埼玉県立所沢高等学校長 栗田憲昭
ホームルーム委員長並びに各ホームルーム委員のみなさんへ
発行日 1997年3月4日(火)
(Web管理者記)--------------------------------------------------------
この資料は96年度のものです。従って、校長・教頭・事務室長とも、97年度
入学式以降の校長・教頭・事務室長とは別の人です。------------------------
ホームルーム委員長並びに各ホームルーム委員のみなさんへ
ホームルーム委員会より、卒業式に国旗を掲揚し、国歌を斉唱することについて説
明を依頼されました。2月12日と2月21日の2回にわたりホームルーム委員会に
出席し、「日の丸」「君が代」が国旗・国歌であり、入学式や卒業式などには、国旗
を掲揚し国歌を斉唱することは、学校の責任で行わなければならないことを説明して
きました。出席した多くの生徒達は理解をしてもらえたと思います。しかし、限られ
た時間の中での説明だったので説明不足の所や十分に理解されていない部分もあると
思われますのでこの文書を作りました。
1 「入学式や卒業式に国旗を掲揚し、国歌を斉唱することは、、強制に当たるので
反対である」との意見について
生徒の意見の中に「強制に反対」という声がありますが、学校の教育活動は校長や
教員の個人的な勝手な考え方で行われているものではありません。各種の法令等に基
づいて編成された教育課程を実施しているものです。
とりわけ県立学校は、公教育という性格上、国の基準である学習指導要領に従って、
教育活動を実施する義務と責任があります。このことは裏返すと生徒に等しく教育を
受ける権利(憲法26条)を保障することにもなります。
学校が憲法をはじめとする各法律によって運営されている以上、生徒の権利を侵し
たり自由を奪うことにはなりません。
2 「入学式・卒業式等でなぜ国旗の掲揚・国歌の斉唱が実施されるのか」の質問に
対して
学校教育の基準を定めた学習指導要領は、およそ10年の周期で改訂が行われてい
ます。改訂の趣旨は、社会の変化に対応して、学校教育の改善を図ることを目的とし
ています。
そして、今回の改訂の基本方針の一つとして、国際化の進展に伴って世界の文化や
歴史について理解を深め、国際社会に生きる日本人としての自覚や、物の見方・考え
方についての基礎を養うとともに世界と日本との関わりに関心を持ち、国際社会に主
体的に生きる日本人としての基礎的資質を育成することを重視したものです。
この方針を受けて、国際化が進展する中で、世界のどこの国でも国旗・国歌が大切
にされている現状を踏まえて、日本も各国の主権を尊重すると共に、その国の国旗・
国歌に等しく敬意を表す態度を育てていく必要があるとの観点から学習指導要領の中
で『入学式や卒業式などにおいて、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国
歌を斉唱するよう指導するものとする」と具体化し、義務化されました。
よって、学校においては、校長をはじめ教員には、この趣旨に添って生徒を指導す
る義務と責任を負っていることになります。
3 「生徒への押しつけで敬意や愛国心が育つのか」の質問について
各教科等の授業の中には、苦手な科目もあり受けたくない授業や受けてもよくわか
らない授業もあると思います。それでも授業は受けなければなりません。そして、受
けているだけでなく進級や卒業をするためには、ある一定の評価や出席日数の確保が
必要となります。このことは学生の自治がかなり認められている大学においても同じ
です。
学校における入学式や卒業式は生徒にとっても授業と同じく重要な意味を持ってい
る教育活動の一つです。この儀式に国旗を掲揚し、国歌を斉唱することは、生徒が日
本国民の一人としての意識を高め、自国を愛し国際社会に生きていくことのできる人
間としての基盤を育てることであり学校の責任でもあります。『押しつけ』と決めつ
けるのではなく、これからの日本の学校教育の重要な基本方針の一つであることを十
分に理解してもらいたいと思います。
4 『憲法やその他の法律で、日本の国旗・国歌は定められていないのではないか』
という意見について
結論から言えば日本の国旗・国歌は明治以来使用され、すでに国際的に認知されて
います。このように現行法上の規定はないが慣習法としての効力を持つものとされて
います。各々の国によって国旗・国歌の取り扱いは異なっています。参考までにその
一例を挙げてみます。
国旗の取り扱い
(1)憲法で定めている国
中国・フランス・イタリア
(2)法律で定めている国
ノルウェー・スウェーデン・アメリカ・オーストラリア
(3)慣習によって行われている国
スイス・日本
(4)勅令等で定められている国
イギリス・オランダ・韓国・カナダ
国歌の取り扱い
(1)憲法で定めている国
フランス・ポーランド
(2)法律で定めている国
スペイン・アメリカ・カナダ
(3)慣習によって行われている国
イギリス・スウェーデン・デンマーク・イタリア・日本
(4)政令・閣議等で定められている国
ベルギー・ブルガリア・オランダ・スイス
国旗・国歌の取り扱いは以上のように、国によって異なっています。その国の体制
や歴史によって違います。日本の国旗である「日の丸」や国歌である「君が代」は現
行法上の規定はありませんが明治以来の慣習として使用されてきており、長い歴史の
中で国際的にも認められているものです。現在、国連をはじめとする国際会議等にお
いて「日の丸」「君が代」は日本の国旗・国歌として認知され、使用されています。
言ってみれば慣習法となっていると考えられます。
※慣習法
・慣習に基づいて成立する法
・法としての力を有する習慣
・不文法の典型的なもの
5 日本の戦争責任と国旗・国歌との関連及び「君が代」の歌詞の意味についての質問
現在、「日の丸」「君が代」が日本の国旗・国歌であることは 外国の全ての国々
から望められいることです。
戦争という異常事態になると、例外なくどこの国も国旗・国歌をその国の象徴とし
て利用してきていることも事実です。この事は、国旗・国歌の宿命であるともいえま
す。ただ国旗・国歌を認めることと、戦争を認めることとは結びつかないことも確か
です。
「君が代」の歌詞については「君」とは、明治以捧は「天皇」を示すと解釈された
ことは事実です。しかし現行憲法のもとでは「天皇」は「日本国民の総意に基づく我
が国の象徴」(憲法1条)とされており、この歌の持つ意味は、「日本の国や日本国
民統合の象徴としての天皇を持つ日本の繁栄を願ったものである」(国会における政
府答弁)とされています。この事は、国民主権を明記した現行憲法に照らしても明ら
かなことです。
この歌詞の起源は古く、古今和歌集の「わが君は千代に八千代にさざれ石のいはほ
となりてこけのむすまで」から選定されたものが、現在の国歌の歌詞は「君が代は千
代に八千代にさざれ石のいわおとなりてこけのむすまで」となっています。
以上の理由により、入学式や卒業式等で国旗を掲揚し国歌を斉唱することは、生徒
の権利を侵害したり自由を奪うものではなく、学校としては当然やらなければならな
いものであることは理解されたと思います。
校長としては、生徒のみなさんが国際社会に生きる人間として、「国旗」の掲揚・
「国歌」の斉唱の意味を前向きにとらえることをを強く望むものです。
平成 9年 3月 4日
埼玉県立所沢高等学校長 栗田憲昭
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