国連安保理における米国の拒否権行使
1980年から2002年

2003年3月22日


米国は1980年から2002年まで、国際問題をめぐり、国連安保理で55回拒否権を行使しています。7回は英仏とともに、8回は英国とともに。英国は15回(米とともに8回、米仏とともに7回)、フランスは7回(米英とともに)、ソ連/ロシアは6回(ソ連4回ロシア2回)、中国は2回です。リストから、米国が、南アフリカのアパルトヘイト政権を強く支持してきたこと(リストに多く出てくるは、1990年3月に独立するまで、アパルトヘイトの南アフリカに支配されていました)、南アフリカによる周辺諸国への侵略攻撃を支援してきたこと、また、パレスチナをはじめとするイスラエルによる周辺の不法占領や攻撃を支持してきたことがわかります。ほかに、直接の攻撃行為として、パナマ侵略、グレナダ侵略、ニカラグア攻撃、リビア爆撃など(ソ連の拒否権行使で直接の攻撃に関わるものは、アフガニスタン侵略と大韓航空機撃墜事件)。

なお、ここで「拒否権」と言う場合には、拒否権がなければ決議が採択されていた場合を指し、単に反対票を投じたというものは含まれていません。また、国連加盟をめぐってあるいは職員をめぐってについては扱っていません。国連設置後を通してみると、同じ範囲での拒否権行使数は、ソ連が119回(そのうち106回までは1965年までに行使されたもの)・ロシアが2回、米国が76回(すべてが1966年以降に行使されたもの)、英国が32回、フランスが18回、中国が5回(ただし1回は台湾が議席を占めていたとき)となっています。つまり、1966年以降(多くの旧植民地諸国が独立して以降)、米国が安保理での拒否権行使ではダントツということになります。総会決議についてはこちらをご覧下さい。

このリストは、グローバル・ポリシー・フォーラムの情報に、選択的に益岡が国連情報源をチェックして確認した上で、一部の決議について多少の注を加えて日本語にしたものです。リスト中、「反対」が1のときは米国が単独で拒否権を発動した場合、ほかの常任理事国が米国とともに拒否権を発動した場合には、その国名をあげます。たとえば「反対2」で国名がない場合は、米国が拒否権を発動し、それに追従して反対票を投じた非常任理事国が1つあったことを示しています。

2002年12月20日 安保理決議草案 S/2002/1384
イスラエル軍による国連職員数名の殺害と世界食料計画(WFP)の倉庫の破壊に対する非難決議案
賛成12 反対1 棄権2

2002年6月30日 安保理決議草案 S/2002/420
ボスニアにおける国連平和維持部隊の更新と、米国PKF兵士の国際刑事裁判所規定からの免責をめぐる決議
賛成13 反対1 棄権1

2001年12月14日 安保理決議草案 S/2001/1199
パレスチナ人統治地区からのイスラエル軍の撤退と、イスラエル軍による民間人へのテロ行為に対する非難
賛成12 反対1 棄権2

2001年3月27日 安保理決議草案 S/2001/270
パレスチナ人民間人を保護するための国連監視部隊の設置案
賛成9 反対1 棄権4

1997年3月21日 安保理決議草案 S/1997/241
東エルサレムのジャバル・アル・グネイムにおける不法な入植地建設を直ちにやめるようイスラエルに要求する提案
賛成13 反対1 棄権1

1997年3月7日 安保理決議草案 S/1997/199
イスラエルに、東エルサレムでの入植地建設をひかえるよう求める提案
賛成12 反対1 棄権2

1995年5月17日 安保理決議草案 S/1995/394
イスラエルによる東エルサレム占領について
賛成14 反対1 棄権0

1990年5月31日 安保理決議草案 S/21326
イスラエルの占領地を巡って
賛成14 反対1 棄権0

1990年1月17日 安保理決議草案 S/21084
米国のパナマ侵攻時に、外交官特権を侵害したことについて
賛成13 反対1 棄権1

1989年12月23日 安保理決議草案 S/21048
パナマの状況を巡って(1989年12月、米軍2万5000人がパナマを侵攻しパナマ軍との間で激しい市街戦となった。このとき、パナマ市民の犠牲者は数千人に上ると見積もられている)
賛成10 反対4 棄権1

