パネルディスカッション 市民とNPOが築く成熟した市民社会とは |
村 田
山岸さんに、NPOとは何かを足早に説明していただきました。
続いて、市民と行政、企業のそれぞれの立場からパネルディスカッションを行いたいと思います。
パネリストをご紹介します。いま講演していただきました、NPO推進フォーラム代表の山岸秀雄さんです。(拍手)埼玉県子ども劇場おやこ劇場協議会事務局長の越河澄子さん。(拍手)アサヒビール企業文化部次長の加藤種男さん。(拍手)埼玉県環境生活部県民生活局長の高山洋さんです。(拍手)
本日のパネルディスカッションの司会をいたしますのは、生活介護ネットワーク世話人の堀越栄子さんです。(拍手)
司会を堀越栄子さんにお渡しします。
堀 越
このパネルディスカッションは基調講演とタイトルが同じで、「市民とNPOが築く成熟した市民社会とは」となっています。山岸さんが基調講演で話されたことを受けて、各セクターの方々から深めていただくということが、パネルディスカッションの目的です。
まず私なりに、山岸さんの話をまとめてみたいと思います。私は、山岸さんの話を大きく4つぐらいに分けて聞きました。
1番めは、NPO法がいま問題になっていますが、非営利団体が法人格を取るという狭い話の問題ではなく、市民領域を拡大し、市民、行政、企業のセクターバランスをとることで、いまの社会問題を解決できるような社会・経済システムに変えていく──そういう社会を作るという大きな目的があるということです。
2番めに、そういう視点から非営利団体に何が求められているかというと、公共サービスの提供とか、多様な価値を実現することとか、自己実現をしながら新しい働き方を作るとか、そういうことが実際には求められているということです。
3番めは、そのためには自分たちも変わらなければいけない。要求だけではなくて提言型になるとか、ネットワーキング型の活動をするとか、事業を作っていくとか、そういう自己変革も必要で、そのうえで3つのセクターが共通の価値観の持てるものを見つけ、あるいは違いを越えて協力関係を作っていって問題解決にあたろうということだと思います。
4番めは、それにしても、あまりにも市民団体は非力ですので、そのために具体的な支援策が必要だということです。それはNPO法のような制度を作ることであり、社会的な支援システムを作ることであり、市民自身がサポートセンターを作ることです。
以上の4つのそれぞれを、パネルディスカッションで内容を深めていくことにしたいと思います。
では、基調講演を受けて、市民セクターの越河さん、企業セクターの加藤さん、行政セクターの高山さんに、「自分たちにとってなぜNPOなのか」「NPOがリードする社会とはどんな社会か」ということをお話しいただきます。山岸さんはちょっとお休みいただきます。
では越河さんからお願いします。
越 河
いま私たちのような団体が、「何を求めてNPOなのか」というところを、少しお話しさせていただきます。
私たちの「子ども劇場」「おやこ劇場」が何をしているかということを簡単にお話したいと思います。
1964年の東京オリンピックのころ、まさに日本が高度成長期に入るころに、子どもが家庭、地域の中で見守られながら育ってきた環境から、大きな経済成長の波に組み込まれるように、母親が外へ働きに出ていき、多くの広場が工場などに変わっていきました。そういう中で、子どもたちをとりまく環境、子育ての環境というものが大きく変化しました。そうして崩れていく地域にきちんと根を張りながら、子育て環境に責任をもっていきたいと、九州福岡で出発したのが「劇場運動」の始まりで、すでに36年から37年の歴史を持つ活動になり、いま全国に750くらいの「劇場」、38万人ぐらいの会員がいる会員制の組織です。埼玉県内にも、浦和、大宮、川口、所沢など、いま22の市町村で「劇場」という組織があり、1万1000名ぐらいの会員がいます。
当初から、私たちが掲げていたのは、地域と家庭とそれから学校という三者の中で子どもを社会的に育てたい、子どもを地域の中で育てたいという大きな目的でした。その目的を達成するために、ずっと続けてきている活動が、子どもたちに生の舞台を見てもらうという活動と、学校や家庭の中ではなかなか体験しにくい、子ども自身自らが企画立案して自分で責任を持ちながらまとめもしていく活動──たとえばキャンプを自分たちで企画するとか、いろいろなワークショップを計画するとかという、子どもたち自らが参画できる活動というのを基軸にしてきました。
ヨーロッパの先進国では、日本とは一ケタ違う文化予算が取られていて、週末になるとあたりまえのように、町のどこかで人形劇や舞台劇があって、あたりまえのように、そこに見に行くという状況があります。そういったシステムがない日本で、多くの子どもたちに生の舞台を見てもらい、人を愛することとか、人間として育っていくことを、そこから得ていくということを展開してきて、一定の成果をあげてきたように思います。
同時に、社会や地域の中で子育てをしていくということのためには、母親自身が社会参加が必要ではないかということで、PTAや子ども会、自治会などさまざまな子どもをとりまく活動に参加し、学校教育の問題をいっしょに考えていく力をつけるなど、母親たちの社会参加の役割も果たしてきたように思います。
しかし、バブルがはじけて大きく社会が変わってくる中で、私たちが目的としてきた活動が、とてもできにくくなっています。会員制組織ということもありまして、活動も内に向いていく傾向もあるのかなぁという話がされていたところに、阪神・淡路大震災をきっかけにしてNPOという課題が出され、積極的に考えだしました。
核家族になり、高齢化社会が現実の問題になっていく中で、どう子育てをしていったらいいのかと悩んでるお母さんたちもたくさんいます。いままで私たちが前提にしてきた地域や、学校や、それから社会のシステムの中では、いま子育てができにくくなっているということのような気がしています。もう一度、私たちが地域や学校や社会の再生を真剣に考えなければならないと思っています。
私たちの劇場運動に何ができるかということですが、私たちは、おかげさまでたくさんのソフトをため込んでまいりました。一つは、生の舞台を見ていくというソフトであり、一つは子どもたち自らが参画していろいろな活動を体験していくというソフトです。
