コロンビア:本当のテロリストは誰か?

ギャリー・リーチ
2006年2月20日
コロンビア・ジャーナル原文


2001年9月11日の出来事[米国ニューヨーク世界貿易センタービル等にハイジャック機が突入した事件]のあと、まもなく、米国がコロンビアに軍事介入するための口実は、不法ドラッグに対する戦いから対テロ戦争へと変わった。実際のところコロンビアの非正規武装グループは三つとも米国国務省の国際テロ組織リストに載っているにもかかわらず、すぐに、ブッシュ政権が主な標的としているのは左派のコロンビア革命軍(FARC)であることが明らかになった。親政府派の武装集団のほうが左派ゲリラよりもはるかに多くの市民に対するテロ行為を行っていることを考えるならば、米国政府が対テロ戦争でFARCに焦点を当てるのは奇妙である。

この数年、コロンビアの殺人件数は大幅に減ったが、減った分の大多数は、刑事犯罪としての殺人である。コロンビア内戦にかかわる民間人死者の数はほとんど変わっていない。さらに、ボゴタにある「紛争分析資源センター」(CERAC)によると、コロンビア軍とその仲間の右派準軍組織が、過去16年間の紛争にかかわる民間人死者数の58%を行ってきたという。それにもかかわらず、米国政府は、2001年9月11日以降、「対テロ」の視野を左派のFARCだけに据えている。

ニューヨークとワシントンにテロ攻撃があってから3週間も経たないうちに、フロリダ州選出の民主党上院議員ボブ・グラハムは、FARCを国際テロの大きな脅威と描き出すキャンペーンを始めようと主張した。「FARCは世界レベルのテロリストと同じことをやっている。FARCは、お互いに接触のない小さな細胞にわかれ、兵站と資金の観点では、攻撃を行うのに中央司令部に依存しない。これはビン・ラディンの活動と同じだ」。

2001年10月、米国国務省の対テロ官僚のトップにいるフランシス・X・テイラーは、グラハム上院議員についで、西半球で米国政府がテロリズムと戦う戦略の中には、「それが妥当ならば、アフガニスタンで我々がやっていること、すなわち軍事力の行使」も含まれると宣言した。テイラーは、FARCが「西半球を拠点とする最も危険な国際テロ・グループだ」と述べ、「妥当」な標的が誰かを明らかにしている。

一方、テイラーのボスである米国国務長官コリン・パウエルは上院外交関係委員会に対し、FARCはアルカーイダと同じ範疇に属すると述べた。「[オサマ・ビンラディンを]テロリストだと認め、皆を彼に反対させるのは難しくない。ところで、おそらく同じような水準にある組織はほかにもある。コロンビアのFARCが思い浮かぶ」。

同年10月の最後の週に、グラハム上院議員は非難の声を強め、グローバルな対テロ戦争においてコロンビアが主な戦場になると宣言した。同議員によると、2000年には米国市民と施設に対して世界中で500ものテロリズム事件が起きたというが、「その500件のうち、44%は一つの国で起きている。エジプト? 否。イスラエル? 否。アフガニスタン? 否。ぜんぜん違う。44%はコロンビアで起きている。テロリスト戦争が燃えさかっているのはコロンビアだ」。

グラハム上院議員は、コロンビアのゲリラが米国に対して加えている「テロリスト」攻撃の大多数は、米国企業が使っている石油パイプラインの爆破であることを言わなかった。つまり、これらの攻撃は米国市民を害するためではなく、米国企業の利益を損ねるためのものなのである。実際、グラハムが言及した2000年に、これらの攻撃で殺された米国市民は一人もいないことをグラハムは指摘しなかった。

FARCをけなすキャンペーンは成功し、2002年7月に米国議会は280億ドルからなる対テロ法案を採択した。その中には、3500万ドルの対コロンビア追加援助が含まれている。この法案はまた、麻薬戦争関係の援助を大麻薬作戦に限るという制限を取り払い、対ゲリラ作戦に用いることを可能にした。その翌年、ブッシュ政権はコロンビアに9300万ドルの対テロ支援を提供し、南米コロンビアに米軍特殊部隊兵士を派遣した。

