所沢高校 Non-Official 資料81215c

準備書面（２）
請求人　竹永公一
1998年12月15日(火)


（Ｗｅｂ管理者記）　この準備書面（２）はテキストで５０ＫＢあります。
　非常に膨大ですので、全部読むのは大変かと思いますが、是非お読み頂ければと思
います。
　項目立ては、
　　---------------
　　　第１　所沢高校における学校運営への生徒参加の実態
　　　第２　生徒の参加の権利について
　　　第３　内田校長着任後の所沢高校の学校運営の実態
　　　第４　校長の校務掌理権限と職員会議の自治、生徒の学校運営参加権との関係
　　　第５　処分者らの主張する「学習指導要領」論の不当性
　　---------------
で構成されており、「第１」「第２」あたりはおなじみの事も出てきますが、それで
もお読み頂くだけの価値はあると思います。
　また、「第３」には新事実もでて参ります。
　その極めつけは、
　---------------
　　(4) 内田校長は、着任以来、職員会議録に１年間押印をしなかった。そして、職
　　　員会議録の情報公開請求があってから、記録者に何の了解も得ずに、自己の都
　　　合のいいように加筆削除を行い、その上で初めて押印をして、加筆訂正をした
　　　後の職員会議録のみを開示した（削除部分は開示されていない）。
　　　　なお、内田校長は、開示以降（９８年９月以降）の会議録には、再び判を押
　　　していない。
　---------------
という部分です。
私は呆れてしまいましたが、普通に行われていることなんでしょうか。
こんなんじゃあ、情報の公開を請求しても意味ないですね。

　「第４」「第５」は、憲法・教育基本法・子どもの権利条約・学習指導要領などと
の関係が、判例などとともに出てまいります。


　　　　　　　　　　　　　準備書面（２）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１９９８年（平成１０年）１２月１５日

埼玉県人事委員会　委員長　殿

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　審査請求人　　　竹　永　公　一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　上記代理人　　　桜　井　和　人
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ほか

第１　所沢高校における学校運営への生徒参加の実態
　　　所沢高校は長年にわたり「自主・自立」を一貫して学校の基本方針とし、生徒
　　の自主的・自治的活動を援助・推進してきた。実際、学校内において生徒会活動、
　　その他の自治的活動は大変活発であり、生徒の人権を尊重し、生徒の自治を実現
　　するための活動を展開している。生徒会は、生徒の総意を受けて活動する自治的
　　機関として機能し、生徒総会等を通じて形成される生徒の意志は、学校運営にお
　　いて最大限尊重されてきた。そして、学校行事等の決定過程に生徒の参加、意志
　　の反映が前提とされ、生徒と教職員による共同決定の原則が具体化されており、
　　特に学校行事の分野では、生徒参加が制度的に明確に保障されてきた。

　１、所沢高校における民主的話し合いのシステム
　　　所沢高校において、教職員と生徒の民主的な話し合いが制度的に確立されてい
　　る場として、「協議会」と「教職員と生徒との定例連絡会議」の２つがある。特
　　に協議会は、所沢高校の民主的な学校運営の中核をなすシステムとして、施行以
　　来、常に機能してきた。このシステムは、生徒側の意向を十分尊重するためのも
　　のであることはもちろんであるが、生徒側の決定を職員会議で否決し、協議会を
　　通して教員の指導性を発揮する場としても重要な役割を持っている。過去、こう
　　した協議会が何度も開かれており、このようなシステムの中で、教職員が主体性
　　を持って学校運営に臨んでいることは言うまでもない。
　　(1) 協議会
　　　　所沢高校では、１９８２年より「生徒会活動に関する職員・生徒の協議会規
　　　定」（生徒手帳55頁以下参照）が施行され、このルールに従った学校運営が行
　　　われてきた。その経緯について規定前文は、以下のとおりに説明している。

　　（前文）　我々は、我々自身によるすべての自主的活動を確立し、また、職員会
　　　　　　議に我々の総意が尊重されるように、生徒総会の名において要望書を作
　　　　　　成し、職員会議の傍聴を要求した。しかし、この要求は職員会議によっ
　　　　　　て否認され、職員会議より職員・生徒の協議会の設置が提案された。そ
　　　　　　して、ＨＲ委員会、ＨＲ討議を経て、ここに職員・生徒協議会を設置す
　　　　　　るに至った。

　　　　この協議会は、生徒会諸機関の決定事項を職員会議が否決した場合に開会さ
　　　れ、教職員、生徒の代表１０名ずつによる自由な討議をすることを目的として
　　　いる。さらに協議会を行った後も生徒側が職員会議の決定に納得しない場合は、
　　　職員会議は再度審議しなければならないと規定されている。学校生活において
　　　生徒側の意思決定と教職員側の意思決定が異なる場合は、この協議会を通じた
　　　話し合いにより、双方納得のうえ決定していくという学校運営が定着し、民主
　　　的ルールとして定着している。
　　　　この協議会のシステムによる学校運営は、実際の学校生活において機能して
　　　きたもので、近年では以下のような機会に開かれている。
　　　①　１９９２年の所高祭校外パレードを生徒の力量不足、熱意の欠如などの理
　　　　由から職員会議が不開催とすることを決定したが、生徒側が開催を要求した
　　　　ため協議会が開かれた。生徒は開催に向けて有志組織を作るなど、真剣な取
　　　　り組みを始めたため、開催されることになった。
　　　②　１９９３年７月の球技大会を体育館改修工事理由に職員会議で中止が決定
　　　　されたのに対し、生徒側が開催したいと希望して、協議会が開かれた。協議
　　　　の結果、体育館を使用しない一部開催となった。
　　　③　１９９６年、所高祭後夜祭での「ミス・ミスター所高」の企画について、
　　　　職員会議が女性差別にあたるのではないかとして開催を否決、協議会が開か
　　　　れ、その年は名称を変更して企画が行われた。翌年も協議会は継続され、生
　　　　徒側は「女性差別にあたるか否か」について自主的に勉強会を行ったが、結
　　　　局生徒側の希望者が少なく、この企画は開催されなかった。
　　　④　１９９３年、それまでの「生徒心得」の現状にあわない部分を改定しよう
　　　　という議論が職員会議で起こり、規則等検討委員会を生徒と教職員で設置し、
　　　　規則改定について検討を開始した。１９９６年に規則等検討委員会の改定案
　　　　がまとまったが、職員会議で否決され、協議会が開催された。その後１年間
　　　　協議会で検討が行われ、９７年の職員会議、生徒総会で可決され、９８年度
　　　　より施行されることとなった。
　　　　このような協議会のシステムが、生徒自らの意思決定を一方的に否定される
　　　ことなく、学校運営に直接参加できる場として保障されていることは、非常に
　　　大きな意義を持っている。
　　(2) 教職員と生徒との定例連絡会議
　　　　１９９８年４月から新たに「教職員と生徒との定例連絡会議」（生徒手帳５
　　　７頁以下参照）が設置された。協議会が生徒側の決定を職員会議が否決した時
　　　に行われるのに対し、定例連絡会議は生徒と教職員が定期的に意見交換し、多
　　　くの情報公開と自由な討議を通じて、生徒・職員の疑問・意見・要望を広い範
　　　囲で吸収することを目的としてしている。双方から議題を提出し、毎学期に１
　　　回開かれることとなり、９８年度１学期には、校内の清掃についての話し合い
　　　が持たれた。

