして、駐車場のことについて尋ねてみた。一般の人が利用できる駐車場はない、という返事だった。障害者手帳を持っており、車で行きたいのだが……と言ってみたのだが、それでも、やはり駐車場はないという。それで、有料駐車場でいいのだが、近くにないか、と聞いてみたが、知らない、という返事だった。電話口に出た人は、当然、農水省の職員、お役人のはずだが、それ以上は、もうとりつくしまもない、という印象だったので電話を切った。
でも、ちょっと思い直して、農水省そのものに電話をかけなおして、最初に出てきた交換手の女性に同じことを尋ねてみた。彼女は、では、守衛室と代わりますので、そこでご相談ください、と言ってくれた。出てきた守衛室に事情を話すと、そういうことでしたら何とか都合はつけられます、農水省の正面玄関まで車でこられて、そこにいる守衛にお名前を言ってください、ご案内できるようにしておきます、という返事で、これは、先ほどの「消費者の部屋」の職員とはまるきり態度が違って親切な応対だった。そして、事実、玄関に横付けにしてそこの守衛の人に声をかけると、目の前の空いている場所まで、案内してくれ、車椅子など要りますか?と尋ねてくれた。玄関前には、まだ3〜4台は停められる場所が空いていた。「いえ、足が悪いわけではないので……」と断って、お礼を言った。
それにしても、同じ農水省の職員なのだが、どうしてこうも応対の態度が違うのだろう? とりわけ、「消費者の部屋」では、「障害者・高齢者も元気に自立」という名称の展示会をやっている最中なのだ。どうしてそこの職員は、車でなければ来られないような参観者も来るということを予想し、それなりの対策をあらかじめ考えていないのだろう? 障害者からの電話を「ありません、知りません」と答えて切ってしまう、この官僚主義的応対は、どう考えても「消費者の部屋」と銘打つ場所の職員としては、失格と言う以外にはない。