1989年11月7日 安保理決議草案 S/20945/Rev1
イスラエル占領地の状況
賛成14 反対1 棄権0

1989年6月9日 安保理決議草案 S/20677
イスラエル占領地の状況
賛成14 反対1 棄権0

1989年2月17日 安保理決議草案 S/20463
イスラエル占領地の状況
賛成14 反対1 棄権0

1989年1月11日 安保理決議草案 S/20378
米軍によるリビア機撃墜に関するリビアの申し立て(米軍がリビアのジェット機2機を撃墜したことについて)
賛成9 反対4(英仏も) 棄権2

1988年12月14日 安保理決議草案 S/20322
レバノンによるイスラエルの侵害行為に対する申し立て
賛成14 反対1 棄権0

1988年5月10日 安保理決議草案 S/19868
レバノンによるイスラエルの侵害行為に対する申し立て
賛成14 反対1 棄権0

1988年4月15日 安保理決議草案 S/19780
イスラエル占領地の状況
賛成14 反対1 棄権0

1988年3月8日 安保理決議草案 S/19585
南アフリカのアパルトヘイト政権に対する経済制裁
賛成10 反対2 棄権3

1988年2月1日 安保理決議草案 S/19466
イスラエル占領地の状況
賛成14 反対1 棄権0

1988年1月18日 安保理決議草案 S/19434
レバノンによるイスラエルの侵害行為に対する申し立て
賛成13 反対1 棄権1

1987年4月9日 安保理決議草案 S/18785
ナミビアの問題(ナミビアは、南アフリカのアパルトヘイト政権が支配し、南アフリカ同様アパルトヘイト体制を敷いていた。また、アンゴラへの襲撃の拠点としても使われていた。1990年3月に独立したときも、米国の後ろ盾を得た南アフリカは、その後も1994年までナミビアの交易中枢であるウォルビス港を確保していた)
賛成9 反対3(英も) 棄権3

1987年2月2日 安保理決議草案 S/18705
南アフリカのアパルトヘイト政権に対する経済制裁
賛成10 反対3(英も) 棄権2

1986年10月28日 安保理決議草案 S/18428
国際司法裁判所裁定を米国が遵守していないことに関するニカラグアの申し立て(国際司法裁判所は1984年のニカラグアの申し立てを検討し、1986年、米国に対して、「米国政府は、すべての敵対的行為を速やかに停止しひかえる義務を負い・・・ニカラグア共和国が被ったすべての損害に対して賠償を行う義務がある」との裁定を下したが、米国はこれを無視してコントラを用いたテロ襲撃をニカラグアに続けた)
賛成11 反対1 棄権3

1986年7月31日 安保理決議草案 S/18250
国際司法裁判所裁定を米国が遵守していないことに関するニカラグアの申し立て
賛成11 反対1 棄権3

1986年6月18日 安保理決議草案 S/18163
南アフリカのアンゴラ攻撃行為をめぐるアンゴラの申し立て(南アフリカは1980年代、レーガン政権の米国とともに、アンゴラ全面独立民族同盟:UNITAを支援して、アンゴラ内戦に関与していたほか、モザンビーク、さらにはボツワナ、ザンビア、ジンバブエでも不安定化工作・侵害行為を行っていた。南部アフリカではこうした行為により、150万人にのぼる犠牲者が出ている)
賛成12 反対2(英も) 棄権1

1986年5月23日 安保理決議草案 S/18087/Rev1
南アフリカの攻撃行為をめぐるボツワナ、ザンビア、ジンバブエの申し立て(前項の説明を参照のこと)
賛成12 反対2(英も) 棄権1

1986年4月21日 安保理決議草案 S/18016/Rev1
米国のリビア襲撃に対するリビアの申し立て(1986年4月15日、米軍はリビアの首都トリポリとベンザギを爆撃した。この爆撃ではカダフィ大佐の養女を始め、一般市民が殺されている)
賛成9 反対5(英仏も) 棄権1

