コロンビアに関する米国の認識操作と「対テロ戦争」

2002年6月7日
ダグ・ストークス
ZNet原文


 1980年代、米国が行う対ゲリラ作戦はあらたなかたちを取り始めた。 今日、低強度紛争として知られるかたちである。ベトナムでの経験をもとに、 米国の軍事プラナーたちは、二つの重要な教訓に基づきこの変更に至った。 第一は、米国の市民は、米国が発展途上世界で進める帝国主義戦争において、 大規模な米国人の犠牲者を出すことを容認しないという点である。 米国の戦略立案家たちの間で、「ベトナム症候群」と言われるものである。 バッグに入れられて帰国する米国人兵士の死者というイメージ。 第二に、そしてこれがより重要なのだが、米国の戦略立案家たちは、 低強度紛争では、軍事的勝利が第一の目標ではないと認識したこと。 新たな目標は、敵を政治的に不当なものであるとし、国際的及び国内的に、 世論を操作することである。それゆえ、米国にとって、 心理戦争が決定的に重要となり、同意の操作が勝利にとって中心的なものとなった。 つまり、敵に対する人々の支持を破壊すれば、 勝利は続いてやってくるというのである。今日のコロンビアで、 この新たなかたちの低強度紛争が活発に適用されている。

 1986年に行われた世論調査では、米国の76%の人々が、 コロンビア政府は腐敗していると考えており、80%の人々が、 経済封鎖を望んでいた。1991年、コロンビア政府が、 悪名高い麻薬商人パブロ・エスコバル引き渡しを拒んだとき、 そのイメージはさらに悪化した。これらに対抗するため、コロンビア政府は、 自ら、米国市民の心をつかむために低強度紛争を開始した。 ソーヤー/ミラー・グループというPR会社を雇い、1991年前半だけで、 100万ドル近くの代金と経費を支払った。PRの専門家たちの仕事は、 コロンビア政府に対するイメージを、腐敗した残忍な人権侵害者から、 いわゆる「麻薬に対する戦争」における米国の信頼できる同盟者に変換することであった。 ソーヤー/ミラーのコロンビア担当責任者は、次のように説明する。 「主な使命は、コロンビアについて米国メディアを教育し、 うまく報道するようにし、また、ジャーナリスト、コラムニスト、 シンクタンク等々との関係をはぐくむことであった。 コロンビアには「良い」人々と「悪い」人々がおり、 政府は良い人々だ、というのがメッセージである。」 こうしたイメージを広めるため、ソーヤー/ミラー・グループは世論調査を行い、 人々の意見を評価した。1991年だけで、コロンビア政府は、 宣伝キャンペーンに310万ドル以上を費やした。キャンペーンにより、 ワシントンにいる米国の政策立案者たちに向けた、 新聞広告やテレビCMなどが現れた。広告はすべて同じテーマであった。 米国の人々に、麻薬に対する戦争を戦う勇敢なコロンビア軍を想起するよう求め、 認識を、麻薬供給者たるコロンビアから麻薬消費者たる米国に転換しようとするものだった。

 コロンビア政府職員とインタビューしたいというメディアの申し入れは、 ソーヤー/ミラーを経由した。好意的なレポーターを重要な政府高官に割り当て、 コロンビアの恐るべき人権侵害に批判的なレポーターを確実に遠ざけた。 あるとき、ニューヨーク・タイムズ・マガジンの編集者ウォーレン・ホーグとの会談後、 タイムズは、 選挙戦に多額の麻薬資金を利用した当時のコロンビア大統領セサル・トルヒーヨを称える、 長い不正確な記事を掲載した。コロンビア政府はこの記事の転載権を買い取り、 何千部ものコピーを米国のジャーナリストと大使館とに送った。 ソーヤー/ミラーは、定期的に、パンフレット作成、 コロンビア政府関係者の署名投稿、 ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などへの広告により、 コロンビア政府寄りのプロパガンダを広めるために、米国メディアを利用した。 最も大きな効果をあげたのは、 コロンビア内戦に関与する武装グループに関するイメージの転換だった。 最近機密解除された文書で、 1996年に米国の駐コロンビア大使だったマイル・フリシェットは、 FARC(コロンビア革命軍)を麻薬ゲリラというイメージで広めることは、 「それが対ゲリラ戦争で米国の支援を得るための方法であると考えた、 コロンビア軍の発案によるものであった」と認めている。 コロンビアが、米国の軍事援助第三位の受け手となった今日、 PR作戦はうまく機能したようである。この軍事援助は、 コロンビア第一の麻薬テロリストというイメージを作り上げられたFARCに対する 戦いに使われることになっている。

