コロンビアにおける米国の対テロ戦争

ダグ・ストークス
2002年12月2日
コロンビア・ジャーナル原文


2001年9月11日以降、米国外交政策の中で優勢となった対テロという軸は、「麻薬に対する戦争」と「対テロ戦争」とを混ぜ合わせることになった。米国のジョン・アッシュクロフト司法長官は、「米国国務省によると、FARCは西半球でもっとも危険な国際テロリスト集団である」と述べ、「コロンビアの左派ゲリラはコロンビア人と米国市民に対してテロ作戦を行ってきた」と言っている。米国国務省次官補オットー・ライヒは、次のように言う。「コロンビアに暮らす4000万の人々はテロからの自由を手にする権利をもち、アメリカ大陸諸国の民主主義コミュニティに参加する機会を与えられるべきである。コロンビアにそれが実現することは、我々自身の利益でもある。」こうした政策に従い、2002年に5億1400万ドル(そのうち71パーセントは軍事援助)をコロンビアに提供したブッシュ政権は、国際的な「対テロ戦争」の拡張と称して、2003年には7億ドルをコロンビアに提供しようとしている。

コロンビアでは、すべての武装グループが一般市民に対するテロ作戦を行っているが、一般市民の殺害を圧倒的に多く行っているのは、右派の準軍組織である。そして、右派準軍組織は、米国援助の最大の受け手たるコロンビア軍と緊密な関係にある。主立った人権組織は、一般市民殺害の80パーセントは、右派の死の部隊が行っているとしている。ヒューマンライツ・ウォッチはコロンビアの人権調査団とともに調査を行い、コロンビア軍における旅団レベルの部隊のうち18が、麻薬=準軍組織と包括的な関係を維持していることを明らかにした。軍と準軍組織の共謀関係は全国的なもので、準軍組織と関係をもつ軍部隊の中には、米国の軍事援助を受け取っている部隊、あるいは受け取る予定の部隊が含まれている。

1999年のコロンビアに関する人権レポートで、米国国務省は次のように述べている。「多くの地域で、準軍組織は、軍や警察の支援を受け、また、地方の市民エリートの支援を受けている。」最新のヒューマンライツ・ウォッチ報告は、コロンビア政府が、「コロンビア軍と準軍組織の協力関係継続と軍の不処罰という問題が、人権状況の継続的かつ重大な悪化を引き起こしている」という状況を扱うことに全面的に失敗していると述べている。同報告はまた、次のようにも言っている。「米国は米国自身の法の精神を侵害し、ときにコロンビア軍と準軍組織との関係が続いていることを示す証拠を軽視したり無視したりして、コロンビア軍に資金を提供し、また、さらなる援助のためのロビー活動を行っている。」

コロンビア準軍組織のコロンビア市民に対するテロ活動における米国の役割は、1991年に米軍顧問がコロンビア軍の諜報ネットワークを再構成するためにコロンビアを訪れて以来、いっそう大きなものとなった。秘密裡に行われたこの再構成は、コロンビア軍が対麻薬作戦を効率的に行うことを支援するものとされた。けれども、ヒューマンライツ・ウォッチが入手した司令書の写しには、麻薬に対する言及は一カ所もなかった。この秘密再構成は、麻薬ではなく、「武装ゲリラによる激化するテロリズム」といわれるものと戦うことのみに関心を集中させていたのである。

この再構成により、コロンビア軍と麻薬=準軍組織ネットワークとのリンクが強化された。その結果、「諜報だけでなく殺害のためにも準軍組織に依存する秘密ネットワーク」がいっそう確固たるものになったのである。再構成が完成したのちには、あらゆる「書面による文書は除去し」、準軍組織による「軍施設との表だった接触」は避けなくてはならないとされていた。この戦略により、米国顧問による諜報ネットワークの再構成以来、「劇的に増加した」準軍組織による人権侵害に関して、コロンビア政府は、それとは関係ないとかそれに責任は負っていないと、もっともらしく否定することができた。

すなわち、実質的には、米国の軍事援助は、コロンビア中の軍=準軍組織テロリスト・ネットワークに流れ込むことになる。このネットワークは、自分の活動を維持するために、米国市場にコカインを持ち込んでいる最大の責任者でもある。さらに、米国は、ヒューマンライツ・ウォッチが「コロンビア軍が汚い戦争を実行する一方でコロンビア当局がそれを否定できるようにする・・・洗練されたメカニズム」と呼んだところの体制を作り上げる手助けをしてきた。コロンビアで対麻薬戦争とか対テロ戦争とかいわれるものは、実際には、ラテンアメリカ最大の左派ゲリラFARCとコロンビア市民社会に対するより広範で重要な戦争の構成要素に過ぎない。

FARC支配地域のコカ農園を標的とすることには2つの目的がある。まず、ワシントンはこれにより、実際には対ゲリラ戦争を行いながら、プラン・コロンビアは対麻薬作戦であると主張できること。より重要な目的は、軍事的な対麻薬戦争をすべてFARC支配地域のコカ農園に集中させることで、ワシントンはゲリラが得ているコカ税収入を減らし、それによりFARCが資金を得てグループを維持することを難しくしようとすることである。つまり、ブッシュ政権は、自分と政治的・経済的目的を共有する麻薬=準軍組織テロリストと同盟関係を結んで、コロンビアでの「対テロ戦争」を行おうというのである。

