米国が麻薬を合法化したら

ジャスティン・ポドゥール
2003年3月17日
コロンビア・ジャーナル原文


米国による麻薬戦争そして麻薬禁止は、社会的に破滅的な政策である。2002年度米国政府の麻薬統制予算は188億ドルであり、そのほとんどは、公共住居補助金や移民支援といった社会プログラムの予算を削減することにより得られている。麻薬戦争により警察と軍、刑務所、そして組織犯罪が利を得て強大になり、また麻薬中毒者は麻薬を購入するために犯罪に手を出すことになる。さらに、貧しい人々や黒人、褐色の肌の人々を悪魔化し、社会的な脅威とはまったくなっていない人々を何十万人と刑務所に送り込む。それだけではない。米国内での麻薬禁止政策は、国境を越えて遙かかなたにまで影響を与えている。

コロンビアにおいて、麻薬に対する戦争が生みだすもっとも破滅的な事態は、空中薬剤散布およびテロリスト部隊の設立である。トランスナショナル・インスティチュートの「麻薬と民主主義プログラム」によると、コロンビアの農耕地55万エーカー[20億平方メートル以上で、四国全土の8分の1程]が250万リットルのグリフォサートの噴射を受けた。これが与える健康と環境への打撃は計り知れない(プラン・コロンビア:虐殺のフィールドを参照)。麻薬戦争は、米国の外交政策目的に合致した活動を行う不法な準軍組織への資金提供にも利用されている。準軍組織は、コロンビアで、暗殺や虐殺といった恐ろしい人権侵害を行っている。潤沢な資金を得た準軍組織の存在、そして麻薬商人により体系的に汚染され汚職にまみれた警察と司法体制とは、コロンビア政府の正当性を崩壊させている。

浄化された麻薬利益の多くは財界に流れ込むが、同時にコロンビアの「麻薬ブルジョアジー」たちはかなりの額を土地への投資につぎ込んでもいる。麻薬ブルジョアジーたちがコロンビアで所有する土地は1100万エーカーと推定されており、額にして24億ドルにのぼる。コロンビアの農耕可能な2億8500万エーカーのうち、4600万エーカーが現在実際に耕作されており、1億エーカーが牧畜に使われていると推定されている。有意義な土地改革が行われたことがかつて一度もないコロンビアで、1100万エーカーの土地が麻薬商人の手に集中したことは、農業の発展と進歩的な農業計画にとって大きな阻害要因である。コロンビアのアナリストたちは、この事態を「逆農地改革」と呼んでいる。禁止されている産業に課税することはできない。そして、コロンビアの麻薬産業は国内総生産の3〜4%を占めている。伝統的に公共部門の貧弱な(周辺諸国の1987年から1998年の平均では国内総生産の28%が公共部門予算であるのに対しコロンビアでは14%に過ぎない)コロンビア政府にとって、無視するにはあまりに大きな金である。

統制された麻薬合法化政策により、こうした問題の多くを解決することができる。麻薬利益が極めて大きいのは、が違法であるためであり、違法であるが故に暴力的な犯罪マフィアが力を伸ばす。麻薬が合法的で当たり前の製品となれば、暴力体制を維持することは、生産コストを上げ価格を上げる不要な邪魔者でしかなくなる。したがって、麻薬を合法化すれば、コロンビアの準軍組織のようなテロ組織の資金源の多くがなくなることになる。麻薬を合法化すれば、また、「麻薬に対する戦争」につぎ込んでいる資金を公共保健プログラムに割り当て、麻薬中毒の問題をそこで扱うことができるし、また、現在麻薬産業が唯一の経済的生存手段となっている米国内での末端麻薬ディーラーおよびコロンビア農家に、経済的・社会的機会を創生するための資金を創出できる。囚人人口と抑圧的な国家体制も改善することができ、毒薬の空中散布による環境破壊に終止符を打つこともできる。

合法化には負の側面もある。コロンビア経済が麻薬産業に依存しているからである。コロンビアの財界全国協会(ANIF)は、違法な麻薬取引からコロンビアが1999年に得た収入を35億ドル(10%の利益が環流すると仮定して)と推定している。これは、コロンビアが石油で得ている収入に近く、コーヒー収入よりも多い。そして、コロンビアの就労人口の3%にあたる30万人が、直接、麻薬産業で雇われている。コロンビア農業生産にコーヒーが占める割合が12%である一方、麻薬作物は6.7%である。地域によっては、麻薬作物が占める割合が50%近いところもある。経済ショックを和らげる準備対策なしに米国で突然麻薬が合法化されるならば、コロンビア経済には壊滅的な影響を与えることになるだろう。