　２、学校行事における生徒参加の実態
　　　所沢高校では、学校行事を中心とした特別活動領域の分野で、生徒の学校参加
　　が実現されており、様々な学校行事の場面で、生徒の参加権が制度的に保障され
　　てきた。この中で、教員は生徒の自主的な活動を尊重することを指導の基本方針
　　とし、生徒・教職員による共同決定の原則が確立されている。
　　(1) 体育祭
　　　　所沢高校の体育祭は、各クラスより選出された委員から構成される実行委員
　　　会により運営されている。実行委員会は体育祭全般の企画・運営を行うことと
　　　なっており、具体的には、実行委員会内におかれる総務が原案を作成し、実行
　　　委員会の承認を得ることになっている（生徒手帳行事執行規定参照）。この原
　　　案は方針、組織、日程、予算、活動時間、定時制との関連事項、諸規定、ルー
　　　ル、ペナルティー規定、各種会議資料、当日までの準備、当日の運営方法、片
　　　付けなど詳細かつ多岐にわたり、体育祭はこの承認された原案に従って、実行
　　　委員の生徒を中心にして運営される。この運営方式は、所沢高校の長年にわた
　　　る生徒の自主運営のなかで蓄積され、受け継がれてきたものである。
　　　　体育祭担当の教員は、生徒の自主的な運営を尊重することを指導の基本方針
　　　とし、総務の原案作成の段階から話し合いに参加し、委員会全体の指導を担当
　　　している。また、この原案を職員会議に提案して承認を受け、これに基づいて、
　　　全教職員が体育祭に向けての生徒の準備、運営をバックアップしていく体制を
　　　取っている。
　　　　また、体育祭終了後、アンケートの結果などを参考にして実行委員会、体育
　　　祭担当教員がそれぞれ総括を作成し、実行委員会は後期生徒総会へ、生徒会担
　　　当教員は職員会議に提案し、承認を得ることになっている。さらに、９５年度
　　　より後期生徒総会終了後、実行委員会の総務、生徒会本部役員、公募からなる
　　　体育祭バックアップ委員会が設置されることになった。バックアップ委員会は、
　　　生徒総会で承認された総括を受けて、次年度の体育祭の運営を円滑に進めるた
　　　めの検討を行い、基本的な実施計画を立案する。この基本案は、ホームルーム
　　　討議を経てホームルーム委員会で承認されている。このバックアップ委員会は、
　　　前年度のうちから時間をかけて体育祭の基本計画を練り、次年度へスムーズに
　　　引き継いでいくうえで、重要な役割を持っている。
　　(2) 所高祭
　　　　所沢高校の文化祭である所高祭についても、特別委員会として生徒からなる
　　　実行委員会が組織され、所高祭全般の企画・運営を行っている。体育祭と同様、
　　　実行委員会内におかれる総務が基本的な原案を作成し、各係が具体案を作成し、
　　　実行委員会の承認を得ることになっている。これらの案は方針、組織、日程、
　　　予算、諸規定、企画審査、後夜祭、当日までの準備、当日の運営方法、清掃な
　　　ど多方面にわたり、それぞれに担当教員が配置され、原案作成の段階から助言
　　　等の指導を行い、随時職員会議へ提案し、承認を得ている。この実行委員会案
　　　を職員会議が否決した場合は協議会が開かれることになっており、実際９２年
　　　度と９６年度に開催されている（協議会の項参照）。
　　　　その他教職員との関係、総括、バックアップ委員会の設置については、体育
　　　祭と同様である。
　　(3) 遠足・修学旅行
　　　　毎年、１学期に実施される遠足は、各学年ごとに組織される旅行委員会が、
　　　その企画・運営を行っている。旅行委員会では、学年の生徒のアンケート等で
　　　希望を集約した上で、遠足の目標、目的地、コースの原案を作成し、クラス討
　　　議を経て決定される形が一般的である。さらに、班編成やしおりの作成などの
　　　実務や、実際に担当教員と現地へ行って集合場所や見学箇所などを下見してく
　　　ることも旅行委員が行っている。旅行委員会を担当している学年の教員は、委
　　　員会運営や議事運営の方法の指導を行い、原案作成の段階から会議に参加し、
　　　必要な助言を行っている。また、旅行委員会の指導方針や教員の役割分担を、
　　　教職員の学年会議に提案し、旅行委員会での決定事項を報告し承認を得るなど、
　　　旅行委員会と学年会議の連絡・調整の役割も果たしている。場合によっては、
　　　学年会の意向を受けて、旅行委員会で再審議されることもある。
　　　　２年次に実施される修学旅行は、最大の学年行事であるが、遠足で学んだ経
　　　験を踏まえ、旅行委員会が中心となって運営されている。１年次では目的地と
　　　コースの概要の決定が委員会の中心課題である。旅行委員会からいくつかのモ
　　　デルコースが示され、クラスや委員会内での討議を経て、最終的には学年全体
　　　の生徒による投票により目的地が決定される形が一般的である。２年次になる
　　　と、さらに細かなコースや日程を決定しながら、班別行動の計画やコースの希
　　　望調整、部屋割り、さらには事前学習集やしおりの作成など実務的な仕事が旅
　　　行委員会の活動の中心となる。指導教員の役割や旅行委員会と学年会議との関
　　　係は、遠足と同様であるが、ここでも生徒の自主的な活動による教育な効果が
　　　最大限達成できるよう、教員集団として配慮がなされている。
　　(4) 門出式
　　　　所沢高校では、従来、卒業の際の学校行事として、学校主催の「卒業式」と、
　　　生徒主催の「門出式」の２つがあった。このうち卒業式の後に行われる門出式
　　　は、１・２年生の各クラスから選出された委員から構成される、門出式実行委
　　　員会が中心となって行われ、実質的な卒業生を送るための行事となっている。
　　　実行委員会は、門出式全般の企画・運営を行うこととなっており、具体的には
　　　当日のプログラム、予算、日程の調整、生徒代表の人選、在校生からの贈り物
　　　などの案を協議のうえ決定し、当日の進行も含めて自主的な運営を行ってきた。
　　　３年生は、別に各クラス選出の委員からなる卒業準備委員会を作り、門出式実
　　　行委員会と調整・話し合いを行いながら、門出式の内容を決定してきた。
　　　　一方、学校主催の卒業式は、総務（３学年の卒業担当教員、各学年の代表教
　　　員、生徒会代表教員、管理職より構成）と３学年教員団が企画・運営を行って
　　　いた。この際、３学年生徒よりなる卒業準備委員会が３年生の卒業式について
　　　の希望を教職員に伝え、これを尊重することによって、生徒の意向が卒業式に
　　　も反映されていた。
　　(5) ロングホームルーム（ＬＨＲ）
　　　　毎週木曜日の午後に行われているＬＨＲの時間は、ホームルーム活動の実践
　　　の場として、生徒による自主的運営がなされている場である。ＬＨＲを中心に
　　　なって運営しているのは、各クラス２名の委員より構成されているＨＲ委員会
　　　である。各学期の初めにＬＨＲの大枠づくりが行われ、生徒会本部や学年から
　　　要望に基づいて、クラス討議などの時間が設定され、ＨＲ委員会で承認される。
　　　それ以外の時間は、各クラス毎に独自の企画により行われるＬＨＲとなる。
　　　　年度当初のＨＲ委員会で委員会発行の「ＬＨＲのすすめ」という冊子などに
　　　より、色々な企画の紹介や成功させるポイント、施設使用に当たっての手続き
　　　や注意点、ＨＲ討議における議事運営のルールなどの説明がなされる。さらに、
　　　各クラスが使用できる施設や備品などの割り振りがされ、学期最初のＬＨＲの
　　　時間に各クラスの独自の企画が話し合いにより決定される。その内容は、バレー
　　　ボールやソフトボールなどのスポーツや屋外で焼き芋やバーベキュー、教室で
　　　の討論会やディベート、ゲームなどのレクリエーション、校外へ散策に行った
　　　りと実に様々であるが、この自主的な集団活動が生徒の前向きな学校生活に果
　　　たしている役割は大きい。
　　　　なお、ＬＨＲの指導にあたっているのは、各クラスのホームルーム担任であ
　　　るが、企画の段階やＨＲ討議の場面で必要な助言を行ったり、当日の運営が安
　　　全かつスムーズに行われるように指導しており、この自主的活動の意義が最大
　　　限発揮できるよう配慮している。

