−今回のテロをどう受け止めますか。
米国は冷戦後、人・モノ・カネ・技術が国境を越えるグローバル化を推し進め、開放性が強みだった。その開放性を逆手にとって弱みをついて犯行だ。実行犯が米国内で操縦訓練を受けた点に、『開放性の逆説』の苦悩が象徴されている。
−その一方、国際関係での米国の内向き傾向が指摘されていました。
冷戦後、とりわけブッシュ政権誕生後に色濃くなった。この夏は京都議定書からの離脱、包括的核実験禁止条約(CTBT)のたなざらし、国連での小型武器取引規制への反対など、米単独主義の傾向がピークに達していた。冷戦後に対抗勢力の脅威がなくなり、国際関係に真剣に関与するという気持ちが薄らいでいた。この悲惨な出来事が、冷戦後の世界システムの統御に共同で取り組む転機となってほしい。
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−日本の対応は。
中東における日米の立場の差を大切にすべきだ。米国は国内の600万のユダヤ系市民がいて、政治的影響力がある。過去20年間の軍事・経済協力の3割はイスラエルに向けられ、中東政策の機軸だった。また、中東の地域紛争にも深く関与してきた。湾岸ではホメイニ革命のイランを封じ込めるためイラクを積極支援し、フセイン政権の増長を招いた。アジア南西部でも旧ソ連が占領したアフガニスタンではゲリラに武器や資金を投入し、今日の内戦につながる混乱に拍車をかけた。日本はいかなる中東の紛争にも関与せず、武器輸出をしたことがない。中東への適切な距離を保っているという点で、日本は一枚岩ではない。
−このような緊急事態にこそ、「目に見える支援」が必要なのでは。
報復措置に使う在日基地を提供していること自体、実質的な後方支援だ。税日米軍が中東に展開することについても、以前は日本国内に、日米安保条約の『極東条項』へのこだわりがあった。日本は敗戦で、近代史の総括として、地域紛争の解決に武力をもってあたらない、という機軸を確立した。憲法の条文の問題ではなく、どんな大国であっても武力介入では解決できないばかりか、問題を複雑にすることを、骨身にしみてしった。
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−日本が支援しなければ信頼をなくすという声もあります。
拙速な軍事支援を打ち出し、評価をしてもらいたいというのは、米国のフィルターを通してしか世界を見ていないからだ。私はこれまで、日本が武力をもって紛争にかかわらないという立場を説明し、国際社会で孤立感を覚えたことはない。憲法の『制約』があるから後ろめたい、というのは、それこそ卑屈な説明でしょう。憲法は『制約』ではなく、国際社会に説明すべき理念のはずです。議論を深めずに、この流れの中で日本が大切にしてきた機軸を修正するのは、大問題です。
−反テロリズムについて、日本は「支援国」ではなく、当事者です。
小型武器輸出規制や地雷廃絶、財源となる麻薬取締りなど、知識も金も人も結集し、根気強く立ち向かうべき課題は山積みしている。中東諸国と一定の距離を保ち、多様な回路をもつ友人がいるのは、米国にとっても利益です。テロ撲滅には、テロを支える構造事態を変える必要がある。長く困難な歩みでは、方向づけたり、渡りをつけたり、時には戒めたりする多くの友人がいる方がいい。多様性こそがテロに立ち向かう力です。
9月24日「朝日新聞」掲載