若い国内避難民の子ども兵士としての役割
チャールズ・ゲイスラー&ニューシャ・ロシャニ
2006年7月17日
コロンビアジャーナル原文
戦争の付随的被害は、偏って多く一般市民が被っており、その中には子どもたちや青年たちが含まれる。こうした被害が加えられても、実行犯はほとんど処罰されず、しかもすぐに忘れ去られてしまう。コロンビアのような国では、戦争とそれにともなう人々の自宅からの追放や避難は、3世代にわたって続いている。追放された家族の子どもたちは、犯罪や暴力の犠牲者となるばかりでなく、子ども戦闘員として、戦いを行っているグループに大規模にリクルートされ、それによって紛争を再生産し、長引かせることになる。コロンビアで和平協定を実現しようとする人々は、青少年兵士候補が大量にいることで、和平交渉が無期限に延期されかねないという暗澹たる事実に直面することになる。
コロンビアの人口は、現在4370万人と推定されており、そのうち1640万7000人が18歳未満である。コロンビアでは、把握されているだけでも国内避難民(IDP)は300万人おり----把握されていないIDPを含めるとさらに多くなる----、スーダンについで、IDPの数では人口比で世界第二位に位置する。国連開発計画(UNDP)とNGO筋によると、国内避難民の中で若者が占める比率は約50%にのぼるという。コロンビアの「人権と国内避難民のコンサルタンシー」(CODHES)によると、IDP全体の86%にのぼる家族に、一人以上の子どもがいる。こうした家を追われた子どもたちの中で、45%は14歳以下であり、20%が3歳から10歳のあいだである。
家を追放されることにより、通常、様々な困難が引き起こされる----ホームレス、身体的な拷問、ひどい心的外傷、残虐行為を受けやすくなること、栄養失調、公的教育をほとんど受けられなくなること、家族の一員を失うこと、そして、戦闘員へのリクルートがしょっちゅう繰り返しやってくるといった様々な危険である。両親がいない子どもの多くにとって、戦闘集団に参加すれば、生き延びることができるという問題もある。こうした状況のため、リクルートが強制的なものか自発的なものかという議論は観念的な意味しかもたなくなる。
コロンビアでは、1万4000人から2万人の子どもが戦闘部隊に参加していると推定される。これは、ミャンマー、リベリア、コンゴ民主共和国についで、子ども兵士への依存度では世界第四位である。ヒューマンライツ・ウォッチによると、コロンビア内戦における非通常部隊の戦闘員のうち少なくとも4人に一人は18歳以下であるという。
ほかの多くの国と同じように、コロンビア政府は、正規に登録されていないIDPの子どもたちに、特別な対策プログラムや安全対策をほとんど提供しない。一方、国内外の組織が、元子ども兵士に関心を向け、市民社会への復帰支援を行おうとしている。それがなければ、元子ども兵士たちは、身体的・性的な虐待や、搾取、拉致、人身売買の被害を受ける恐れがあり、再びリクルートされる可能性もある。特に、家族や支援ネットワークから引き離されている場合は、そうした恐れが大きい。NGOは、子どもたちの栄養失調や病気への対策を活発に行っているが、それ以上のことに乗り出すことはほとんどない。軍事グループから足を抜こうとしている子ども兵士たちは、逃げ出した先のコミュニティにおける市民生活の場で、不信や非難の目に長くさらされることになる。
したがって、コロンビアをはじめとするどこでも、子ども民兵の悲劇は、個人的なものであると同時に、社会的なものでもある。世界的に見ると、何十万人もの子どもたちが、大人の都合によって暴力的な生活の中に投げ出される。膨大な数の子ども「予備兵」がいることで、平和の文化ではなく戦争の文化が永続化し、社会全体が苦しむことになる。というのも、社会化が昨日せず、また、様々な年齢の戦闘員の供給元が無際限にあることで、和平交渉を行おうという誘因が減るからである。平和のためにロビー活動を行う人々は、国内的な追放と、それにより引き起こされる子どもの軍へのリクルートを止めるよう強いロビー活動を行う必要がある。
コロンビアで国内避難民となった子どもたちの死亡率は、1000人中120人にのぼるかもしれない。同じ年齢層全体で見ると、1000人のうち21人であることを考えると非常に高い。120人という率には、武装グループから隠れて繰り返し追放されることによる数も入っているかも知れない。追放された中で生きることにより、子どもの権利条約(CRC)が保証する子どもの権利すべてが危険に晒される。生存の権利、保護を受ける権利、成長に不可欠な教育等の権利である。IDMCによると、国内避難民の子どもたちは、必要な文書がなかったり、授業料を払えなかったり、人種差別にあったり、言葉の障壁などにより、教育の権利を享受できないこともある。