ブッシュ政権が、コロンビアにおける主要な国際テロリストとしてFARCに目を付けたことははっきりしている。けれども、米国の立場についてはただちに二つの問題が目に付く。第一は、FARCの軍事作戦がコロンビア国内に限定されていることである。コロンビア国内での米国の政治経済的利害にとって脅威であるからといって、米国そのものには脅威となっていないのに、FARCを国際テロ組織であると臣事させるのは難しい。第二の問題は、ブッシュ政権が、コロンビア政府とその仲間である右派準軍組織が犯す暴力をほとんど無視してきたことである。準軍組織はFARCよりもはるかに深く麻薬取引に関与していた。

一般論として、コロンビア内戦における武装アクターは二つのグループに分けることができる。第一は政府とコロンビアにおける政治経済的現状を守ろうとしているグループで、第二は、政府転覆をねらうグループである。前者はコロンビア軍および右派準軍組織のコロンビア自警軍連合(AUC)からなり、それぞれ、国家テロと国家スポンサーのもとでのテロを犯している。

第二は、FARCともう一つのより規模の小さな左派ゲリラ民族解放軍(ELN)であり、これらグループの市民を標的とする行為はテロリズムと見なされる。コロンビアの紛争に関与する武装グループをこのように簡単に類別するならば、民間人に対するテロ行為は、二つの範疇に類別できる。すなわち、親政府テロリズムと反政府テロリズムである。

テロリズムとは政治的目的を達成するために民間人に対して暴力を行使したり暴力をもって威嚇したりすることであるという広く使われている定義に従えば、それぞれの武装アクターが犯すテロリズムの規模を見ることが出来る。ここでは、2002年以来に起きた殺害、誘拐、恣意的拘留、強制「失踪」に焦点を当てる。2002年というのは、ブッシュ政権がコロンビアに対テロ援助を提供し始め、アレバロ・ウリベがコロンビア大統領になった年である。民間人の犠牲者を出さなかったような、インフラをはじめとする経済的標的への攻撃は考慮しない。定義上、こうした攻撃は、放火や器物破損に属し、テロリズムではない。

CERACによると、ここ数年のゲリラによる攻撃の約半数は、コロンビア経済を妨害する目的でなされたようである。このことは、「よく言われるのとは違って、ゲリラは単に麻薬で金儲けをすることに関心があるだけではないことを示唆している。彼らは実際に政治権力をねらっているようである。短期的には地方の権力、長期的には中央の権力を」。同様に、コロンビアへの国連特使ジェームズ・ルモワヌは、同様に、2003年5月に、人口の64%が貧困生活を送るほど富の分配が不公平な国において、「FARCのメンバーを単なる麻薬商人兼テロリストと見なすのは誤りである」と述べている。

ゲリラは非戦闘員への攻撃を行ってきたが、コロンビアの右派準軍組織はこれまでゲリラよりも多くの民間人を殺してきた。さらに、CERACによると、ゲリラによる民間人殺害と準軍組織による民間人殺害の数は、1998年以来、広がっている。コロンビア法律家委員会(CCJ)も、ゲリラによってよりも準軍組織によって殺される民間人が多いことを強調している。たとえば、ウリベが政権に就いた最初の年に扮そうの結果殺されたのは6978人、1日19人である。CCJは、そのうち少なくとも62%は準軍組織が行ったものであり、ゲリラによる殺人の二倍以上であると結論している。

さらに、2006年2月の国連報告は、政府軍により殺された民間人の数は2005年に増加したと指摘している。そうした殺害の多くは、軍兵士や警官による超法規的処刑で、しばしば彼らは、戦闘による死者と見せかけるために遺体にゲリラの福を着せる。国連報告は「事実を隠蔽し戦闘のように見せかけるために犠牲者にゲリラの迷彩服を着せるという行為を、司令官たちが支持していたらしいという事件も複数記録されている」と述べている。

2005年には、「停戦」と1万5000人の準軍組織の解隊にもかかわらず、その前2年と比べて、準軍組織による攻撃も2倍以上に増えている。CERACは、準軍組織による攻撃の増加を「政府と武装解除・解隊の交渉をしていない少数の準軍組織グループのせいとすることはできない。ぎゃくに、犠牲者の増加は、ほとんどの場合、交渉しているグループの拠点と合致している」と指摘する。