でも、そのソフトを生かして、同じ地域で子どものことを考え合っている数多くの団体とネットを組むことが、なかなかできないという状況があるんですね。スポーツに熱心な人はスポーツ、子ども会は子ども会というばらばらの状況です。そこをぜひつないで横のネットを組みながら、私たちが子どもたちに生の舞台を届けたいという思いと、それから子どもたちを地域でいっしょに育てていきたいという思いを重ねて、このNPOについて考えることをきっかけに、私たちが発信源になりながら横のネットワークづくりというのを、作っていきたいなと思ってます。
具体的には、埼玉では、子どもの舞台芸術祭というのを、「劇場」発信で取り組み始めて、2回めになりました。今年の6月から10月まで、その第2回めを発信していこうとしております。それは障害を持った方とか、お年よりとかといっしょに作っていく舞台です。所沢では、市内に7つの身体障害者のための福祉施設があるんですけれども、そこの皆さまといっしょになって、所沢市の共催も得て、大きな合唱団を作っております。所沢では、さまざまな団体と実行委員会を作り、私たちの舞台を見るということにも協力をしていただきながら、子どもたちがどう育っていくのか、地域にどう責任を持ち合えるのかということをテーマに、さまざまなことを盛り込んだ芸術祭を計画しております。
私は、これから21世紀を迎えても、やっぱり弱者は子どもであり、女性であり、高齢者であるだろうと思います。そういう人たちが自立をしながら、そして横にネットを組みながら、生きていかれる社会の実現に責任を持つためには、私たちの活動の経験から働きかけていくことが、山のようにあるのではないかなと思っています。少しずつ地道に、地域の中で子育てができるという、実感がともなっていくような活動を、NPOのもとに、その名前に恥じないような市民団体としての活動を、これからも作っていきたいと思います。(拍手)
堀 越 ありがとうございました。
非営利団体としていまもあるわけですけれども、それを会員のためというよりも、もっと世の中に広げて、ほかの団体と手を組んだり行政とも手を組んだりしながら、地域、社会、家庭とともに子育てに責任をもっていくために、NPOとしての自覚と認識をもっていくことが必要というお話だったと思います。
では次に加藤さん、よろしくお願いします。
加 藤
加藤でございます。よろしくお願いいたします。
こういう席にお招きをいただきまして、たいへんありがたい、いい機会をいただきました。
私は、企業の中で、主としていわゆる社会貢献活動というのを担当しております。そういう仕事をやっていく中で、なぜNPOなのかということについて幾分考えるところもあり、実際に経験するところもあるので、そのあたりのお話を少し申しあげれば、みなさんの参考になろうかと思っています。
社会貢献活動というのをやっていくうえで、いっしょに組んで仕事をしていくパートナーは、これはいわゆるNPOなんですね。好むと好まざるとに関らず、NPOといっしょに仕事をしていくということになります。
どういう仕事を社会貢献としてやっているかというと、たとえば地域への文化の発信ですとか、あるいはバリアフリーの実現へ向けての活動ですとか、あるいは社員のボランティア活動を推進したり、それから芸術への支援──メセナと言われることをやったり、それから自然環境を担当したりと、こういうことが私どもの仕事です。
そういう仕事の中から、パートナーとしてNPOといっしょに仕事をしていく必要が出てきて、パートナーなんだから、その人たちの基盤整備がぜひできればいいということで、今回のNPO法案にも、経団連も、実はNPO法案の応援団を買って出て、先ほどお話がありましたが、参議院の公聴会に経団連のワンパーセントクラブの若原会長が出席して、「問題点がまだ残ってはいるが、まあ比較的よく議論されたと思うので、ぜひこれを法案化、通過をしてほしい」ということを言っています。
それではなぜ企業がNPOとパートナーと言い、社会貢献活動をしているかということですが、私はその理由が二つぐらい考えられると思っています。
一つは、企業の社会的な責任というものへの期待が非常に高まってきている。企業は利益を上げることをやめることは絶対ありませんが、そういうこと以外に、もっと重要な役割が企業にあるんじゃないか──それは、社会的な責任を果たすという役割ですね。
いままでは利益を上げたら、それは税金として納めて社会的責任を果たしてるんだから、それで十分だという考え方が支配的だったのですが、それがすっかり変わったわけです。「税金だけ納めていれば」と言っても、税金を納めた先の税の配分の仕方がまことにおかしい。大蔵省はじめさまざまな不祥事を起こしているのは、どうも税金配分機構がうまく機能してないらしいということが一つです。
そういう中から、もう少し企業がダイレクトにNPOと関係をもって、連携をしながら、ある部分を担っていくべきではないのかという論議がでてくる。たとえば、NPOの経済的な基盤の支援とか、そういうことを企業もやるべきじゃないのかという期待が非常に高まってきています。
もう一つは、私はメタミッションと呼んでるんですが、企業には本来の使命──ミッションがありまして、それは利益を上げるということです。それを利益関係者、つまり株主とか社員とかに還元していけば、これで企業の使命は本来達成できるということになっていた。しかし、「では何のための利益か」「なぜ人間は利益を求めてシステムを作っているのか」ということになると、これは不思議なことでありまして、企業の中では、その何かのためにということが直接的には問われることは、いままではなかったわけです。
つまり、直接のミッションは「お金を儲けること」で止まっていたわけです。そこから先は、世の中にゆだねて、「あとはわれわれは関知しませんからどうぞお考えください」「株主の皆さん、社員の皆さん、お客さま、皆さんがお考えください」あるいは、政府に税金を納め、「その先はどうぞお考えください」と、こういうことだったんです。
しかし、だんだん、それだけでは社会は成り立たないということになってきて、「自分たちもその先の配分についていろいろと考えていかないと、社会から疎外された存在になってしまう」「21世紀に企業が生き延びようとするならば、もうちょっとお客さまが何を考えているか、あるいは世の中がどういうことを期待しているかということについて、理解を進めていく必要があるんじゃないか」と考えるようになってきた。
