ボゴタにおける水の私営化

サラ・ガーランド
2004年7月19日
コロンビア・ジャーナル原文


1996年に世銀が、コロンビアの首都ボゴタの水道公社を救済するために、ボゴタ市に1億4500万ドルの貸付を行なったとき、世銀は、ボゴタ市が最終的には公益事業を私営化する要求に屈することを期待していた。けれども、ボゴタは譲歩しなかった。ボゴタ上下水道公社(EAAB)は公共の運営を維持し続け、コロンビアで最も効率的で収益性も高く平等なサービスを行うようになったのである。

1990年代前半、公社は、人口が年間平均15万人増加しているボゴタ市で上下水道を提供するという不可能に思われる任務に直面していた。1993年の辞典で当時500万人近かったボゴタ市の住民のうち、上水道サービスを受けていたのは78%だけで、下水は71%に過ぎなかった。人々が地方部の貧困や内戦を避けて都市部に流入したため、2001年に、ボゴタ市の人口は650万人近くとなった。急激な人口増加にもかかわらず、EAABは飲み水の供給を95%の家庭に対して実現し、下水サービスを87%の家庭に提供した。EAABがこれを実現したのは、1990年代後半に企業運営の構造改革を行い---それまでは癒着・えこひいきと無能が蔓延していた---貧しい住民に補助金を提供したためである。

有権者たちは、私営化の流れに抵抗する進歩的な市長を選び続けることで、ボゴタの水道サービスが公営であることを維持してきた。エンリケ・ペニャロサ市長(1998年〜2000年)は、公共サービスの運営において市長により多くの権限と独立性を与えた1994年の法律を利用し、ボゴタの最貧地区にサービスを提供することを重視した。ペニャロサの市行政下で415地区に下水サービスが提供され、飲み水を供給されることとなった住民は35万人増加した。

2001年の時点で、ボゴタの低所得地域における公共事業への市財政支出が、コロンビア全体の水道部門投資の40%を占めていた。2002年、コロンビアの国家計画委員会は、EAABの上下水道サービス提供をコロンビア最良の公益事業にランクした---カルタヘナの私営水道企業はそれより遙か下位の第四位、バランキージャの私営水道企業はそれよりもさらに下位にランクされた。2004年上旬、国際信用評価企業ダフ・アンド・フェルプスは、EAABに2年連続で最高評価のAA+を与えた。

ボゴタの低所得者・中流住民は、多くの補助金を受けている水道サービスの恩恵を受けている。この補助金の一部は、ときに実際の水道費用の倍の額を支払っているボゴタの富裕層がカバーしている。けれども、新たな法律では、2005年までに、EAABの補助金を受けられるのはボゴタの最貧層だけでなくてはんらないとしており、現行よりも補助は大きく減ぜられることになる。それでも、ルイス・エデュアルド・ガルソンは最近、EAABの再投資を減らすことなく、最大10%水道料を下げると約束した。けれども、恐らく彼の提案では、EAAB従業員の年金資金がカットされることになりそうである。

急速な拡大を続けるボゴタ市に上下水道サービスを提供すると同時に、EAABは水資源維持と環境保護のイニシアチブをとってきている。水利用を減らそうというキャンペーンにより、1990年には一人当たり一日平均42ガロンの水消費だったものが、現在では29ガロンに減っている。米国の水消費の5分の1未満である。EAABはまた、ボゴタへの主要な水供給源である近郊の湿地を守るためにいくつかのプロジェクトを開始した。EAABは2010までにボゴタ住民の100%に上下水道サービスを提供すると確約している現在、ボゴタは水道を公共資産として維持する構えのようである。しかしながら、EAABの数多くの成功にもかかわらず、世銀はボゴタにEAABを私営化するよう圧力をかけている。

サラ・ガーランドは「ラテンアメリカについての北米委員会」(NACLA)の編集補佐。本記事は、NACLA米州報告に掲載された。


いつの間にか、知らないうちに、公共のサービスが「私営化」されている。あるいは、公共サービスは「効率」が悪いからという大規模なプロパガンダの後であからさまに「私営化」される。これらは、当然、公共資産の「私有化」でもあります。英国ヨークシャーで1990年代起きた干ばつは、水道の私有化後、地下水道管から大量の水が漏れだして失われたことが大きな原因でした。

日本でも、公共サービス/資産あるいは本来そうあるべきものについて、多くの私営化/私有化がなされてきました。本は、公共図書館に行けば無料で過去のものを(ある限りでは)閲覧できます。「公共放送局」を自称する某NHKの放送ライブラリーは、当然無料で公共に公開されるべきであるにもかかわらず(そして最近では技術的にそれが可能になっているにもかかわらず)、公開されていません。

