hon-small-blue.gif (121 バイト)   図書紹介 ベ平連と関わる2冊の書籍(中川六平『ほびっと 戦争をとめた喫茶店 ベ平連 1970−1975』と池澤夏樹『カデナ』(09/12/01掲載)

 最近、ベ平連に関連する書物がいろいろ出版されてきています。最近では、中川六平『ほびっと 戦争をとめた喫茶店 ベ平連 1970−1975』(講談社、税別で1,800円 と、池澤夏樹『カデナ』(新潮社、税別で1,900円 です。
 前者には、「ベ平連」のサイトの「ニュース」欄の
548号に詳しい紹介が載せてあります。次にどうぞ。 http://www.jca.apc.org/beheiren/548NakagawaRoppei-Hobit%20SensouwotometaKissaten.htm 
 11月15日(日)には、京都で、この本の出版記念の小さな集まりがあり、参加してきました。  この春、入院されていた鶴見俊輔さんもかなりお元気になっていて、ご夫人さんら家族の方々とご一緒に長くご出席して、この本や「ほびっと」についていろいろのお話をされました。私以外にも東京からも広島からも何人か参加され、「ほびっと」についてさまざまな思い出や意見が交換されました.。
 鶴見さんは、この本は40年近くも前の活動の記録なのだが、今の語る文が、40年前のときにそのまま引き続く、若さの姿勢で受け取られるのがとても気持ちがいい、と語れました.。『朝日新聞』11月22日号の書評でも、それと同じような意見が書かれ、「大きな相手に挑む冒険の旅に出た5年間の記録には不思議なみずみずしさがあふれている」と好評でしたし、また、11月5日には、TBSの「森本毅郎・スタンバイ」の番組で、詳しくこの本を紹介し、「★ 中川さんはじつは本名は文男と言うのですが、いつのまにか愛称で「ロッペイ」とみんなに呼ばれる。気のいい兄ちゃんなんですね。そこがいいなあ、と思いました。★ ベトナム戦争、基地、反戦というと、理論武装したおっかない人を想像しますが、京都に残してきた恋人のことがいつも気になる1人の若者なんですね。つまり、われわれと変わらないような当時の若者が、海の向うの戦争のために立ち上がり、縁も所縁もなかった土地で働き暮し活動をした時代がありました。……★ 1973年にベトナム和平協定が調印され、中川さんも大学へ戻っていく。 1975年11月、役目を終えて「ほびっと」は店を閉じる。中川さんは現在、坪内祐三、石田千などの著作を手がけて世に出した名編集者として知られられていますが、こんな過去があったのかと、驚きながら読み終えました」とあります。
http://www.tbsradio.jp/stand-by/talkthu/ に全文載っています。
 私は、京都でのこの出版記念会の集まりで、ベ平連の運動の中でまだ解決していない問題がいくつかあるのだが、その一つが大村収容所から北朝鮮に向かった元韓国脱走兵の金東希の問題とともに、この「ほびっと」での大弾圧問題の解明だ、という話をしました。この弾圧問題は、中川さんの本の中にも第7章の「ベ平連・PCS-赤軍-PFLP」という節で、当時の日記を引用しながら詳しく述べられていますが、私は、この事件は、広島県警や山口県警などがやったことでも、日本警察庁でやったレベルのものではなく、実は、この「ほびっと」と岩国米海兵隊基地内の反軍兵士「センパー・ファイ」グループを壊滅するため、米国務省、CIA,米軍などが十分に事前に準備した作戦だったのだという意見です。すでに私は、その意見は述べていました(拙著『民衆を信ぜず、民衆を信じる』の中の「自由の危機――権力・ジャーナリズム・市民」)が、しかし、その作戦の中心問題を証明できていません。日本内にあった米核兵器の問題は、最近、日米秘密協定が次第に明白になりつつあるが、このほびっと弾圧問題も、国務省内や米軍内の具体的書類などを入手して、証明できたらいいな、と思っている、私はそう話しました.。