そういうところが、いまNPOを非常に重要なパートナーとして企業が考え始めてきたところだと思います。
そういう中で、ややもすると、企業に限らず一般の市民もそうだと思うんですが、何か問題が起きると、「それは本来、だいたい政治が悪い」とこう言うわけです。「それは、行政が本来やるべきことじゃないですか」という発想を、われわれは持ちがちで、すべて間違ってると思いませんが、政治が悪いと言う前に、自分たちで自分たちの生活をなぜ決めていくことができないのか。
自分たちの生きること、働くこと、楽しむこと、すべての生活を、原則は自分たちで決めて、自分たちが責任もって進めりゃいいじゃないかと思うんですね。もちろん利害関係その他が発生してなかなかうまくいかないところは、しょうがない、一部をたとえば行政にゆだねるということがあるだろうと思うんですが、まあとりあえずの出発点は、教育だろうが、福祉だろうが、環境だろうが、外交だろうが、すべてどういうことが望ましいかということを、自分たちがまず考えてみて、そのうえでそれぞれのセクターに一部をゆだねていくことはあり得るだろうと思うんです。そういう社会システムになったらよさそうだなぁというのが今日のテーマだろうと思うんです。
したがって、NPOが中心になって世の中を作っていくことで、あとの2つのセクターに、少しはあなた方も考えて、この点はまあ分担したらよろしいとか、この点は支えたらいかがですかというようなことを考えていくべきではないのかなと思っています。
今日のテーマである「成熟した市民社会を目指して」というのも、そもそもどんな社会を「成熟した市民社会」かということについて、どこを目指したいのかということを、NPOを含めて、いろいろなセクターの人たちの間で意見交換をしたらいいと思います。
先ほど山岸さんが基調講演の中でネットワーク社会ということが言われましたが、ネットワーク社会を目指すということになれば、その対極にある社会はヒエラルキー社会だと思います。
ヒエラルキー社会のシステムを変えてネットワーク型の社会に移っていくためには、いろいろ偉そうな肩書──なんとか長とか部長とかってことにこだわるようでは、あんまり先行きは美しくない。こういうことを乗り越えていくことを考えなくちゃならないんだけども、われわれは過渡期にいて、まだまだこういうことにこだわりつつ、しかし少しずつ世の中が変わっていくようなことを考えていくべきじゃないかと思っています。
最後に一つだけ申しあげておきたいんですが、先ほどの山岸さんのNPOの定義の中で、「公益的非営利事業体」というお話があって、この「公益的」という言葉が曲者だと思います。
従来「公益的」とは「不特定多数の利益のために」ということなわけです。でも、そんなことを言ってたら、多様性ある成熟した市民社会というのは実現しないと思うんです。「不特定の少数のための公益なんですよ」ということを考えないと、前へ話が進まないと思うんです。「特定少数の利益」とは、私は思ってないんです。それは、仲間うちの会とか特定少数の人のための会があっていいんですが、そうではなくて「不特定」──だれが利害関係者かわからないのがこういう市民社会であって、だれがこれによって利益をこうむるかよくわからない、でもどこかにいるに違いない少数の人びとのための利益も守っていくんだと、これが公益性というものにならなくちゃいけないと思うのです。
「公益性」よりは、パブリックを「公共性」と訳して、不特定少数のための利益も含む公共性というのを共通認識としていこうじゃないですか。それがこれからの高齢多様化社会の一つの重要なキーワードだろうと思っております。
そういう意味では、企業もまた私的な存在でありながら、そのさまざまな行動においては公共的であり得るんだと。そうでなくてはならないんだということが、私のセクターからの、このNPOが先導する市民社会への期待値ということです。
堀 越
ありがとうございました。
まだまだ市民運動の中でも、企業は敵である、行政は敵であるという考え方もあるかと思いますが、なぜ企業が社会貢献活動をしているのか、そのパートナーとしてのNPOの基盤整備を必要としているのかが、よくわかりました。
ともに責任をもって作る社会のイメージについても提起をしていただきました。わかりやすく、また挑戦的なお話でした。ありがとうございました。
では、高山さん、お願いします。
高 山
埼玉県の高山でございます。
私がおりますセクションは、昨年の4月から組織改正を行いまして、一応コミュニティとかボランティア活動の窓口になっております。
戦後50年、日本はただひたすらに豊かな生活を求めて経済成長を第一としてやってきたわけですが、バブル経済の崩壊があって、ここへ来ていろいろな不祥事件が起きたりして、とくに官僚行政のあり方が大きく問われているということで、たいへん大きな変革期を迎えております。国もそうですが、県でも、簡素で効率的な行政を構築するということで、いま行政改革ということが大きな課題となっております。
県の取り組みとしましては、昨年の4月から、県庁内で部が11部あったのを9部に統廃合いたしました。今年の4月からは、福祉部と衛生部を再編統合するということを計画しております。職員の定数も、今後5年間で、知事部局ですと250人を削減するとか、役人の天下りだという批判もある公社などの39団体を見直し対象として、平成9年度から3年間で7団体を廃止して3団体を統合により廃止、4団体を市の主体の法人への移行により整理することになっています。
民間の方からは、お役所は旧態依然として、お役所意識とか前例踏襲がなかなか払拭されないと、たびたび私どももお叱りを受けておりますが、これについても知事としては、職員の意識改革をはかり、行政はサービス業であるという発想で、市場感覚、経済感覚をもっと発揮して、県民サービスを充実させたいということを考えております。
また、政策主導型の県政を実現しようということで、今年度から、たとえば若手職員の提案を県政に反映させる政策提言制度とか、県政の課題解決に職員のアイディアを生かす。いい提案ならば、希望するところへ人事配置して、県民のニーズに合った質の高い施策を実施していくとか。民間では前からやっていることですけど、役所としてもそういうことに取り組み始めております。
