●2月5日パウエル米国務長官がイラクの国連決議違反の「証拠」についての演説を行いました。 ●新聞やテレビでは、「イラク側の論拠が揺らいだ」、「守勢に立つロ仏中」などと宣伝し、米の「証拠」が説得力があるかのような報道をしています。 ●本当でしょうか?!私たちは、パウエルの国連演説がイラク攻撃をするためのでっち上げ、レベルの低いプロパガンダそのものであると考えます。 ●1回目に引き続き、パウエルの国連演説がいかに欺瞞に満ちた低レベルのものであるかをお伝えします。 |
元国連査察官 スコット・リッター が語る パウエルは何も示せなかった! 見出しはピース・ニュース |
2月6日スコットリッター講演とシンポジウムから |
国連安保理でのパウエル米国務長官報告から24時間も経たない2月6日夜、東京大学駒場キャンパスにて、「元国連大量破壊兵器査察官スコット・リッター氏『イラク戦争』を考える講演とシンポジウム」が、東京大学駒場教官有志主催、スコット・リッター氏招聘実行委員会と100人村基金共催で開催されました。立ち席を含めて収容人員720名に対して500名以上が入場できないほどの大盛況で、まさにイラク戦争反対の熱気につつまれた「講演とシンポジウム」となりました。
プログラムは2部構成で、第1部はスコット・リッターさんの講演、第2部は「『イラク戦争』を考える」と題するシンポジウムで、パネリストとしてスコット・リッターさんのほか、姜尚中東京大学教授、首藤信彦衆議院議員、高橋和夫放送大学助教授、田中宇国際情勢解説者、石田英敬東京大学教授(司会)の皆さんで討論が行なわれました。第1部、第2部とも、米の対イラク戦争開戦が差し迫る緊迫した情勢の中で、どうやって反対し止めていくのかという立場から貴重な意見が多く出されましたが、前日のウソと憶測と欺瞞のパウエル報告を糾弾することの大切さからも、この報告ではスコット・リッターさんの講演と発言(あとの記者会見での発言も含む)を中心にまとめさせていただきます。
スコット・リッターさん(41歳)は、よく知られているように、1991年から1998年までイラクの査察現場で最も有能な米国人主任査察官として活躍し、98年にはUNSCOMに対する米政府の目にあまる介入に抗議して辞任し、それ以来自らの体験とデータにもとづいて、根拠もなくイラク攻撃に突き進む米政府を厳しく批判しつづけています(詳しくは「イラク戦争――ブッシュ政権が隠したい事実」合同出版)。その言葉は、あくまで事実に即しながら、しかもこのイラク戦争反対の確信に満ち溢れ、情熱的でかつエネルギッシュで、聴くものの心を深く捉えずにはおかないものでした。
米政府の狙いは大量破壊兵器の廃棄ではなくフセイン体制転覆
スコット・リッターさんは、91年から98年の自ら参加した査察と現在行なわれている査察を対比しながら、米政府が査察そのものを否定し、大量破壊兵器の廃棄ではなくフセイン体制転覆を狙っていること、そしてパウエル報告にはイラクが大量破壊兵器を開発・保有していることを示す確たる証拠は何一つ含んでいないことを厳しく批判しました。以下はその要点です。
米は前回の査察のときも介入してきた
(1)イラク査察が成功する条件は、@イラクの協力が得られること、A安保理のバックアップ体制が得られること、B廃棄させる側も国際法を守ること、である。91年から98年の査察では、@ABとも満たされず、とくにBにおいては、米は査察よりもフセイン体制転覆を優先するあまり、査察を非常に歪めてきた。米はフセインの安全に関する情報を集め、挑発するために不適切な行動をとった。イラクは完全な査察への協力をしなかったが、米は査察を歪ませるさまざまな行為をやったために不本意な状況で査察を中断せざるを得なかった。しかしそのなかでも、査察団は大量破壊兵器工場の100%、兵器の90〜95%を確証できる形で破壊・廃棄した。98年に真っ白になったわけではないが、大部分が取り除かれた状態で中断が起こった。
査察が完全に進むことは米の望みではない