 2冊目は池澤夏樹『カデナ』です。この本については、『朝日新聞』11月10日号の「文化」欄に池澤夏樹さんへのインタビュー(話し手は都築和人さん)が掲載されましたが、そこにはなんと、「最近、僕は『べ平連』だと言っています。40年遅れてきた『べ平連』」(!) という池澤さんの話が載っているのです。 (詳しくは、http://www.jca.apc.org/beheiren/saikin-IkezawaNatuki-KadenaKankou.htm ) こちらはフィクションで、前の中川六平さんの本とは違うのですが、しかし、雰囲気がなんとなく『ほびっと……』とつながる思いなのです。池澤さんのインタビューに出てくる大きくて強い組織に、小さくて弱いものがどう立ち向かえるか。徒手空拳ながらやれることがある。それも歯を食いしばらずに」 という姿勢が、前著の「ほびっと」の活動のそれとつながり、合うからなのです。『朝日』の11月24日号の「文芸時評」で、評論家の斎藤美奈子がこの『カデナ」を詳しく紹介していますが、その最後で、「嘉手納から北ベトナムへ向けて飛び立つ大型爆撃機B−52。あくまでも素人である3人がそれぞれの戦争体験と論理に基づいてスパイ行為に踏み出す過程は爽快とすらいっていい。/ スケールはちがうが、ここで称揚されているのも一種のアマチュアリズムである。人を鋳型にはめたがる勢力には臆せずいってやるべきだろう。プロがそんなに偉いのかい、と。」と書いていますが、その姿勢が、「ほびっと」の活動のそれと同じだからなのでしょう.。

 私は、本サイトのあちこちで、半年前に脳梗塞を見舞われ、書物を読むことがかなり困難になってしまった、と書いています。 脳梗塞より前の頃のスピードの何倍もの読書時間がかかるのです。だが、今度のこの2冊の書物は、気持ちよく、しかも早く読めました。リハビリの成果もすこしはあるのでしょうけれども、それよりもこの2冊の本が、どちらも、自分の気持ちにうまく合う雰囲気のあふれたものだからなのだろうと、思っています。

 2冊とも、読んで損をしない、非常な好著でまちがいないと信じています。

 『赤旗』の上の書物広告の訳者名のこと

  ところで、以下は、書評でも紹介でもありません。蛇足だろうと思いますが……。

 日本共産党の『赤旗』に載った広告のことについてです。11月22日に、大月書店の3ダン通しの大きな広告が出ていましたが、その中に、マックス・ヴェーバーの『ヒンドゥー教と仏教』の広告も大きく出ていました。訳者は、古在由重訳と出ていました。驚いたのは、その先頭に「唯物論哲学者・古在由重の"幻の名訳”をついに公刊!」とあったことでした。さらに「唯物鎗者・古在由虚による『宗教社会学論集』第2巻の全訳。数十年ぶりに発見された本書は、訳者のヴエーバー解釈にもとづく独自の訳語。豊富な訳注を随所に含み、ヴェーバー研究に新たな波紋を起こすものとなっている。」という文もついていました。最初は、別の訳者と思い、名前をもう一度確かめてみたのですが、間違いなくあの、古在由重さんです。最後には日本共産党と離れ、その方針に反対するようになっていた古在さんでしたが、そろそろ『赤旗』に名前は出てもよくなったのだな、と思ったのでした。確かに「除名」処分ではなかったと思いますが、古在由重さんがなくなられたときの『赤旗』の報道ぶりはひどい冷たいものでしたから。 
 思い出しましたが、ずいぶん以前ですが、私がバーチェットの『立ち上がる南部アフリカ』(上・下)を訳して、サイマル出版から刊行されることがありました。バーチェットはオーストラリア共産党のメンバーで、『赤旗』でもその書評欄にそれなりの長さの好著としての紹介文が載っていました。ただ、感心したのは、著書名、出版社名、定価代などは全部書いてあるのですが、その本の訳者の名が、どこにも書いていないのでした。共産党を除名された私の名前は、本の訳者であろうが、絶対に『赤旗』の上に名を載せてはいけない、ということなのだな、と、感銘したのでした。そんなことを思い出したのでした。どうでもいいことでしょうね。