査察官、米国の批判を反証

マリア・トムチック
2003年3月10日
ZNet原文


2003年3月7日、国連主任武器査察官ハンス・ブリックスとモハマド・エルバラダイが国連安保理で報告を行った。 前回の報告を熱意を持って取り上げた米国のメディアは、今回の報告にほとんど言及しなかった。 理由は?ブリックスの報告もエルバラダイの報告も、ブッシュ政権が望んでいたものとは全く反対の内容だったからである。

ブリックスの報告は、イラクが多くの点で査察に協力していることを強調していた。 事前通達なしにイラク上空を査察機が飛行すること、イラク科学者との個別インタビューを認めることなどである。 ブッシュ政権は、インタビュー室には盗聴器が仕掛けられていると主張しているが、どうしてそれを知るに至ったかは明らかにしていない。 さらにいうと、米国が「敵対的な」国連安保理理事国に対して電子的監視を行ったこととどこが違うのかについても説明していない(米国のこの行為については英国メディアでリークされたが、多くの米国メディアは取り上げなかった)。

ブッシュ政権とブレア政権の主な要求(監視飛行とインタビュー)に対応したばかりでなく、イラクは国連査察団に対して、化学兵器と生物兵器の破壊に関わった人のリストを提供し、VXガスと炭疽菌開発計画に関する文書の所在を示して提出し、VXと炭疽菌に関する新たな拡大報告を出すと約束し、さらにそうした文書類を捜し出しまた湾岸戦争直後にこれら平気が破壊されたという主張を支持する証拠を特定するための政府委員会を指名した。

ブリックスは、現在イラクが2つの武装解除プロジェクトを進めていると指摘した。 一つは古い廃棄場所を掘り起こすことで、現在までに、液体の詰まったR−400爆弾2弾と6つの完全な弾頭、多くの爆弾の断片が掘り出されている。 もう一つは34発のアルサムード2ミサイル、ミサイル発射台1機、5つのロケット・エンジン、アス・サムード・ミサイルを作るための2つのキャスティング・チャンバー(鋳型?)である。 ブリックスは、アルサムードミサイルの破壊を、「武装解除の大きな進展、実際、1990年代半ば以来最初の進展」としている。 彼は、次いで、その賞賛とバランスを取るために、イラクがアルサムード・ミサイル破壊に1日休日を取ったと指摘している。 けれども、それがイスラム教の聖なる日である金曜日だったことは指摘しなかった。

コリン・パウエルは、イラクがアルサムードミサイルを製造するための製造計画を促進しており、査察団を騙すために、ロケット・エンジンとミサイル製造に必要な機材を移動させていると断言した。 けれども、この主張は全く馬鹿げている。 一瞬の決断で巨大な鋳型を移動することは全く不可能である。 特に、上空からの偵察機が飛行している状況で、そうした行為はすぐさま査察官に見つかるだろう。 ブリックスは、偵察飛行が大規模な製造機材を移動しようとしているところを捕らえたとは少しも示唆していない。

ブリックスはまた、米国の非難の核心にもとどめをさした。イラクが移動式生物兵器工場を持っているという非難である。 国連査察団は、CIAの情報に従い、移動式の食品検査施設、移動式工場、種子処理の装備を入れた大規模なコンテナを調査した。 その結果、移動式生物兵器工場については全く証拠を見いださなかった。

さらにブリックスは、サダムが大量破壊兵器を地下に隠しているという米国の主張の息の根も止めた。 国連査察団は、地下探索用レーダーを使い、CIAと英国諜報筋が指摘した場所を訪れて検査したが、地下での活動、地下鉄トンネルを利用した兵器工場、地下に埋められた移動式生物兵器施設などといった幻想に関しては何の証拠も見つからなかった。

ブリックスは、加えて、「専門的査察官を2倍にするよりも、調査サイトを巡る上質の情報を2倍にして欲しい」と述べた。 これは、米英に対して変な時間稼ぎをせずに、査察団に対してよりよい情報をもっと与えよという要求である。

ブリックスは報告を2つの主要な点で締めくくっている。 第一は、UNMOVICは、残された武装解除の仕事のリスト作成を含む作業プログラムの作成に向けて尽力しているという点である。 これは、ブッシュ政権がひどく恐れていることである。 このようなリストが作成されると、米国政府筋が、根拠のない非難をイラクに浴びせることがさらに難しくなる。 こうした告発は、イラクにとっての敷居をさらに高くすると同時に、皮肉なことに、米国が戦争をそもそも意図していなかったならば、査察を永続させることになるようなものである。 このリストは、イラクにとってトンネルの出口を示す光となる。 というのも、国連が明示した目標をイラクが満たすことができれば、経済封鎖をいつかは解除されるかも知れないからである。 少なくとも、希望があるということになる。 実際には、サダム・フセインが生きていて権力の座についている限り、そしてジョージ・ブッシュが政権の座にいる限り、米国は経済封鎖解除に拒否権を発動するだろうが。

第二の重要な点は、査察と武装解除計画を完遂するために必要な時間についてのブリックスの見積もりである。 彼は、意識的に、ジョージ・ブッシュが述べた最後通告である、米国は、イラクが武装解除するまでに「数週間与えるが数カ月は与えない」という言葉を、重要な差異とともに用いている。 ブリックスの言葉をそのまま引用しよう。 「残っている主要な武装解除の任務を遂行するために、どのくらいの時間がかかるであろうか? 査察への協力は即時に可能でありそうあるべきであるが、武装解除とその検証は即時にできるものではない。 外部からの継続的な圧力によるイラクの協力的態度があったとしても、サイトや品目をチェックし、文書を分析し、関係する人々にインタビューし、結論を引き出すためには時間が必要である。 何年もかかるわけではないが、数週間でできるわけでもない。数カ月は必要である」。

