タリク・アリ
2004年6月30日
CounterPunch原文
侵略前、ブッシュたちは「大量破壊兵器」が西側を脅かしていると述べた。戦争に反対する私たちは、それは嘘だと言った。ジョージ・ブッシュ、トニー・ブレア、ジョン・ハワード[そして小泉純一郎]は、嘘を増幅させれば、人々は信じるだろうと考えた。そううまくは行かなかった。大量破壊兵器(WMD)がイラクになかったことは、今や公的な事実として明らかにされた。
それから、イラクの人々は「解放」を歓迎する、とブッシュたちは言った。我々の一部は、レジスタンスが起きるだろうと警告し、それに対して、過去に生きているとの非難を受けた。けれども実際にレジスタンスが広まり、占領の脆弱さが暴かれた。
つぎに米国の軍指導者たちは、レジスタンスは単に「旧政権の残党」であり、サダム・フセインに率いられているものだから、フセインが拘束されれば問題は収まると述べた。私たちは、サダムを拘束した後、レジスタンスはさらに強まるだろうと述べた。ものを見ようとしない人以外にとって、今や、クルド人指導者の一部を例外として、ほとんどのイラク人が占領軍にイラクから出ていってもらいたいと思っていることがはっきりした。イラク南部で4月に起きた蜂起は、占領がどれだけか細いものかを示している。
戦争屋政府の市民は、スペインの例にならって戦争屋指導者たちを追い出すのだろうか。それとも、最近では人々の記憶はとてもすぐ失われるようになってしまい、戦争屋指導者たちの嘘は大したことでないと思われたり忘れ去られたりするのだろうか? 用心深い、ものを考え事態をよく見つめる市民は、政治指導者たちが殺人罪を逃れることのないように注意しなくてはならない。
米国は既にイメージ戦に敗れた。数百万の人口を擁するバグダッドでわずか一握りの民兵が参加するだけの中、米軍の装備によって引き倒されたサダムの銅像は、ベルリンの壁を思い起こさせはしない。今やこの戦争と植民地支配を象徴しているのは、拷問の写真である(西側メディアでは、何気なく「虐待」と呼ばれているが)。
用心深い、ものを考え事態をよく見つめる市民は、政治指導者たちが殺人罪を逃れることのないように注意しなくてはならない。
植民地支配を被った人々ならば誰もが、拷問は帝国主義政策に不可分な一部であることを知っている。拷問のニュースが現れたとき、北アイルランドのシン・フェイン党党首ジェリー・アダムズは、新聞記事の中で、自分が拘束されていたとき英国に服を脱がされ侮辱を受けたことを書いている。イスラエルの強制収容所で続けられることについては、たくさんのパレスチナ人が証言している(こちらも参照して下さい)。驚いたのは西側の市民だけである。20世紀を通して自分たちの指導者が何をしてきたかを忘却した、西側の。
当然のことながら、「主権委譲」は、もう一つの大嘘である。イラク人なら誰もが思い出すように、この事態は、第一次世界大戦後国際連盟から英国が「委任統治」をまかされたことを、ファルスとして反復したものである。統治機関が切れた後も英国は軍基地をイラクに留め、イラク政治を支配した。バグダッドの英国大使館が、主要な決定を下していたのである。
6月30日以降、米国大使館がこの役割を果たすことになるだろう。そして、ジョン・ネグロポンテ---この人物の植民地総督としての資質は、中米で「死の部隊」が行なった暴虐行為を満足げに眺めていたことで、既に試されて証明されている---が、イラクの実質上の支配者となるだろう。元CIAエージェントのアヤッド・アラウィ---彼はサダム政権で下級の警察スパイをしており、多数の反対派の名前をチクった人物である---が新「首相」となるだろう。米帝国の最も素朴な追従者であったとしても、どう考えればこれを「主権委譲」などと言えるのだろうか?