 民主党上院議員ジョセフ・バイデンは、2000年に、 「麻薬取引のすべての側面に、その根元において打撃を与えるこれほどの機会は、 歴史上かつてなかった。コロンビア支援は完全に米国の国家利益と一致する。 コロンビアは、米国の人々を毒している麻薬の多くのみなもとなのだ」と述べた。 クリントン政権における西半球問題局国務長官補佐ペーター・F・ロメロは、 次のように述べている。 「コロンビアはサンクチャリを作っている麻薬商人に対する権威を再構築しなくてはならない。 コロンビアの諸問題に対する包括的解決のためには、こうした無法地域に対する、 政府の権威の再構築が必須である。それを達成するために、我々は、 無法地域奥深くに入ることができ、コロンビア政府職員に安全な環境を与えるような、 航空移動手段を、コロンビア政府に与えることを提案する。」

 ブッシュが大統領となり、2001年9月11日の事件が起きたのち、 米国の対コロンビア政策には、新たに「対テロ」の性格が加わった。 コロンビアは今やブッシュ政権の射程の中にはっきりと位置づけられ、 米国司法長官ジョン・アッシュクロフトは、 「国務省は、FARCを西半球に拠点を置く最も危険な国際テロリスト集団と述べ」、 「コロンビア人と米国市民に対してテロ作戦を行っている」と述べた。 米国政策は、もともと対麻薬作戦として売り込まれていたが、今や、 対テロとしてその正当化がなされるようになった。 コロンビアで、言うところの「対麻薬」、「対テロ」戦争を戦うために、 米国政府は2001年−2002年にコロンビアに13億ドルを提供し、 2003年のために7億ドルを用意している。このお金はすべて、 コロンビア政府とコロンビア軍に向かうこととなる。 米国は、コロンビア軍に対し、戦争を、 コロンビア南部での左派ゲリラFARCに集中するよう指示した (米国が「南進」を名付けるものである)。 これらの「麻薬ゲリラ」、「麻薬テロリスト」は、 主要な「テロリスト」であり麻薬商人であるから、標的としなくてはならない、 というのである。

 1997年、 米国の中核的な麻薬対策組織である麻薬取締局(DEA)の副局長ジェームズ・ミルフォードは、 右翼準軍組織であるコロンビア自衛軍連合(AUC)の司令官カルロス・カスタニョが、 「彼自身、大規模なコカイン商人」であり、さらに、 「コロンビアで最も有力な麻薬商人グループの一つ」であるノース・バレと深く関係していると述べた。 ミルフォードは、さらに、 「ゲリラグループが、自分たちで生産してメキシコのシンジゲートに売ったり、 米国内に自らの配布ネットワークを作り出したりすることによって、 コカインを自から取り引きしているという証拠はほとんどない」と述べている。 DEAの現局長ドニー・マーシャルは、2001年、 刑事司法・麻薬政策・人的資源小委員会の証言で、 「FARCはコロンビアの一定の地域を制圧しており、それらの地域で、 麻薬活動に「課税」することで収入を得ている」と述べている。 さらに、マーシャルは、はっきりと、「現在、FARCが、 コロンビアから国際市場への麻薬輸送に直接関与しているという確認された情報はない」 と述べている。ミルフォードと同様、マーシャルもまた、FARCと異なり、 右翼準軍組織が、「強請や、コロンビア北部と中部の麻薬ラボ活動を守ることで、 資金を得ている」と述べている。「カルロス・カスタニョの組織、 そして恐らくそのほかの準軍組織も、コカイン精製に直接関与しているようである。 少なくともこれらの準軍組織の一つは、 コロンビアからのコカイン輸出に関与しているようだ」と。 米国のジョセフ・バイデン上院議員が米国上院外交委員会に提出した同様の報告も、 「カスタニョの組織、そして恐らくは他の準軍組織も」、 コカインの精製とコロンビアからの輸出に直接関わっていると述べていた。

