【INTERVIEW】
インタビュー
インタビュアー:倉田あゆ子
●市民によるメディアの役割とNPO●
橘 雅彦さん(JCA−NET)
パソコンは、だんだん私たちの生活の中に欠かせなくなってきました。橘 さんは「自分たちの活動にも役にたちそうだが、とても使いこなせそうもない」と思っている方を、サポートしたいと考えています。
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現代の情報化社会においては、市民運動にとっても情報の発信・交換・共有・集積などが不可欠です。
橘 さんはもともと市民運動に関心を持っていたことに加えて、お仕事でパソコンを使っていたこともあって、現在「JCA−NET」の活動をしています。
こうした活動の世界的な先駆けとして、1990年国際的な市民運動の電子ネットワーク「APC(進歩的コミュニケーション協会)」が結成されました。その存在を知った人から「日本での拠点(ノード)を作ろう」という電子メール上での呼びかけがあり、集まった人々によって、まず「JAC(市民コンピュータコミュニケーション研究会)」が発足しました。JCAは調査・研究活動を続け、やがて情報を集積するためのコンピューター(サーバ)を設置・運用するまでになり、発足から3年後の1997年4月、さまざまなNGOや市民団体と共同で、独立の非営利事業体「JCA−NET」が設立されます。JCA−NETは「インターネットという道具を使って、市民活動どうしのネットワークを作っていくためのお手伝いをしたい、ひいては市民活動のネットワークづくりを通じて、社会をよりよい方向に変えていきたい」と考えています。
主な活動は、インターネットのホームページのサーバとしての機能を維持し、電子メール、ホームページ開設、電子会議室、メーリングリストなどのサービス提供。またJCA−NETのユーザーになった方に対して、より有効にサービスを利用してもらうためのサポート活動をしています。電話や電子メールでの問い合わせに答えたり、条件が合えば出張サポートを行うこともあります。そのほかにも「ホームページ教室」「パソコンなんでも相談室」などを開いています。
橘 さんは「自分たちの市民活動にパソコンを生かしたいが使えないでいる人たち」と「パソコンに強く、教えることも好きなボランティアの人たち」をマッチメーキングする活動を、これから埼玉県でやりたいと考えています。JCA−NETではインターネットを中心としたサービスの提供になりますが、こちらでは地域レベルでより個別具体的な要求に答えられるような形を考えています。JCAの代表をつとめる橘さんにNPO法と今後の活動についてうかがいました。
──「JCA−NET」ではNPO法人格取得についてどう考えていますか?
橘 現在JCA−NETは任意団体です。NPO法人格の取得についてはとくに急いで行うというつもりはなく、今後の検討課題になるかなと思います。法人格取得を急がない理由は、JCA−NETを設立したときに、サーバの機械を運用する会社として(有)市民電子情報網を別に設立し、資産管理等はそちらで行えるような仕組みを作ったからです。JCA−NET設立の際に、NPOという制度がなかったためにこういう方法をとらざるを得なかったのです。
──NPO法ができたことやNPO法ができるようになった時代についてどうお考えですか?
橘 歴史の必然だと思います。阪神大震災を契機にNPOの必要性が強調されたけれど、その芽は随分前からあった。これまでのやり方が立ち行かなくなって、市民1人ひとりが自分たちの力で少しずつ生活をよくしていく「市民が主役」の時代になったということでしょう。
同じ問題を抱えた人が、地域の壁を越え、国境を越え問題を解決してゆく、そのための道具としてインターネットを利用したいと思っています。──市民活動にどんなイメージを持っていますか?
橘 市民活動も情報をどれだけお互いに共有できるのか、また自分たちの抱える問題や関心事をわかりやすい形にして市民に広げ、どれだけ活動のサポーターを増やすことができるのかが問われると思う。そう考えれば市民活動は情報集約的なアクティビティだろうと思います。だからネットワークを広げることも重要なツールになる。JCA−NETのような活動は市民活動をもっと盛んにするために重要な役割を担っているはずだと思っています。
──JCA−NETの今後の課題は何ですか?
