悪事を正当化しようとする試みは悪事自体よりも、おそらく致命的な害悪をもたらす。過去の罪の正当化は将来の罪を植えつけ、培養することになるからである。実際、罪の積み重ねは正当化の手段になりうる。それが非道な行為ではなく、普通の行為であると自他ともに納得させるために、われわれは何度もそれをくり返す。E・ホッファー 『魂の錬金術』 作品社
われわれは平和国家である。〔・・・・・・〕 これは、世界でもっとも自由な国、憎悪を認めず、暴力を認めず、殺人を認めず、悪を認めぬ価値観を拠り所とする国アメリカ合州国にたいする天の命令なのである。そして、われわれは飽くことを知らない。ジョージ・W・ブッシュ アフガニスタン空爆宣言の際
A・ロイ 『誇りと抵抗』 集英社新書より再引用
他人を非難するとき、実は自分を許そうとしていることがある。自己正当化の必要性が大きいほど、われわれは偽善的になる。E・ホッファー 『魂の錬金術』 作品社
昼夜24時間体制でいかに多くの人が取り組んだか。退避勧告を無視して出掛けた方によく考えていただきたい。〔・・・・・・〕 これだけ多くの政府の人たちが寝食を忘れて努力しているのに、なおかつそういうことを言うのか。自覚というものをもってもらいたい。2004年4月イラクで武装勢力に拘束された三人をめぐって
拘束の報を聞いたあともゆっくり会食を楽しんだ 小泉純一郎日本首相
参議院選挙を前に、穏健市民派的な観点から、いくつかのことを整理してみました(整理、というには話が断片化しますが)。
年金と社会保障
1999年1月17日付、日本経済新聞に、こんなデータが記されている。
1998年度 7兆3000億円の黒字 積み立て125兆8000億円
2060年度 積立[1994年の厚生省試算] 982兆3700億円
厚生年金の金額である。2060年に向けた厚生省試算は1994年のものだから、そのまま受け入れるわけにはいかない。それでも、年金法改悪の際に前提とされた状況に、疑問を提起するには十分なデータであるように思われる(実際、出生率については隠していたことが明らかになったのだから)。
(1) 仮に年金法改悪の際に論ぜられた[実際には論ぜられなかったが]状況が現状を反映しているとするならば、この5年間[厚生省試算からは10年間]、政官は、いったい何をして、このような事態を招いたのか?
(2) 仮にこのデータから5年間[10年間]政官が最低限妥当な政策を採ってきたとするならば、1998年度のデータを起点にして、今回の年金法改悪が前提とした事態は本当に存在していたのか?
これらについて、私は、今のところデータを調べていないので、多少乱暴な印象論レベルでしか語れないが、それでも、議論なしの強引な採決からも印象づけられた出鱈目さは、政策および情報のレベルにも及ぶ根深いものであることを疑うに十分であろう。
社会保障については、つい最近刊行された山口二郎著『戦後政治の崩壊』(岩波新書)に、社会保障負担の国民への還元率[つまり社会保障のために支払った額に対してどれだけが戻ってくるか]をめぐる、次のようなデータがある:
日本 41.6%
米国 53.2%
英国 58.9%
ドイツ 59.4%
フランス 60.5%
スウェーデン 75.9%
還付率では、比較対象となった5カ国と比べて、圧倒的に低いのである。
山口氏は、欧州各国で福祉の見直しが進められており、それに対して人々の抵抗が強いことを指摘した上で、次のように述べる。
しかしヨーロッパが福祉国家の見直しを進めているからといって、それをそのまま日本に輸入すべきではない。日本とヨーロッパでは福祉国家の水準がそもそも大きく異なるからである。日本ではまだできてもいない福祉国家を見直すことなどできないはずである。
大手メディアは、1999年以降、東ティモールについて「インドネシアからの独立」とくり返した。外務省も、国際法上東ティモールがインドネシアの一部であったことなどないのを知りながら、やはり「インドネシアからの独立」とホームページに記載している。結婚しなければ離婚できない。不法占領されただけで一部となったことのない地域が不法占領者から独立はできない。できてもいない福祉国家を見直すことなどできない。