第２　生徒の参加の権利について
　１、意見表明権；参加権の憲法上の保障
　　　このように所沢高校においては、職員・生徒会協議会という職員、生徒双方の
　　参加による学校行事、運営に関する意思決定機関を設置し、生徒が学校行事の具
　　体的内容に関する決定、運営にその意思を反映させ、かつ、これに直接参加する
　　こととして、民主的学校運営が確立、運営されてきたのであるが、このような生
　　徒による学校運営への参加は、そもそも日本国憲法によって我が国の子どもに保
　　障された権利の実践というべきである。
　　(1) 憲法１３条はすべての国民が個人として尊重されることを規定する。憲法が
　　　保障するこの個人の尊厳は、すべての国民が、そのあらゆる生活部面において、
　　　自己に関わる事柄を自己の意思に従って決定する自己決定権がその中核とされ、
　　　自己責任のもとに、完全な自己決定能力を有する大人にとっては、自己をとり
　　　まく社会・法律関係等の各生活部面において、それが公共の福祉に反しない限
　　　り何らの制限を受けない権利とされていることには争いがない。
　　　　これに対して、成長発達途上にあって、その法律行為並びに行動や帰属に関
　　　する決定を大きく制限されている子どもにとっては、憲法が保障する自己決定
　　　権の範囲にも一定の法律上、事実上の制限がもうけられ、大人におけると同様
　　　に十分な自己決定権の具体的行使がなしえないこととなる。このため子どもに
　　　対して、その個人の尊厳を尊重しようとする場合、その中核は、子どもが自ら
　　　の行動や帰属等自己に関する事柄を自己の責任において決定することよりはむ
　　　しろ、自己の生活に密接に関係する環境や手続きに対して、自己の意見を表明
　　　し、これを正当に尊重されることが重要となってくるのである。
　　　　そして子供がその表明した意見を正当に尊重されるためには、子供が、自己
　　　に影響を及ぼすすべての事柄の決定過程に参加する権利が保障されていること
　　　が必要であって、この決定過程への参加は、子供が個人として最大限に尊重さ
　　　れるために不可欠の権利であるということができる。
　　　　以上よりすれば、子供の参加の権利は、憲法１３条に由来し、個人の尊厳に
　　　直接関わる重要な人権と解すべきであって、これに対する制限の正当性判断は、
　　　厳格なものでなければならないというべきである。
　　(2) 従って、この参加権の意義についても、自己決定権を一定の範囲で制限され
　　　ている子どもを個人として最大限に尊重するために、子どもが自己に影響を及
　　　ぼす全ての事柄の決定過程に参加する権利と解すべきである。
　　　　所沢高校においては、協議会規定の中で、学校生活における決定事項に関し
　　　て、生徒、職員が互いに相手の意思を一方的に無視して決定を行うことができ
　　　ないことを定め、職員と生徒との共通の意思形成のための手続きをもうけて、
　　　学校行事や規則の制定に取り組んできたものであり、まさに憲法が子どもに保
　　　障する参加の権利を具体的に実践してきたものといえるのである。

　２、子どもの権利条約における参加権の保障
　　　以上憲法の保障する子どもの参加権は、我が国が批准した子どもの権利条約１
　　２条の、子どもの意見表明権の尊重の規定によりさらに具体的な法規範として確
　　立された。
　　　すなわち、子どもの権利条約は、子どもの人格の完全かつ調和のとれた発達を
　　促すため（条約前文）、常に子どもの最善の利益（条約３条）が考慮されるべき
　　とした上で、その１２条で、子どもの最善の利益を実現するために、まず、子ど
　　も自身の意見を聞くべきであるという手続的権利を定め、さらに、子どもの表明
　　した意見が正当に重視されるべきことを求めている。
　　　条約１２条の具体的内容については、これを単なる意見の表明を保障した規定
　　であって、積極的に参加の権利まで保障するものではないという見解もあるが、
　　同条約が子どもの市民的自由を保障し（条約１３条から１６条、同３７条）、子
　　どもを単なる保護の対象としてではなく、独立した人格として尊重し、その人権
　　を自ら行使する主体としてとらえていることを考えるならば、条約１２条は、自
　　ら意見を表明しつつ、その成長に応じて自己の環境と関わり合いながら成長発達
　　を遂げる子どもたちに対して、単なる意見を表明することにとどまらず、その成
　　長や発達に応じた環境への積極的な参加を保障していると解すべきである。
　　　条約１２条のかかる解釈は、「子どもの権利の法的保障に関するワルシャワ会
　　議」声明（１９８９年１月１９日）、「子どもの生存、保護及び発達に関する世
　　界宣言」及び行動計画（１９９０年９月３０日ニューヨーク、「子どものための
　　世界サミット」）、「少年非行の予防のための国連ガイドライン」（第８回国連
　　犯罪防止会議、１９９０年）にも適合し、かつ１９９８年６月５日の国連子ども
　　の権利委員会における日本政府報告に対する総括所見が、
　　　「社会のあらゆる分野、とくに学校制度において、一般の子どもたちが参加権
　　　（第１２条）を行使する上で困難に直面していることを、とりわけ懸念する。」
　　　（１３項）
　　　「子どもの参加（第１２条）の一般原則が、政策に関する議論および意思決定
　　　の指針となるのみならず、いかなる法改正並びに司法上の、および行政上の決
　　　定においても、かつ子どもに影響を与えるあらゆる事業および計画の発展およ
　　　び実施においても適切に反映されることを確保するために、さらなる努力が行
　　　われなければならない」（３５項）
　　として、「子どもの参加の権利」「子どもの参加の一般原則」等の用語を明確に
　　用いて述べられている点からしても、より一層争いのないものと解すべきである。

　３、学習権（憲法２６条）と子どもの参加の権利
　　　子どもの参加の権利は、さらに、憲法が保障する子どもの学習権（憲法２６条）
　　にもその根拠を有すると解される。
　　　憲法２６条の教育を受ける権利は、学習権即ち「国民各自が一個の人格として、
　　また一市民として、成長・発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学
　　習をする固有の権利」（最高裁学テ判決）の保障を含むものと解されているが、
　　子どもが民主主義社会にいて、独立した人格として、その成長・発達を遂げ、人
　　格を完成・実現していくためには、自己にかかわる問題を自分で考え、その意見、
　　見解をまとめてこれを表明する能力を醸成するために必要な教育を受けるととも
　　に、これを自らの力で解決していく能力を育てなければならない。とすれば、憲
　　法２６条は、学齢期の児童・生徒に対して単によりよい教育を受ける権利を保障
　　するにとどまらず、さらに進んで児童、生徒が自己を取り巻く社会その他の環境
　　に対して、積極的に参加していく権利を保障しているものと解すべきであって、
　　このように解して初めて、判例が認める子どもの学習権の具体的内容と、憲法が
　　大人と子どもとを問わず等しく個人の尊厳を尊重すべきことを定めた趣旨、及び
　　子どもの権利条約１２条の規定とを整合させることができるはずである。

