所沢高校 Non-Official 資料71126a

所高生の自由と教育を考える委員会だより
発行日：1997年11月26日(水)
発行：所高生の自由と教育を考える委員会
秋の学習会第２弾 『子どもの権利条約』報告
　９月に行われた学習会「親の教育権とＰＴＡの役割」に続く２回目の学習会が、去
る１０月１８日所高会議室において、山梨学院大学の荒牧重人先生を講師にお迎えし、
「子どもの権利条約」をテーマに開かれました。以下、その概要をお知らせします。

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　子どもの権利条約・・・現在、１９１ヶ国が加盟。これは国連加盟国よりも多い。
　　それだけ多くの数の国々が、この条約を共通した１つの基準として動こうとして
　いる。このように広く認められた国際基準であるということをまず認識してほしい。
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●なぜ今、『子どもの権利条約』なのか

　・現在世界中で深刻になっている「子どもたちの危機的な状況＊Ａ」を解決するた
　　めに人類共通の権利保障の基準を作ることが求められているという背景のもとに、
　　　①このまま推移すれば、２１世紀の地球社会は大変なことになるという危機感
　　　②次の世代に対する期待の現われ
　　この２つが『子どもの権利条約』を生み出した。
　　＊Ａ「子どもたちの危機的な状況」・・・発展途上国では、毎年５才以下の子ど
　　　もたちが千数百万人も病気や栄養不良等で死んでいくという現実がある。また
　　　それ以外にもいろいろな形での子どもたちの権利が侵害されている現状が世界
　　　中で深刻になっている。―――“静かな緊急事態”と呼ばれている。

　・『子どもの権利条約』は世界中で保障されたとりきめであり、その特徴の１つに
　　“国際協力”がある。

●「子どもの権利」について我々はどのように考えたらよいのか。

　　　　　　　権利とは（与えられるものではなくて）“獲得”していくもの

［子どもが権利の主体である］・・・『子どもの権利条約』の基本的な考え方
　・『子どもの権利条約』は、これまで専ら保護される「客体」として捉えられてい
　　た“子ども観”を、子どもも独立した人格を持ち、権利を行使する「主体」であ
　　るというところから出発したもの。それは、子どももそれぞれに異なった人格、
　　尊厳性をもった存在であるということを認めるところから始まる。
　・また、個々の権利意識は、自分自身の価値を自分自身で自覚する、そして周りも
　　それを認めていくという状況が確認されて初めて芽生えるもの。

［一人ひとり違うことの尊重が、権利の出発点］
　　　　　　　　　　　　　　　　　　“違っていい権利　right to be different”
　・しかし、この「“一人ひとり違うことを尊重”し、それぞれの個性を認め伸ばす
　　教育」は、今の日本の教育では非常にむずかしい。けれども、ここを出発点とし
　　て、子どもの権利を認める方向で教育はあるべき。
　・この、「子どもの権利の主張を見極めて一緒に作っていく」作業は、今の教育現
　　場ではとてもしんどいこと。でも、この一番肝心なところから逃げて（放棄して）
　　教育はあり得ない。
　・そのためには、我々（大人）が権利とは何かをきちんと知っておかなければなら
　　ないし、また（権利がきちんと保障される状況を）作っていかなければならない。

［権利・義務関係］
　　　・・・このように権利について話している時に必ず聞えてくる声に「権利を教
　　えるなら義務も教えよ」というものがある。
　・子どもたちが権利ばかりを主張し始めたら（混乱を招いて）大変！という『わが
　　まま助長論』など。けれどもこれは次のように考えるべき・・・本来、権利行使
　　の中に、他人の権利を侵害しない義務は当然含まれている責務（だからあえて
　　「義務も教えよ」という必要はない）。

●『子どもの権利条約』の内容（具体的な条項にふれて）
　・（『子どもの権利条約』は全文で４５条あるが）所高の問題も踏まえて、今私達
　　がここで特に重要と思われる部分、確認しておきたい部分は、以下の個所である。
　　　第２条　無差別の確保（差別の禁止）
　　　第３条　（子どもの）最善の利益の確保
　　　第６条　生命の権利並びに生存及び発達の確保
　　　第12条　意見の尊重……一般に“意見表明権”と言われているが、「単に意見
　　　　　　　を聴けばいいというのではなく、それを“尊重”せよ」との意味合い
　　　　　　　から、今の国際的な流れは“意見の尊重”と記すようになってきてい
　　　　　　　る。
　・ここで押さえておきたい重要なポイントは次の二点
　　　１）子どもの“意見の尊重”
　　　２）（様々な決定過程への）子ども自身の“参加”の重要性