数週間ではなく、数カ月と明言しているのである。 米国が要求したように10日ではなおさらない −これにより国連安保理で揺れている6カ国のうち少なくとも2カ国は、フランス−ドイツ−ロシア側についた。 とりわけ、パキスタンが離反したことは米国外交筋にはショックであった。 というのも、米国外交筋は、大量の対テロ資金を提供したのだから、パキスタンはブッシュの手の内にあると考えていたからである。 攻撃的で妄想に満ちた要求は、誰もを離反させるようである。

核兵器査察団の主任モハメド・エルバラダイは、ニセの証拠を提示したとコリン・パウエルを批判した2月半ばと同様に活発なパフォーマンスを見せた。 幸運にして、彼は発言の冒頭で、落ち着いた言葉遣いで、安保理に対し、イラクは10年以上にわたる経済封鎖を被っており、それにより、産業インフラの再建に必要な部品や機材を入手できないでいることを思い出させた。 技術力のあるイラクの技師や科学者はよりよい仕事と面倒の少ない生活環境を求めて海外に脱出した。 米国関係者をいきり立たせたのは、彼の言い方であった。彼は次のように述べたのである。 「産業力は大規模に悪化した。これは、1980年代には存在した海外の支援がなくなったからである」。 サダム・フセインがレーガンの援助のもとで大量破壊兵器を製造し用いていた時代に対する明確な言及であった。

エルバラダイはまた、米国が協力しないことについても指摘した。 彼は、安保理理事国に、それぞれの国に亡命しているイラク科学者に対する、IAEAの査察官によるインタビューを許可するよう求めたのである。 これもまた、ブッシュ政権によるイラク告発においてパウエルとCIAが大きく依拠している米国への「脱走者」と話がしたいというはっきりした要求であった。

次いで、エルバラダイは、2月半ばの国連報告に対してコリン・パウエルが行った3つの主要な告発に言及した。 第一は、アルミニウム管である。 IAEAはイラクの設計文書と調達記録、会議録、サンプル等のデータを検討し、その結果、核円心分離器に関する専門家は、ふたたび、アルミニウム管はロケットの逆エンジニアリングに利用するために購入されたものであると結論したのである。 イラクには、このアルミニウム管を核遠心分離器に転用する力はない。

IAEAはまた、イラクの重磁石購入についても検査し、磁石はミサイル誘導システムや産業機械、電力計、野外電話に使われたと結論した。 いずれも、核円心分離器の磁気ベアリングには不適切なものであった。

最後に、IAEAは、イラクがアフリカからウラニウムを入手しようとしたという非難を調査した。 イラクとニジェールの間で行われたとされる取り引きの文書を分析し、それらをニジェール政府の公式文書の実際の形式と比較したのち、エルバラダイは、イラクとニジェールの取り引き文書は偽物であると結論した。 英国諜報の正確さ、ジョージ・ブッシュとコリン・パウエルの騙されやすさは、こんなものである。

エルバラダイは、報告を締めくくるにあたり、2月半ばの結論を繰り返した。 「3カ月にわたる突っ込んだ査察を行ったのち、現在まで、われわれは、イラクが核兵器開発計画を再開しているという証拠もそれを示唆するもっともな兆候も見いだしていない」。


ここまで無根拠に嘘偽りを並べてイラク攻撃を正当化しようとする米国と、それに追従する日本政府の、あまりに人を馬鹿にした態度には唖然とするばかりです。 そして、こうした出鱈目がただ武力を有しているものが大声でさけぶからというだけで流布している状況には、正直消耗します(本来ここまでのパウエル風出鱈目には、反論の必要も反論を紹介する必要もあるべきでない状況であるべきはずだと思ってしまうので)。 英国などは「何日かは延期することができる」と言っています。 国連の査察団長が、はっきりと、査察には進展が見られていること、武装解除とその検証には数カ月が必要と述べているにもかかわらずです。 米英が偽情報を提示し続けてきたことを考えると、これら両国は、単に戦争をするための口実に査察を利用しようとしているだけであることが、さらにいっそうはっきりわかります。

どこかで(どこか忘れました・すみません)、「イラクは一度侵略したのだから、そもそも信頼回復はできない」という主張からイラク攻撃を根拠づけようとする論を目にしましたが、他国を侵略したことにより信頼されないというのは、パナマに侵略して数千人を殺害し、グレナダを侵略した米国にも、またレバノンを侵略しパレスチナ領を侵略し占領しているイスラエルにも、東ティモールを侵略したインドネシアにも言えることです。 イスラエルは今も不法占領と殺害を続けていますし、インドネシアが東ティモール侵略と膨大な人権侵害を行っている間、米英から膨大な軍事援助と兵器を受け取ってきました。 もし「イラクは一度他国を侵略したのだから」との発言が、こうした世界史上の事実を知らずに行われているのでしたら(多分そうだと思うのですが)、何故それが知られていないのか考える必要がありますし、知っていて発言されているのなら、残念ながら単なる暴力の先棒担ぎでしかないことになります。

イラク攻撃に反対するためにできることについては、チョムスキー「推測をめぐらすのではなく行動を」の末尾をご覧下さい。


 益岡賢 2003年3月12日

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