現在進められている郵政の私有化では、郵便法が定める盲人用無料郵便物や、新聞/学術刊行物の軽減料金制度を撤廃することが検討されています。国立大学の私営化等とともに、本来公共の資産であるものを、私有物として囲い込もうという動きがどんどん加速しています。


この間、様々なニュースがありました。いくつか紹介・コメントします。

1つめ:7月13日からクルド人2家族が難民認定を求め、東京・青山の国連難民高等弁務官(UNHCR)事務所/国連大学の前で座り込みをしています。猛暑の中。一方、8月5日の「ニュース23」で、日本の法務省・入管がトルコの治安当局にクルド人難民申請の情報を流し、申請者の「実家」を共同で捜査したというニュースが報じられました。トルコではクルド人の弾圧が続けられ、1990年代には大規模な爆撃や村の焼き払いなどで多くの村が「消滅」して膨大な犠牲者が生まれ、数百万人のクルド人が難民となりました(たとえば中川喜与志『クルド人とクルディスタン』南方新社を参照)。

DVで逃げてきた人が行政の担当あるいは警察に届け出たとき、担当/警察がDVを行なっている張本人に連絡をし逃げてきた人の所在を知らせてしまう、といった出来事がときどきありました。法務省・入管の対応は、かたちとしてはそれに似たものです。被害者を庇護すべき役割を負った者が加害者と結託する。DVについては、最近、行政の担当や警察も理解が進み、(少なくとも地域によっては)状況は改善されてきたようですが、クルド人を迫害・殺害・追放してきたトルコ当局に、UNHCRが定める難民申請者の情報を出身国に提供してはならないという基準を無視して、難民申請者の情報を提供し、「問題ない」と開き直る法務省の行為・態度には唖然とします。

クルド人難民座り込み支援緊急キャンペーン座り込み情報もご覧下さい。「座り込み情報」のページには、難民認定を求める署名用紙が準備されており、ダウンロードできます。

2つめ:教育基本法改悪の動きが活発化しています。基本的には、市民の判断力や知る力、社会的意志決定に参加する力を弱め、公共物の私有化を進める一方で、そこから漏れ落ちた人々の不満を想像的な「国家」とか「国歌」とか「国旗」とか「愛国心」で誤魔化そうとする方向に教育を持っていこうというのが、教育基本法改悪の方向性です。これらをめぐる情報としては、教育基本法の改悪を止めよう!全国連絡会のHPをご覧下さい。

3つめ:東京都は、1997年11月に東京高裁判決が出した、「公務員でも、職務内容や権限などにより外国人の任用が許される管理職もある」、その上で「外国籍の職員から受験の機会を奪うことは管理職への昇任の道を閉ざし、法の下の平等や職業選択の自由を定めた憲法に反し、違憲」とするという判決に対して、上告をしていました。最高裁が、最近、2004年9月28日、都側の上告以来7年ぶりに、弁論を開催するとの通知を出したそうです。「書面審理中心の最高裁が弁論を開催する場合は、一般的に高裁判決を見直す場合に開催されると言われています。この裁判の場合は、画期的な高裁判決を破棄するという」ことになるそうで、そうすると日本社会の閉鎖性がさらに強められることになります。こちらのページもご覧下さい。

4つめ:8月6日は原爆投下の日でした。59周年です。毎日新聞・東奥日報・河北新報に自衛隊のイラクからの即時撤退を求め、憲法改悪に反対する意見広告が掲載されたそうです。一方で、5日・6日と米軍がナジャフを攻撃、米軍発表では、「サドル派民兵」300人を殺したとのことです。ファルージャでも2004年4月から、米軍海兵隊は「テロリスト」だとか「過激派」だとか「武装勢力」だとかと戦闘し殺害したと発表してきました。犠牲となったのは、子供や女性を含む700人以上の市民。英語圏のメディアでも日本のメディアでも、こうした虐殺が戦争に伴う日常的なものであるかのように報じられる思考停止状態が恐ろしいまでのレベルになっているように感じられます。

東京新聞8月2日付で、戦前と同じ空気に危機感 元日本兵恩給拒否のワケという記事が掲載されました。飛躍しますが、イラク戦争費用で何が買えたかもご覧下さい。


「イラク戦争」の犠牲者を追悼する集会が各地で計画されています(既にいくつかは終わってしまったようです)。転載歓迎とのことでしたので、転載します。
第18回「アジア・太平洋地域の戦争犠牲者に思いを馳せ、心に刻む集会」関連集会

■テーマ 「イラク戦争」の犠牲者を追悼する

−イラクからの証言者−

●サルマ・アルーハダットさん
マンスール子ども病院医師、バグダッド大学医学部教授。現在のイラク戦争の被害を目の当たりにする医療現場から「劣化」ウラン弾による被害を語っていただく。1955年生まれ。