様々な理由で、コロンビアにおける正確なIDPの数を把握することは難しい。あらゆる年齢層で、国内避難民たちは、さらなる迫害や差別を受けることを恐れて、自分たちが避難民であると言わないことが多い。ゲリラや準軍組織は、軍事行動に関する情報を目撃して漏らすのではないかと恐れて、IDPの人々を殺すことが知られている。国内避難民として登録すると、仕事を得る機会が減ったり、子どもたちが教育や医療を受けることがしにくくなったりする。さらに、IDPのほとんどは、貧しい環境から来た人々で、身分証明カードを持っている人も少ない。
これだけ問題の多い実状があるのに、コロンビアでほとんど一般の注目を浴びていないのはどうしてだろう? IDPの数を把握するのが難しいことは、コロンビアにおけるIDPの子ども戦闘員の問題がほとんど知られていないことの理由の一部でしかない。コロンビアは、追放−リクルート・システムの悪循環にはまっている。先ほど述べたように、武力紛争が引き起こした追放により、若い人々は生存のために恐ろしい選択を迫られることになる。ヒューマンライツ・ウォッチによると、これらの青年たちや子どもたちは、大人の戦争を闘うためにますます大規模にリクルートされるようになっており、それが今度は、新たな暴力と追放とを引き起こす。それによって老若をとわず戦闘員への需要が高まる。この悪しきサイクルがコロンビアでは生活の一部となっており、それが当たり前であることによって、目につかなくなっている。コロンビアの子どもたちの中には、物心着いてからずっと戦闘員として暮らし、子ども時代を経験していない者もいる。
こうしたことが忘れ去れる理由には、ほかにも多くの要因がある。たしかに、自分たちの大義の重荷を実は子どもたちが背負っていると宣伝したがる武装グループはほとんどない。それを恥じるために、子ども兵士の存在を否定し、それを秘密にする。第二に、未成年である子どもたちは、自分の権利を自ら表明する権利を持たない。自分たちに人権があると知らない場合も多い。子どもたちは社会から影響を受け、しかもその社会は戦争をしている社会である。これに関連して、IDPの子どもたちの多くは身分証明書類を持たず、社会的にうち捨てられたところに暮らしている。彼ら彼女らが戦闘員となって姿を消しても、少なくとも公式には気づかれないままであることがよくある。さらに、そのような見落としがあっても、罰則はない。コロンビア政府は、処罰される恐れなしにその事態から目を背け続けることが出来、一方で、CODHESのような組織に対しては、国際社会の目にコロンビアの否定的な側面を宣伝しているとして、脅迫を加える。
ほかの社会的要因も関係している。コロンビアのエリート社会は、IDPの子どもたちを貧困や悲惨、そのほか自分たちの国への敬意を傷つける侮辱と見なすことが多い。内戦が続くことについて、寡頭支配体制ではなく戦闘員を非難する傾向があるが、それはつまり、子どもたちを含む犠牲者を非難することになる。コロンビアでも、ほかの国々でと同様、子ども兵士となることもたちは、問題を抱えた文化的地域に住んでいることが多い。こうした子どもたちに関する国勢調査データもなく、子どもたちの危険に晒された生活についての詳細な調査もないこともまた、人々が、事態を曖昧にし、責任逃れをするのに一役買っている。
けれども、強制追放と子どもが兵士になることとの関係は、実際のところどのようなものだろう? それが引き起こす帰結はどのようなもので、それを防止するためにはどうすればよいだろう? 強制追放と子ども民兵は、戦争が引き起こす、お互いに無関係な帰結ではない。両者が深く相互に関係していることも多い。戦争のときでも「平和」のときでも、家を追われているときに兵としてリクルートされることと、リクルートされる結果として家を追われる事態が発生することとの間には、強い関係がある。
とはいえ、子どもたちにとって最も重大な危険が起きるのは、激しい武力紛争が続く国々でであり、そこでは、IDPの数も子ども兵士の数もともに増加する。子ども兵士のリクルートが、数としてもそれにともなう暴力的扱いについても最もひどい国々は、また、文字通り何百万人もの子どもを含むIDPと難民の人口が最も大きな国々でもある。
コロンビアやそのほかの、子ども兵士に依存している国々では、IDPの子どもたちと子ども兵士リクルートの問題を結びつけておらず、それが、より大きな問題の一部となっている。国内での強制追放が広まると、貧困や安全の欠如も広まり、家族はばらばらになる。子どもたちは誘拐されたり、生き延びるために兵士となることを求める。市民社会が抱える困難を軍事的に「解決」しようとすることで、さらなる追放が発生し、さらなる子ども兵士のリクルートが行われる。ヒューマンライツ・ウォッチが昨年の報告書の結論として述べている、子どもたちのリクルートが増えているという事態に、このことは確実に影響している。追放−リクルート−追放のサイクルは、コロンビアで生活パターンとなってしまっている。