1986年2月6日 安保理決議草案 S/17796/Rev1
イスラエルがリビアの民間機を拿捕した事件についてのシリアによる申し立て
賛成10 反対1 棄権4

1986年1月30日 安保理決議草案 S/17769/Rev1
イスラエルによるエルサレム、ハラン・アル・シャリフ侵害
賛成13 反対1 棄権1

1986年1月17日 安保理決議草案 S/17730/Rev2
イスラエルによるレバノンに対する攻撃行為をめぐるレバノンによる申し立て
賛成11 反対1 棄権3

1985年11月15日 安保理決議草案 S/17633
ナミビアの状況
賛成12 反対2 棄権1

1985年9月13日 安保理決議草案 S/17459
中東のイスラエルによる占領地の状況
賛成10 反対1 棄権4

1985年7月26日 安保理決議草案 S/17354/Rev1
南アフリカ問題
賛成12 反対2(英も) 棄権1

1985年5月10日 安保理決議草案 S/17172/第2段落
米国の攻撃行為に対するニカラグアの申し立て
賛成13 反対1 棄権1

1985年5月10日 安保理決議草案 S/17172/第1段落
米国の攻撃行為に対するニカラグアの申し立て
賛成11 反対1 棄権3

1985年5月10日 安保理決議草案 S/17172/前文
米国の攻撃行為に対するニカラグアの申し立て
賛成11 反対1 棄権3

1985年3月12日 安保理決議草案 S/17000
中東状況(レバノン)
賛成11 反対1 棄権3

1984年9月6日 安保理決議草案 S/16732
中東状況(レバノン)
賛成14 反対1 棄権0

1984年4月4日 安保理決議草案 S/16463
米国の攻撃行為に対するニカラグアの申し立て
賛成13 反対1 棄権1

1983年10月27日 安保理決議草案 S/16077/Rev1
米国によるグレナダ共和国侵略(1979年に誕生したモーリス・ビショップ政権を第二のキューバになると恐れた米国は、1983年10月、グレナダを直接侵攻し、政権をすげ替えた。この際、グレナダ人400名と空港建設を支援していたキューバ人84名が死亡し、米国人135名が死傷した)
賛成11 反対1 棄権3

1983年8月2日 安保理決議草案 S/15895
中東の状況(イスラエル占領地)
賛成13 反対1 棄権1

1982年8月6日 安保理決議草案 S/15347/Rev1
中東状況(レバノン)(1982年、現在イスラエルの首相であるアリエル・シャロンは、国防相として、レバノン侵略を指揮した。1982年9月16日から18日にかけて、レバノンのパレスチナ人難民キャンプ、サブラとシャティーラで、イスラエル派の右派キリスト教徒民兵が大虐殺を行い、3000名が犠牲になっている)
賛成11 反対1 棄権3

1982年6月26日 安保理決議草案 S/15255/Rev2
中東状況(レバノン)
賛成14 反対1 棄権0

1982年6月8日 安保理決議草案 S/15185
中東状況(レバノン)
賛成14 反対1 棄権0

1982年6月4日 安保理決議草案 S/15156/Rev2
フォークランド諸島(マルビナス)問題
賛成9 反対2 棄権4

1982年4月20日 安保理決議草案 S/14985
中東状況(エルサレムのアル・アクサ・モスク襲撃)
賛成14 反対1 棄権0

1982年4月2日 安保理決議草案 S/14943
中東状況(ラマッラーとナブルスの市長を辞任させた件について)
賛成13 反対1 棄権1

1982年4月2日 安保理決議草案 S/14941
中米状況(ニカラグア)
賛成12 反対1 棄権2

1982年1月20日 安保理決議草案 S/14832/Rev1
中東状況(ゴラン高原)(1967年の第三次中東戦争以後、イスラエルはシリアのゴラン高原を占領)
賛成9 反対1 棄権5

1981年8月31日 安保理決議草案 S/14664/Rev2
南アフリカに対するアンゴラの申し立て
賛成13 反対1 棄権1

1981年8月30日 安保理決議草案 S/14462
ナミビア問題(この年には、ジュネーブで国連主催のナミビアをめぐる関係国会議が開催されたが、南アフリカの強硬姿勢で決裂している。その際も米国は南アフリカを支持)
賛成12 反対3(英仏も) 棄権0

1981年8月30日 安保理決議草案 S/14461
ナミビア問題
賛成11 反対3(英仏も) 棄権1

1981年8月30日 安保理決議草案 S/14460/Rev1
ナミビア問題
賛成9 反対3(英仏も) 棄権3

1981年8月30日 安保理決議草案 S/14459
ナミビア問題
賛成9 反対3(英仏も) 棄権3

1980年4月30日 安保理決議草案 S/13911
中東状況(パレスチナの権利を巡って)
賛成10 反対1(英仏も) 棄権4

益岡賢 2003年3月22日

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