●ハナ・イブラヒムさん
連合軍によるイラク占領に反対してきたジャーナリスト。現在、女性の権利を求めるNGOの代表でもある。「旧政権下でも占領下でも私はあらゆる殺害に反対する」と語る。1949年生まれ。

●ムザッファル・アフマド・ムハンマドさん
ファルージャの爆撃で家屋を破壊され、いま家族は親戚宅へ身を寄せている。3ヶ月間、獄中にいた体験をもち、その間アブグレイブ刑務所にも収容されていた。1975年生まれ。

−アメリカから反戦を訴える−

●イヴァン・メディナさん
昨年イラクに派遣されていた元アメリカ軍兵士。同じく兵士としてイラクに共に派遣された兄弟のアーヴィングさんは、バグダッドを移動中に、仕掛けられた爆弾によって亡くなった。米軍に身内や恋人をもちイラク戦争に反対するグループ「Military Families Speak Out」のメンバー。1981年生まれ。

−国内各地の集会− (8月7日以降の集会のみ掲載)

【東北地方】 (証言:ハナさん、ムザッファルさん)

8月8日(日)午後2時〜5時
 盛岡・岩手教育会館第一会議室
8月9日(月)午後1時半〜4時
 宮古・キャトル宮古5階多目的ホール
8月10日(火)午後6時半〜9時
 北上・さくらホール
 http://homepage3.nifty.com/peace-iwate/index.htm
8月11日(水)午後6時半〜8時半
 秋田・秋田市民会館
 TEL/090-2606-0587(大島)
 
【関東地方】

8月7日(土)午前10時〜午後5時
 「過去を克服し、共生のアジアを!8・7集会」
 東京・明治学院大学
 TEL/090-4130-5051(谷川)
8月7日(土)午後1時半〜4時半
 千葉・船橋市中央公民館 
  (証言:ハナさん、ムザッファルさん)
 TEL/047-353-6585(大島)
8月10日(火)午後7時〜9時
 東京・中野区立商工会館 (証言:イヴァンさん)
 TEL/03-5273-8362(APAジャパン)
8月12日(木)午後6時半〜9時
 東京・文京区民センター (証言:ハナさん、ムザッファルさん)
 TEL/080-1082-9980(高瀬)

【北陸・中部地方】

8月12日(木)午後6時半〜
 新潟総合福祉会館5階大会議室 (証言:サルマさん)
 TEL/025-259-1639(小西)
8月13日(金)午後6時半〜9時
 長野市ふれあい福祉センター 
  (証言:ハナさん、ムザッファルさん)
 ※予定の県職員センターから変更
 TEL/026-226-1125(篠崎)

【関西地方】

8月11日(水)午後6時半〜
 神戸学生青年センター (証言:イヴァンさん)
 TEL/078-574-0701(KOBEピースiネット)
8月12日(木)
 篠山市民センター (証言:イヴァンさん)
 TEL/079-552-2445(篠山教会)
8月13日(金)午後3時〜
 須磨教会 (証言:イヴァンさん)
 TEL/078-733-2825(須磨教会)
8月14日(土)午後1時半〜4時半
 姫路市民ギャラリー・アートホ-ル (証言:サルマさん)
 TEL/0792-82-5084(久貝)
8月15日(日)午前10時〜午後4時半
 大阪・ドーンセンター 大ホール 
 (証言:サルマさん、ハナさん、ムザッファルさん、イヴァンさん)
 TEL/06-6562-7740(心に刻む会事務局)

【中国地方】

8月8日(日)午後3時〜5時
 倉敷キリスト会館大ホール (証言:イヴァンさん)
8月9日(月)午後6時半〜8時半
 旧三次平和人権センター (証言:イヴァンさん)
 TEL/0824-63-8042(小武)

【四国地方】 (証言:サルマさん)

8月8日(日)午後2時〜
 愛媛県美術館講堂
 TEL/090-1008-1525(中島)
8月10日(火)午後7時〜
 新居浜市ウイミンズプラザ2階視聴覚室
 TEL/0897-37-1660(坂田)
8月11日(水)午後6時半〜8時半
 高松市女性センター
 TEL/090-3460-1509(高橋)

■問合せ先

「アジア・太平洋地域の戦争犠牲者に思いを馳せ、心に刻む集会」実行委員会事務局
 〒556-0026 大阪市浪速区浪速西2-3-2-608 上杉方
 TEL/06(6562)7740 FAX/06(6562)5272
 Mail/kizamu@osk3.3web.ne.jp

余談:最近、「ビッグ・イッシュー」をほぼ毎月買っています。英国で発足したホームレス自立支援マガジンの日本版。立ち上げ時は色々とシステムも内容もトラブったという話を耳にしたことがありますが、最近は内容的にも落ち着いて楽しめます。200円は安い。月一回、たぶん毎月5日頃の発売。
益岡賢 2004年8月8日

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