コロンビアは、過去のマリワナから現在のコカインまで、大規模な麻薬産業の拠点であった。それにはいくつかの理由がある。土壌と地理的性質が、麻薬作物の栽培に適した環境を提供していること。中米と南米とを繋ぐ位置にあるという戦略的位置が、密輸活動のハブ地点として適していたこと。国土の大きさと「自然地域」への分割により、遠隔地域への国家の介入が限られており、麻薬栽培に対する懲罰的手段も、また麻薬栽培にかわる社会サービスの提供も、ともに欠けていたことなどである。1980年代、コロンビアはコカインを輸出していたが、コカの葉自身は、多くが、隣国ペルーやボリビアで生産されていた。これらの国では弾圧と栽培撲滅が成功し(それにより農民たちの状況は悪化し)、そのため1990年代にはコカ栽培自身もコロンビアに移行した(The Failure of Eradication in Peru and Boliviaを参照)。

ランド・コーポレーションによると、コカイン精製プロセスは次のようになる。2.5エーカーあたり、毎年1トンのコカが生産できる。この1トンのコカの葉から、約10キログラムのコカ・ペーストを生産することができる。この10キロのコカ・ペーストから約2.5キロのコカイン・ベースが作られ、最後にそこから2.2キロの純コカインが作られる。

コロンビアでは約1キロのコカインを作ることができる4.5キロのコカ・ペーストが大体4500ドルをもたらす。米国の路上では、1キロのコカインにより、20万ドルから60万ドルの売り上げを得ることができる。推定では、栽培から輸出向けパッケージングのプロセスで2.1倍になり(4500ドルから9500ドル)、密輸の段階でさらに3.7倍になり(9500ドルから3万5000ドル)、配布の段階で13倍になる(3万5000ドルから45万ドル)。

この数値からコカイン産業のサイズを推定することが出来る。コロンビアの30万エーカーの土地でコカが栽培されているとすると、264トンのコカインが生産される。それに対してコロンビアのコカ栽培農家は全体で12億ドルの収入を得る。そして、1キロ20万ドルという下限価格を想定して、米国のコカイン消費者は総額で528億ドルを払っていることになる。米国内での配布段階での価格上昇を除外して計算すると、コロンビア・カルテルは12億ドルでコカを農家から買い取り、精製して米国に密輸することで92億ドルを得ていることになる。ほとんどの金は、米国内で動くことが分かる。というのも、米国流入時には92億ドルだったコカインが、売り払われる段階では総額528億ドルになるからである。

各段階で、大きな費用を支払う必要がある。カルテルが必要とする輸送のインフラ、税関職員や警官、判事の買収、弁護士報酬や武器をはじめとする、カルテルが払わなくてはならない「危機管理」費用、そして利益を浄化するための費用などである。ランド・コーポレーションは、1994年の時点におけるこの費用を、米国内で70億ドル、輸送経路で4億ドル、生産国で1億ドルと推定している。

各段階でのこうした費用を差し引くと、麻薬生産密輸カルテルは、75億ドルの収入を手にすることになる。これは、前述したANIFのコロンビアにおける麻薬産業収入推定35億ドルに桁として近い。特に、麻薬取引においてメキシコ・カルテルをはじめとする他国のカルテルも関与していることを考えると近い数値になりそうである。

この麻薬産業により、麻薬ブルジョアジーは毎年数十億ドルを手にし、その金を使って、自分たちの利益を守るために、施設軍隊への資金を供出し、政府職員を買収する。毎年何千人もの人々を殺害し、何万人もの人々を国内難民に追いやる準軍組織の資金の一部はこの資金から出ている。準軍組織の作戦に要する費用は、一年に8000万ドルから1億ドルと推定されている。

ゲリラも、麻薬取引に課税することで収入を得ている。コロンビア最大のゲリラであるコロンビア革命軍(FARC)の年間収入は4億4800万ドルと推定されており、そのうち1億8000万ドルは麻薬取引への課税から得られていると推定される。約40%というFARCの麻薬課税による収入は、準軍組織の指導者カルロス・カスタニョが麻薬取引から準軍組織が得ていると主張している収入の比率よりも少ない。ほかにも麻薬との関係について、FARCと準軍組織には違いがある。FARCは麻薬産業を合法的なものと見なして課税すると同時に保護しているという関係にあるが、準軍組織は、麻薬取引に直接関与している。