たとえば、昨年「彩の国の行政改革大綱」というものを策定いたしましたが、その中では、県民の県政参加を促進するために、「審議会とか協議会などの会議の原則公開」ということ、「会議結果の公表に努めること」とされております。「委員の一部を一般公募で選任するよう努める」という指針も定めておりまして、たとえば私どもで担当しております女性センターの検討委員会などには、現に5人の一般公募の委員に就任していただいております。
つけ加えますと、平成9年6月1日現在で、審議会などへの女性の登用状況ですが、76の審議会のうち70の審議会で女性を登用しております。委員の定数1322人中283人ということで、21.4%になっております。これを平成12年ぐらいには30%に引き上げようということで取り組んでおります。
それから、行政改革大綱の二つめとしては、県民の自主的な活動との連携ということで、ボランティア活動とかコミュニティ活動などの県民の自主的な活動と、行政は今後連携が不可欠であるので、情報提供とかネットワーク化の促進とか、公益的な立場でその活動を支援していくこととしております。
それとまた、県の事業と県民の社会参加意識が一致する分野などでは、県と県民のパートナーシップによって公共的な目的の達成を図っていこうと考えておるわけです。さらに、民間企業の行う社会貢献活動を促進して連携を図っていくこととしております。
いま地方分権ということで、いろいろ国のほうで検討されておりますが、県でも、地方分権の推進ということは、単に中央に集中した権力を分散して縦割り行政を直すということだけでなく、地域の実情に沿った個性のあふれる行政を推進して、自主性とか自立性を発揮する真に豊かな福祉社会を築いていくことに役立つということで、埼玉県でも最大の課題としておりまして、現在、地方分権推進懇話会を設置いたしまして、平成10年度中に、県と市町村の役割分担とか、権限委譲とか、県の市町村に対する支援などを盛り込んだ地方分権推進計画を策定するという予定にしております。
私どもでは、平成7年5月から、「行政ボランティア庁内連絡調整会議」というのを設けまして、県の行政の総合的な調整、推進を図っております。今年度中にボランティア基本計画を策定して、今後のボランティア、コミュニティ施策を充実していこうということで検討しております。
平成7年12月からは、市民団体とか企業、行政がそれぞれの立場から、本県におけるボランティア活動の取り組みについて協議するための「ボランティア推進連絡協議会」というのを設置いたしまして、その協議会で今後の本県のボランティア活動の推進方策について積極的な協議が重ねられ、その協議結果が報告書で「彩の国のボランティア活動推進のために」としてまとめられて、平成9年3月に知事に提出をしていただきました。
それから、県としてもボランティア関係には、各部局でいろいろな事業を実施しておりますが、昔ですと、個人の方のボランティアなどの養成講座とか、そういうことをやっておったんですが、最近は、どちらかというと活動団体のリーダーを養成しようとか、それからネットワークを作っていくような、そういう方向の事業が多くなっておりますし、こういう事業を実施する際にも、市民団体などに企画立案段階から参加していただいて、いろいろ内容を検討するとか、ご協力をいただくということが多くなってきております。
それで、行政の立場から、こういう行事などを市民団体の方と実施してよかった点として聞いたところでは、たとえば「行政が持っていない専門的な情報とか能力を事業の中に生かすことで、行政単独ではなし得ないような事業効果をあげることができた」とか、「人的ネットワークを構築することができて、相互理解に役立った」とか、「県民の理解を得て国際協力を進めようとするときに、行政の視野だけではなくNGOの視点で県民にアピールすることができた」とか、「市民団体の方が積極的に参加して、真剣に活動に取り組んでくれて、かなり活性化ができた」とか、「温かみのある行事ができた」というようなご意見がございます。
逆に、反省点というかまずかった点では、たとえば「協力関係を築くのに意思決定と事務手続に時間がかかった」とか、「事務手続上、行政の負担がふえる」、「個々のNGOが自分たちだけの活動に満足してしまう傾向があり、県民全体に向けてPRすべきことを忘れてしまう場合がある」、「議論や企画に関しての参加には積極的であるが、フォーラムを運営していくうえでの管理的な面での活動は、行政側がやらなければならない場合が多くなる」とか、「継続的に管理してもらえるボランティアを見つけるのに苦労する」などの感想をいただいております。
まあこれは行政側の一方的な感想ですので、失礼な点があるかもしれません。
そういうことで、県としては、今後、行政改革などによりまして、役所のしくみも縮小され、公務員を減らしていくということになります。
一方で、県民のニーズはどんどん高度化、多様化しておりまして、行政にはより質の高いサービスを求められるわけですが、住民サービスを担う受け皿として、やはりボランティアなどをして働いていただける市民活動団体との役割分担といいますか、それを考えないとこれからの自治体はやっていけないんではないかと思っております。
いろいろな市民活動団体ということは、いろいろ主義主張をもって市民活動をやっておられるわけで、私どもも行政の一方的な下請ではないと思っておりますので、そのへんは今後両者で協議しながら応援していただくことを、地域の実情に応じてやっていただくようなかっこうになると思います。
私どもとしても、市民団体が活動しやすくなっていくNPO法案が早期成立することを期待しておるわけでございます。
今後、行政といたしましては、市民活動団体とは対等なパートナーシップということに留意しながら、よく連携をとって県民サービスの充実に努められればと考えております。
堀 越
ありがとうございました。
行政の大きな課題として「行政改革」「地方分権」「地方自治」ということがあるわけですが、その中で市民あるいは市民団体の果たす役割がかなり大きくなるだろうという見通しをもって、それに向けて施策も進めているというお話でした。ボランティア団体と非営利団体がイコールととられているんじゃないかなという感想を、私は持ちましたが、あとの発言の中で、そのへんにも触れていただければと思います。