米国は、ラテンアメリカ、特にコロンビアに対して、膨大な経済的利害関係をもっている。コロンビアでは莫大な石油資源が発見され、そのため、コロンビアは米国に対する石油供給国として第7位になった。ボゴタの日刊紙エル・ティエンポとのインタビューで、駐コロンビア米国大使アン・パターソンは、9月11日の攻撃により、「米国に対する伝統的な石油供給源」だった中東は「以前より不安になった」と述べている。

パターソン大使によると、米国のエネルギー供給源としてコロンビアを選べば、価格の安定が図れるという。そのためには、米国の石油利益に対する地域の脅威をなくす必要がある。ブッシュ政権が9800万ドルを要求して、米国の多国籍企業オクシデンタル石油がもつ490マイルにおよぶコロンビアのカニョ・リモン石油パイプラインを防衛する対ゲリラコロンビア軍旅団を作ろうとするのは、このためである。

コリン・パウエル米国国務長官は、このお金は「パイプラインを守るために、コロンビア軍の二つの旅団を訓練し武装する」ために使われると説明した。これにより、「我々を石油資源から引き離している」ゲリラの攻撃を阻止するためである。パターソン大使は、この資金は対麻薬戦争という口実で提供されるものではないが、「やらなくてはいけないこと」なのだと言っている。というのも、これは「この国の未来にとって、そして我々の石油提供源にとって、さらに、我々の投資家の信頼のために重要」だからである。

コロンビアにおける戦争は、ケネディ大統領が国家安全保障ドクトリンのもとでラテンアメリカ軍を再編成したときに現れた対ゲリラ作戦の古典的なものである。対ゲリラ作戦は、内部の敵を主要な対象とする。冷戦時代には、こうした内部の敵は、「政府を転覆しようとする共産主義者」と言われていた。米国の対ゲリラ専門家にとっての「共産主義」とは、典型的には、改革に対する政治的要求や、国家資源のより公平な分配を求める大衆組織などに認められるものであった。

コロンビアの場合、市民社会組織−特に現在の社会経済的状況を変革しようと求める組織−のことを、米国は、社会政治的秩序に対する潜在的な転覆的分子と見なし、対ゲリラ作戦という文脈において、「準軍組織による、破壊的、テロリスト」攻撃の合法的な標的と見なしている。上述したように、1991年という冷戦後に、米国が、コロンビア軍と準軍組織のネットワークを再構成し、コロンビア軍に対して冷戦後に大規模な資金を提供したことは、米国の利益にだけ合致する「安定」に対する脅威となるような運動を粉砕するという対ゲリラ作戦が現在でも妥当することを明示している。

米国がスポンサーとなっている対ゲリラ作戦における「対テロ」−しかしながら、実際には「テロ」と呼ぶほうがより正確であるが−のための基本的な武器は、準軍組織を用いることにある。コロンビアにおいては、準軍組織とコロンビア軍と米国の関係は明らかである。これにより、過去15年間に、コロンビア国内の民主的左派政党は右派準軍組織により完全に破壊され、151名のジャーナリストが殺害され、270万人が強制的に故郷を追放された。1980年代だけで4000人もの活動家が殺害された。世界中で殺される労働組合活動家の4人に3人は、コロンビアで準軍組織により殺されているのである。そして、今年2002年いままでに、8000もの政治的暗殺が犯された。そのうち80パーセントは準軍組織によるものである。準軍組織「死の部隊」は、人権活動家や先住民の指導者たち、コミュニティ活動家や教師を日常的に標的としている。

この弾圧は、米国主導の新自由主義的なコロンビア経済再編に対する市民社会の抵抗とコロンビアの政治経済的現状に対する挑戦ををすべて犯罪とみなして行われている。右派準軍組織の指導者カルロス・カスタニョによると、カスタニョ自身とその準軍組織は、「これまで常に、自分たちはビジネスの自由を擁護し、そして国内的および国際的な産業界を擁護してきた」という。こうした弾圧の中、世銀によると、コロンビア全人口の半数以上が貧困生活を余儀なくされている。もっとも影響を受けているのは「あらゆる年齢にわたる子供たち」である。

冷戦期、反共というイデオロギーのもとで、コロンビア社会の社会経済的構造を変革しようとするあらゆる試みを弾圧することが正当化されてきた。冷戦後には、対麻薬そして「対テロ戦争」が、コロンビアが行っている自国民へのテロに対する米国の支援を正当化するために用いられている。冷戦期から冷戦後まで、米国のコロンビアを巡る政策は、かわらずに続いている。さらに、この政策は人権に対して恐るべき結果をもたらし、コロンビアの一般市民のあいだに膨大な死者を生み出すことになるであろう。その一方で、構造的不正は維持され、民主的な代替は、それがどんなものであれ破壊されるのである。


ダグ・ストークスは英ブリストル大学の教員。専門はグローバル・サウスに対する米国政策の冷戦後の継続。特に、大規模な一般市民の犠牲を伴うような政策を扱っている。彼は、特にコロンビアを中心に、ラテンアメリカにおける米国の対ゲリラ戦争について多くの記事を書いてきた。www.dougstokes.netで彼のほかの記事も読むことができる。


 益岡賢 2002年12月3日

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