歴史的事実をねじ曲げ、再び天皇中心の国家へ、
「生命の犠牲」もいとわない軍国少年をつくりあげる
扶桑社歴史・公民教科書の採択に断固反対する! 「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)とその支持者が採択運動を進めている、扶桑社歴史・公民教科書に対して韓国、中国政府をはじめ東南アジア諸国の民衆、国内の進歩的、良心的な人々から強い批判の声が上がっている。
「つくる会」歴史教科書は、その近現代史部分だけをとってみても、日本帝国主義の朝鮮植民地支配を正当化し、その過酷で非道な植民地支配の実態を隠蔽している。日本の中国侵略を隠し、南京大虐殺事件の事実に疑問を抱かせ、太平洋戦争の記述では「大東亜戦争」という用語に固執し、アジアの独立に役立ったとして擁護、賛美している。日本軍の攻撃や特攻隊出撃、玉砕を劇画調で描き戦争そのものを賛美している。従軍慰安婦や朝鮮人強制連行の記述もない。日本国憲法を否定し大日本帝国憲法を礼賛している。歴史全体を見ても、日本中心、日本の優位性を強調する記述が目立つ。天皇を中心とする「神の国」=皇国史観によって描いている。
「つくる会」公民教科書は、憲法の内容と意義を説く替わりに、憲法の諸原理の限界を説き憲法を非難している。平和主義の説明以上の分量を割いて9条「改正」の議論を強調している。「国民の義務」の項では憲法にない「国家に対する忠誠の義務と国防の義務」を諸外国の例を引いて強調、「核兵器廃絶は絶対の正義か」とのコラムで核廃絶の動きに冷笑を浴びせている。基本的人権の項では国家や社会の秩序とルール維持を強調し権利や自由はその枠内であることをことさらに強調し自粛させている。天皇を「民族の祭りの主」、「敬愛の対象」、「精神的な中心」、「日本国を代表」と礼賛し、国旗と国歌の尊重を要求。日本国憲法を否定する一方で大日本帝国憲法を大きく評価している。
我々ピース・ニュース学習会とフィールドワーク等の諸行動参加者がこれまでの活動を通して学んできた事実は、「つくる会」歴史・公民教科書の記述とことごとく全ての面において対立する。
長野県松代大本営跡、戦没者慰霊美術館「無言館」、旧海軍司令部跡である日吉台地下壕、旧陸軍弾薬製造工場および弾薬庫跡である横浜市「こどもの国」、韓国「ナヌムの家」訪問と日本軍「慰安婦」被害者の方々との交流、強制連行被害者キム・ギョンソクさんとの交流、沖縄戦戦跡、ガマ、沖縄基地、ヘリポート建設に反対する名護住民との交流、教育現場での日の丸・君が代強制に反対する現場教師、地域住民、生徒との交流等々。
我々は、自ら学び、肌を通して実感してきた事実から、「つくる会」歴史・公民教科書が憲法9条を否定し天皇中心の「神の国」に対して忠誠を尽くし、「公」のためには個人の犠牲をかえりみない、狭隘な愛国主義的イデオロギーを植え付ける政治的文書であること、自国中心でアジア蔑視の傲慢な歴史感、社会観、人間の理性や理想を否定し、刹那的でニヒリスティックな現実主義に貫かれた、特異な思想に彩られた「教科書」であり、教育の場で使うことが、次の世代を担う子どもたちに有害な影響を与えるものであると断言できる。
「つくる会」とその支持者には、右翼、財界、自民党、官僚、労働組合官僚等が名を連ねている。彼らのこうした動きは、95年以降急速に進められた、日米安保再定義、新ガイドライン体制、国旗・国歌法制定と学校における「日の丸・君が代」強制の動き、盗聴法制定、改憲を目指す憲法調査会制定、有事法制整備、教育基本法改悪の動き等々、日本の軍国主義強化の動きと呼応したものである。
それらの背後には、戦後日米安保体制と米の「核の傘」のもとで、急速に発展し、特にアジアでの経済権益をもとに世界第二位の資本主義大国に成長した日本経済がある。日本の右翼、財界、支配層は、こうして発展した「大国」日本が、世界の先進資本主義国と肩を並べて軍事力においても、「応分の負担」をし「金だけでなく血を流」せる国となり、経済的利権のために、軍事力で世界秩序を維持する一翼を担いたいと切実に考えている。こうした立場は、日本と世界の働く人民大衆とは全く無縁であるばかりか、徹底して対立する立場であることは明らかである。血を流すのは常に金も権力もない人民大衆である。日本の人民大衆を再び駆り立てるために、彼らは復古主義的な天皇中心の「神の国」思想を持ち出した。
日本の人民大衆を戦争のできる「普通の国」の一員として動員するために、復古主義的な、忌まわしい、血塗られた「天皇主義」に頼らざるをえないのは、日本の支配層のアキレス腱である。アジアの民衆がこれに最も敏感に反応し批判をするのは当然である。
われわれは、過去の歴史の事実と今日の軍事力強化、軍国主義強化の現実を徹底して学び暴露し、アジア諸国の人民の運動と連帯し、国内の進歩的な人々と連帯して軍国主義強化と闘う。
今年度教科書採択について我々は次のことを要求する。
● 政府、文部科学省は韓国、中国からの「再修正」要求に誠実に応えよ!
● 政府、文部科学省は「つくる会」教科書の検定合格を取り消せ!
● 各地の教育委員会は、教科書として不適格な「つくる会」の教科書を採択するな!
● 教育委員会は教科書採択の手続きに従来どおり現場教職員の意見を反映させよ!
● 教育委員会は教科書採択の経過と採択理由を公開せよ!