　４、条約と国内法との関係について
　　　以上、憲法上１３条、２６条並びに子どもの権利条約１２条が児童生徒の参加
　　の権利を保障していることについて述べたが、我が国には、上記総括所見にも現
　　れているように、子どもの参加権を具体的に規定した明文法は存在しない。
　　　しかしながら、我が国の法制度上、批准された国際条約は国内法的効力を有し、
　　条約が法律に優位することは争いのない解釈であって、かつ、その直接適用が可
　　能であることは、１９９８年５月２７日、２８日の両日開催された国連子どもの
　　権利委員会日本政府報告の中で、我が国の政府代表委員が明確に述べているとこ
　　ろである。
　　　この点、憲法並びに条約が保障する子どもの参加権を具体的に実現するための
　　立法を含めた制度の整備がなされていないことは、子どもの権利条約４条に定め
　　る権利の実現推進義務違反となることはあっても、子どもの参加権を侵害する国
　　及び自治体の行為を正当化するものでは決してない。まして、権利の具体化とい
　　う観点からは、明文化された立法、制度のみならず、慣習上、運用上、憲法及び
　　条約に適合的に確立され、実践されてきた権利については、それ自体具体的権利
　　として憲法上も保障されると解すべきであって、これに反する公権力の行使は違
　　憲かつ条約違反と評価されなくてはならない。生徒の参加の権利は、児童生徒の
　　あらゆる年齢層に応じてこれを観念する必要があるとともに、参加の対象やその
　　方法についても様々な形態が考えられるものである。現在我が国には、このよう
　　な観点から詳細に子どもの参加権を保障した法律は存在しないが、子どもの権利
　　条約４条が、締結国の立法、行政当局に、条約に定める権利の制度的実現を推進
　　すべき義務を負わせていることに鑑みれば、条約に定められた子どもの権利の制
　　度的な保障が、慣習法的規範として確立されているような場合において、これを
　　公権力が一方的に後退させる措置を執ることは、権利条約第４条の実現推進義務
　　に違反することとなり、許されるべきでない。
　　　所沢高校においては、１９８２年７月５日の「生徒会活動に関する職員・生徒
　　の協議会規定」施行以来、生徒の参加権に配慮した学校運営が実施されてきたも
　　のであって、このことは、同校が子どもに与えられた憲法上、条約上の権利を十
　　分理解し、かつ生徒の個人としての人格を尊重した学校運営を実践してきたもの
　　と評価されるとともにこのような従前の学校運営及び生徒の権利保障を後退させ
　　るような学校運営が行われる場合には、それは、生徒に与えられた憲法及び条約
　　上の権利を侵害するものとして、重大な違法性を帯びるものと評価されなければ
　　ならない。

　５、小括
　　　以上、子どもの参加の権利は、憲法１３条に由来する個人の尊厳にかかわる基
　　本的な人権であるとともに、子どもの学習権保障の一部をなし、子どもの成長発
　　達及び独立した人格としての子どもの人格の尊重にとって不可欠の権利というこ
　　とができる。さらにこの参加の権利は、子どもの権利条約１２条において、その
　　保障の趣旨、具体的内容が明らかにされているのであって、国は、憲法及び批准
　　された条約の効力に基づいて、積極的にこの生徒の参加の権利を具体的に保障す
　　べきであるとともに、参加権に配慮しこれを尊重した学校運営の実践が行われて
　　いる教育の場において、その保障を後退させ、あるいはこれを剥奪するような行
　　為は、条約違反（権利条約４条）であると同時に違憲な公権力の行使と評価され
　　なければならない。

第３　内田校長着任後の所沢高校の学校運営の実態
　１、はじめに
　　　内田校長は着任以来、生徒の意見を尊重し、話し合いを大切にしてきた所沢高
　　校の伝統を無視し、独断で学校運営をしようとし続けてきた。
　　　教職員に対しては、人間的つながりを作ろうとせず、校長室に閉じこもり、ひ
　　たすら命令によって動かそうとした。また、生徒には高圧的態度をとり続けてき
　　た。一人の人間として生徒に向かうのではなく、ただ学習指導要領を錦の御旗に、
　　権力を嵩に着て、押しつけの教育を行おうとしてきた。さらにＰＴＡに対しては、
　　「ＰＴＡは学校運営に口を出すな。」というＰＴＡ敵視の態度を一貫してとり続
　　けてきた。
　　　以下、ここでは内田校長着任以降の学校運営上の様々な問題点を略述する。

　２、内田校長の生徒への対応
　　(1) 内田校長は、着任早々、生徒会役員に対し、「あなた達は教員免許を持って
　　　いるんですか。」（９７年４月７日　生徒会との話し合い）と高圧的態度で臨
　　　み、「話は聞くが、判断はこちらでする。」（同）と発言するなど、最初から
　　　生徒と話し合いをしていこうという意志など持ち合わせていなかった。
　　　　９８年度に入り、表面的には生徒との話し合いのポーズは取っているが、
　　　「生徒は責任を持てない。」（９８年９月３０日　卒実との話し合い）「対等
　　　に話し合って結論を決めるつもりはない。」（同）などと発言をしていること
　　　から明らかなように、生徒の対話を軽視するという校長の姿勢は基本的には変
　　　化していない。
　　(2) また、内田校長は、９８年３月の「卒業記念祭」、４月の「入学を祝う会」
　　　を断念させようとして、いたずらに生徒の不安をあおる発言を繰り返した。
　　　　「卒業式をやらなかったら、大学の推薦がどうなるか心配だ。」（９８年１
　　　月１３日　校長と全校生徒との話し合い）などと根拠のない情報を流し、生徒
　　　に不安を与えた。
　　　　３年生の卒業認定会議では、「今日の時点では、卒業認定の候補者とする。
　　　この会議は卒業認定を決める会議ではない。」（９８年２月５日　成績会議）
　　　と、あたかも卒業式に出なければ卒業認定されないかのような発言をした。そ
　　　もそも、卒業認定は校長の独自の判断でなし得るものではなく、「卒業認定の
　　　候補者」という言葉にどのような意味を持たせようとしたのか定かではないが、
　　　卒業式に出席しなければ卒業認定を行わないという主旨の発言をすることによっ
　　　て３年生の不安をあおったのである。
　　　　さらに内田校長は、１９９８年４月、新入生に対し「入学式に出ないと入学
　　　が認められない」旨の手紙を送りつけ、新入生とその保護者に深い不安を与え
　　　た。
　　　　４月９日、入学式当日に行われた記者会見で、「入学式欠席者を本当に入学
　　　させない気持ちがあったのか。」という記者の質問にも、「私の気持ちの中の
　　　問題」として回答しなかった。入学の許可・不許可という生徒の一生のかかっ
　　　た問題を、校長の恣意でいかようにも決定できるかのような発言をしたのであ
　　　る。
　　　　このような内田校長の発言こそ、公務員の信用を失墜させる行為に当たると
　　　いうべきである。
　　(3) さらに、内田校長は、口頭では所沢高校の「自主・自立」の伝統は大事であ
　　　ると述べてはいるものの、現実の学校運営においては、生徒の自主的な活動を
　　　繰り返し妨害してきた。
　　　　「入学を祝う会を全体として認められない。」（９８年２月１９日　職員会
　　　議）という発言に象徴されるように、「卒業記念祭」・「入学を祝う会」に反
　　　対の姿勢をとった。「祝う会の準備のための公欠は認めない。」という４月８
　　　日付職務命令により、四者会議・祝う会有志など１００名以上の生徒を欠席扱
　　　いにしたことにも、生徒の自主的活動に無理解な校長の姿勢が如実に現れてい
　　　る。

