コロンビア・コーヒーと政府

ジョシュ・フランク
2004年1月4日
ZNet原文


世界のコーヒー産業は過去50年間に大変貌を遂げた。豆の生産は、様々な国を移りわたった。コーヒーの消費は、スターバックスやシアトルズ・ベストといった小売り系列販売店により、指数関数的に増大した。けれども、コーヒー産業に関わる人々が平等に利益を得たわけではない。小規模コーヒー農家は膨大な損失を被っている。原生林を破壊して現金作物を作ることができるのではないかとの期待から環境破壊も進んだ。多国籍企業が最も安いコーヒー豆を求めて競争する中で、多くの国が輸出産業としてのコーヒー産業を失うこととなった。そして、こうした変貌の苦痛をコロンビアほど大きく受けた国はない。

南米のコーヒー価格は、1960年代後半から1970年代にかけてピークだった。当時は、1ポンドあたり平均3ドルであった。けれども2001年10月には、1ポンドあたりのコーヒー価格は0・62ドルにまで落ち込んだ。

当時のコロンビア市場は、コロンビア・コーヒー連盟(FNC)が調整していた。コーヒー生産者を代表する労働組合のようなものであった。

FNCが創設されたのは1928年で、創設後すぐに、政策立案者に訴える手段がほとんどなかった地方の農家にとっての政治的な声を表現する場となった。儲かっていた時代には、ほとんどのコーヒー農家が利益を得た。農業が、コロンビアで良い生活を送りたい人々が参入すべきビジネスであった。けれども、黄金時代は、長くは続かなかった。

1970年代以降、FNCはその巨大な力を失った。世界規模の諸要求のもと、しばしば「ネオリベラル・モデル」と称される諸要因により、コロンビアのコーヒー・コミュニティは分断された。ネオリベラル・モデルと称される経済モデルは「リベラル」という言葉の古い意味を利用している。自由市場体制、規制緩和、私営化を推奨し、全体として政府の監視や課税を軽視するもので、米国では、近年、クリントノミクスと言われる。

コーヒー豆を生産する農家がどんどん増えたため(1972年には75万から90万戸の農家と推定される)、価格は着々と下落していった。コロンビアでコーヒーの過剰供給が記録的なピークに達した1990年代半ばには、20万戸以上の農家が廃業した。過剰生産は、コロンビアだけの問題ではなかった。2001年後半には、60カ国で1億3200万袋のコーヒーが生産されているが、消費は1億800万袋であると報じられている。

1980年代の自由市場体制が国際コーヒー貿易を支配した。ネスレやフィリップ・モリス、プロクター、ガンブルなど、80年代の主要な多国籍バイヤーが最低価格を求めて競った。最も安い豆を買い付けることで利益をあげようとしたのである。コロンビアが敗北するのは確実であった。というのも、コロンビアの豆は高品質で味の良いものとして知られていたからである。生産コストも第三世界の国としては比較的高かった。それまでFNCの力によりコロンビアの56万農家の生活水準が上昇していた。一ポンド当たりの価格下落は、こうした農家の生活水準に大きく影響するものだった。

こうした中、コーヒー世界の次の勝者はネオリベラリズムにより決定された。1973年のパリ和平協定を受けて、安いコーヒーの潜在的生産者としてベトナムが注目を浴びることとなった。ベトナムの農業労賃は常に安く、1980年の平均農業労働者賃金は一日あたり0・09ドルであった。ベトナムの気候も、コーヒー豆の生産にとって理想的だった。そして世界の市場はこの第一級の条件に喜んで乗じようとしていた。

自由市場を提唱する経済学者たちならば、これは標準的な需要供給経済だと言うだろう。世界の需要が伸びている中で、買い付け企業が最上の最も安い生産手段を求めるのは当然だと[注:論旨は原文のママですが、このロジックは少し変だと思います]。けれども、このモデルは、コロンビアをはじめとする各地で小規模農家にこうした政策が与える影響を見ていない。数値を見ると、この効果には愕然とする。

1999年に、ベトナムは、世界の3大コーヒー産地の仲間入りをした。ベトナムとコロンビアは年間1200万袋を生産する、ブラジルに次ぐ世界第二の生産者として肩を並べた。その10年前には、ベトナムは世界のコーヒー貿易の中で名前さえほとんど現れていなかったのである。

ネオリベラル・モデルには勝者もいるが、沢山の敗者を生みだしている。多国籍企業とグルメ・コーヒー貿易関係者は、ポンドあたり生産者価格の低下により記録的な利益を得た。最大の勝者は小売りチェーンのスターバックスと最大の多国籍コーヒー買い付け企業であるネスレである。これら企業が肥えている一方、そのためにコーヒー豆を育てる各国の地方部の貧困はますます悪化した。コーヒーの国際価格は、今や35年来の低価格となっている。世界市場で最も厳しかったこの3年間には、価格が50%以上も下落した。インフレ率を考えると、この価格は市場最安値であるといえる。