それでは第2ラウンドに入ります。
いま、企業あるいは行政から市民団体に対してラブコールがされました。信頼関係をお互いに持ちたいということは事実だと思います。けれども、その際きれいごとではすまない面がかなりあります。どういう社会を目指すかというところでは共通の認識が持てても、そこでいっしょにやっていくためにはやっぱり違いがあって、違いを認識しながら乗り越えるというステップを踏まなければいけないのではないでしょうか。そのへんについて、まず山岸さんから、1人5分でお願いします。
山 岸
再び発言させていただきます。
これから市民セクターの側から行政との関係を考えようとするときに、これからは市民主体の市民的公共社会を作っていこうというのが、私の主張です。
私は、10年前に、なぜアメリカでネットワーク社会というのができているのかということを調べに行ったのですが、そのときにNPOという組織があるからなんだということを自分なりに見つけたというのが、NPOの運動に入ったきっかけです。そうした組織がなければネットワーク社会はできないということになろうかと思います。
もう一つ発見したことは、日本では行政がやっている部分について、地域で市民が大胆に踏み込んだ活動をしているということでした。これは日本では、公共性というのは行政、政府が一方的にすることで、われわれはそれに従っていくということになっていて、市民の側も、行政を批判するということを中心的にやってきたのだったと思います。
私自身もそれまでそういう姿勢でやってきたわけですが、アメリカから帰ってきて、10年前に東京の板橋区で地域福祉のNPOというものを作りました。
現在10年めで約1億3000万の予算規模まで発展してきましたが、これは当時まだ福祉というものは行政が専門に担うことなんであって、地域で市民自身が担うということについて、ずいぶん内部で討論がありました。私も、いまは理事で経営者になっていますが、行政がやってることの半歩前へ、とにかく実験的に前へ出て、提言しながら活動していこうというようなことを言いながら発足したんですが、その後そういう活動が各地で行われているということになってきてる。
ちなみに、その板橋区の福祉NPOは、食事サービスを昼夜各50食ずつ、車いすを運べる車を5台持って、いま公務員とまったく同じ賃金で働いている人が5人います。そのまわりにヘルパーの人とかパートの人とかボランティアの方がいて、300世帯の会員を持っている福祉団体になっていますが、5〜6年前に、やっと非営利の組織という考え方が地域に受け入れられることが可能になったように思います。
最初は儲け──お金を取る、サービス料を取るということは、儲けを追求する団体ということになるのではないか。行政も理解がなくて協力体制が組めない。それが、在宅介護という流れが5〜6年前にできたところで、だんだん社会の考え方が変わってきた。非常に活動がしやすい雰囲気になったということがあります。
行政が絶対できない分野、やってはいけない分野を、NPOの場合にはできるということが、だんだんに認知されてきたということがある。
行政との分担の問題もあると思います。福祉の問題でも、市民領域があって、行政の領域があって、重なる部分もある。行政の部分の下請になるということじゃない。下請になるというのでは、経営ももたないし、社会的役割も果たせない。そういう従来の型でやるならば、それは税金を払ってるわけだから行政にやらせればいいわけです。
まん中で重なるところはどういうふうに分担するかという問題ですが、これから「公共性」ということもずいぶん概念が変わっていくと思うんですね。それに対して行政の一歩踏み込んだ理解というのがないと、いま立ち上がっている福祉NPOがだんだんつぶれていくことになると思います。
つまり、私たちが作った福祉NPOの活動と同じようなものを行政が始めようとすれば、コストの面でもとても行政にはかなわない。それをうまく理解したうえで、行政が自分の役割を考えないと、自主的な福祉団体をつぶしていくことが各所で起きていると思います。
そのコストの問題でも、民間企業が行政と同じような福祉の活動をした場合、どのくらいのコストでできるかという学会報告がありますが、あらゆる分野で約2分の1の費用でできるという結果を出しています。
ワーカーズコレクティブの人たちの統計を見ますと、だいたい行政の人たちがやるよりもNPOがやった場合、4分の1から5分の1の費用でできるということが数字的に明らかになっております。仮に百歩譲っても半額以下でできることは間違いないわけです。
高齢社会に向かって、行政の財源がとてももたないことは明らかなわけですから、NPOとの組み合わせをどうするかということが確実にテーマになってくる。そういう意味でもNPOを抜きに高齢社会を乗り切れるということはあり得ないということを、行政も判断していくということじゃないかと思います。
企業については、これからは企業の社会貢献活動も、地域密着型で、地域社会をどう作るかという目標を定めて、パートナーとしてだれを選ぶのかということじゃないかと思います。
日本青年会議所も、地域でNPOに協力してコミュニティを作っていく──具体的な政策を作るようになると思います。現に「コミュニティ委員会」というのを発足させています。私もその委員で参加していますが、そういう地域密着型の企業のいき方というものが、これからは大きくなっていくし、そういうことに注目していく時期じゃないかと思います。
教育の問題ひとつみても、学校だけを問題にしていっても、いまの教育問題は解決しないと思うんですね。地域全体をよくする、住みやすい社会にしていく、そのためにNPOが核になっていく、地域を育てていく、その中で教育を考えていく。
埼玉県は人気がないとか、いろんな統計がありますが、そうならないためにも、NPOを発展させて、地域をみんなが作っていこうということに、行政、企業の素早い理解があればと思います。
堀 越
NPOの役割や位置づけについて、行政は認識してほしいということと、コストのことが出ました。
それから、企業に対しては、もう少し地域密着でやってほしいということがありました。
では、越河さん。
越 河
具体的なことをお話ししたいと思います。