 国連麻薬統制局UNDCPのコロンビア代表クラウス・ニョルンは、 「ゲリラは麻薬商人とは違っている。地方の前線は極めて自律的である。 けれども、いくつかの地域では、ゲリラは[麻薬に]まったく関与していない。 他の地域では、農民たちに、コカを栽培しないよう述べている」と言う。 ゲリラの元非軍事化地域で、ニョルンは、「FARCが制圧したのちに」、 「麻薬栽培は、増加も減少もしなかった」と述べた。実際、 非軍事化地域にコロンビア軍と準軍組織が攻撃をしかける前、 FARCは、コカの代わりに合法的な代替作物栽培を行うという、 国連の600万ドルからなる計画に、協力していた。

 こうしたことから、ゲリラが国際麻薬商人でないことは明白であり、 麻薬ゲリラという神話は、コロンビア内戦に対する米国介入主義のために有用な、 プロパガンダ上の口実を与えているものであることがわかる。 米国の著名な対ゲリラ専門家ジョン・ワグルスタインは、 「麻薬ゲリラ」という概念のPR上の価値を次のように説明している。 「アメリカの人々の心と議会とに、 西半球のゲリラ/麻薬テロリストに対抗するために必要な支援を受け入れる、 麻薬とゲリラとの関連を刷り込む。議会は、 この仕事を行うために必要な、 訓練や助言、 治安支援を通して我々の同盟者を支援することに待ったをかけるのが困難になる。 ラテン・アメリカのゲリラ活動を奴隷的に支援していた教会や学者グループは、 道徳的問題で悪しき側に立っていることを発見する。結局、 国防省(DOD)と非国防省の資源を使って協調的攻撃作戦を展開するために必要な、 非難しようがない道徳的立場を、我々は手にすることになる」。

 けれども、さらに重要なのは、ゲリラを麻薬と結びつけることで、米国は、 コロンビア市民社会に対して汚い戦争を行っている、 麻薬から資金を得た準軍組織の役割を曖昧なものとしているのである。 1991年に、コロンビア軍の諜報ネットワークを再構成するために、 米国の軍事アドバイザがコロンビアを訪れたことを考えると、 コロンビア市民に対するコロンビア準軍組織のテロ行為に対する米国の役割は、 さらに殺伐たるものであることがわかる。この諜報再構成は、対麻薬作戦のために、 コロンビア軍を支援することを目的とするとされていた。 ヒューマンライツ・ウォッチは、指令書のコピーを入手した。 その中には、どこにも、麻薬関連の記述はなかった。その代わりに、 この秘密諜報再構成は、全面的に、 「武装反対派によるテロのエスカレート」と言われるものに対する戦いを焦点にしていた。 再構成は、コロンビア軍と麻薬準軍組織ネットワークとの結びつきを強化し、 それにより、「諜報だけでなく殺害の実行のために準軍組織に依存する秘密ネットワーク」を、 実質的に強化するものであった。再構成が終了したときには、 すべての「書かれた書類は破棄されるべき」であり、また、準軍組織が、 「軍組織とオープンに接触したり交流したりすること」は避けるべきとされていた。 コロンビアでの訓練に従事した元米国特殊部隊訓練官スタン・ゴフは、 彼が「1992年にトレマイダでコロンビア特殊部隊を訓練しているとき、 私のチームは表向きは対麻薬作戦を支援するためにそこにいるということになっていた」。 彼は「部隊に歩兵対ゲリラ・ドクトリンの訓練をしており」、そして、 「受け入れ側の司令官と同様、完全に、麻薬が、 何年もの侵害により人々の信頼を失ったコロンビア軍の能力を向上するための、 目くらましとして使われていること」を知っていた。