(2)今回は、イラクは無条件で査察を受け入れることを承認し、協力しない場合には重大なことになるという安保理のバックアップもある。@とAは満たされている。ところが、Bの執行する側が国際法を守るということが満たされていない。米は国連憲章にのっとって査察すべきなのに、軍備廃棄よりフセイン転覆をやろうとしている。このことが査察を歪め汚している。査察によって大量破壊兵器を完全に廃棄すれば経済封鎖を解かなければならず、フセイン政権のもとでイラクが復興することとなる。米の狙いはサダム・フセインを倒すことにあり、査察が完全に進むことは米の望みとは逆なのだ。
パウエルは何も示せなかった
(3)米は昨日反証できない証拠を示すといったが、そのパウエル報告は単なる状況証拠にすぎず、大量破壊兵器の保有や開発を示すものは何一つ含まれていない。
写真――何を語るものでもない。誰も裏付けることはできない。もしそれが事実なら査察官を送って調べればわかることである。
傍受のテープ――どのような文脈で誰がどこでやった会話なのかが不明であれば証拠とはならない。文脈から切り離して一部だけを取り上げても意味を持たない。
亡命者の証言――亡命者の質を問わなければ何の意味もない。経験では、イラクの亡命者は信用できない場合が多かった。
射程1200Kmのミサイル――「ある」というだけで写真も何もない。長距離ミサイルのためには部品調達から試射まで多くのことが必要であるが、それを裏付けるものは何もない。これはパウエルのウソである。
18台のトラック移動式製造工場――絵を見せただけで何ら確たる証拠ではない。
アルカイダとの関係――自分の専門外であり、はっきりした事実について言えるわけではないが、CIA、FBIがあの発言は遺憾である、自分たちはそれを裏付けるものを持っていないと言っている。
U2偵察機による査察――米の最優先目標がフセイン体制転覆にあることをよく考えなければならない。非常に高性能な情報収集力を持つ偵察機を使うことをなぜ国連が要求するのか。米は97年のイラク攻撃のとき、査察団のU2の情報を使って8割以上の目標を攻撃した前科がある。なぜ米のU2ではなく、ロシアやフランスのものを使わないのか。
以上を一言でいえば、パウエル報告はイラクが大量破壊兵器を開発・保有している確たる証拠は何も示せなかった。1つ1つ検証して行けばすべて否定されるものである。そして懸念材料があるならば査察官にキチンと仕事をさせれば良いことであって、武力行使して廃棄させる理由には全くならない、ということになります。
米の新保守主義は世界の脅威
シンポジウムの中で、スコット・リッターさんは、自分が非愛国者であると攻撃されていることについて、私はアメリカを愛している、いままさにイラク戦争に反対することこそが愛国なのだと強調し、会場から大きな拍手を受けました。アメリカではいま権力と傲慢に酔っ払っている人間が運転をしている、アメリカの友人は車が崖から落ちないように手を差し出して欲しい、日本の人はほとんどがこのイラク戦争に反対でしょうが、あなた方の政府は支援しようとしている、これが民主主義でしょうか、と日本人と日本の運動に対する厳しい問いかけがなされました。
また、スコット・リッターさんは、米の現在の権力について、つぎのように話しました。冷戦の時代には米とソ連の二極があり一定の秩序があった、しかしソ連の崩壊によって米が唯一のスーパーパワーとなり、絶対的な権力が絶対的に腐敗することとなった、ネオコン、新保守主義はアメリカの決定機構を乗っ取った、新保守主義は憲法の精神に反してる、アメリカが帝国主義的支配に乗り出したらそれこそ世界の脅威となるだろう、と。
シンポジウムでは、スコット・リッターさんからの厳しい問いかけに応えて、日本での反対運動の力の不十分さについても、パネリストの皆さんのいろいろな角度からの発言がありました。
そして最後に、このイラク戦争を何としても止めようとこの集会を準備し諸行動を準備してきた若者たちからスコット・リッターさんに沢山の花束が贈られ、互いにこの戦争を止めさせるまで、日本政府に戦争支援を止めさせるまでたたかっていくことを、大拍手のなかで誓い合いました。