　３、ＰＴＡへの対応
　　(1) 内田校長は、着任以来一貫してＰＴＡを敵対視してきた。
　　　　９７年４月１９日のＰＴＡ常任理事会では、入学式の混乱について校長の責
　　　任を追及する発言が相次いだが、校長は、「学校の責任者は私であるので、私
　　　の判断でやらせてもらった。学校運営に関することはＰＴＡのＰに口を出して
　　　もらっては困る。」と発言をし、それ以後、ＰＴＡとの話し合いを拒んだり、
　　　会議・集会等への不参加が度重なった。
　　　　このような校長の、ＰＴＡへの不誠実な対応、教育者としての資質が疑われ
　　　るような言動に対し、ＰＴＡは、９７年７月、臨時総会において、「内田校長
　　　の配置転換を含めた適切な対応を県教委に求めた要請文」を圧倒的多数により
　　　採択した。その後、このことを巡り、県教育委員会・校長・ＰＴＡ三者間での
　　　話し合いが持たれたが、県教委が終始校長を擁護する立場をとったため、話し
　　　合いは暗礁に乗り上げている。
　　(2) また、内田校長は、ＰＴＡの諸会議での学校の施設を使用することについて、
　　　一々施設利用許可願を提出させるといった露骨な嫌がらせも行っている。県下
　　　でこういう例は聞かないし、もちろん前任までの校長はこのような取り扱いを
　　　行っていない。
　　　　さらに、職員室への立ち入り、印刷室の使用、コピー機の利用、あるいはＰ
　　　ＴＡ広報の内容にいたるまで、さまざまに言いがかりをつけ、保護者の怒りを
　　　買っている。

　４、教職員への対応
　　(1) 内田校長は、着任早々の１９９７年４月９日、既に前任校長のもとで決定さ
　　　れていた入学式の式次第を、独断で変更し、入学式前の職員会議を一方的にう
　　　ち切り、「管理職３人で入学式をやりますので、みなさんはここで待機して下
　　　さい。」と発言をし、体育館に行こうとした。教員側が「まだ、会議は終わっ
　　　ていない。待って欲しい。」と引きとめると、上着のポケットに手を入れ、
　　　「止めるなら写真を撮るぞ。」と威嚇した。着任時から、教職員を敵視し、挑
　　　発し、何に用いるつもりであったのかは不明であるが、いつでも写真撮影を行
　　　えるような状態で対峙するというまさに異常というほかない姿勢で教職員と接
　　　したのである。
　　　　その後、校長は、５月１５日の職員会議において、「入学式で厳粛でない部
　　　分があったが、その理由を知りたいので、全職員一人ずつから聞きたい。」と
　　　発言をし、暗に処分をちらつかせて、生徒の自主的活動を擁護する教職員に圧
　　　力をかけようとした。
　　(2) 内田校長は、９８年１月以降、職務命令を乱発した。内田校長は、教職員と
　　　の信頼関係を結ぼうとする努力を怠り、指示・職務命令に依拠した権力的な学
　　　校運営を行った。
　　　　殊に、「卒業式」「卒業記念祭」、「入学式」「入学を祝う会」の問題につ
　　　いては、「～は認めない。」「～せよ。」と事細かに職務命令を連発した。職
　　　務命令の中には、実務を考えない杜撰なものも多く、すでに時間が経過してし
　　　まい、実施不可能なものさえもあった。また、職員会議中、県教委に連絡・指
　　　示を仰ぐということも一度ならずあった。
　　　　内田校長は、教職員との人間関係を全く作ろうとせず、ただ権力的に動かそ
　　　うとしてきた。９７年度中はほとんど校長室に内側から鍵をして籠もりきりで
　　　あった。また、卒業式・入学式問題では、「学習指導要領に基づいて」「厳粛
　　　で清新」「法令に則って」など限られた言葉の繰り返しで、説得的・人間的な
　　　言葉は全くなかった。
　　　　教職員らは、こうした内田校長の非民主的・非人間的な学校運営について、
　　　９８年４月２日の職員会議において、「校長罷免要求決議」を採択し、併せて
　　　「不当処分撤回要求決議」も採択した。
　　(3) 着任以降の内田校長の職員会議での発言は、不誠実極まりないものであった。
　　　論点のはぐらかし、意味不明の発言、同じ答弁の繰り返し、自分の発言を一々
　　　メモしてから発言するなどしての会議の引き延ばしなど、教職員との合意作り
　　　をしようという姿勢、人間としての誠意が全く欠けていた。
　　　　また、圧倒的多数で議決された職員会議決定を、校長の一存で「今日の決定
　　　は認めません。」と発言したこともしばしばであった。また、自分の意に添わ
　　　ない議題が提出されると、「職員会議になじまないので退室します。」などと
　　　いって会議室を出ていってしまうなど、教職員の総意を尊重しようという姿勢
　　　もまったく見られなかった。
　　(4) 内田校長は、着任以来、職員会議録に１年間押印をしなかった。そして、職
　　　員会議録の情報公開請求があってから、記録者に何の了解も得ずに、自己の都
　　　合のいいように加筆削除を行い、その上で初めて押印をして、加筆訂正をした
　　　後の職員会議録のみを開示した（削除部分は開示されていない）。
　　　　なお、内田校長は、開示以降（９８年９月以降）の会議録には、再び判を押
　　　していない。

　５、小括
　　　以上述べてきたように、内田校長が生徒、ＰＴＡ、教職員に対しとってきた態
　　度は、戦後進められてきた教育の民主化に逆行するばかりでなく、市民的常識か
　　らも大きく外れ、まして教育者としては極めて不適切であると言わざるををえな
　　い。請求人に対する本処分は、このような校長の反民主的な学校運営を容認、正
　　当化しようとするものであり、断じて許されない。

第４　校長の校務掌理権限と職員会議の自治、生徒の学校運営参加権との関係
　１、はじめに
　　　処分者は、「入学式を行うことは校長の権限である。法的根拠は、学校教育法
　　第２８条、第４３条、第５１条及び第１０６条、学校教育法施行規則第５７条の
　　２並びに高等学校学習指導要領である。」（平成１０年１０月６日付準備書面、
　　３項�粥法◆峭眦佖惺残垢蓮�軌蕕鮃圓α反イ箸靴討旅眦佖惺擦魎浜�掘�娠弔�
　　る最終責任者である。高等学校における儀式的行事の一つである入学式の実施は、
　　学校における諮問機関である職員会議の議を経ながらも、校長がその権限で決定
　　できるものである。」と述べ、暗に、校長は「入学式」に代わる生徒主催の「入
　　学を祝う会」を開催したいとする生徒および教職員の決定に何ら拘束されること
　　なく、独自の判断・決定により、「入学を祝う会」とは別に「入学式」を行うこ
　　とも許されると主張するもののようである。
　　　確かに、学校教育法には、「校長は、校務をつかさどり・・・」との規定があ
　　り（第２８条３項）、行政解釈によれば、この規定は「校務」（＝学校教育の事
　　業を遂行するため必要とするすべての仕事）について校長の掌理権、分掌決定権
　　を認めたものであるとされている。
　　　しかし、公立学校長を含む公務員は、憲法および憲法以下の法令を尊重・遵守
　　すべき義務を負うのであるから（憲法第９９条、地方公務員法第３２条）、校務
　　掌理に関連する学校長の権限も、憲法、条約および教育基本法の制約を当然に受
　　けるのであり、決して無制約のものではない。
　　　以下、ここでは、校長の校務掌理の権限が、職員会議による自治および生徒の
　　学校運営への参加の権利との関係で制約を受けること、「入学を祝う会」とは別
　　に「入学式」を行うとした内田校長の決定は、校務掌理の権限を逸脱したもので
　　あることを論じる。

