所高生の自由と教育を考える委員会だより

発行日:1997年10月9日(水)

発行:所高生の自由と教育を考える委員会

秋の学習会第1弾
『親の教育権とPTAの役割』報告

 去る9月25日、所高会議室において、埼玉大学教育学部教授・林量俶(はやしか
ずよし)先生を講師にお迎えして“親の教育権とPTAの役割”をテーマに学習会を
開きました。以下、その概要をお知らせします。

 お忙しい方、この要点だけでもお読み下さい。
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 ―――講義の要点―――
 ・子どもや父母の権利は、学習指導要領よりずっと上位の法である憲法や条約、特
  に子どもの権利条約で保障されている。
 ・学校は学校運営全体が“平和”“相互尊重”“民主主義”“寛容”の考え方で貫
  かれているべきだ。
 ・ドイツ、アメリカなど欧米各国では、学校運営への生徒や父母の参加制度が確立
  されている。

 ――質疑応答の要点――
 ・日本のPTAは、法的権限はないが、実体として力を持つのは可能。
 ・文部省内にも学校への生徒参加・父母参加への動きが芽生えているが法制化への
  道は遠い。
 ・学校への生徒参加や父母参加実現への第一歩は、生徒からの働きかけを軸に。
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[林先生の講義]

1.〈上位法優先の原則〉
  法には上位、下位の関係があり、上位に位置する法が優先される。憲法や条約は
 告示(学習指導要領など)よりずっと上位である。

 上位―――――――――――――――――――――――――――――――――下位
   [憲法]―[条約]―[法律]―[政令]―[省令]―[通知・告示]

  日本では“憲法”が最上位。国によっては国際法である“条約”の方が上。
  子どもの権利条約、国際人権規約などは“条約”。
  教育基本法、学校教育法、民法などは“法律”。ただし、教育基本法は法形式で
 は法律だが、準憲法的性格があり、学説上、条約と教育基本法とどちらが上かはっ
 きりしない。
  学校教育法施行令は“政令”。
  学校教育施行規則は“省令”。
  学習指導要領は“告示”。

2.〈子ども・父母の人権、権利〉
  子どもの権利、人権や、そこから生じる父母の責任、および父母の権利は、憲法
 や条約などで明文規定されている。
     【憲】:憲法  【国A】:国際人権規約A規約  【国B】:同B規約
     【子】:子どもの権利条約  【民】:民法  【世】:世界人権宣言
 (1)子どもの人権・権利
   ・意見表明権*1(憲21条 国B19条 子12条)
   ・表現の自由  (憲21条 国B19条 子13条)
   ・思想・良心・信教の自由(憲19、20条 国B18条 子14条)
   ・結社・集会の自由(憲21条 国B21、22条 子15条)
   ・学集権・発達権(憲26、20条 国A13条 子6、28、29条)
   その他差別を受けない権利、プライバシー権など多くの権利がある。
  *1:子どもが自分にかかわる事柄について自分の考えを表明した場合おとなは
     それを子どもの年令と成熟に応じて尊重していかなければならない。
 (2)父母の責任・義務
   ・子どもの養育および発達に対する第一次的責任(子18条)
   ・親、法定保護者または他の子どもに法的な責任を負う者の権利及び義務
    (子3条2項)
   ・「親権を行う者は子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」
    (民820条)
 (3)父母の権利
   ・子に与える教育の種類を選択する優先的権利(世26条)
   ・自己(親のこと)の信念に従って子どもの宗教的・道徳的教育を確保する自由
    (国A13条3項)
   ・子どもの権利行使に対する指示・助言権*2(子5、14条)
   ・子どもの権利行使の代理・補助権*3(子12条2項)
  *2:人権侵害(例えば、いじめ)を食い止めることが子自身ができない場合、
     親が子に指示助言する権利がある。ただし、子どもの成熟度が増すに従って
     「指示」から「助言」へと移行していくべきものである。
  *3:例えば子ども本人が十分に意見を言えない場合は、親が代理人として意見を
     言える。ただし、子どもの発達に従い、親は「代理行使」から次第に「補助
     行使」となっていく。
      参考文献―――「子どものしあわせ」別冊19(1991年 草土文化)

3.〈人権教育のあり方〉
  平和・人権・民主主義の教育を成功させるためには、学校全体が平和・人権・民
 主主義で貫かれないといけない。学校運営全体に平和・相互尊重・寛容・民主主義
 の考え方が生きていかないと、本当に身についた教育にはならない。授業で教えら
 れるだけでは不十分である。