コンテクスト/背景を考えれば、単純明快なことだけれど、断片化された情報の中で「福祉国家見直し」が声高に叫ばれれば、あたかも「福祉国家」がきちんと成立していたかのような前提にからめとられてしまうことになる。
ちなみに、小泉政権誕生から3年間で、国の債務残高が165兆円増加し、始めて700兆円を突破したという。財政再建? 聖域なき構造改革? 2001年3月末の538兆円から700兆を突破、30%もの増加です。人々に借金を背負わせて、税金は国際法違反の侵略に加担する憲法違反の自衛隊派遣やら効果ゼロの外務省の出張に使って。。。
現与党政権の倒錯
山口二郎著『戦後政治の崩壊』(岩波新書)の、政治学者とは思えない明晰な分析とデータに大きく依拠しつつ、少し現与党政権の倒錯について、拾っておこう。
まず、全体の状況。大雑把に言って、本来、リスクの社会化(危険はみんなで分担し補いあおう)と裁量的政策(そのためにコネなども考慮して恣意的な決断を行おう)からリスクの社会化を保ちながら普遍的政策へと展開すべきところ、小泉首相の「普遍的政策」のスローガン(「痛み」「聖域なき構造改革」)のもとで、実際には自民党生き残りのために、リスクの個人化(弱者の切り捨て)と裁量的政策とに収束していきつつあることを、山口氏は指摘している。
乱暴に言うと、最低限の社会的保障もなくして、一方で政官の回りでは汚職やコネがはびこったまま、という、最悪の「構造改革」である。
次いで、自己欺瞞と幻想(バーチャルリアリティ)に浸る官僚。失敗が明らかな政策を転換せず、雪だるま式に傷口を広げ負債を増やす官僚たち。(旧水産省を例外として)グローバリゼーションの中での国際的な交渉力の欠如した内向きの官僚たち(そして米国の代弁者と成り下がった外務省)。
ちなみに、4月の「人質救出費用」約1000万の内訳は、外務省職員の出張費1000万円くらい、人質の移送が50万円くらいだったという。外務省は人質救出に何も貢献しなかったのであるから、幹部が自己責任で1000万を国庫に返還するのだろうか?
そして、平和ボケ。山口氏は、安倍晋三氏が官房副長官時代に日本も核武装を検討する必要があると述べたことについて、「虚勢を張るために危険きわまりない武器を持って、他国からの信用をなくすというのは、政治家として最も無責任な行動である」と述べ、(他のケースも考慮しつつ)、次のように結論する:
戦後民主主義を批判する保守の政治かは、国民は平和ボケしているとよく批判する。日本人は憲法第9条のもとで、世界の現実から目をそむけてきたと言いたいのであろう。しかし、安倍の核武装発言に現れているとおり、世界の現実を知らないのは彼らの方である。〔・・・・・・〕日本の独りよがりの行動がどれだけ国際的な緊張を高めるかについて考慮することもできない。自らは常に無垢な存在であるという幼稚な前提の上に、自らの主観的満足のために、安全保障をもてあそんでいるだけである。これこそ平和ボケ以外の何であろうか。
190カ国を越える国連加盟国のうち、ひとまずはイラクに積極的に派兵している国は20カ国ほどに過ぎないにもかかわらず、そしてそれは、米英の侵略戦争が国連憲章違反であることを考えると当然であるにもかかわらず、それに加担する自衛隊派遣を「国際貢献」と声高にくり返す、バランス感覚の欠如。
そして立憲主義の空洞化。山口氏は、次のように整理している[こんなあたりまえのことが、どうしてあたりまえに広くくり返されなくなったのだろう?]。
憲法とは被治者が統治者に権力を預けるときの約束事であり、統治者を縛るためのルールなのである[これはチューガクで習った、と記憶している]。統治機構とは、国家権力の運用のしかたを決めたルールに基づいて校正されている。また、人権、特に伝統的な自由権の規定は、個人の活動を権力の干渉や抑圧から守ることを保障しているものであり、国家権力に対して個人の活動に関する立ち入り禁止の領域を設けたものということができる。〔・・・・・・〕 権力が勝手気ままに個人を支配するのではなく、憲法や法律に基づいて動かされることこそ、立憲主義の核心である。