現在、コロンビアは340億ドルの対外債務を抱えている。国際通貨基金(IMF)と世界銀行(世銀)が、コロンビアの債務返済を指示している。この債務により、コロンビアは外貨を稼ぐために輸出品生産の拡大を余儀なくされている。これは、コーヒー豆の過剰生産を引き起こす。世界的なコーヒー需要は相対的に安定しており、1980年代から見てわずかに増大したに過ぎないため、生産増大はコーヒー豆の大量余剰供給を引き起こす。そして、農業に補助金を与えている米国とは違い、コロンビアはお望みの他国に自国の余剰産物をダンピングすることはできない。

現行モデルで供給抑制は存在しない。コロンビアのコーヒー過剰生産を止める規制策は採られていない。この結果、多国籍企業の輸出収入は増大する一方、農民の実質収入は低下する。

ネオリベラル政策を全面的に支持しているコロンビア政府は、こうした事態に責任を負っていることは疑問の余地がない。けれども、開発途上世界におけるグローバル化のペースを実質的に取り仕切っているのは、産業諸国、政策機関、多国籍企業である。

1900年代以来、コーヒー豆は主として輸出商品であった。コーヒー流通を自由市場に任せる、というのが、コロンビアで需要・供給経済を論じるときの有名なスローガンであった。歴史的に見ると、FNCが、産業諸国を睨みながらコロンビアのコーヒー市場を監視してきた。多国籍企業に生産の主導権を譲り渡した今、FNCはコーヒー貿易の統制も失った。過去、コロンビアのコーヒー産業は規制や貿易において、政府よりもFNCに依存していた。20世紀前半に創設されて以来、FNCは何千ものコーヒー農家にとって政府の変わりとして機能してきたと言える。

第三世界の市場自身、国家/政府によってではなく、ますます、多国籍企業・多国籍政策機構により運営されるようになってきている。国境を越えた経済流通の発展は国家/政府の権威を低下させる。これにより、世界コミュニティ内での政府とFNCの経済プレイヤーとしての役割は周縁化されたのである。

ネオリベラル経済は、商品と資本の流通を私的機関に任せることを説く。これは、富と権力を政府から取り上げ、私的機関に委譲することにつながる。そして、世界的な生産ネットワークに誰を含め誰を除外するかを、こうした私的機関が決定する。FNCと政府が私的な諸組織にコーヒーの流通管理を任せてしまったコロンビアでは、市場に対抗するためのFNCと政府の役割はどんどん低下している。負の効果は、コロンビア地方部の貧しいコーヒー生産コミュニティで、強く感じられる。

これら農業部門で無政府状態が起きつつある中、貧しいコロンビア農家を代表する行政・統治機関の不在がますますはっきりしてきている。ネオリベラル化に全てを委ねられたままでは、コロンビアのコーヒー生産が合法的輸出の半分を占めるように再びなることはなさそうである。多国籍企業と私的組織による市場に委ねられ、主権は資本主義の前に跪いている。

私的組織は、農民と貧しい人々の犠牲の上にコーヒー流通を支配し、富める人々をさらに富ませ続けるだろう。結局のところ、これは、自由市場経済が、少数の人々を富ませ、それ以外の人々をぺしゃんこにするに十分な力を持っていることを意味している。

ジョシュ・フランクはニューヨーク在住。frank_joshua@hotmail.com


はっきりしていることが一つあります。現在の日本等の状況では、買い手は売り手よりも強いこと。とりわけ、生存に必須のものでなければ。それゆえ、多国籍企業が生産者のコーヒーを買いたたきます。それを考えるならば、安くコーヒーを買いたたくばかりかイスラエルを支援するスターバックスとか、ネスレとかコカコーラの製品を買わず、フェアトレードのコーヒーに切り替える、その意志を、スタバやネスレに表明することは、大きな意味があるでしょう。

興味深いことに、スタバもネスレもコカコーラも、イスラエルを支援している企業であると同時に、コーヒーをめぐってあるいはコカコーラの場合には子会社の人権弾圧で、コロンビアでも問題となっていることです。

というわけで、日本ネグロス・キャンペーンとかオルター・トレード・ジャパンとかの活用を考えましょう。ちなみに、後者は東ティモールの自立支援コーヒーを売っています。オルター・トレードの東ティモール・コーヒーは、個人的には、コロンビアかペルーの豆、あるいはスマトラの豆とブレンドする(近い産地のもののブレンドは掟違反のようですが)のがお気に入りです(googleで「フェアトレード」と「コーヒー」を入れると色々出てきます)。

石破防衛庁長官が年頭の記者会見で、「我々は歴史の変わり目に今、生きています。歴史を作っていくという、そういう任務を与えられています。防衛庁でなければ、自衛隊でなければできない、そういう仕事を今年1年、したいと思っています」と言っていました。自衛隊でなければできない?確かに、イラク侵略への軍事荷担は自衛隊でなければできないでしょうが、どんどん軍国主義化が進んでいます。最近、色々な情報が頻繁にアップされるこのページもよく参考にしています。

戦地イラクへの自衛隊派兵に反対する緊急署名の一次集約が1月15日と迫ってきました。また、、憲法改悪反対署名運動も続いています。米英のイラク侵略の陰で、イスラエルがパレスチナの占領地で様々な侵害を続けています。タイムリーなアクションの紹介もご覧下さい。
益岡賢 2004年1月7日

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