4.〈学校への生徒参加制度・父母参加制度〉
 (1)対等なパートナーとしての生徒・父母・教師
    国連やユネスコの文書では、生徒・父母・教師が対等なパートナーとして学
   校運営に参加しないといけないということが推奨されている。これはイギリス・
   フランス・アメリカ・ドイツ・イタリアなどではとっくに行われている。
 (2)学園紛争後の日本と欧米の違い
    1970年の学園紛争の頃、世界的に生徒参加や生徒の権利の主張がされた。
   日本ではそのなごりは現在わずかしか残っておらず、生徒参加、父母参加の制
   度はつぶれ、校長のリーダーシップばかりとなっている。ところが、欧米諸国
   は70年代からずっと発展し続けている。その典型的なものはドイツ。
 (3)ドイツの“学校会議”
    ドイツの場合、学校の最高議決機関は“学校会議”で、校長が事務執行の責
   任者である。“学校会議”はひとつひとつの学校にあり、“生徒評議会”“父
   母評議会”“職員会議”の三者から出来ており、生徒・父母・教員の代表で構
   成される。こういう制度の中で、校則や宿題、テストの原則、評価についての
   原則などが決められる。
 (4)欧米の校長人事
    アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスでは、校長人事も生徒・父母・教職
   員がかかわる形で決められる。なぜなら、誰のための校長かといえば子の教育
   のための校長であり、そのためには、権利の主体である子と共に、子の権利を
   保障する第1義的な責任者としての親の意向がそこに反映されないといけない
   からだ。

5.〈拒否権と参加権〉(学校の儀式的行事について)
  個人として拒否権を行使しても、それを理由に父母や子どもを教師のように処分
 することは出来ない。個人の権利は尊重しつつ、ひとつの式典で、参加の中にも個
 人の権利も許容していくというか、それを統一的にとらえてすすめていくことが必
 要だろう。

6.〈結びに〉
  親の権利ということの前に子どもの権利がある。
 子どもの権利抜きに親の権利もPTAの役割も語れないと思う。


[林先生との質疑応答より]
  Q=出席者からの質問   A=答えや助言

Q:県教育委員会が発行している「PTA活動の道しるべ」には「学校に強力するの
 がPTAなのです」とか「(PTAは)学校の人事や管理に干渉することなどは絶
 対にしてはなりません」と書いてある。文部省や県庁の人に聞くと、口頭では「P
 TAは学校の教育に対して並立でいろいろ言える」との返答は返ってくるのだが…。
A:日本ではPTAは法的には任意団体であり、PTAを法的に位置付ける法律や規
 則は基本的にないので法的権限はなにもない。欧米での父母の権利保障の制度(父
 母評議会など)はPTAとは別物である。欧米にもPTAは昔からあるが、学校を
 応援する卒業生やその父母なども加入出来、後援会的組織である。日本では、PT
 Aと名乗っているからには教員もメンバーに入っているから、純粋に父母の意向代
 表機関でもない。しかし、実体としては県P連、市P連など、かなり大きな力をも
 つ。各学校のPTAも、PTAをあげて何か言うとしたら実際としては大きな力を
 持つ。
Q:PTAに「父母部会」をつくったらどうかと思うが・・・。
A:今、教育委員会にも父母や住民の意向が反映するような流れが少し出てきている。
 また、文部省でも生徒・父母・教師の三者協議会などの世界的動向は知っており、
 それを取り入れようとしている動きもあるが、法制化まではまだ距離が遠い。
Q:PTAはPとTが一緒の組織というのが大事なところだと思う。学校のことはP
 とTがいっしょに話すのが大事であり、大前提だ。父母が先生方と話す機会をもっ
 と持ちたい。
A:一般的には、PTAだと出席する教員はPTA担当の先生とか教頭・校長など決
 まった人になってしまいがちだ。教員全体と話すようにするには、P会議でまとま
 り、教員全体ときちっと意見交換する場を設けるのも必要だ。
Q:PとTが対等に話す条件は今あるのか。
Q:年2〜3回生徒・父母・教師それぞれの代表による大討論会を開くことなどは、
 実現に時間は要するが可能だと思うのだが・・・。
A:静岡のある高校では、校則検討委員会的なものを生徒が軸になって、それにTと
 Pが加わり、三者会議として成立させている。生徒が提案というならPやTは集ま
 りやすい。軸になるべきは生徒であり、現実化できるのも生徒だ。

次回学習会のお知らせ
          秋の学習会第2弾「子どもの権利条約」           10月18日(土)pm2:00〜4:30  所高会議室           講師:荒牧 重人先生(山梨学院大教授)
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