小泉首相は、何と言ったか? 自衛隊の運用をめぐる憲法問題について、憲法解釈を「神学論争」と呼び、「常識で判断しよう」と言って、論理的な説明を拒否した。山口氏は言う。
多くの政治家がこうした立憲主義の空洞化を傍観し、小泉首相と論理を軽蔑する一方で、同時に憲法論議に血道をあげるというのはまさに戯画としかいいようがない。
憲法を改正(ママ)したり教育基本法を改正(ママ)して、「愛国心」を明記するといった、自由権の侵害。
やや奇矯な運動をする市民、猥褻とも思えるような表現活動をする人、同性愛者、特定の政党の党員など社会の多数派とは異なる人について、人権を抑圧されても当然な人々と例外視してはならない。健全なしそうは保護されるべきだが、不健全なしそうや表現は抑圧されてもかまわないなどと言い出したら、政府が「不健全」の提議を拡大していき、自由は失われる。
石原慎太郎都知事(ママ)に代表される外国人排斥(とはいえ、彼は最近米国の批判はピタリと止めている)。
そういえば、日本国憲法は「押しつけられた」ものだと言う理由で改憲を主張していた人々は、今、どうしているのだろう。米国の押しつけとそれに嬉々として従う小泉軍曹[ジョージ・W・ブッシュ米国大統領/米軍総司令官は、内輪では小泉首相をそう呼ぶらしい]により、つまり「押しつけ」により憲法を破壊し、立憲主義を破壊しようという流れをめぐっては、それらの人々は何というのだろう。
さらに、財政再建のツケを回すための、地方分権。
戦争国家造り
イラク派兵と有事三法、有事七法の奇妙な点については、イラク派兵と日本を参照して下さい。また、イラクからの声として、Raed in the Japanese Languageの、とりわけ6月26日、23日、10日付のライードさんのコメントを、お読み下さい。
少し整理
アルンダティ・ロイは、『誇りと抵抗』(集英社新書)の中で、インドの状況を次のように指摘している。
ここで[人々は]目の当たりにするだろう。政府の腕が相乗作用で動いていることを。〔・・・・・・〕片方の腕が国をばらばらにして売り飛ばすのに忙しくしているあいだ、もう一方の腕は国民の目を逸らさせるため、うなり、吼える騒々しい文化ナショナリズムの大合唱を指揮しているのだ。
なんと聞き慣れた話。
少子化をめぐって、保育の援助も社会的な体制も全く整備せず、子供を作り育てることを難しくしておきながら、それが、「心」「家庭」はては「母性」の問題であると叫ぶ与党政治家たち。
侵略戦争に加担することで国際的緊張を高め日本の安全を脅かしながら、「治安対策」「治安対策」とくり返す与党政治家たち。
侵略戦争の経費を膨大に拠出し、社会保障や福祉の削減と財政問題の地方へのツケ回しを進めながら、「伝統を愛する心」と叫ぶ与党政治家たち。
政策も外交も軍事も米国に売り渡しながら、「愛国心」を叫ぶ与党政治家たち。
まさに、「片方の腕が国をばらばらにして売り飛ばすのに忙しくしているあいだ、もう一方の腕は国民の目を逸らさせるため、うなり、吼える騒々しい文化ナショナリズムの大合唱を指揮している」、それが現在の日本政府の状況である。
選挙が近づいています。候補者にアンケートをとったこんなページを紹介してもらいました。
最近ようやく、日本の政治状況について、少しこれまでよりも冷静に分析的に、様々なプロセスを見ることができるようになってきました。そのためか、ここで大きく紹介した山口さんの本は、大変興味深く読みました。立場を問わず、多くの人に読んで欲しい本、内容を伝えて欲しいです。とりわけ、選挙の前に。
他にも、考える材料となる情報を提供した本が、最近、多数出てきました。別途そのいくつかをこちらのページの下の方で紹介しています(『ファルージャ 2004年4月』の宣伝もかねて)。