ブッシュ政権は再び、米国企業による侵害の犠牲を受けた外国人が米国の法廷に行おうとしている告訴を妨害することで、国際的な人権を崩壊させようとしている。現在米国の連邦裁判所で進められているそうした訴訟としては、コカ・コーラ社とドラモンド鉱山会社が、コロンビアで右派準軍組織「死の部隊」のメンバーを使って労働組合員を標的としたことについて、コロンビアの労働組合のために、両者に対して起こされている訴えがある。ブッシュ政権は、こうした多国籍企業に対する訴訟は、米国の海外政策を傷つけ、「対テロ戦争」を崩壊させようとするものである、と主張している。ホワイトハウスは、ブッシュ政権にとっては、米国企業の利益の方が、米国企業に人権を侵害された個人よりも優先されるということを、非常に明らかにしている。
20年以上にわたって、海外で営業する米国企業や、米国政府と同盟している残忍な政権により、人権侵害を被ってきた海外の犠牲者達は、1789年の、外国人不法行為申立法に従って、米国の連邦裁判所に告訴を行ってきた。この法律は、海外で起きた人権侵害について、人権侵害の犠牲者達が、米国で裁判を求めることを認めている。
現在、ホワイトハウスは、外国籍の人々が米国の法廷で裁きを求めることを抑制しようとしている。というのも、こうした告訴の一部が、「対テロ戦争」でワシントンと同盟関係にある政府を対象としているからである。ブッシュ政権は、また、最近、米国政府に対して提出された何件かの告訴についても心配している。その中には、アフガニスタンで拘束された後、キューバのグアンタナモ湾にある米軍基地に拘束されている「囚人」のためになされているものもある。
2003年5月、米国司法省は、ビルマ人市民が提出した、カリフォルニアを本社とするUnocol社に対する訴訟について、第9巡回控訴審に、30ページの訴訟事件摘要書を提出した。原告は、12億ドル相当のガス・パイプライン建設の際、Unocolとそのプロジェクト・パートナーであるビルマの残忍な軍事政権が、労働者に対して、強制労働の行使を含む人権侵害を行なったとしている。
昨年、同様の訴訟で、ブッシュ政権は、インドネシアにおけるエクソン・モービル社の人権侵害について提出された告訴を却下するよう連邦裁判所に求めた。インドネシア政府は、「対テロ戦争」の同盟国であるから、というのが理由である。しかしながら、司法省が最近提出した上述の摘要書は、Unocolに対する起訴を却下することを求めているだけではなく、外国人不法行為申立法による類似の訴訟が米国連邦裁判所で扱われることを阻止しようと言う試みでもある。
コロンビアに関係して現在米国連邦裁判所で扱われている外国人不法行為申立法の訴訟は、ドラモンド鉱山会社とコカコーラ社に関わるものである。2002年3月、アラバマに本社を置くドラモンド鉱山会社のコロンビア鉱山の労働者を代表する労組SINTRAMIENERGETICAは、アラバマで、同社が右派準軍組織を雇って3名の労働組合指導者を殺害したとして、訴えた。この訴訟は、審理開始を待っている状況である。
2001年7月、米国鉱山労働者組合と国際労働者権利基金が、コカコーラのコロンビア瓶詰め工場労働者を代表するコロンビアSINALTRAINAL、殺された組合指導者の遺族、コカコーラ社で働き、右派準軍組織に脅迫・誘拐・拷問を受けた他の5名の組合員のために、フロリダで訴訟を起こした(「コカコーラと死の部隊」を参照)。法廷は、コカコーラに対する訴訟を却下したが、コカコーラ社のコロンビアにおける瓶詰め子会社に対する訴訟は認めた。一方、原告は、コカコーラ社に対する訴訟の却下処分の撤回を求めて上訴している。
司法省による外国人不法行為申立法の定義し直しの試みが成功するならば、現在進行中の、コカコーラ社やドラモンド社に対する訴訟などは却下される可能性が高い。その結果、ワシントンと同盟関係にある米国企業と諸政府は、人々に対する人権侵害を犯し続けることができることになる。しかも、これらの人権侵害の犠牲者たちは、自国で正義を実現する可能性は全くないのである。今一度、ブッシュ政権は、米国企業の利益を、罪のない人々の人権よりも優先する政策をはっきりさせたことになる。さらに、ブッシュ政権は、「対テロ戦争」を、国内外で米国企業利益を追求するための正当化に使おうともしていることになる。
この記事では、経済的なフロントと軍事的なフロントの関係は極めて明らかです。
現在、イラクで「大量破壊兵器」が発見されなかった等といった議論が出てきています。こうした議論は、逆に、ではイラクに大量破壊兵器があったならば、米国による不法侵略は正当化されるのではないか(そんなことはありませんが)といった議論を暗に招き寄せることになる恐れがあります。膨大な量の大量破壊兵器を有し、しかもそれを利用する可能性を公言し、実際に各所で利用してきた米国や英国等の大国こそが、議論で問題化されるべき中で、イラクの「大量破壊兵器」を巡る議論のみが焦点化されるならば、常に常に、「判断するのは米英日にあり」といった構図となってしまいます。
インドネシア軍は「対テロ戦争」のお墨付きを有り難くブッシュから頂き、米国によるイラク侵略を参考にしつつ、アチェに全面侵攻し、大規模な殺害を進めています。人権侵害の情報がどんどん入ってきている中、アムネスティ・インターナショナルと日本インドネシアNGOネットワークは共同で新たな緊急行動要請を出しました。是非、ご協力をお願いいたします。
なお、国内はといえば、イラクの不法侵略と不法占領に荷担した日本政府は、その流れの中で有事法制をごり押ししようとしています。有事関連三法案反対のイベントはここに、首相官邸への抗議のfaxは、03-3581-3883に、オンラインでの意見書き込みはこちらからできます。