橘 まずは非営利の事業として安定的な活動にしていくことです。そして国際的なネットワーク作り、とくにアジアとの関係作りに力を入れていきたい。アジアは地域も広いし、文化も多様だし、言語もバラバラ、さらに経済がどこの国でもおかしくなってきた。こうした状況の中、市民が国境を越えて問題を共有し、手を携えることが大切だと感じます。実際にJCA−NETに参加している団体もいくつかあります。
──これから埼玉県でやってみたいと思っている活動を具体的に教えてください。
橘 具体的なニーズを把握するためにアンケートを行ったことがあります。「情報提供」「パソコンを実際に使えるようにインストラクション」「ソフトの受注生産」「緊急お助け活動」などがあがりました。これはまだ私個人のアイディアの段階ですが、まず専門的な知識のある人がコアになってやり方を作っていき、そこにボランティアが広い層で集うという方向で考えています。埼玉県にもインターネットが好きな人たちの集まりがいくつかあるので、電子メールで「地域のNPOをサポートする活動に関心ありませんか?」と呼びかけてみたら、何人か返事がありました。インターネットが好きな人たちの集まりでも、インターネットを活用することで地域へ貢献することも必要だと考えている人たちがいるのです。
──市民運動にとってのメディアの役割をどう考えていますか。
橘 インターネットを使って情報を交換しあえるという利便はもちろんあるでしょう。しかしただそれだけではないと思う。同じ想いをもって、いろいろな所で、いろいろな人々が活動しているわけで、その人たちと地域差や時間差を気にすることなく意見・情報を交換しあえることで、かなり励まされる部分が大きいのではないでしょうか。1つの問題に対して全国から知恵を出し合う沢山の電子メールが届けられることは、活動の元気づけになる。マスメディアからの情報は私たちを怒らせたり、元気をなくさせたりすることが多いけれど、オルタナティブなメディアが運ぶ最大のものは“元気”だと思っています。
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橘 さんはこれまで活動を続けてくる中で、電子メールを通じての出会いがあり、その出会いが新しい活動へとつながっていったそうです。電子メールを通じた出会いは私たちの世界を広げてくれる、そんな可能性を秘めていることをあらためて感じさせられました。
「JCA−NET」の紹介とご案内
■連絡先:JCA−NET事務局((有)市民電子情報網)
〒101− 東京都千代田区神田錦町3−21三錦ビル3F
TEL:03−3291−2875 FAX:03−3291−2876
電子メール:support@jca.ax.apc.org
ホームページ:http://www.jca.ax.apc.org/
●法人格とるつもりありません●
長内 経男さん(市民じゃ〜なる)
インタビュー●倉田あゆ子
毎月わが家に送られてくる『市民じゃ〜なる』。その紙面を見るたび、市民運動にとってこうしたミニコミの存在は重要だと感じます。埼玉県には『市民じゃ〜なる』があって良かった!と思っている方がたくさんいるのではないでしょうか。
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創刊準備の3号を経て、1995年6月10日に『市民じゃ〜なる』創刊号が発行されます。『埼玉非核平和通信』の元メンバーと『週刊金曜日』読者会のメンバーが中心となって、「平和、人権、自治と共生をめざす草の根ジャーナリズム」をスタートさせたのです。その後新たなメンバーも加わり、現在は編集部8人と協力スタッフ5人ほどで月1回の発行をこなしています。当初から広告には依存せず、購読料のみで発行を続けるという方針を貫き、専従は置かず、編集部メンバー全員が別に仕事を持ちながら編集・発行のための活動を続けています。
『市民じゃ〜なる』は県内のさまざまな市民グループ同士の連携・交流が必要であるという考えに基づいて、そのための情報発信を行えるメディアを創出したいと考えています。市民運動間の交流がなかったためにおこる相互不信をなくしていきたい、また自治体に対して市民的なイニシアティブを作っていくことに役立ちたいという願いもあります。どのような市民グループも平等・公平に扱い、掲載したいという意識を紙面から感じとっている方も多いでしょう。
『市民じゃ〜なる』の紙面『掲示板』は、幅広く市民グループの活動予定を掲載し、その相互交流に一役かっています。『情報ファイル』では、「マスコミの記事を検証せずに掲載するのはおかしい」との批判を受け止め、マスコミから得た情報の場合、すべて当事者に確認し裏付けをとるという作業を欠かしません。
また『市民じゃ〜なる』の大きな特徴として、読者に情報を届けるにとどまらず、「編集部自らが現場の運動に関わって学ぼう」「自らが行動する市民であり続けよう」という強い想いがあります。具体的には、「核問題を考える会」「情報公開制度研究会」などに編集部のメンバーが参加し、中心になって活動しています。また「県南3市の合併・政令市化反対」や市民オンブズマンの運動、市民福祉オンブズマン、新ガイドライン反対の運動、「埼玉県全自治体平和事業調査」なども編集部のメンバーによる活動です。
週1回編集会議を開くほか、月1回公開編集会議を開き、前号の合評会を行っています。編集部メンバーどうしで厳しい批評が飛びかうそうです。
『市民じゃ〜なる』の発行人である長内 さんにNPO法についてうかがいました。──『市民じゃ〜なる』ではNPO法人格取得についてどう考えていますか?