　１）子どもの“意見の尊重”
　　　・最も大切なのは「（親など大人の価値観の押しつけではなく）子ども自身の
　　　　意見を聴いて、子どもの最善の利益を確保する」という点。
　　　　　　これは今までになかった考え方で、更にその根底には、通常私達がいう
　　　　　　市民的権利を「“子どもだから”心身ともに発達途上にある」という理
　　　　　　由で制限する事は、かえって子どもの成長、自立を妨げる、という考え
　　　　　　方を持っている。
　　　・ここでは、親、大人はサポートの立場をとる。
　　　　“サポートの立場をとるべき”親、大人については、特に次の個所が重要
　　　　　　第５条　保護者の指導の尊重
　　　　　　第18条　父母の養育責任及び国の援助

　　　第５条　保護者の指導の尊重
　　　　　　　　子どもが権利を行使するにあたって、親が指示、指導する責任・
　　　　　　　権利・義務がある。
　　　第18条　父母の養育責任及び国の援助
　　　　　　　　子どもの養育、発達について第一義的に責任を持つのは親。
　　　　　　　　『子どもの権利条約』では子どもが権利を行使するということが
　　　　　　　大前提。そしてそれを正当に行使できるように保障するのが親であ
　　　　　　　り、そのことを認めるのが国であるという関係になっている。
　　　　　　　　　　　　　　（第１回学習会“親の教育権とＰＴＡの役割”参照）

　２）（決定過程への）子どもの“参加”の重要性
　　　・『子どもの権利条約』においては、“意見の尊重”と並んで“子どもの参加”
　　　　という考え方が重要な概念になりつつある。
　　　・様々な場面での「決定過程」に子どもたちが“参加”することが求められて
　　　　いる。
　　　　（このためには、子どもにそれ相応の能力があるということが大前提。）
　　　・望ましい（ふさわしい形態の）参加・・・子ども自身が実際に手をつけて
　　　　大人とともに決定をするという参加形態。
　　　・そのためには
　　　　　　①子どもたちに適切な情報が与えられていること
　　　　　　②子どもたち自身がその情報に基づいて判断する機会があること
　　　　　　③決定過程への子どもたちの参加（同じ過程に参加する）
　　　　　　④対等な立場で意見が述べられること
　　　　が保障されていなければならない。
　　　・そして、子どもたちにはそこで決めたことに“責任”を負うことが求められ
　　　　ている。
　　　　--------ポイント----------------------------------------------------
　　　　『子どもの権利条約』には子どもの意見表明や参加が権利として認められて
　　　　いる。そして（それらの権利を行使する）機会や場面を作ることが実際に国
　　　　や我々に求められていること。
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●『国連人権教育の１０年』について
　　１９９５年から国際連合が「国連人権教育の１０年」というとりくみを進めてい
　　る。（日本でも総理大臣を本部長に人権教育の推進をはかっている。）

　１）「人権教育」とは一体何か？
　　　①人権としての教育……教育を獲得するのは（義務ではなく）人権である。
　　　②人権のための教育……教育の目的としての人権
　　　　　　・・・人間個々人が尊厳性をもった存在であるという認識のもとにそう
　　　　　　いう存在として自立していけるようにするという、教育の目的としての
　　　　　　人権。
　　　③人権についての教育…「人権とはそもそも何か」という教育
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（一番狭い意味での人権教育）
　　　④人権を保障するための“とりくみ”を通じての教育

　◎日本では……人権を“知識”としてはかなり教えられているが、（人権をどのよ
　　　　　　　　うに守るかという）“技術＝skill”は十分に教えられていない。
　　　　　　　　〔例〕体罰を受けた時にどのように対処したらよいか・・・など。

　　　・人権についての“技術”もあわせて教えていくべき。そのためには学校など
　　　　人権教育が行われる場が、人権保障されている場でなければならない。
　　　　（権威主義的に人権を教えても何にもならない。権威主義的に子どもたちに
　　　　　教えると、子どもたちには権威主義しか伝わらない。）