　２、「職員会議の自治」と校長の校務掌理の権限
　　(1) 教育の専門家である個々の教師には、教育内容・教育方法に関して広い裁量
　　　が認められている。そして、個々の教師の主体的、創造的な教育実践を可能に
　　　する１つの要素として、民主的な学校運営が求められる。この観点から、校長
　　　には、教育の専門家である教員によって構成される職員会議の討議結果をでき
　　　る限り尊重しながら校務を遂行すべきことが要請される。
　　　　職員会議の設置を定める埼玉県立高等学校管理規則第１６条１項が「学校に
　　　は、校務の民主的且能率的な運営を図るため職員会議を置く」と規定している
　　　のも、学校運営に経験豊富な多数の教育の専門家の多角的な意見を反映させ、
　　　民主的な学校運営を行うことが望ましいとの考え方に依拠しているからに他な
　　　らない。
　　　　県教育委員会も、この規則制定にあたり、第１６条の職員会議の規定につい
　　　て、学校教育法の規定との関係から職員会議を最高議決機関と位置づけること
　　　は不可能であるとしつつも、“学校経営の民主化は、戦後の教育の最も重視す
　　　るところであって、今回学校管理規則で職員会議の設置を規定したのも、その
　　　趣旨にほかならない。従って校長は、学校管理の最終責任者たる責任を自覚す
　　　るとともに、職員会議においては、職員をして十分その議をつくさせ、その意
　　　見は十分尊重して学校経営にあたらねばならぬことはもちろんである。”との
　　　見解を公表している。
　　　　したがって、校長が、職員会議における十分な討議を経ずに、あるいは、職
　　　員会議の討議結果を無視して職務権限を行使することが裁量権を逸脱したもの
　　　と評価されることは当然あり得るのである。
　　(2) 特に、教育課程編成、教育校務分掌、学校行事、校則制定など教育の内的事
　　　項については、教師集団が共同で教育責任を果たさなければならない事項であ
　　　るから、これにかかわる決定については、校長といえども職員会議の一員とし
　　　てその議決に拘束されると考えるべきである（兼子仁、『新版教育法』ｐ２９
　　　８参照）。
　　　　意思決定機関としての職員会議の性格は、裁判例においても認められている。
　　　例えば、教員の半数が出席したに過ぎない職員会議の審議の結果なされた原級
　　　留置きの処分の効力が争われた新潟明訓高校事件において、新潟地方裁判所は、
　　　“原級に留置かれることが生徒にとっていかに重大事であるかは多言を要しな
　　　いところであって、その結果の重大性に鑑みると、原級留置きの決定をなすに
　　　あたっては、大多数の教員が出席した職員会議で審議を行うのが教育条理と考
　　　えられる”として、適正手続に違反するものと判断した（新潟地判、昭和４７
　　　年４月２７日）。
　　　　現実の学校運営においても、生徒の入学・転学・休学等の許可、単位修得、
　　　卒業の認定といった教育措置や懲戒処分等は、事柄の性質上、校長の単独で決
　　　定しうる事項ではなく、教育の専門家である教師集団の審議決定、すなわち、
　　　職員会議の決定という手続を経て行われている。
　　(3) 本件の場合、請求人ら教職員は、従来の卒業式、入学式に代わる自主的な企
　　　画として「卒業記念祭」「入学を祝う会」を行いたいとする生徒からの提案を
　　　受け、職員会議で討議を重ねた結果、生徒たちの提案を支持することを決め、
　　　内田校長に対し、生徒たちの自主的企画を尊重して欲しいと再三要望していた。
　　　　ところが、内田校長は、職員会議の決定を踏まえた請求人ら教職員の要請を
　　　尊重するどころか、事前に職員会議に諮ることなく保護者に宛てて一方的に
　　　「卒業記念祭」とは別に厳粛で清新な「卒業式」を行うよう指導する旨記載し
　　　た葉書を送りつけるなど、むしろ職員会議の決定を否定する行動を繰り返し取
　　　り続けていたのである。
　　　　「入学を祝う会」とは別に「入学式」を行うとする内田校長の決定は、職員
　　　会議の討議結果を尊重していない点で、校務掌理の裁量権を逸脱したものとい
　　　うべきである。

　３、「生徒の参加の権利」と校長の校務掌理の権限
　　(1) 次に、所沢高校の場合には、第１および第２で詳細に検討したとおり、生徒
　　　の学校運営参加権を具体化した制度として、学校行事を含む特別活動領域生徒
　　　についての共同決定方式が長年の教育実践の中で定着・確立し、制度化されて
　　　いたのであるから、校長には、この共同決定方式にしたがった学校運営を行う
　　　べき義務が課されていたと言え、この方式を覆すことになる校務掌理権の行使
　　　は、憲法、条約および学校教育法によって保障されている生徒の学校運営への
　　　参加権を侵害する違憲、違法な権限行使と評価すべきである。
　　　　所沢高校の共同決定方式は、内容面からみても、必要な場合には決定過程に
　　　参加する教職員が生徒と協議を行うことによって生徒の権利行使の逸脱を事前
　　　に是正できるよう配慮されているなど非常に柔軟で合理的なシステムである。
　　　　したがって、学校長の校務掌理に関する裁量権は、生徒の学校運営参加権を
　　　具体化・制度化したこの共同決定方式に���気譴襪里任△蝓�ζ鰻萃蠅鯤い�
　　　ことになる裁量権の行使は、生徒の学校運営参加権の侵害および権利条約の
　　　「後退禁止原則」に違反するものとして違法となる。
　　(2) 所沢高校で「入学式」に代わる生徒主催の「入学を祝う会」が企画されるこ
　　　とになった経緯については、請求人の１９９８年８月２５日付反論書第１、３
　　　項および４項ですでに詳しく述べたところである。
　　　　所沢高校の３年生の生徒たちは、９７年度の入学式の混乱を踏まえて、１９
　　　９７年の卒業式や入学式の在り方について真剣な議論を重ね、１９９７年１１
　　　月１１日に開かれた生徒総会において、「入学式」に代わり生徒主催の「入学
　　　を祝う会」を行うとする基本方針を採択し、その後も生徒会やホームルーム委
　　　員会、卒業式実行委員会、門出式実行委員会で構成される四者会議などを中心
　　　に討議を繰り返し、企画を具体化していった。教職員も、当初から、こうした
　　　生徒たちの自主的な活動を尊重し、早い段階から卒業式・入学式を行わずに、
　　　生徒主催の「卒業記念祭」や「入学を祝う会」に教員が参画していくことを決
　　　め、１１月１９日の職員会議においても、同月１１日に行われた生徒総会の決
　　　定事項を了承し、その後も、生徒主催の「入学を祝う会」のみを行うことを前
　　　提として教員内部の役割分担を決める（１９９８年３月５日の職員会議）など
　　　着々と準備を進めていた。
　　　　このように、所沢高校では、「入学式」に代わり生徒主催の「入学を祝う会」
　　　を行うことが、前述の共同決定方式にしたがって、生徒と教職員の総意として
　　　決定されていた。
　　　　ところが、内田校長は、１１月１９日の職員会議の席上、「生徒総会議決事
　　　項を職員会議が承認することは適切ではない。」「校長としては保留したい。」
　　　と発言し、１９９８年に入ってからは、入学式を行わないという職員会議決定
　　　は認められないという趣旨の発言を繰り返し行うようになり、１月２１日には、
　　　教職員に「入学を祝う会」の前に２時間程度「入学式」を行うと文書で一方的
　　　に通告して生徒と教職員の共同決定を否定する姿勢を明確にした。さらに、３
　　　月１８日の入学説明会までの間に、この問題について、生徒や教職員と積極的
　　　に協議をしようとしたことは一度もなかったし、なぜ、「入学を祝う会」と別
　　　に「入学式」を行う必要があるのかについて、生徒・教職員に納得のいく説明
　　　をしようと試みることさえなかった。
　　　　このような内田校長の姿勢は、学校行事に関する共同決定方式に基づく生徒
　　　および教職員の決定を完全に否定するものであり、生徒の学校運営への参加の
　　　権利を侵害し、また、条約の「後退禁止原則」に違反するものとして違憲、違
　　　法な公権力の行使にあたると言うべきである。

