もし米国が「麻薬戦争」に勝利を収めたら、敗者はコロンビアということになる。米国は「コミュニスト」に対する戦争に膨大な額のお金をつぎ込み、また、現在、「米国の安全保障」に対する麻薬関係の脅威に多額の予算をつぎ込んでいる。けれども、脅威がなくなるや否や、米国の援助はすぐに無くなる。海外援助提供において、ワシントンは繰り返し、戦争への資金提供を平和への資金提供よりも重要であるとしてきた。
1980年代に、レーガン政権は、エルサルバドルで「コミュニズム」と戦うと称して50億ドル以上の軍事経済援助を提供した。1992年、エルサルバドル政府とファラブンド・マルチ民族開放戦線(FMLN)ゲリラが和平協定に署名し内戦が終結した。戦闘が終わってまもなくして、エルサルバドルに対する米国の援助は減らされ、12年間にわたる戦争で経済的に荒廃したエルサルバドルは自分で何とかしなくてはならない状況となった。
内戦終結以来、米国の経済援助がなくなり、新自由主義経済政策が適用されたため、エルサルバドルの大多数を占める貧困層は、膨大な失業と生活水準の低下に直面することとなった。その結果、絶望的な状況に置かれた多くのエルサルバドル人は、戦争に使われた武器−その多くは米国が供給したものだが−の余剰に簡単に手が届くことを知り、国中で暴力犯罪が増加することとなった。
エルサルバドルの経済状況は、内戦前よりも現在のほうが悪化しているが、エルサルバドルが米国の利益に対して政治的・経済的脅威となっていない限り、米国にとってそれは知ったことではないのである。ワシントンにとっては、また、エルサルバドル経済を破壊し、7万5千人以上のエルサルバドル人死者を出したのは、米国の援助、訓練と武器提供によるところが大きいということも、関知することではない。
より最近、ボリビアは、米国の「麻薬戦争」における忠実な同盟国であることを示した。ボリビア政府は、米国の経済的圧力に負け、不法コカ栽培を撲滅するために、自国民に対して軍を向けた。ラテンアメリカの人々に対しては喜んで麻薬戦争の矛先を向ける米国は、一方で、米国都市の路上では麻薬に対する戦争を行おうとはしない。
ワシントンによると、ボリビア軍は国内のコカ栽培地域での麻薬戦争に勝利を収めつつあった。米国麻薬取締局(DEA)は、これまでの30ヶ月に、ボリビアは不法コカ畑の55%を撲滅することに成功したと述べた。けれども、ボリビアは自らの成功の犠牲者となったのである。ワシントンは、1999年に提供した6800万ドルの援助からさらに援助の額を増加させるとした約束を破棄することでボリビアの協力に謝意を示したのである。
コロンビアに13億ドルという大規模な「援助」が提供されていた状況で、ボリビアの内務大臣ウォルダー・ギテラスは、米国の援助を得るためには、ゲリラとコカ畑を持っている必要があるようだと述べた。米国のドラッグツァーであるバリー・マッカフレイは、ボリビアとペルーに対する少額の援助は、これら両国がコカ撲滅に成功したためであると述べたが、これは、ギテラスの言葉を確認しているものである。けれども、ボリビアでは、米国が資金提供したコカ栽培農民に対する軍事攻撃が成功ことにより、社会不安がますます増大することとなった。これは、自らとその家族が生き延びるために可能な代替策を提供されなかった農民たちが経済的破滅状態に直面しているためである。
多くの農民にとってコカ栽培が唯一残された経済的生存手段であるコロンビアでも、同じ軍事作戦が適用されている。コロンビア人の多くは、麻薬問題を北米の問題と考えている。人々は、米国における膨大な麻薬需要が、生産と流通を促進していると主張する。一方、米国は、コロンビアを米国内の麻薬問題に関する最大の原因であるとしている。主要供給源として、コロンビアが米国における麻薬消費の責任を非難されるとするならば、全く同様に、コロンビア人たちは、コロンビアにおける暴力の責任は、世界最大の武器輸出国である米国にあると主張することができるはずである。
コロンビア政府と軍人たちは、コカ栽培を撲滅できず、ゲリラに勝利できないことで与えられる膨大な米国援助の恩恵を受けている。こうしたコロンビア将校たちがラテンアメリカにおける最近の米国の政策に注意を払っているならば、恐らく、麻薬戦争と内戦に勝利すると、米国の援助が劇的に減るだけであることに気付くだろう。
コロンビア内戦により、最近10年間で3万5千人の犠牲者が出た。150万人以上が難民となり、経済は大恐慌以来最低レベルまで沈んだ。戦争の原因であると同時に結果でもあるコロンビアの社会経済的病を治療するためには、コロンビアでの戦闘が終わったときにこそ、米国の大規模な援助が必要となるはずである。
エルサルバドルとボリビアの例が参考になるならば、コロンビアでは、麻薬戦争と内戦が終結するまで膨大な武器がコロンビアに流れ込むであろう。けれども、勝利が達成され、米国がコロンビアの出来事はもはや米国の利益に対する脅威となっていないと見るやいなや、コロンビア政府と人々は、問題を自ら処理すべく放置されることになろう。歴史は、米国が、大規模な軍事援助や武器を提供してコロンビアのような国を破壊することに何のためらいも感じないことを示している。また、歴史は、戦争が終わると米国がいとも簡単に関心を失うことも示して いる。
そして、戦争が続いてる間は、援助が続けられ、また、自由で民主的な生活を送る人々の権利を支援するという主張がしつこく繰り返されるにも関わらず、対立が終結し、自由で民主的な社会の創造に対する支援の本当の機会が訪れたときには、援助もお題目もすぐに雲散霧消するのである。