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☆ マスメディアの本質
「マスメディアは権力の見張り番であり、特定集団の利益からは独立している」という一般の理解とは逆に、民主主義社会におけるマスメディアの重要な役割は、エリートが決めた政策に大衆がそむくことのないように、情報を管理し、「世論」をつくりあげ、不人気な政策に支持をとりつけるプロパガンダを行なうことだ。
☆ 現代社会における民主主義の実態を理解するための、二つのキーワード
Manufacturing Consent (合意の捏造)という言葉の出所は、ウォルター・リップマンが1921年ごろに書いた論考。要するに、「プロパガンダの新たな技法によって、一般大衆のあいだに彼らが望んでいないことについて合意を成立させること」であり、民主主義の実践に革命的な変化をもたらすものです(『世論』)。リップマンによれば、一般大衆は「公益のなんたるかを理解できない」ため、彼らの影響力を排除して一握りの「専門家たち」がものごとの決定にあたるのが民主主義の姿として望ましく、必要でさえある、のだそうです。
Necessary illusion (必要悪としての幻想)は米国の神学者・外交評論家で同時代の政治家に大きな影響を与えたラインホルド・ニーバーの言葉。ニーバーによれば、理性はほんの少数の人々だけに恵まれた能力であり、愚かな大衆は理性よりも信仰によって動かされる。この無邪気な信仰は、「必要悪としての幻想」や、「感情に訴える過度の単純化」を要求する。すなわち、このおめでたい人たちが間違った方向にいかないように、つくり話を与えてやらねばならないのだ。
☆ 言語理論から「権力構造」批判へ
あらゆるヒトには言語を学習し、使いこなす力が備わっている。言語能力は生得的なものであり、言語間の差異は表面的なものにすぎない →人間に共通する普遍的な特性("human nature")というものがあるはずだ。(ここで普遍的な「人間性」の存在をめぐってフーコーとのバトルになります。「自明の理」に訴えるチョムスキーの論法との根本的なずれ。)
☆ マスメディア批判は陰謀説か?
何がニュースになるかを決めるのは、「ニューヨーク・タイムズ」のような一握りの報道機関。彼らの選択が歴史に記録され、世論を方向づける。この選択が、一定の方針にそって系統的に行なわれているというチョムスキーの主張に対し、それは典型的な「陰謀論」だとして退ける人々がいます。「一握りの資本主義者たちがどこかに集まって、密かにものごとを決定し、世の中を操っている、というばかげた妄想だ」と主張する小説家トム・ウルフ。「陰謀説」というラベリングに対し、チョムスキーは自分の主張は市場原理にもとづいた科学的分析によるものだと反論しています。
☆ 市場原理にもとづいたマスメディア分析
マスメディアは巨大資本が所有する企業であり、利潤を最大化せよとのプレッシャーのもとにおかれている。マスメディアの行動は、市場原理によって説明できる。これを、ニュースを選別する5つのフィルターとして詳細に論じたのがプロパガンダモデルです。その根幹にあるのは、大企業としてのメディアが、番組視聴者を商品として他の企業(スポンサー)に売るという構造です。消費者として位置づけられるニュースの受け手は、まったく無力な存在です。
☆ 「第五の自由」を追求するアメリカ
というのは、もちろんフランクリン・ルーズベルトの「四つの自由」(言論の自由、信仰の自由、欠乏からの解放、恐怖からの解放)の次に来るもの。すなわち、アメリカが他国において「奪い、搾取し、支配する自由」(freedom
to rob, exploit and dominate)だという皮肉。戦後のアメリカの外交政策に貫かれているこの側面が、大衆の目からは隠されている。
☆ チョムスキー・バッシング ――フォリソン事件
言論の自由の擁護は、自分の支持する意見に対してよりも、我慢できない悪辣な主張と思われるものに対してこそ適用されなければならない。フォリソン事件とチョムスキー・バッシング:「歴史修正主義者」とは、ナチスによる組織的なユダヤ人大量虐殺計画というものはなく、ガス室も実在しなかったと主張する人々のことです。このような主張に対する欧米言論界の拒絶反応の強さは映画にある通りですが、たとえ唾棄すべき主張であってもそれを表現する自由は擁護されねばならないという原則をまげないチョムスキーは「ホロコースト否定論の擁護者」としてヒステリックな非難を浴びることになります。こういう妥協のなさがメインストリームから疎まれるゆえんでしょうが、中途半端な妥協がダブルスタンダードを生んでいるのも事実です。現在のパレスチナのありさまと、シオニストのプロパガンダ戦略の威力を見ると、「ホロコーストの特権化」ということについて、改めて考えさせられます。
☆ マスメディアは思考を奪う
分断され、孤立化し、受身の存在にとどめられた大衆は、ものを考える機会を奪われる。 メディアのつくりだす虚構の世界に囲い込まれる無力な存在
☆ メディアの虚構からのがれるために
オルタナティブ・メディアの活動:サウスエンド・プレスは1977年に始まった非営利の出版共同体。チョムスキーのみならず、バーバラ・エーレンライク、ベル・フックス、バンダナ・シバ、アルンダーティ・ロイ、ハワード・ジン等々、活発な政治発言をする人々の著作をすでに200冊以上も出しています。デービッド・バーサミアンはコミュニティ・ラジオ「オルターナディブ・ラジオ」を中心とした放送活動家。番組でのインタビューを基にした出版も多数。そのほかにも、地域のケーブルネットワークで住民の制作した番組を流すパブリックアクセスTVチャンネルは、北米で2200を越えています。これらは相互に協力関係を築いており、主流メディアとは違なる視点からの番組を提供しています
☆ 先代ブッシュ大統領の就任演説
バックに流れるローリー・アンダーソンの「オー・スーパーマン」がやたら皮肉。アメリカの「自由と民主主義」を称えるパパ・ブッシュの演説をそのまま流しているだけなんですが、異様に浮きあがって反吐が出るほど偽善的に響くのは、それまで映画で説明してきたことに重ねて演出効果も大きい。このあたりが、監督が言うところのチョムスキーが愛用するレトリックのパロディ、すなわち相手の言葉をそのまま引用して、その歪みを際立たせるというテクニックの映像版でしょうか。
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