アラウィは、秩序回復のための強硬政策が必要であると宣言した。そして、従順素直なコメンテーターたちは、既に、アラブ人は民主主義よりも強力な支配者を求めているなどとオウムのように語り始めている。アラウィがこけたら、追放されたペテンシアフマド・チャラビと同様、アラウィの首も切られるだろう。どちらの男も、征服者の一声で忘却の中に放り込まれるだけの当て馬に過ぎない。
米国は、富と軍事力で、貧しく弱い国々からご奉仕と支援を買うことができるだろうが、それでイラクの抵抗を終わらせることはできない。
シーア派の最高聖職者アヤトラ・アリ・アル=シスターニ師は、選挙で選んだ制憲議会がイラクの新しい憲法を決めるべきであると最初に要求した人物である。彼を支持する人々は、既に旧政権時代に食糧配給のために市民登録はできているので、選挙のための有権者登録は簡単であると述べた。けれども、この求めは却下された。「民主主義には時期尚早だ」、「人々はトラウマを受けている」などなどといった屁理屈のもとで。
サミュエル・ハンチントンのような米国の御用学者は、今、「民主主義のパラドックス」なるものについてしゃべっている。このパラドックスとは、民主的な選挙で人々は米国に友好的でない政府を選ぶかも知れない、というものである。
イラクできちんと選挙で選ばれた政府が持つだろう主な要求として次の二つがあることについて疑いを挟む者はほとんどいない。(a)外国の軍隊の撤退、そして(b)イラク石油をイラクの人々がコントロールすること。この二点において、イラクの大部分が団結しており、そして、イスラエルとの危険な謀略を玩んでいるクルド人指導者たちは、今の状況を続けるならば、クルド人たちの中でも孤立することは確実だと私は思っている。
主権委譲後も、何も変わらないだろう。ものごとが、それが実際にあるようにではなく、占領者たちがこうあると見せたいような意味をおびる、偽りの世界。イラク人レジスタンスがイラクの将来を決めることになるだろう。占領を維持できなくしたのは、レジスタンスが外国軍兵士と私営の傭兵を攻撃したためである。今でも新聞の一面にイラクの記事が現れ、TVもイラクを忘れていないのは、イラク人がレジスタンスを続けているからである。侵略と占領を支持した西側政治指導者の欺瞞をあばいているのは、バグダッドやバスラ、ファルージャの貧しい人々の勇気なのである。
米国に残された選択肢は、弾圧を強化することしかない。けれども、米国大統領選挙前に、ネグロポンテが大量虐殺に乗り出すかどうかは、まだわからない。
それは、危うい企てとなるだろう。
タリク・アリの最新刊 Bush in Babylon: The Re-colonisation of Iraq は Verso から出ている。電子メールは:tariq.ali3(at)btinternet.com((at)は@)。
イラクからウェブログを発信しているパレスチナ系のライードさんがイラク側責任者を務めて、米国のNGOが行なった民間人犠牲者(死者・負傷者)の調査結果がウェブで公開されました。ぜひご覧下さい。ライードさんのウェブログの日本語版はこちら。
また、イラクについての書籍として、イラク人女性のブログ(ウェブ日記)を日本語化した、『バグダッド・バーニング』(リバーベンドプロジェクト訳、アートン刊、1500円)がそろそろ書店に並ぶそうです。私はまだウェブでしか読んでいませんが、ブッシュ大統領や小泉首相、大手メディアがイラクの人々の声を押し潰して「民主主義」、「解放」、「復興支援」と叫び、そうした空疎なスローガンの陰で侵害や資源略奪を進める中、イラク人の声を伝える、貴重な内容。選挙を前に、『ファルージャ2004年4月』も併せてお読み頂けると幸いです。なお、米軍はまたファルージャを爆撃しました(ファルージャ関係のアップデートをこちらで行なっています)。
日本では7月11日、衆議院選挙が迫っています。嘘と情報隠しの中でごり押しされた年金「改革」。未だに大量破壊兵器疑惑という嘘をウェブで公開し続ける外務省(こんなゴミを作るために税金が使われている)。「構造改革」の空疎な掛け声のもとで、膨れ上がる国の借金(これらについてはこちらをご覧下さい)。戦争屋政府の市民は、スペインの例にならって戦争屋指導者たちを追い出すのだろうか。それとも、最近では人々の記憶はとてもすぐ失われるようになってしまい、戦争屋指導者たちの嘘は大したことでないと思われたり忘れ去られたりするのだろうか?大西巨人が、「嘘も方便」という言葉は真実を伝えるためにいっとき嘘をつくことは方便としてOKだという意味であり、言い逃れのゴマカシのための方便として嘘をつくのがOKということではないといった趣旨のことをどこかで書いていました。小泉純一郎首相は「わかりやすい」と思う人が多くて人気を集めている、とメディアは書いていました。複雑なことや真実を誤魔化すために単純な嘘を大声でくり返すことは、仮にそれが「わかりやすい」としても、実際には何もわかることにはならなりませんが。
反戦選挙プロジェクトというページがありました。