つい先日も、中学校の女性の先生が子どもに刺し殺されるという事件がありましたけれども、生徒からも信頼されている先生だったという記事を読むにつけても、子どもたちをとりまく状況というのはほんとうに厳しい状況で、子どもたち自身がどう生きていけばいいのか、生き惑っているという実感を常々子どもたちと接して感じています。
世の中がどう変わっていこうとも、人間が人間らしく生きていくということを考えたときに、芸術というのは切り離せない分野だろうと、私は思っています。
いま学校教育の中でも、年に一度とか二度、子どもたちが生の舞台に触れる学校公演というのがあったのですが、土曜日を2回休むということになって、そうした自主的な活動が削られるという状況があります。
学校の中で生の舞台を見ることが減っている中で、私たちのような一定のソフトを持っている「子ども・おやこ劇場」と市民と行政とがいっしょになって、人間が人間らしく生きていくための芸術に、子どもたちが触れる場所を提供するということができないだろうかと考えています。
少子化の中で余っていく教室を利用して、お年よりと子どもたちが接点の持てる場所を、行政もいっしょに作っていくということが実験的にされてるところはいくつもあります。こうした活動が行政といっしょにできないだろうかと考えています。
私たちは、行政との共催事業というのをかなりしています。会員制の組織である「子ども・おやこ劇場」というのは、理解されにくい時期がありました。私たちは、会員の子どもたちだけが豊かになる活動をしたいのではない。地域の子どもたちに豊かな文化環境を作っていきたいということで、長い年月をかけて、子どもをとりまくあらゆる事業、市民フェスティバルとか文化フェアとかの事業に、「子ども・おやこ劇場」の中心の者を、何人も何人も役員というかたちで出して、私たちの活動への理解をしてもらうという時期をずーっと続けてきて、「子どもたちの文化のことは『劇場』に相談するとなんとかなるよ」というようなところまでこぎつけたところです。最近は、ずいぶんいろいろ相談されるようになってきました。
今度、志木でも、青少年問題のフォーラムを何回かに分けて行うことになっていますけれど、実質的な運営は私たちが任されて、お金は市が出すというかたちがふえてまいりました。こういう関係を続けていかれるのなら、私たちも努力のしがいがあるなと思っています。
企業に対しては、ときどき電車の中で広告を見ると、いろいろ大手の企業が大人向けの舞台にお金を出しているのだということがわかります。いつか、子どもの舞台に、企業の名前が連なるということが、できたらなあという夢を持ち続けています。
私も、ずっとこういうことをやっていく中で、バブルがはじける前というのは、企業にとっては、キャンプが流行するといっせいにキャンプ用品が売れるような、消費文化が推し進められてきた。でも、これからは消費文化から、心の豊かなものをどう作っていくのかというところに移っていくのではないかなと思うんです。
日本の児童文化というのはまだまだいろいろ問題も抱えていますが、子ども時代にすばらしい感性がつちかわれる舞台に触れていくことに、ぜひ企業の皆さんからもあと押しをしてもらいたい。文化というのは、かけがえのないものです。子どもたちがすばらしい芸術に触れていくために、子どもの舞台のポスターに企業の名前が入ったらいいなあと夢を持っています。
堀 越 一点だけおうかがいしたいのですが、行政とそこまでいっしょにやれるようになったときの、一番苦労した点を一つだけ教えていただけますか。
越 河 一番苦労したのは、人のつながりだったかなと思います。ただ要求型で持っていった時代には、受け入れていただくということができにくかったです。私という個人が何を考えているか、行政の窓口のこの方は何を願ってやってるのかという、人間と人間としてつながるというところにもっていくまでに、ずいぶん時間をかけましたが、その関係ができたところから、いろんなことが広がっていったかなというふうに思っています。
堀 越 では加藤さん、お願いします。
加 藤
まず、ネットワーク社会のことで言いますとですね、最近の新聞を見ると、新宿にしゃぶしゃぶを食べさせる店があって、しゃぶしゃぶ嬢という種族がいて、その人たちを介して企業と行政のみごとなネットワークが作られてるんだという(笑い)──もちろんこれはジョークですが。
しかし、そこで行われているネットワークというのは、人格と人格のネットワークではなくて、名刺と名刺つまり肩書でもっているネットワークですね。肩書がとれれば、もうあとは関係なくなるわけですから、肩書がある間のネットワーク。人と人とが人格を介してネットワークを作っていくしくみではないわけですね。そういう構造が主流だから、人間と人間をつなぐことがたいへんだという越河さんの発言につながっていくんだろうと思いました。
行政の先行きですが、厳しいものがあると私は思います。といいますのは、この先税金がふえる可能性は小さいですね。景気低迷状況は、まだまだ続きますし、しかも国政のレベルでは、赤字国債を大量に抱え込んでいる。
NPOを育成するためには、減税と財政改革を同時にやっていくのがいいだろうと思うんです。そうしますと、行政そのものの組織を縮小する以外になくなってくる。後世にツケを回しておけば、いまのところ乗り越えられると思っているわけですが、これも難しくなってくる。その解決をしていくには、セクターとしては小さく縮小していかざるを得ない。これはもうだめとかいいとかではなく、そうならざるを得ないと私は思ってるんです。
そのときに、行政の労働補完型としてのボランティアではなくて、自分たちの生活は自分たちで決める、自分たちの楽しみは自分たちで決める──自己責任、自立自主のNPOが力を持ってこざるを得ないと考えているわけです。
ただ、NPOについては、せっかく自分たちが社会のさまざまな問題を自立的に解決していこうというにしては、いささか力も弱い──これはしょうがない、まだ萌芽だから弱いということがあるかもしれないけれども、ここでも私はミッションの議論をもっとするべきだと思うんです。それぞれのNPOが持っている、自分が何を目指しているかということについての、ミッションの議論をもっとしていくべきだろうと思うんです。
そのためには情報公開もしてほしいし、内容についてよく吟味をしていただきたい。