 つまり、米国は、明らかに、 今日のコロンビアにおける人権侵害のうち80%を行っている、 コロンビアにおける主要なテロリストたる、 コロンビア軍とコロンビア準軍組織との間の関係を強化するために、 積極的に参加貢献したのである。さらに、上述のように、米国自身の組織によっても、 準軍組織がコロンビアにおいて今日最大の麻薬商人の一つであることがわかっている。 実質的に、米国の銀地援助は、 コロンビア全土を覆う主要なテロリスト・ネットワークに直接流れ込む。 このテロリスト・ネットワークは、自らの活動資金を得るために、 米国にコカインを輸出している。そして、そこにおいて、米国は、 ヒューマンライツ・ウォッチが、 コロンビア軍が汚い戦争を仕掛けながらコロンビア当局がそれを否定できるようにするための 「洗練されたメカニズム」と呼んだものを作り、それをさらに効果的なものとするために、 自ら役割を果たしたのである。冷戦期に、米国は、ソ連に対する世界的戦いと称して、 社会民主主義者、社会主義者、独立民族主義者、さらにはカトリック教会に対しても、 対ゲリラ作戦を行ってきた。冷戦後、米国は、その帝国主義政策を売り込むために、 新たなPR作戦に切り替えている。麻薬ゲリラと対テロという口実は、 米国の「公式の敵」を麻薬やテロと同一視するためのPR手段として役立っている。 そのような神話の下にある現実世界では、 コロンビア政府とその私営化された軍隊である準軍組織が、米国の明示的支援に頼みながら、 何千人ものコロンビア市民の死と失踪を直接引き起こしているのである。 コロンビア市民社会に対する米国のテロ攻撃は、 ラテン・アメリカ中で米国が採ってきた政策の一貫したパターンに従っている。 この政策は、直接、何十万人ものラテン・アメリカ市民の死を引き起こしたのである。

 それでは、米国がこうしたことを行っているのは何故か? 米国政策の背後には様々な要因があるが、その一つは、米国のエネルギー需要における、 コロンビアとベネスエラの石油の重要性である。 ゲリラが勝利を収めることにより地域が「不安定化」すれば、 地域の力のバランスが脅かされ、米国の大規模石油多国籍企業の利益が脅かされる。 最近、ブッシュ政権が、米国オクシデンタル石油が利用している、 500マイルに及ぶコロンビアのカニョ・リモン石油パイプラインを防衛することだけに従事する コロンビア軍一部隊を訓練するために、9800万ドルを求めていることは、 これを一層明確に示している。共和党上院議員のポール・D・カバデルは次のように述べている。 「コロンビアの不安定化は、現在米国に対する最大の石油供給国と見なされている、 隣国ベネスエラに直接影響する。実際、ラテン・アメリカの石油図式は、 中東のそれと非常に似通っている。血が岩といえば、今日のコロンビアは、 クウェートが当時我々に提供していた以上の石油を我々に提供しているという点だ。 この危機は、クウェートにおける危機と同様、多くの国に波及する恐れがある。 影響を受けるのは、すべて、我々の同盟国である。」 つまり、コロンビアのゲリラに対する戦争は、ラテン・アメリカ全土で、 米国の覇権とエリートの利益を脅かす民族主義勢力を破壊するために使われた、 伝統的な対ゲリラ戦略なのである。米国の軍事援助は、 コロンビア政府とその秘密武装部門である準軍組織を強化しそれに正当性を与える。 それによって、コロンビア政府は、 コロンビアの現状に対して声をあげる勇気を持つ人々を黙らせ殺害し続けることができる。 大多数のコロンビア人が貧困生活を強いられ、特に25%は酷い貧窮状態にあるという現状。 米国は、かくして、社会経済的組織の代替モデルの可能性を破壊し、 あり得る代替モデルを求めて組織したり声をあげたりすることのコストを増大させている。 戦争を実行するにあたり、米国とコロンビアのエリートたちは、 強制的手段と合意を求める手段の双方に訴えている。米国及び国際社会の人々に対しては、 大規模なPRプロパガンダにより、イメージを操作する。 一方、コロンビアでは、話はまったく異なる。コロンビアで立ち上がることは、 極めて危険であり、あまりに多くの場合、そうした人々には、 米国製の銃弾が待っているのである。

  益岡賢 2002年8月12日

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