ホルモンに化ける化学物質

この記事は ニューズウィーク日本版1996年4月3日号 に載ったものです。
なお僭越ながら、原文のタイプミスを修正しました。


生殖機能の衰えなど
さまざまな影響を及ぼす可能性が

 兆候はずいぶん昔から表れていた。1947年にはフロリダ州で、交尾や巣作り をしないワシがいることが確認されていた。60年代には、ミシガン湖の魚をえ さに育った養殖ミンクの「不妊症」が報告された。
 77年にはカリフォルニア州で、雌同士のカモメのつがいが発見された80 年代に入ると、フロリダ州のアポプカ湖に生息するアリゲーターのペニスが小さ くなっていることが分かった。
 動物だけではない。92年にデンマークの研究者達が発表した調査報告によ ると、1938〜90年に、世界の男性の平均的な精子数は半減したという。
 同性愛のカモメの出現と、人間の男性の「能力」低下。果たして、これらの 異変は一本の糸で結ばれているのか。

 世界自然保護基金(WWF)のシオ・コルボーンは最近、その糸を突き止め たと発表した。ホルモンと似た動きをする合成化学物質の仕業だというのである 。
 現在までに、その種の化学物質は51種類が確認されている。これらの物質 はそれぞれ、細胞分裂や脳の発育、生殖機能などに大きな影響を及ぼしうる。
 コルボーンは、ボストン・グローブ紙のダイアン・ドゥマノスキー通信員と 動物学者ジョン・ピーターソン・マイヤーズと共同で、自説を一冊の本にまとめ た。二週間ほど前に発売された『奪われた未来』Our Stolen Future(ダットン 社刊)がそれで、マスコミの大きな注目を浴びている。
 研究機関も本格的に動き出した。米国科学アカデミーはすでにこれらの化学 物質の研究に着手、米環境保護庁(EPA)も最優先の研究課題にする構えだ。
 業界側は、こうした物質の危険性を否定する一方で、その代替物質を探すの におおわらわだ。

出典: ニュースウイーク日本版1996年4月3日号


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