一つ例をあげますと、パラリンピックというのがあります。福祉のスポーツ支援ということになろうかと思いますが、これに私は非常に大きな疑問を持っている。パラリンピックは個人参加かと思っていたら、そうじゃない国家参加だということを、この間初めて知ったんです。つまり、パラリンピックですら国威発揚の機会だというふうに、いまだに考えられてるというしくみがある。
なんで障害者が、お互いにスポーツで楽しみあおうというときに、いまだに国旗、国歌でやるのか。個人対個人のお互いのスポーツの競技でいいじゃないかと私には思えるんですが、そういうところがたとえば十分に吟味されていない。
そういうことはさまざまな側面にありまして、先ほど劇団のお話が出ましたが、商業的な演劇集団として成功している劇団、つまり市場が成立をしている組織は、アサヒビールと同じなんです。
市場が成立している分野において、企業活動として芸術を提供してる。ビールを提供するか演劇を提供するかの差でありまして、優れた商品を提供していくことはアサヒビールとまさに同じなんです(笑い)。そういうところへ公的な、もしくはメセナとかいうかたちでの支援はまるで必要ない。国家が市場にやってきたら、混乱を招くだけですね。そういう意味では、これは行政がまったく支援する必要ない。支援すべき分野が、芸術のジャンルにはたくさんあります。
いろいろなジャンルの中で、細かく一つひとつお互いに議論し合って、分類をしていく必要があろうかと思います。
最後に、両方のセクターの人に、ぜひお願いしておきたいんですが。第2セクターの、企業の社会貢献活動評価の問題です。その内容によって、企業の選別を考えていただきたい。グリーンコンシューマーというのがありますが、ふるい分けの時期じゃないですか。
たとえば、経団連に加盟する企業の中に、少なくとも利益の1%はそういう活動に使いましょうという組織である「ワンパーセントクラブ」に加盟している企業が280社ぐらいある。
そのほか、さまざまな軸があるはずなんで、そういうものを総合的に判断して評価して、こういう企業のものを買っていくようにしていただきたい。ここでは投資の話はなじまないかもしれませんが、まあ投資をしていくについても、世のため人のために役に立つ企業と、そうでない企業というのを選別をしていく。
それはNPOについても、あるいは行政についても同じことが言えるんで、その中身についてやっぱりお互いに議論し合って、「君んとこは、ここはいいが、ここはよろしくない」ということを、双方に公開の場で議論し合えるようなしくみづくりが必要だろうと思います。
堀 越
はい、ありがとうございました。
高山さん、お願いします。
高 山
やはり行政には行政の古い慣習というか、仕事の進め方がありまして。とくに予算等のともなうものは、ある程度、議会にご理解をいただく必要があります。県の場合は、いま議会がおおむねうまくいっていますが、市町村等では、議会と執行部とうまくかみ合わないで、予算等もなかなか認めていただけないということもございます。
市民団体さんから政策の要望などがございましても、執行部の力不足の点もあるわけですけど、なかなか実現できないような点もございます。
市民団体の方も、最近は執行部への要求型からアイディアの提案型になってきました。一方で議会の先生方とも関係を作って、要望などもご理解いただくような活動を日ごろやっていただくことも必要なんじゃないかと思います。
私どもにとっては、議会の先生方は選挙で選ばれた市民の代表でございますので、先生方を抜きにして市民の方と直接やりとりということも、ものによってはできないということもあります。
それと、埼玉県では県議会とか市議会、首長の選挙になると、国政選挙に比べて、投票率がガクンと下がって3割くらいにしかならないこともあります。民主主義の原点ですから、皆さん方の意見を表明するためには、やはり投票に行くことが大事だと思います。
企業の社会貢献活動については、大手企業は最近積極的に取り組んでいますが、埼玉県では95%以上が中小企業です。中小企業では、いまこういう経済不況の中では赤字を出さないのがせいいっぱいで、たいへんなご苦労をされています。雇用とか納税で地域には貢献しているわけですが、一つの会社が単独で社会貢献活動をやるというのは難しいと思います。中小企業がネットワークを組んで、何か工夫して社会貢献活動をやるようなしくみを考えていただければと思っています。(拍手)
堀 越
ありがとうございました。
政策の優先順位の問題が必ずあるから、そこのところにもNPOが目を向けてほしいということと、企業にはネットワークを組んでもらえたらというお話でした。
最後に、市民も行政も企業も、各セクターが自己変革をしながら協力して社会を作っていくというお話がありましたが、自分たちはこういうふうに変わりたいなとか、変わったらよさそうだなということについて、お願いできればと思います。
じゃ、山岸さん、どうぞ。
山 岸
パートナーシップの前提となるのは情報公開の問題だろうと思うんです。
廃棄物やいろんな問題で埼玉ももめてますが、アメリカのサンノゼ市というハイテク産業が盛んなところでは、たとえば企業の廃棄物がどういうふうに流れるかという情報を、行政に出さなくちゃいけないという義務があります。膨大な量の情報が行政に来ます。
NPOの側には、廃棄物がどこにどう行っているか、どこの企業がそれをしたかってことが、インターネットによる情報公開システムによってはっきりとわかっている。それこそ情報公開しない行政は犯罪であるというぐらいな意識がありますから、小さな行政の単位でも、3000ページとか2万ページとかの大量の情報を速やかに出しているんですね。
NPOの側は、それを利用して、行政にではなく、直接企業に言っていく。たくさんの企業を行政が監視するのは非常に費用もかかるわけで、社会的効率も低い。それを、市民が企業に直接言うことで効果をあげています。そういう情報公開ということが進まなければならないと思っています。
認証の問題でも、NPO法人を認証したときに、行政は、何かがあったときに責任を問われるということで、かなり緊張してるんだと思うんですが、責任の分担という意味でも、行政は情報公開していくことが、自らの責任を明らかにしていくうえでも、大事なことになっていくと思います。
サポートする資源を社会から集めながらNPOの運動を続けていくという面では、一番困ってるのは、もちろんお金です。一から十までお金じゃないかと思うぐらいお金の問題ですが、この不況のときに、お金がそう簡単に出てくることはないと思います。