FARC−EPのテーマ活動グループの司令官マリアナは、珍しいことに、FARC−EPが子どもをリクルートしていることを認め、その立場を擁護した。「私たちの兵の中には、15歳以上の若い兵士がたくさんいます。彼らは、家族のために、自分たちのために、そして自分たちと同じような状況に暮らすほかの人々のために、国をよくしようと夢見ています。ですから、彼らはFARCに参加しようと決断したのです。私たちは、例外的な状況では、それより若い人も入隊を認めます。というのも、政府も社会も、さらに家族さえ、彼らにまっとうな暮らしを送る手助けをしようとしないからです。これにショックを覚えないようにしましょう。そのかわりに、私たちを批判するこの社会が、いったい彼らに何を提供しているかに目を向けましょう。路上での物乞い、貧しい都市部で非行ギャングの一員になること、、売春、金で人を殺すギャングに参加すること、です。戦争などあるべきではありませんが、不幸にして、私たちの国で経済的・社会的権力を握る人々は、蜂起以外の選択肢をすべて押しつぶしてきたのです」。
このFARCの立場は、自己正当化にすぎない。同じような論理が、コロンビア軍や準軍組織の記者会見でも見られる。彼らが弱い立場の人々をリクルートすることを、私たちが捕食的な行為だと呼ぶと、誰もが嫌な顔をする。それでも、子ども兵士の総数の推定と、そのうち強制追放された子どたちの兵士の数が驚くほど多いことを考えると、こうした子ども兵士が自らの意志で兵士になったとは言い難い。
軍に参加した経験の有無にかかわらず、強制追放された子どもたちを社会に再統合することで、コロンビアにおける将来の人権侵害を減らし、また、弱い立場にある人々の心理的な、そして健康上、経済上、教育上のニーズに対処する一助となることは確かである。子どものリクルートを協力して阻止し、社会に再統合することで、さらなる利益が得られる。和平プロセスが進むことである。この主張を証明する直接の証拠が現れるまでには何年もかかるかも知れないが、この主張は十分根拠があると思われる。コロンビアで戦闘に参加しているグループは、子どもたちが次から次へと新たな兵士として参加してくるならば、和平へ向けた動きをまともには扱わない。コロンビア内戦において、少なくとも4人に一人の戦闘員が子どもである。コロンビアが戦争を続けるために子どもに依存している状態は、アル意味で、13世紀の子ども十字軍の現代版である。そのような目的のために子どもたちが犠牲にならなければ、ひどい流血沙汰や強制追放も避けることができるかも知れない。
この問題を認め、子どものリクルートを批判する立場をとるならば、コロンビア政府は、積極的な政策をとって、内戦の中で自らの立場に大きな支持を集めることができる。政府は、子ども兵士の問題をとりあげ、社会への再統合を進めている国内外のNGOを、無条件で支援しなくてはならない。
ここで述べてきた悪しき循環は、道徳的にも受け入れがたい。この問題はまた、コロンビアが抱える社会的問題の中で平和を構築するための障害となっているが、そのことはあまり理解されていない。おそらく、軍事活動への参加を免れた子どもたちの中には、コロンビアでこの悲劇が井戸と起こらないようにする指導者の候補がいるだろう。
チャールズ・ゲイスラーはコーネル大学開発社会学の教授。強制追放に関する彼の研究は、とくに、講演や保護地帯からの強制退去や、世界的紛争やテロが強制追放に及ぼす影響を中心に扱っている。
ニューシャ・ロシャニはコーネル大学の国際開発学を専攻する大学院生で、コロンビアのアンティオキア州北部アパルタドの、追放された子どもたちに対する支援プログラムの改善を研究している。
■8.12シンポジウム「平和憲法をどう守り活かすか」
パネルディスカッション&サプライズ
パネリスト:渥美雅子、加藤登紀子、きくちゆみ、小林正弥、高橋春雄
日時:8月12日(土) 13:00 開場
13:30 開会
16:30 閉会
場所:千葉市文化センター(3Fホール・定員500名)
千葉市中央区中央2−5−1 tel: 043-224-8211
アクセス:JR千葉駅から徒歩10分(地図)
参加費:500円
主催:8.12平和シンポジウム実行委員会
連絡先:渚法律事務所
〒260−0013 千葉市中央区中央3-15-6やまちょうビル6F
メール:kiu_iu@hotmail.com
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