「解隊」プロセスにもかかわらず準軍組織による暴力が続いているというCERACの調査結果は、アムネスティ・インターナショナルをはじめとする人権組織の調査結果と同様である。2005年9月、アムネスティ・インターナショナルは、「解隊」した準軍組織は単に行動の構造を変えただけで、暴力行為を続けていると指摘していた。このことはきわめて危険である。というのも、ウリベはつい最近、解隊した準軍組織兵士1万5000から2万人を警察の「市民補助隊」として働かせ、高速道路のパトロールなどの秩序維持の仕事に就かせると発表したからである。

前述の数値からはっきりわかるのは、民間人に対する致命的な攻撃を行っている最大のグループは準軍組織であるということである。そしてこのパターンは、昨年準軍組織による殺害が増えたことから、これからも続く可能性が高いと思われる。そして、政府軍に殺される民間人の数も増えていることを考慮すると、コロンビア内戦における民間人死者の3分の2は、国家テロと国家スポンサーのもとでのテロによるものである。

政府側の部隊はまた、強制「失踪」の大部分を行ってもいる。「拘留および失踪させられた家族の協会」(ASFADDES)によると、2002年と2003年に、強制「失踪」した人は3593人にのぼる。米国国務省でさえ、「強制失踪のほとんどは準軍組織によるものだ」と認めている。

対照的に、ゲリラは準軍組織よりも多くの誘拐を行ってきた。コロンビアのNGOパイス・リブレによると、2004年に誘拐された人は1441人である。パイス・リブレは、誘拐の41%を紛争に関与する武装グループが行っていると結論している。通常犯罪と実行者不明の誘拐が残りを占める。FARCは誘拐の22%、約320件を行った。一方、ELNが9%、準軍組織が10%を行っている。

ウリベ政権下での国家テロにおいて恐ろしいことの一つは、1970年代のサザンコーン[アルゼンチン・チリ・ウルグアイ・パラグアイ]の軍事独裁政権を思い起こさせる恣意的拘留が劇的に増大したことである。コロンビアのNGO連合である「コロンビア=ヨーロッパ=USA調整」(CCEEU)とコロンビア司法運営監視団(OCA)によると、2002年8月から2004年8月の間に政府治安部隊が6332件の恣意的拘留を行っている。彼らは、こうした拘留とその後の尋問は金で雇われた密告者が提供する情報に基づいて行われており、検察庁は拘留の前に情報が正しいかどうかチェックしていないと指摘する。さらに恐ろしいのは、政府から「転覆分子」と非難されて拘留された人々は、釈放された後に、準軍組織に殺されたり「失踪」させられる危険を負うことである。

2005年、コロンビアの国連人権高等弁務官事務所所長ミハエル・フリューリングは、同事務所は「不法のあるいは恣意的な拘留が、その数においても頻度においても、この国で報告される最も憂慮すべき人権侵害の一つであることを、憂慮とともに指摘する」と発表した。フリューリングは、さらに、国連は「また、法的根拠なしに行われる大規模抑留と個別の拘留は、しばしば、人権活動家やコミュニティの指導者、労働組合活動家、不法武装グループが活動する地域の住人といった弱い立場にあるグループの成因を標的としていることを憂慮する」と語った。

本記事であげた数値は、民間人に対する攻撃の大多数が国家テロと国家スポンサーによるテロによるものであることをはっきりと示している。コロンビア内戦において、民間人の死者の少なくとも3分の2は、政府と準軍組織によるものである。さらに、米国国務省さえ認めるように、毎年何千件と起こる強制「失踪」の最大の実行犯は準軍組織である。また、ウリベが政権に就いて以来なされた何千という恣意的拘留は100%政府によるものである。ゲリラ----主にFARC----が最大の実行犯であるのは、唯一、誘拐だけである。

米国政府とコロンビア政府は人々の注意をFARCの活動に向け、FARCをコロンビアにおける対テロ戦争の主な標的とすることに成功した。米国とコロンビアの主流はメディアは、まず公式情報源に頼りすぎているために、FARCが最大のテロの脅威となっているという人々のイメージを広めるのに大きく貢献した。

しかしながら、実際には、米国は、コロンビアで第一のテロリズム実行者である組織に年間何十億ドルもの支援を与えている。その結果、上で述べた数値を考えるならば、米国政府が「対テロ戦争」で本当に目的としているのがテロリズムとまじめに戦うことだと結論するのは困難である。ブッシュ政権が、対テロ戦争を口実として、コロンビアにおける米国の政治経済的利益を軍事的に守っているというのが、より納得の行く説明である。



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益岡賢 2006年3月5日

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