そこで、NPO支援機構を作ることを決定しています。各地域で人と地域の情報を合わせながら、手と手を結んでいけるような、行政とも企業ともやっていこうということです。そういう中でいろんな可能性が出てくると思う。現に相当の量の、NPOと協働の事業をやりたいという申し入れがあって、それに応えるだけの力をNPOの側が持っていく必要がある。
その前提として、市民団体も自らの情報公開をできるような情報センターみたいなものを持たなくちゃならないと思う。それが、NPOサポートセンターを埼玉県に作る必要性があるという根拠になるわけです。NPOの活動の研究もするし、サポートもしていくという体制を作っていきたい。
NPO学会の準備会を発足させようという話もあります。いままでの学会とか大学と違って、地域密着型の学会、新しい学会を作っていこうということです。
いろんなセクターとつき合っていくときに、人と人のふれあいという話がありました。市民の側と行政の側がお互い共感しあう、お互いの話を聞き合うことが、最初のスタートではないかと思うんです。行政だからダメとか、市民団体だからあやしいとかではなく、理解し合っていくことがスタートになるんじゃないかと思います。
アメリカで発展しているあるNPOの団体に「発展の秘訣はどういうことですか」と聞いたときに、「とにかく人と会うこと、会うこと、会うこと、話すこと、話すこと、話すこと──これにつきる」と言っていました。何ごとも人と人のふれあいで始まるということです。
アメリカの話で一つ感動したのは、「NPOのサポート資源を取り込むということは科学ではない。これはまさに芸術的行為、アートなんだ」という言葉でした。人と人がふれあって何か作っていくのは理屈じゃなくて、まさにアートなんだと思うんですが、埼玉でもそういうふうに人と人のつながりを強化していって、全国にネットワークしながら、セクター全体の大きなつながりになればと思います。(拍手)
堀 越 越河さん、お願いします。
越 河
私たちの団体は、会員制の団体です。会員制というスタイルの「公共性」というのもあると思います。会員制というのは、いまの社会のしくみの中では社会性を帯びていかないところがあるように思います。私たちのような会員制の団体が、組織をどう越えて社会性を持っていくかが、いま一番の課題だと思っています。
それには、地域の中で、子どもという文化環境をどうしていきたいと思ってるのかという私たちのミッションを、社会に向けてもっと明確にしていかないといけないのではないかと思っています。
「子ども・おやこ劇場」というのは、内に向けた組織だと思われがちですが、外に向けた組織としてミッションを明確にし、変革していくことで、いろんな人たち、いろんな団体とネットを組んでいける、ネットワーク型の地域社会の中の一員であり得るのだろうと信じております。そういうふうに、地域の中でのネットワークづくりを目指していきたいと思います。(拍手)
堀 越 加藤さん、お願いします。
加 藤
今度、経団連の社会貢献推進委員会のフォーラムを開催するんですが、その最終テーマは「NPO支援のシステムをどう作るか」というものです。企業が今後NPOを支援していくためのシステムを作る、その中身を議論して、少しでも具体化していきたい。そういう方向で議論が進むと思っております。
それから、二点ほど補足をしておきたいんですが。
NPOの財源の問題でいうと、個人寄附を動機づけるためのしくみづくりをぜひ考えていただきたいんです。寄付に対する税制の問題も大きいんですが、控除がなくても個人で寄附している人の集まりもある。たとえばロータリークラブなどですね。その人たちに、何の働きかけが欠けているかというと、「こういうことをしたら、あなたの生き方にとってこんなにプラスになる」という動機づけなんです。「こういうことにこそお金を使うことが重要だ」という動機づけを、ぜひ提案していただきたいんです。
もう一つは地域の問題ですが、あんまり地域密着と言われると、疑問も残ります。地域というのはいったいどこを指すのか。市町村レベルなのか、隣近所なのか、いつもこれが曖昧なまま、地域密着と言われると、いかにも美しくは聞こえるけれども、国際的な環境問題に取り組むNPOもあるわけで、地縁とか血縁とかの古い言葉にならって言うなら、「ミッション縁」でお互いに集まるような関係でしょうから、ある地域が確かにあるかもしれないけれども、もしかしたら世界的であるかもしれないわけで──。
「地域」ということの意味をお互いに検討しあうことが必要ではないか。このあたりは一度、ぜひ突っ込んだ議論をしたいと思っています。(拍手)
堀 越 ありがとうございました。最後の地域の問題については、課題によってかなり違うかな、丁寧にやったほうがいいかなという気がしますが。
では、お願いします、高山さん。
高 山
先ほどから情報公開ということが話題になっておりますが、県でも情報公開制度を始めて15年経過しました。昨年の10月からは、今度は県の全機関を公開窓口として、窓口の多元化と迅速な対応ということになっておりますので、ご利用なさる場合はご利用していただければと思います。
昨年あたりからだいぶ情報公開の請求がふえまして、今年度は早くも1万件を超えたそうです。
皆さんのお話を聞きまして、日ごろから市民団体の方とか企業の方とのコミュニケーションが必要だと思いますので、今後対等なパートナーとしてやっていくうえの相互理解のためにも、コミュニケーションの充実に一生懸命努力していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
堀 越
ありがとうございました。
時間が短く、たいへんもったいないパネルディスカッションでした。埼玉では初めての企画でしたので、なるべく広く考えたいということで、全国区で活躍していらっしゃる方に集まっていただき、多少無理は承知で企画をさせていただきました。
NPOのイメージとか、NPOの活躍する社会のイメージについて、こんなことかなというイメージを持っていただけたでしょうか。「ここであの話を聞いたね」ということが、いっしょにやっていけるきっかけになるようなパネルディスカッションであったのなら、まず目的を果たせたかなと思っております。
パネリストの皆さま、ありがとうございました。(拍手)