　２）文化としての人権
　　　人権をひとつの「文化」として社会の中に育てていこうという考えが広まって
　　　きている。

　　　・国際的に人権問題が言われ出したのは、基本的には第二次世界大戦後。ファ
　　　　シズムや戦争は、結局はそれぞれの国の人々の人権を尊重しないところから
　　　　出てきている。だからこそ国際的に人権の基準づくりとそれを守るしくみを
　　　　作って保障するところから始めようという流れに。（これこそ我々が求めて
　　　　いる社会の基本。）
　　　・それをひとつの“文化”として、国際社会の、また２１世紀の、価値にしよ
　　　　うというのが今の国際社会の流れ。
　　　・これからの子どもたちは、それを推していく担い手(主体)になるべき人たち
　　　　　　　　　　　　　　―――これからの子どもたちに求められているもの。
　　　・子どもの力はすごい！　理屈で学ぶのではなく実際の活動を通して我々自身
　　　　が子どもの力を確信していく中で、子どもと一緒に動いていくことが大切な
　　　　のではないか。


●質疑応答から（すべては載せきれませんので代表的なものをお伝えします。）

Ｑ：子どもの言うことを全部きいていたら世の中成り立たないのでは？
Ａ：『子どもの権利条約』では“子ども自身のことについて”子どもの意見を聴くと
　　いうのであって、（社会のこと）すべてについて子どもの意見に従うという意味
　　合いはない（＝勘違いしないでほしい点）。そしてその根底には「自分のことは
　　自分で決める」（＝自己決定）という考え方がある。ただやはり、子どもの考え
　　だけでは十分ではないので、そこで親のサポートする権利や義務が出てくる……
　　これが今の国際的な考え方といえる。

Ｑ：日々の生活の中で親はこの条約に盛り込まれたいろいろな内容を意識しながら子
　　どもと接していかなければならないとしたら、かなりきついのでは？
Ａ：たしかに精神的にかなり厳しいこと。人権を獲得し守っていくのは“しんどい”
　　作業（婦人参政権を獲得していく時も同様だった）。でもこのしんどい作業が不
　　可欠。しんどい作業を繰り返していく中で、対等の関係が生まれてくる。しんど
　　い作業を乗り越えていくことで、少しずつ本来あるべき関係が“しんどい”もの
　　から“自然な”ものに変わってくる。

Ｑ：『子どもの権利条約』はどのように浸透させていかれるのか？
Ａ：教科書の中にもほんの僅かずつではあるが『子どもの権利条約』のことが触れら
　　れてきている。（憲法や権利条約などは）暗記するものではなく、身につけてい
　　くもの。「（親も教師も）完璧でなければ教えられない」のではなく、「子ども
　　たちと共に学んでいく」という姿勢で関わっていったらいいのではないか。

Ｑ：所高はこの先どのようにとりくんでいくべきか？
Ａ：子どもたち自身が権利を行使して豊かにすごしている事例は全国にたくさんある。
　　（北海道の公立中学のとりくみ＝“チャイムのない学校”、川崎の「人権アピー
　　ル」のとりくみなど。）


一度にすべてを変えようとするのではなく、少しずつ時間をかけて獲得していくもの。

所高の場合も
　①プロセスがとても大切だと思う。生徒のとりくみ、親のとりくみ・・・大変だけ
　　れどその一つひとつの積み重ねがだいじ。
　②その上で、やはり権利侵害と思われる部分については、国や教育委員会等にもっ
　　と問いかけていっていいのではないか。

◎その他、所高問題について、お話の中でいただいた助言から
　・学校におけるきまりは児童の尊厳に適合する方法でなされるべき。『子どもの権
　　利条約』の中でもそれはきちんと明記されている（第２８条第２項）。
　・所高の今回の事態……子どもたちの人権を尊重する場（学校）で、最もその人権
　　とかけ離れた解決の仕方がとられているということは、まさにこの『子どもの権
　　利条約』に反する。その結果、子どもの尊厳や人権を尊重することが失われてい
　　るとしたら、本来の教育の目的に反する、また本来の教育の場としてふさわしく
　　ないこと。それをきちんと達成するように働きかけることは親の子に対する責務
　　でもある。


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　なお、今回の学習会には朝日新聞から情報を得て、山形県から３名の中高生が参加
されました。なぜそんなに遠くから？　の問いかけに「子どもの権利についてどこま
で主張できるのか、またどうやって使っていけるのか知りたかったので」と。
・・・彼女達の姿勢から、『子どもの権利条約』については、親だけでなく主人公で
あるべき子どもたちがもっと自らの問題として共に学ぶべきだということをあらため
て教わった思いがしました。
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