　４、小括
　　　以上検討したとおり、「日の丸」を掲揚し、「君が代」を斉唱する厳粛で清新
　　な「入学式」を「入学を祝う会」とは別に行うとする内田校長の決定は、「入学
　　式」を行わずに生徒主催の「入学を祝う会」に参画するという職員会議の決定を
　　軽視した点において校務掌理の裁量権を逸脱し、同時に、教員と生徒の共同決定
　　原則を覆した点で生徒の学校運営への参加の権利を侵害する違憲、違法な公権力
　　行使という評価を免れない。
　　　他方、現時点では、「入学を祝う会」のみで行きたいとする生徒・教職員側と
　　「入学式」も行うとする校長側との調整がついていないが、４月９日当日には混
　　乱が生じないように最大限の努力をするので心配はいらないという主旨の入学説
　　明会における竹永発言は、職員会議の結論、教師と生徒の共同決定原則、ひいて
　　は生徒の学校運営への参加の権利をできる限り尊重・擁護する立場からなされた
　　ものと言え、信用失墜行為として非難されるような性質のものでは到底あり得な
　　い。

第５　処分者らの主張する「学習指導要領」論の不当性
　１、はじめに
　　　前述のとおり、内田校長は、卒業式・入学式問題では、「学習指導要領に基づ
　　いて」「法令に則って」などの限られた決まり文句の繰り返しに終始し、学習指
　　導要領を錦の御旗に、卒業式・入学式問題における自己の言動を正当化してきた。
　　　他方、内田校長の「入学を祝う会を全体として認められない。」（１９９８．
　　２．１９職員会議）との発言に象徴されるように、内田校長は、着任以来、「入
　　学を祝う会」「卒業記念祭」に対しては、反対の姿勢を表明してきた。
　　　そして、処分者も、「（学習指導要領等の）規定により、高等学校においても
　　学校における儀式的行事は行われるものとなっており、その儀式的行事の１つで
　　ある卒業式、入学式の具体的な内容は、学校に置かれた職員会議の議を経ながら
　　も校長が決定できることになっている」「入学式を行うことは校長の権限である。
　　法的根拠は、…高等学校学習指導要領である」（平成１０年１０月６日付け処分
　　者準備書面）等と主張し、学習指導要領に法的拘束力があることを前提として、
　　内田校長の前記一連の言動を正当化している。
　　　しかし、以下に述べるとおり、学習指導要領には、処分者らの主張するような
　　法的拘束力は一切認められていないのであり、内田校長の一連の言動を、学習指
　　導要領によって正当化することはできない。
　　　むしろ逆に、内田校長の一連の言動及び処分者の主張は、子どもの権利条約、
　　日本国憲法、教育基本法等に反する誤ったものと言わざるを得ない。

　２、処分者らの主張する「学習指導要領の法的拘束力」論の概要
　　　この点、処分者らの言わんとする卒業式・入学式問題での「学習指導要領の法
　　的拘束力」とは、高等学校学習指導要領「第３章　特別活動」中、第３の３に
　　「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、
　　国家を斉唱するよう指導するものとする。」と規定されているところ、右学習指
　　導要領には法的拘束力があるから、日の丸・君が代のある卒業式、入学式を行わ
　　なければならないというものである。
　　　そして、処分者の言わんとする「学習指導要領の法的拘束力」の根拠とは、要
　　するに、従来からの行政解釈に端的に表れていると考えられる（平成１０年１０
　　月６日付け処分者準備書面３(4)参照）。
　　　すなわち、学校教育法には「高等学校の学科及び教科に関する事項は、…略…
　　監督庁がこれを定める」（４３条）とあり（委任立法）、その監督庁は「当分の
　　間、これを文部大臣とする」（１０６条）とされ、これを受けて学校教育法施行
　　規則（２５条、５４条の２、５７条の２）は、「教育課程については、…教育課
　　程の基準として文部大臣が別に公示する…学習指導要領によるものとする」とさ
　　れているから、学習指導要領は、委任行政立法として、全体として法的拘束力が
　　あるという見解である（以下「行政解釈」ともいう）。

　３、処分者らの主張の不当性
　　　しかしながら、上記行政解釈に対しては、従来より、市町村議会等を含め、各
　　方面から様々な批判が浴びせられてきたところである。
　　　たとえば、学習指導要領の内容は、学校教育内容に関するかなり詳細な基準で
　　あり（例えば、中学校学習指導要領を例にとれば、それは、各教科ごとに、その
　　全般的な目標のほか、各学年別の目標及び内容を詳細に定め、さらに具体的な教
　　材や教育方法までを指示しており、政府刊行物として２００～３００頁におよび
　　優に一冊の書物の規模をなしている）、委任の限界を逸脱したものであって、
　　「不当な支配」（教育基本法１０条１項）にあたるとの批判等、この間、数々の
　　重大な疑義が示されてきた。
　　　そこで、学説上、学習指導要領の法的拘束力を一切認めない見解が主流である
　　のはもとより（指導助言文書説）、学習指導要領の法的拘束力を認める見解も、
　　それはごく大綱的な基準事項に限られるとしてきた（大綱的基準説）。
　　　そして、学習指導要領の法的拘束力に関する最高裁学テ大法廷判決自体、以下
　　のとおり「大綱的なそれにとどめられるべきもの」と判示するにとどめており、
　　正面から「法的拘束力」という言葉を使用することは慎重に避けている。
　　　すなわち、最高裁学テ大法廷判決は、
　　　①　「国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普通教育の
　　　　内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には、教師の創意工夫
　　　　の尊重等教基法１０条に関してさきに述べたところのほか、後述する教育に
　　　　関する地方自治の原則をも考慮し、右教育における機会均等の確保と全国的
　　　　な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的
　　　　なそれにとどめられるべきものと解しなければならない」
　　　②　（本件当時の中学校学習指導要領は）「全体としてみた場合、…法的見地
　　　　からは、上記目的のために必要かつ合理的な基準の設定として是認すること
　　　　ができる」
　　　③　「本件当時の中学校学習指導要領の内容を通覧するのに、…その中には、
　　　　ある程度細目にわたり、かつ、詳細に過ぎ、また、必ずしも法的拘束力をもっ
　　　　て…教師を強制するのに適切でなく、また、はたしてそのように制約し、な
　　　　いしは強制する趣旨であるかどうか疑わしいものが幾分含まれているとして
　　　　も、右指導要領の下における教師による創造的かつ弾力的な教育の余地や、
　　　　地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分に残されており、…またそ
　　　　の内容においても、教師に対し一方的な一定の理論ないし観念を生徒に教え
　　　　込むことを強制するような点は全く含まれていないのである。」
　　と判示した。
　　　すなわち、最高裁学テ大法廷判決は、教育課程の基準を設定する場合には、
　　「大綱的なそれにとどめられるべきもの」といい（①）、本件当時の中学校学習
　　指導要領も「基準の設定として是認」できる（②）というに留まり、正面から法
　　的拘束力を認めてはいないのである。そればかりか、学習指導要領の数々の問題
　　点（③）も指摘をしている（以上につき、浪本勝年「戦後教育改革の精神と現実」
　　１３０頁以降北樹出版）。
　　　そして、その後の伝習館訴訟最高裁判決においても、最高裁学テ大法廷判決は
　　変更されておらず（裁判所法１０条３号参照）、行政庁が主張するような法的拘
　　束力は認められていない。
　　　以上のとおり、学習指導要領の法的拘束力については、既に子どもの権利条約
　　批准以前より、法的拘束力を否定ないし制約するのが判例及び学説の圧倒的な主
　　流であり、これに反する行政解釈が、極めて独自の見解であったことに留意する
　　必要がある。