麻薬は、需要の変動が少ない商品である。このことは、価格変更がすぐさま需要の変化に結びつかないことを意味している。中毒性を考えると、別に驚くべきことではない。麻薬常習者は低価格の麻薬を歓迎するだろうが、価格が非常に高くても、麻薬を入手しようとする。麻薬を合法化すれば、麻薬価格は下落し、ブラック・マーケットを防止することになる可能性は高い。麻薬利用増大を抑えるために、政府は麻薬に課税し価格を調整し、ある種の麻薬については治療プログラムの処方として提供することができ、効果的な麻薬教育、防止、情報、治療プログラムを提供することができる。いずれにせよ、合法化により麻薬価格が低下することについてはほとんど疑う余地はない。

非合法価格と合法価格の比率は8対1と見積もられている。この推定を使い、需要が一定であるとして(とはいえ注意深い防止・調整・教育プログラムのもとでも需要は上昇する可能性は大きいが)、米国が合法的なコカイン販売から得る収入は66億ドルになる。合法的な麻薬史上で1キロの純コカインは2万5000ドルの利益を生む。当局の買収や洗練された密輸方法、労働者が負う危機への保証などに要するあらゆる費用がなくなることを考えても、新たな価格では、麻薬産業は大規模利益を得られなくなるであろう。何百億ドルのオーダーではなく何十億ドルのオーダーとなる史上からコロンビアの麻薬ブルジョアジーに何十億ドルもの資金が環流することはなくなるだろう。

そうすれば、「逆土地改革」のための土地購入に麻薬ブルジョアジーがつぎ込んできた何十億ドルという資金は止まり、コロンビア準軍組織の活動資金の70%を提供することもできなくなるだろう。実際のところ、農民に支払われる価格も下降し、多くの農家は維持できなくなるだろう。それにより、コロンビアのコカ生産者も、ボリビアやペルーのコカ生産者が撲滅政策が効力を発揮したときに受けたと同様の打撃を受けることになる。

歴史的に、ボリビアやペルーのコカ農園はコロンビアのコカ農園よりも生産性が高かった。麻薬を合法化することにより、コカ生産は、コロンビア集中をやめ、ほかの地域に分散することになり、ボリビアやペルーでの生産が増えるだろう。麻薬合法化に伴う経済ショックから、コカ栽培に依存している農家を保護する必要がある。これは、政府の補助金やコカの生産価格維持支援、代替作物への政府による支援などで行えるだろう。合法化にはまた環境上のメリットもある。毒薬の空中散布プログラムは停止し、また、コカ価格が低ければアマゾン奥地での栽培は利益を上げないので、農民たちがアマゾンのジャングル奥に押し出されることもなくなるだろう。

麻薬合法化は、コロンビアの武装内戦にはどのような影響を与えるだろうか。第一に、準軍組織が収入の70%を失い、ゲリラは40%を失う。ゲリラは、自分たちの支配下でほかの商品に対する課税を進めるだろう。不法な麻薬取引と麻薬利益にはるかに密接な関係を持っているのが準軍組織であることを考えると、両者の対立の中で、全体としては、麻薬合法化はゲリラに有利に働くだろう。そして、準軍組織の活動が交渉可能性を破壊することにあてられてきたことを考慮するならば、内戦の交渉による解決へ道を開くだろう。

麻薬合法化がコロンビア内戦に与える影響を予測するためには、戦争の真の論理に反駁できなくてはならない。コロンビア内戦は、麻薬をめぐるものである以上に、資源の豊富な地域から農民を追放し、また、都市で新自由主義経済政策に反対する人々(特に労働組合)を弾圧するものである。コロンビア政府と軍は、社会運動とゲリラ活動を弾圧するにあたって、麻薬資金に依拠する準軍組織の手助けと、米国のあからさまな支援を得てきた。コロンビア政府と軍による弾圧から麻薬資金を取り去れば、コロンビア政府が国民に対して加えている戦争に対する米国の介入がエスカレートするという結果につながる可能性はある。

けれども、多くのアナリストは、米国政府がコロンビアの大衆運動を弾圧するために秘密の麻薬資金を用いた戦争に訴えなくてはならないことは、米国政府の政治的立場が弱いことを示していると指摘する。米国当局は、コロンビアの人々に対する弾圧戦争をあからさまに進めるには米国の支援は弱いと恐れているため、秘密戦争を進めているのである。そうであるならば、米国政府は、コロンビア内戦にいっそうあからさまに介入することはできないかもしれない。そうであれば、コロンビア内戦における最悪の要素は、麻薬合法化により力を失うことになる。それゆえ、麻薬合法化は、ゲリラと政府との交渉による問題解決促進の一助となるだろう。


  益岡賢 2003年3月20日

一つ上へ] [コロンビア・ページ] [トップ・ページ