審査請求書

1998年5月22日(金)

審査請求書
                     1998年(平成10年)5月22日
埼玉県人事委員会委員長 殿
                            審査請求人 竹永公一
                            上記代理人 桜井和人
                                    ほか

 地方公務員法第49条の2の規定に基づき、次のとおり審査請求をする。

                   記

第1 処分を受けた者
    住  所   ■■■■■■■■■■■
    氏  名   竹永公一
    生年月日   ■■■■■■■■■■■
      職    教諭
    所属部署   埼玉県立所沢高等学校
第2 処分者
    埼玉県教育委員会
第3 処分の内容
    戒告
第4 処分を受けた年月日
    1998年(平成10年)3月26日
第5 処分のあったことを知った年月日
    1998年(平成10年)3月26日
第6 処分事由説明書の交付を受けた年月日
    1998年(平成10年)3月26日
第7 口頭審理の請求の有無
    公開口頭審理を請求する。
第8 処分に対する不服の理由
   以下に述べるとおり、審査請求人には地公法33条の定める信用失墜行為は存
  在しないし、同法29条1項3号の定める全体の奉仕者たるにふさわしくない非
  行も存在しない。

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1 処分事由説明書に記載された処分事由
  審査請求人に交付された処分事由説明書によれば、審査請求人は、「平成10年
 3月18日(水)開催の入学許可候補者説明会において、校長が「「入学式」及び
 「入学を祝う会」のご案内」という印刷物をその場で配布し、入学には校長が行う
 入学許可を受けることが必要であり、「入学を祝う会」は入学式の終了後に実施す
 ると説明したところ、その説明に反し、午後2時45分ごろ、校長の了解を得るこ
 となく、学年関係の説明の際、4月9日は「入学を祝う会」のみを行い、教職員も
 校長の行う「入学式」に反対するという主旨の発言をした。」とされている。

2 入学説明会における審査請求人の発言
  3月18日開催された合格者及び保護者に対する説明会において、審査請求人が
 新1学年教諭団の代表として発言したことは事実であるが、その内容は概ね以下の
 とおりである。
    「自主・自立という校風について考えて欲しい。好き勝手にやって良いと言
   うことではない。興味を持ち、考え、行動していって、主体的に考え、判断し
   て進んで欲しい。教師も自主活動を大事に考えている。体育祭・所高祭は実行
   委員自らの手で作り上げている。教員は、見えない部分で支えている。生徒規
   則についても、生徒代表10名・教員代表10名から成る協議会で検討して進
   めている。生徒総会で決まったことは職員会議で討議している。子どもの権利
   条約に則って学校運営を進めようとしている。
    3月9日の卒業式・記念祭については新聞報道等にあったので、興味関心が
   ある人が多いと思う。教職員としてもその概要を押さえておきたい。
    生徒は昨年の8月から準備を開始し、クラス討議・生徒総会を経て、卒業式
   に代わる卒業記念祭を生徒主体で行う自主活動として実施することを決めた。
   教職員も、卒業式を行わなかったらどうなるか等、職員会議で論議した。その
   中で「卒業式をやらなければならない」という決まりはないということで、そ
   れに代わる「卒業記念祭」をやっていこうと決めた。何度か校長と話し合った
   が、3月9日まで平行線になり、残念に思っている。
    4月9日の心配をしていることと思う。現時点では、教職員も生徒も4月9
   日は「祝う会」のみを行いたいと考えている。私たち教職員は、4月9日に向
   けて、校長に生徒の取り組み、教職員の考え方、1学年団の考え方を理解して
   もらい、「祝う会」のみでできればよいと思っている。しかし、現時点では、
   校長が入学式を行うと言っているので、当日混乱のないよう最大限の努力をし

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   たい。まだ、時間があるので安心して4月9日を迎えてもらいたい。決して、
   混乱はありません。」
  以上であり、審査請求人は新1学年教諭団の代表として、これまでの所沢高校の
 学校運営に生徒が主体的に参加しており、教師もこれを尊重していることを説明し
 たうえ、新聞報道等で注目された3月9日の「卒業記念祭」が開かれた経過と、4
 月9日に向けた教職員、生徒及び校長との話し合いの経過を説明し、あわせて4月
 9日についての教職員、生徒、校長の考えを説明したうえ、混乱しないよう最大限
 努力しているので安心して4月9日を迎えて欲しいと述べたのである。

