新自由主義の狂気

ギャリー・リーチ
2003年1月20日
コロンビア・ジャーナル原文


先週(2003年1月13日の週)、国際通貨基金(IMF)は、IMFが指定する経済アジェンダにコロンビアのウリベ政権が従うという条件のもとで、向こう2年間で、コロンビアに21億ドルを提供することに合意した。IMFの処方箋には、コロンビア最大の銀行の一つであるバンカフェ(Bancafe)を私有化するという項目が含まれている他、コロンビアの年金プログラムをリストラし、また、財政赤字削減のために何万人もの公務員をクビにするという条件も含まれている。IMFの職員は、新たな貸付合意を発表するにあたり、貸し付けられた資金はコロンビアが使うものではなく、いわゆる「スタンバイ・ローン」に分類されるものであると述べた。つまり、この21億ドル(そのうち2億6400万ドルがすぐに提供される)は、コロンビアが経済的な緊急事態においてのみ使うことができるものなのである。では、コロンビアが実際には必要としていない貸付を得る見返りに、大多数のコロンビア人の生活を苦しめることになる過酷な経済引き締め政策を受け入れるのに合意するのはなぜだろうか。答えは、ワシントンとボゴタのあいだにある複雑な軍事/経済関係にある。

1980年代後半、麻薬商人たち −主にメデジン・カルテルの指導者たち− は、麻薬王たちの身柄を裁判のために米国に引き渡すというコロンビア政府の政策を阻止するために、一連の都市爆破作戦を行った。コロンビア政府は、麻薬商人と闘うために、ジョージ・ブッシュ一世の政府に支援を求めた。ブッシュ大統領は、これに対して、喜んでヒモ付きの援助を与えた。22億ドルのアンデス・イニシアチブ援助パッケージにコロンビアも加わるかわりに、ブッシュは、「市場指向の政策」に基づく経済リフォームを要求した。援助を受けてまもなく、当事のコロンビアのガビエラ政府は、「経済開放」を開始し、ワシントンが要求する新自由主義政策を適用した。

コロンビアの政府関係者は、過去十年間にコロンビアの経済状況が悪化したのは暴力のせいだと言いたがるが、より正確には、原因は、1990年代に導入された新自由主義政策にある。実際、1940年代と1950年代におけるコロンビアの暴力は1990年代の暴力をはるかにしのぐものであったが、その期間に経済はかなり成長したのである。そして、この経済成長は、1990年代まで続いたのである。コロンビアは、この間、ラテンアメリカ諸国の中で、経済的にはより安定した国の一つであった。

けれども、1999年までに、コロンビア経済は、過去半世紀で最悪の不況になった。コロンビアの政治・経済エリートたちにとって、それよりもさらに心配だったのは、左派ゲリラ・グループの軍事力が強化されたことであった。40年以上にわたるゲリラ活動の中で、初めて、コロンビアのゲリラは、誘拐や爆破により、コロンビア都市部の経済エリートたちに対する深刻な脅威となった。そして、10年前にメデジン・カルテルによる爆破作戦に対して対処したように、ボゴタの政府は、ふたたび、ワシントンに支援を求めたのである。こうした中、パストラナ大統領とクリントン政権は、プラン・コロンビアを生みだした。これは、大規模な経済援助により、コロンビアの経済を上昇させ、麻薬取引を減じ、内戦を終結させようと意図するものであった(プラン・コロンビア概説を参照)。

プラン・コロンビアの経済部門は、IMFが強制する引き締め政策だけからなるものだった。そして、クリントン大統領が16億ドルからなる大部分が軍事援助からなる貸付を提案したのは、パストラナ政権が3年間にわたる27億ドルの貸付をIMFとのあいだで合意したたった1カ月後のことであった。クリントンの提案のうち、13億ドルは、2000年7月に米国議会で承認された。これにより、コロンビアは、イスラエルとエジプトに次ぐ、米国の軍事援助第三の受取手となったのである。10年前と同様、ワシントンとコロンビアの政治・経済エリートたちの利益に仕える軍事援助増大の見返りに、コロンビア政府は、米国と多国籍企業を利する経済政策を実施したのである。

1999年のコロンビアに対するIMFの貸付条件は、今回の条件とほとんど同じである。コロンビアは関税を引き下げ、国有機関を私有化し、米国が支配するIMFの金融政策に従うことを強制された。労働組合やゲリラ、さらにはコロンビアの憲法裁判所の反対にもかかわらず、コロンビア政府はワシントンの経済的要求を満足させたのである(Colombians Protest IMF-Imposed Austerity Measuresを参照)。そして、大多数のコロンビア人が被る経済的被害を救済できない政策を実施した見返りに、ボゴタは27億ドルのIMF貸付のうち1ペニーすら受け取らなかった。今回の合意と同様、この資金は、実際には利用されなかった信用維持のために割り当てられたのである。

コロンビアの政府関係者は、IMFの貸付により、コロンビアはほかのところから8億ドルにのぼる融資を受けることが容易になると主張する。ほかのところには、世銀と米州開発銀行が含まれている。けれども、これらの貸付機関は、これまで、IMFからの信用維持貸付にかかわらず、諸国に資金を提供してきた。さらに、個人の信用評価と異なり、IMFが定める信用評価は、その国の過去の債務支払いに基づくものではなく、米国と多国籍企業の利益にかなう新自由主義的経済引き締め政策にどれだけ従う意思があるかにもとづいている。

経済的下降を防止するために −とはいえせいぜい一時的にであるが− 市民をさらに貧困に陥れる政策を実行するべきという要求をのんで、政治・経済的自律性を失っていくのは悲劇的である。そして、傷の上に侮辱を投げかけるように、こうしたIMFが強制する政策は、実質的に、貸付を受けた国が近い将来さらなる貸付を求めてIMFに戻っていくことを保証しているのである。けれども、さらに悲劇的で恐るべきまでに馬鹿げたことは、コロンビアが、まったく一円も資金を実際には受け取らないにもかかわらず、その見返りに、経済の実権をデタラメで自分たちのことしか頭にない多国籍企業に与えてしまうような新自由主義引き締め政策を適用することを余儀なくされていることである。

基本的に、ワシントンは、ケーキを手にして自ら食べることに成功したと言える。ウリベ大統領は、米国の軍事援助増大を絶望的なまでに求めている。ワシントンは、この援助を喜んで与えようとしている。特に、その見返りに、ワシントンが望む経済「改革」を実現できるのであるから。先週明らかになったように、IMFが強制する経済「改革」は、ふたたび、コロンビアにおける米国軍事介入の増加と合致している。新たなIMFの貸付合意条件により、ウリベ政権は、新たな経済引き締め政策を実施することに合意した。同時に、米国は「対テロ戦争」という口実を使って、70名以上の米軍特殊部隊をコロンビアに送り込んだ(介入の新たな規則を参照)。その結果、米国は、増大するゲリラの脅威の中で自らの利権を維持しようとしているコロンビアの政治・経済エリートたちとの合意のもとで、コロンビアにおける軍事・経済的役割を大きく増大することに成功したのである。


  益岡賢 2003年1月28日

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