イラク:戦争は続く

マリア・トムチック
ZNet原文
2003年6月17日


米国メディアのサーカス・ライオンたちは、6月9日に開始された、バグダッド陥落以来最大の米軍による攻撃について、誠実に、報道を差し控えている。そのため、米国人たちは、ジョージ・W・ブッシュが、大量破壊兵器がイラクに存在するということ以上の嘘を言ったことに、幸せなまま気付かずにいる。

湾岸の空母上でブッシュが演出した勝利の祝宴は、現場の米軍士官たちによって反駁された。米軍士官たちは、繰り返し、英国の新聞と通信社に対して、戦争は終わったどころではないと語ってきたのである。BBCニュース(2003年6月12日)は、ブッシュが戦争に概ね勝利したと宣言した5月1日以来、5月だけで、85回、米軍に対する攻撃がなされていると報じている。これは、4月の3倍である。ロンドンのガーディアン紙(2003年6月13日)は、6月が始まってからの2週間で、少なくとも10人の米兵が死亡し、25名が怪我をしたと述べている。先週だけで、1日10以上の米軍に対する攻撃が加えられているのである。先週のある日には、イラク全土で米兵に対して25件の異なる攻撃がなされた。

カタールとワシントンの米軍報道官は、記者に対して、9日に開始された新たな米軍の攻撃は、バグダッドの北と西の三角地帯から、サダム・フセインに忠誠を誓う者たちを追い出すためのものであると述べた。この地帯は「スンニ三角地帯」で、ファルージャのような、占領開始以来毎日のように米軍兵士に対する銃撃が続いているとしを含む。けれども、米軍に対する攻撃の多くは、「スンニ三角地帯」の外で起きているものである。例えば、バグダッドやモスルで、これらの地域では、最近、米軍士官が「治安のモデル」と自賛したところである。

米軍の攻撃が表向きバアス党員をはじめとするサダムに忠誠を誓う人々を標的としているという宣言は、打倒すべき組織抵抗が存在することを仄めかしている。けれども、米軍報道官も記者も、抵抗は散らばっており、「様々」であり、一定の指令系統に組織化されてはいないと語る。これは、米国市民にイラクの事態は統制下にあると絶望的なまでに信じさせたがっているブッシュ政権の言うことと矛盾している。公式物語は次のようなものである。ひとたび米軍がサダムの民兵の最後の痕跡を掃除するならば(そして望むらくはサダム自身を見つけだすならば)、こうした攻撃は止まるだろうというのである。

現地の兵士たちは、こうした公式見解を疑う理由を有している。米軍を攻撃したものの仲で、忠実なバアス党員だったとわかった者はほとんどいない。

南部のシーア派から北部のクルド人に至るまで、様々なイラクのグループは、5月に、米国兵士に対する攻撃の雨が激化するはるか前から民兵を組織していた。戦争が始まって、次々と町がサダムの部隊に放棄されるにつれ、民族集団と武装ギャングたちが、すぐに町に入り込み、勢力を誇った。バグダッドを含む大都市では、隣近所の人々が自ら民兵を組織した。新たに結成された政党が第一に行ったことは、自らの「縄張り」を見張るために銃を持った者たちを雇うことであった。バグダッドに戻ったイラク亡命者のグループ---最も悪名高いのはイラク国民会議のアフメド・チャラビであるが---すぐに小さな私設部隊を雇い入れた。広範にわたる警察署の略奪により、これが可能となり、イラクの全ての家族が、AK−47かカラシニコフを所有することとなった。また、放棄された武器倉庫は、弾薬発射装置や地雷を、積極的なスカベンジャーに提供することとなった。

これまでのところ、人々の武装解除を行おうという米国の計画は惨めに失敗してきた。そして、それは当然のことである。ほとんどの都市や町で、犯罪と略奪が今も頻発し、安全のため、夜は人気がない状態になっている。イラクのビジネスは泥棒を避けるために早く戸締まりをし、トラック運転手は、略奪者やハイジャッカーを撃退するために自動火器を携行する。イラク女性は、強姦と子供の失踪が大規模に増えたと報じている。イラク石油産業の代表でさえ、今日でも行われている、新たに修復されたイラクの石油インフラに対するうち続く略奪に苛立っている。

他にも一連の悪事がイラクを悩ませている。きれいな水と食料、医薬品がないため、イラクの人々は、戦争以来、栄養失調と病気の増加に苦しんできた、と国連援助組織は述べる。安全でないために、こうした問題を解決するのはほとんど不可能である。イラクの公務員はほとんど仕事に戻っていない。というのも、米国の暫定政府が給与を全く支払わないからである。イラクの油田から来るはずの収入は、石油インフラの略奪---と直接サボタージュ---が続くために立ち往生している。イラクのパイプラインと石油採掘所を防衛するだけで、何千人もの米兵をさらに要するような、悪夢のシナリオである。