3 本件発言に至る経過
  審査請求人が、3月18日の入学説明会で以上のような発言をするまでの経過は
 概ね以下に述べるとおりである。
  所沢高校には、伝統的に生徒の自主性を重んじる校風があり、教育目標としても
 「憲法、教育基本法に則り、自主的精神と健全な身体とを養い、真理と平和とを求
 める国民を育成する。」ことが掲げられている。生徒会活動も活発であり、199
 0年11月22日には生徒総会で「生徒会権利章典」が決議されている。「権利章
 典」は、「人間は、人間らしく自由に生きる権利を生まれながらに持っている。」
 と高らかに謳い、「自由な高校生活を送ることは、所高生の普遍的な願いである。」
 としている。そして、所沢高校の生徒が過去に「数多くの努力を重ねて」「手にし
 てきた」自由と権利を「持ち続けるために」「自治を確立する必要がある。」とし
 て、生徒も学校の構成員であって生徒一人一人の個性と主張が尊重されること、自
 治的かつ民主的な活動の自由や、服装、頭髪を含む表現の自由、思想の自由がそれ
 ぞれ保障されるとしている。実際所沢高校では様々な学校行事に生徒が主体的に取
 り組み、教師が援助協力して実践するという学校運営がなされてきた。
  このような校風の中で所沢高校の生徒たちは昨年の夏ころから卒業式や入学式の
 持ち方についても真剣に議論を重ね、高校生活最後の行事である卒業式と新入生を
 歓迎する入学式を、従来のものに代えて生徒主催・生徒運営のもとに作っていくと
 いう基本方針を立てた。生徒たちは生徒会やホームルーム委員会などを中心に繰り
 返し検討し、3月9日の「卒業記念祭」及び4月9日の「入学を祝う会」を企画し
 た。こうした生徒たちの討議と決定に対し、教職員は職員会議において、生徒たち
 の自主的活動を尊重し、従来の卒業式や入学式に代わり生徒主催の「卒業記念祭」
 「入学を祝う会」に参画していくことを決めた。PTAも生徒の決定と企画を全面
 的に支持した。審査請求人ら教職員は職員会議を経たうえ、内田校長に対し、生徒

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 たちの自主的企画を尊重して欲しい旨要望したが、校長はあくまで「日の丸」「君
 が代」にこだわり、卒業式・入学式に代えて「卒業記念祭」「入学を祝う会」を行
 うことに反対した。
  3月9日の直前になるとマスコミの一部は、「卒業式をめぐって校長と生徒が対
 立」との見出しで報道するようになり、所沢高校の動向が世間の注目を浴びること
 になった。3月9日、「卒業記念祭」が感動の渦の中で終わると、マスコミはその
 取材とともに4月9日の入学式がどのような形で行われるかについても関心を示し
 てきた。合格者や保護者は喜びの一方でこうした報道を不安な思いでみつめていた。
  3月18日の入学説明会はこのような時期に開かれたのであり、審査請求人を含
 めた新1学年の教諭団は合格者と保護者に対して、どのような説明を行うべきか討
 議した。その結果が入学説明会当日における審査請求人の前記発言である。

4 審査請求人は地公法33条に何ら違反していない。
  入学説明会における審査請求人の発言は、新1学年教諭団の代表として当然のこ
 とを述べただけであり、その内容は決して非難の対象となるものではなく、まして
 や信用失墜行為や「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」とは到底言えない。
  審査請求人は、入学説明会において、直前に新聞報道等で話題になった「卒業式」
 「卒業記念祭」をめぐる経過を説明し、新1年生となる生徒や保護者が不安を抱か
 ないよう4月9日に予定された「入学式」「入学を祝う会」をめぐる教師や生徒、
 校長の考えを説明したのである。本来、このような説明は校長が行ってしかるべき
 であるが、校長は入学説明会の挨拶に際し、上記のごとき経過に全く触れず、「入
 学式の中で入学を許可する」ことのみ強調した。そして、時間に遅れないようにと
 敢えて付け加え、入学式の出席が入学の条件であるかのような印象を保護者らに与
 えて不安をかきたてたのである。
  したがって、審査請求人の行為は何ら地公法に違反しない。にもかかわらず、地
 公法33条に違反するとして地公法29条1項1号及び3号に該当するとした本件
 処分は取り消しを免れない。むしろ喜びの反面不安を抱いている新1年生や保護者
 を前に、自らは経過について一切説明しなかった内田校長の態度こそ、「全体の奉
 仕者たるにふさわしくない非行」であり、信用失墜行為というべきである。

5 憲法違反の本件処分
  審査請求人ら所沢高校の教諭の多くは、所沢高校の伝統的校風である生徒の自主
 的な活動を尊重し、「卒業記念祭」や「入学を祝う会」などの学校運営における生

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 徒の主体的参加を積極的に評価、支持していた。これに対し、校長は、「生徒がど
 のように考えていようが、また職員会議でどのように決められようが、学校運営に
 関する事項については校長に最終決定権がある」とし、とにかく学習指導要領に従
 わなければならないとして「日の丸」「君が代」のある卒業式、入学式を開くこと
 にこだわり続けたのである。
  所沢高校の生徒たちによる「卒業記念祭」「入学を祝う会」の取り組みは、「生
 徒会権利章典」で謳った生徒の個性の尊重・自主的活動の自由・表現の自由・思想
 の自由を生徒自らの手で実現したものである。このような所沢高校の生徒たちの教
 育参加は、同校の自由な校風を尊重した審査請求人らをはじめとする教職員との信
 頼関係のもとで可能となったのであり、教職員、保護者らが子どもの権利条約の保
 障する子どもの意見表明・表現活動をあたたかく見守ることにより素晴らしい力を
 発揮することを何より示している。こうした生徒たちの行動を支え、そのことを入
 学説明会において説明した審査請求人に対する本件処分は、まさに生徒たちの自主
 的活動に対する挑戦とも言うべきものであり、教育的観点の全く欠落した乱暴な措
 置というほかない。
  しかも本件処分に際し、処分者は当事者である審査請求人に対し、3月18日当
 日の発言の趣旨につき何ら確認する機会を与えなかったばかりか、弁明の機会を一
 切与えていない。そして、一方当事者である校長の報告のみを鵜呑みにして、わず
 か8日後の26日に突然本件処分を強行したものであって、適正手続きのかけらも
 見られない。
  以上の次第であり、本件処分は違憲・違法であるから速やかに取り消されるべき
 である。
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