長内 『市民じゃ〜なる』は現在任意団体です。このままでもとくに不便は感じませんが、将来的に運動体として自立した形態を法人格の形で持ちたいとは思っています。NPO法人格もその選択肢の1つになるでしょう。法人格を取得するメリットとして、今後郵便物の低料金化の措置が入ってくるといいなぁと思います。デメリットとしてはやはり税金とディスクロージャーの問題を感じています。
──NPO法ができたことやNPO法ができるようになった時代についてどうお考えですか?
長内 NPO法は市民運動が力を持ってきた反映でもあるし、行政権力の弱体化、とくに財政的な面からの弱体化の反映でもあると思う。NPOがたくさん存在しているアメリカは犯罪社会だし、階級分裂がひどいし、とても成熟した市民社会とは言えない。単なるNPOの広がりが同時に成熟した市民社会を保障しないということだと思います。国家の力量が低下し、市場原理が広がり、社会的に制限しなければならない部分が多いのに、制限できていない。こうした状況の中、これからNPOが社会的にどういう力を持つのか、どういう事業をやっていくことができるのか、どういう形で発展するのかということが問われるのだろう。NPO法ができ、ただNPO団体の数が増えればいいというものではないと思っています。
──法人格を取得するかしないかで、市民グループの中に線引きがされるのではという声もあるようですが…?
長内 市民グループの側から線引きをすることはないと思う。ただ行政からの対応の中で結果的に市民運動の中に線引きが生まれることはあると思う。市民グループもそれぞれ問題や関心事が違い、ミッションも違う。すでに行政内事業化されてきた分野であれば、いっしょにやっていくことも可能だろう。しかしまだ「市民的公共圏」として確立していない分野、事業化・法律化されていない分野を公共化していく市民運動があり、その使命は市民運動にとって大きいと思う。そうした2つの違いはあるでしょう。
またNPO法が施行されれば、政党、企業、宗教団体、暴力団などがダミー団体のようにしてNPO法人格をとってくるにきまっている。NPO法が本来市民運動のために設定されたものであっても、それが生かされない場合も多いのではないか。いろいろな系列の団体がNPOとして生まれてきても、それを排除することをお役所に求めることはできない。逆にそうした権限を持たせれば活動内容にまで介入するようになってしまう。そこでできる自然な溝はできても仕方ないと思います。──「企業や行政とのパートナーシップ」についてはど
う考えていますか。
長内 ミッションの共有がパートナーシップを支えると思う。それは企業や行政がいかに市民化されてくるかということだと思う。『市民じゃ〜なる』が、行政と事業を共同で行うということは今のところ考えられませんが、行政がどう運営されていくかについては絶えず厳しい目をもち、緊張関係を保っていきたいと思っています。
企業とのパートナーシップについて言えば、補助金を出したり、共同事業のできる企業でも、また別の部門で社会に対して悪いことをしていることも十分あり得る。パートナーシップを組む場合、そうした点について個々の団体の良識が問われることになる。欧米で企業からの献金を受けつけるNPOが存在し、そこから個々のNPOへ資金を渡していくような仕組みがあるのはそのためでしょう。──今後の活動についておしえてください。
長内 『市民じゃ〜なる』の紙面は量的にも、質的にももっと欲張っていきたい。情報源の広がりの限界を感じることもあるので、マンネリにならないよう新しいものを発掘したり、紹介したりしていきたい。またこれまで関わりをもった分野、情報公開制度や調査活動したものなどを市民運動のサポート資料としてまとまった形で出版したいと思っています。
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「小さくても自分たちの理念は失わないでやっていきたい」という言葉が印象的でした。『市民じゃ〜なる』の紙面には、一つひとつの問題に真正面から取り組んでいる編集部メンバ一人ひとりの生き方が写し出されているように思いました。
『市民じゃ〜なる』の紹介とご案内
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