その間、米国暫定政府は、サダムの豪華な宮殿の一つの高い壁の仲に隔離されている。米国の総督ポール・ブレマーが敷地の外に出るときには、防弾ガラス付きのリムジンにのり、装甲車の部隊に囲まれる。これにより、暗殺計画を避けることができるが、同時に、一般のイラクの人々とその心配に接することもない。

大量破壊兵器の探索失敗さえ、イラクの人々を苛立たせ、米国に反対するようにさせている。イラク人のほとんどは、サダム・フセインを憎悪しており、正義を求めている。戦争犯罪法廷を望んでいる。けれども、そうした裁判には証拠が必要であり、米軍は、それを壊してしまった。主要な武器サイトと政府建物---バグダッドの主要な官庁から村々の警察署まで---に対する略奪を赦したため、略奪者たちがファイル・キャビネットとコンピュータを持ち去ってしまった。重要な証拠が失われた。米国捜査チームは今も米国でうち枯れており、イラクへの派遣を待っているだけである。

その間、サダム・フセインの残忍な政府に殺された人々の親族達は、米英や国連から何の援助も受けず、自分たちで大量墓地を掘り起こし、愛する人々の亡骸を同定しようとしている。国際的な戦争犯罪専門家は、バアス党官僚たちを有罪とできる貴重な証拠が、これにより失われると警告した。米国暫定政府は、これを無視した。

ジョージ・ブッシュとトニー・ブレアによる大量破壊兵器に関するあからさまな嘘も、イラクの人々の敵意を増加させている。ジョージ・ブッシュとコンドリーザ・ライス、ドナルド・ラムズフェルド、ディック・チェイニーが、大量破壊兵器の探索は続けられており、そのうち見つかるだろうと述べて米国メディアをなだめようとしている間、イラクにいる米軍のサイト探索チーム7チームは、もはや見るべき場所がなくなって、怠惰に座っているだけなのである。そして、今、CIAは、ブッシュ政権が、意図的に、国連と米国民に対して偽の証拠を提出したとリークした。イラクの人々は、これが意味することを理解している。米国が自分たちを攻撃したのは、石油のためであって、サダム・フセインが国際的な脅威だったからではない、ということを。

今のところ、米軍の新たな攻撃は、自ら称する目的を達成していない。大規模な武器庫は見つからず、バアス党員はほとんど逮捕されず、サダム・フセインは今も自由なままであり、イラク全土で米軍に対する攻撃は続いている。6月12日木曜日、スンニ三角地帯での戦闘の3日目に、イラクにおける米国の悪夢のシナリオが実現した。イラク北部の油田からトルコへの中心的なパイプラインがキルクーク近くで破壊されたのである。米国筋は、パイプラインが自然発火したのだと述べたが、当時パイプラインは使われておらず、近くのマフル村の住人は、記者達に、「イラク人が来て、アメリカ人たちがイラクの石油をトルコに持ち出さないように、それを爆破した」と述べた。

米国による新たな攻撃は、わずかなバアス党の残党を根こそぎにするためのものでないことは明らかである。そうではなく、この攻撃は、武装した人々が米国の占領に対して反対しているイラク統制を実現しようとする絶望的な賭けでなのである。


マリア・トムチックの文章は、これまで、「薄弱なパウエルの証拠」と「査察官、米国の批判に反証」、「導師たちとイカサマ師たち」を日本語で紹介してきました。

最近、英国でも米国でも、イラクで大量破壊兵器が見つからなかったことを巡って、政府への批判が高まっているようです。とはいえ、イラクが大量破壊兵器を保持していたとしてもしていなかったとしても、米英のイラク侵略は不法で犯罪であり、いかなる意味でも正当化できるものではありません。「大量破壊兵器がなかったじゃないか」という問題が前景化する陰で、「大量破壊兵器があったならば、侵略は正当化された」という暗黙の前提が忍び込まないようにしましょう。小泉首相への批判については、こちらをご覧下さい。「フセインが見つかっていないから彼が存在していないと言えるか」という、異様なまでの誠意のなさも(しかしこんな人間が「首相」なんですね)。

また、サダムの戦争犯罪法廷とともに、ブッシュとブレアへの戦争犯罪法廷もきちんとやってもらいたいものです。この記事では言及されていない、「勘定に入らない」とされてほとんど無視されたままのイラクの犠牲者については、勘定に入らない人々を、また、犠牲の実態についての写真は、こちらをご覧下さい。
益岡賢 2003年7月19日 

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