　４、子どもの権利条約批准と学習指導要領
　　(1) 子どもの権利条約批准と締結国の実施義務
　　　　そもそも、教育法の解釈にあたっては、日本国憲法の精神はもちろんのこと、
　　　最高裁学テ事件大法廷判決の中で指摘されているように、「できるだけ教基法
　　　（教育基本法）の規定及び同法の趣旨、目的に沿うように考慮が払われなけれ
　　　ばならない」し、また、教育の法則や論理（一般に「教育条理」といっている）
　　　を尊重することが必要である。
　　　　とりわけ、子どもの権利条約は、従来より多くの疑義の示されてきた学習指
　　　導要領について（最高裁学テ大法廷判決等）、上位規範である子どもの権利条
　　　約に適合するように解釈することを行政庁に義務づけた。
　　　　この点、国連子どもの権利委員会における日本政府報告の審査において、
　　　「学習指導要領が極めて厳格にそして硬直的に教育課程を決めているように思
　　　えます。考え方、態度の変化が求められます。もし民主社会となりたいのであ
　　　れば、この条約をそのための強力な道具として用いることができます」との極
　　　めて正当な指摘がなされているとおり、子どもの権利条約を批准した日本政府
　　　は、従来の行政解釈に代表される、学習指導要領に対する極めて硬直的な考え
　　　方を、根本から改めることが義務づけられた。
　　(2) 従来の行政庁の「学習指導要領の法的拘束力」論に対して
　　　　この点を踏まえ、従来からの行政解釈の法的根拠をあらためて検討すれば、
　　　学習指導要領は、委任行政立法として全体して法的拘束力があるとの単純な行
　　　政解釈は、もはや成り立ち得ず、仮に委任関係を認めるとしても、子どもの権
　　　利条約は、子どもの最善の利益（権利条約３条）の観点から、委任の程度に厳
　　　格な絞りをかけることになる。
　　　　また、今日までの学習指導要領の変遷経緯に照らして検討すれば、そもそも
　　　学習指導要領は、もともと、「試案」と明記され、単なる「教師の手引き」と
　　　して刊行されたにすぎなかったものが（１９４７年）、やがて「試案」の文字
　　　が消されることとなり（１９５５年）、その後、文部省は、１９５８年、新た
　　　に文部省告示として公示して法的拘束力を付与したとの主張を開始し、また、
　　　国旗掲揚、君が代斉唱については「望ましい」との文言が登場することとなっ
　　　た経緯がある。そして、１９８９年には、「望ましい」から「指導するものと
　　　する」と改訂され（現行学習指導要領）、さらに、「指導」から「徹底」への
　　　改訂が予定され（新学習指導要領）、法的拘束力の強化、厳格化を図る試みが
　　　なされてきた。
　　　　しかしながら、下位規範たる学習指導要領は、上位規範たる子どもの権利条
　　　約に適合するように解釈されなければならないのであり、「極めて厳格にそし
　　　て硬直的に教育課程を決めている」（前記日本政府報告の審査）学習指導要領
　　　を、緩和かつ柔軟なものにしていく法的義務があるのであるから、子どもの権
　　　利条約は、いわば、学習指導要領を、当初の「試案」「手引き」の段階へ巻き
　　　戻していくことを義務づけていると言わなければならない。

　５、生徒の学校運営参加権の尊重義務
　　　また、学習指導要領に法的拘束力があると主張する行政庁の法的根拠が、前記
　　のとおり、学校教育法の「教科に関する事項は、…略…監督庁（＝文部省）がこ
　　れを定める」（学校教育法４３条）という規定と、その委任立法たる学校教育法
　　施行規則（２５条、５４条の２、５７条の２）にあるところ、右学校教育法４３
　　条「教科に関する事項」の「教科」とは、教育課程の構成領域（各教科・道徳・
　　特別活動の三領域）の一つである「教科」を指すことは明白であるから（学校教
　　育法施行規則２４条以下は、「第二節、教科」中に位置づけられている）、教科
　　以外の領域である「特別活動」に関しては学習指導要領の法的拘束力は及ばない。
　　　したがって、「特別活動」の領域については、子どもの権利条約が保障する生
　　徒の学校運営参加権は、学習指導要領による制約を受けないのであるから、入学
　　式に代えて入学を祝う会を行おうとする生徒総会及び職員会議の決定を、校長が
　　学習指導要領によって制約することは許されない。
　　　ところが、従来はこの点においても、行政解釈は、学校教育法４３条にいう
　　「教科に関する事項」の「教科」を不当に拡大解釈し、「教科」＝「教育課程」
　　と押し拡げることで、教科以外の領域である道徳・特別活動の領域をも含めて学
　　習指導要領の法的拘束力を認めてきた。
　　　しかしながら、右のような解釈が不当な拡大解釈であることは従来から指摘さ
　　れてきたことであるが（浪本勝年「戦後教育改革の精神と現実」１３２頁北樹出
　　版）、前述のとおり、子どもの権利条約批准以降は、とりわけ特別活動に関して
　　は、生徒の参加の権利を中心に据えて新たに解釈されるべきであり、前記行政解
　　釈にみられる学習指導要領のご都合的な運用は、もはや許されない。
　　　したがって、この点に関する従来からの行政解釈も失当である。

　６、さらに、子どもの権利条約批准以前より常々指摘されてきたことであるが、そ
　　もそも、学習指導要領には、入学、卒業に際し、「入学式」「卒業式」を行わな
　　ければならないとの規定はなく、入学式、卒業式を行わない場合については、学
　　習指導要領の適用場面ではないのであるから、学習指導要領に基づき入学式を行
　　わなければならないとの、校長及び県教委らの主張は失当と言わざるを得ない。

　７、小括
　　　以上のとおり、学習指導要領には、処分者らの主張するような法的拘束力は一
　　切認められていないのであり、内田校長の一連の言動を、学習指導要領によって
　　正当化することはできない。
　　　むしろ逆に、内田校長の一連の言動及び処分者の主張は、子どもの権利条約、
　　日本国憲法、教育基本法等に反する誤ったものと言わざるを得ない。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以　上

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